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<インタビュー>Furui Riho、アニメ『CITY THE ANIMATION』オープニング主題歌として書き下ろした「Hello」――作品と向き合い込めた想いとは

インタビューバナー

Interview & Text:内本順一
Photo:久保寺美羽



 Furui Rihoのニューシングル『Hello』が、7月30日にリリースされた。表題曲「Hello」は、7月6日より放映されている京都アニメーションの久しぶりの新作TVアニメ『CITY THE ANIMATION』オープニング主題歌。Furui Rihoにとっては初のアニメ・タイアップ曲だ。「再会」をテーマに書いたというこの「Hello」は心の踊る軽快な曲だが、その奥底には深い思いが込められている。特に、歌詞は自分が作品にどう向き合うべきなのか悩み葛藤しながら書かれたものだそうだが、だからこそ前向きなメッセージが聴く者の心に真っ直ぐ響く曲に仕上がっている。そんな楽曲について、秋からの全国ツアーも決定しているFurui Rihoに話を聞いた。

何を書いて何を伝えればいいのかという漠然とした不安があった

――自分はRihoさんのライブを2021年から度々観てきましたが、その度にライブ・アーティストとしての成長と進化を強く感じています。どんどんよくなる。

Furui Riho:嬉しい! ありがとうございます。


――ご自身でも回を重ねる度にクオリティが上がっているという実感はありますか?

Furui:あります。ワンマンとワンマンの間にも結構な回数のライブをやったり、いろんな経験をする中で生まれたアイデアがまた次のワンマンに繋がったりもするので。失敗する中で学ぶことが多いんですよ。それがちょっとずつ、いいライブへと結びついていってるんじゃないかなと。でも毎回終わった直後は、“駄目だったな”“足りてないな”って思います。前回よりはよくなっている、でもまだ足りてないから、次は頑張ろうって。その繰り返しです。


――「今日の私、最強だ!」というふうにはならないんですか?

Furui:ステージに上がるときはそういうマインドじゃないと負けちゃいますけど、下りたらいつも一瞬で反省モードですね。


――最近のライブを観ていると、Rihoさん自身がすごく楽しみながら本当に伸び伸びとパフォーマンスしているように感じるのですが。

Furui:ああ、それは確かにそうですね。昔はライブが怖かったんですよ。歌詞がとんだりして、ちょっとトラウマになって。それこそ初めて観ていただいた2021年のときはまだ怖さがあったんですけど、そこから時間を重ねる中で少しずつ自信もついてきました。


――怖さから抜け出せたのはいつぐらいですか?

Furui:わりと最近です。2年前のLIQUIDROOM (【Furui Riho Oneman Live 2023 -Introduction-】)から徐々に楽しめるようになってきました。去年のビルボードライブ (【Furui Riho Billboard Live Tour -Do What Makes You Happy-】)が人生で一番楽しかったですね。


――全編生演奏のあのライブは全てがハイ・クオリティで、自分が観てきたRihoさんのライブの中でもベストと言えるものでした。

Furui:嬉しい。あのツアーは自分にとっても転機になりました。


――パワフルさが求められる場面ではパワフルに、繊細な表現をすべきところでは繊細に。その抑揚が効いていて、やはりライブでこそ真価を発揮するシンガーだなと強く感じたんです。ご自身でもそういった自覚はありますか?

Furui:音源よりもライブがいいと言ってくださる方は実際多くて。それは私がゴスペル出身だってことと関係あるんじゃないかと思うんです。ゴスペルはその場に集まって、みんなが魂を震わせながら声をあげて歌うというものなので、空気のうねりみたいな目に見えないパワーが生まれる。小学生の頃からその世界で育ってきたので、いいライブというのはそれに近いものだってわかるんです。そういう空気のうねりに自分のセンサーが反応してライブに勢いが出たりもしますし。


――その場の空気のうねりだったり、音の振動の仕方だったり、観客の声だったりで、ライブはまったく変わるものですからね。

Furui:そうですね。自分にとってはそれが当たり前だし、だから楽しいものなんだと認識しています。音源の世界とは全然違うものですね。


――音源を録るときにライブをイメージしたりはしますか?

Furui:しないです。曲を作っているときに“この部分でコール・アンド・レスポンスができるかな”とか考えることはありますけど、レコーディングのときはその曲をいかに綺麗に仕上げるか、ひとつの商品としての完成度をいかにあげていくかってことを考えます。ライブの歌い方とは違う、音源の歌い方というものを意識しますね。




――ニューシングル「Hello」の話をしましょう。これは京都アニメーションの新作アニメ『CITY THE ANIMATION』主題歌ということで。京アニにとって久しぶりの新作アニメであり、多くの人が待ち望んでいた作品でもあるので、主題歌に対する注目度も非常に高いと思います。決まったときはどんなふうに思いましたか?

Furui:正直、「え? 私でいいんですか?」って思いました。もちろん嬉しかったんですけど、主題歌、しかもオープニング主題歌だと聞いて、プレッシャーが一気に来て。何を歌うべきなんだろうと。京アニさんは久しぶりの新作にどういうものをもってくるかをすごく考えて『CITY』という作品に決めたんだろうなと想像できたので、それだけに私がどう関われるのか、何を書いて何を伝えればいいのかという漠然とした不安がありました。お気楽に“前を向いていこう!”みたいなことは歌えないし、それだと無責任な気がしたから。


――京アニのスタッフさんからは、こんな感じの曲を作ってほしいというようなリクエストはあったんですか?

Furui:ありました。初めに打ち合わせがあって、洋楽のリファレンス曲をお聞きしたりもして。そのときに「Furuiさんの“LOA”という曲がイメージにぴったりなんです」と言われたんですけど、同じ曲は作れないので、「LOA」のよさを取り入れながらもっといい曲を作ろうと。そうなるとますますハードルが高くなるなとは思ったんですけどね(笑)。あと、原作のあらゐけいいちさんが「何も考えずともばかみたいに笑っていた子供の頃の想い出とか、純粋に楽しむことの姿勢とかも表したい」というようなことをおっしゃっていたので、そういう幼少時代の純粋さと、それだけでは生きていけない大人になっての現状を織り交ぜながら、自分の言葉で書こうと思いました。


――絵のタッチや登場人物の動きからインスピレーョンが湧いたりもしましたか?

Furui:まず原作を全巻読んで、自分なりにイメージを膨らませました。一言で楽しいといってもいろんな種類の楽しさがありますけど、この作品はちょっとシュールなところもあって、ふふふふって笑っちゃう感じなんですよ。で、登場人物がよく走り回っている。だからその走り回っている感じを音にして入れ込みたいなと。例えばビートをチャカチャカチャカって早くすると、このアニメの雰囲気が出せるんじゃないかなと考えたりして。


――じゃあ、テンポ感のある曲ということはすぐに決まったわけですね。

Furui:はい。それと、CITY=街の人々のお話なので登場人物が多いんです。そのたくさんの人たちがみんなでクラップしたり、いろんな声がコーラスのように入ったり。そういう音が絵から聞こえてきたんです。


――そうしたサウンドのイメージが先に沸いたあと、メロディはどのようにしてできたんですか?

Furui:突然降ってきたんです、メロディが。Aメロ、Bメロ、サビといった構成も全部。まだ北海道と東京を行き来していたときだったんですけど、出かける準備をしていたら、いきなり降ってきて。本当に不思議だなって思うんですけど、作ろうと思ってないときに降ってきたりするんですよね。それですぐにボイスメモに録ったんです。


――そういう経験は過去にもあったんですか?

Furui:何度かありました。けど、必ずしもいい曲ってわけではなくて、たまにハズレが降ってくることもあって(笑)。だからラッキーでした。いきなり降ってきて、それがいい曲というのはレアですからね。しかも最初にイメージした音の感じにもぴったりハマるメロディだったから、自分でもびっくりしました。さっき言った通り、最初に主題歌だというお話を聞いたときにはどうしようかと不安とプレッシャーがありましたけど、メロディが降りてきたときに「これだ!」「見えた!」って思いました。もう大丈夫だって。




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みんなで寄り添って泣きながら笑うみたいなイメージ

――<また会いに行こう>と歌われるこの曲のテーマは「再会」。そこには無邪気に笑っていた子供の頃の自分との再会だったり、新しい自分との再会だったり、友達との再会だったりと、いくつかの意味が含まれているわけですよね。

Furui:はい。これはその願いの歌なんですよね。再会という願い。また出会うという願い。そういう思いを書いたのがこの曲で。みんながまた出会って、子ども時代を振り返りながら共に笑って、寂しさや辛さも共に乗り越えて前に向かって進んでいくというような、そんな思いを込めて書きました。


――まず歌い出しの<Hello, Dear my friends>というフレーズに再会の意を込めていて、誰に向かって歌っているのかがわかる作りになっています。

Furui:そのフレーズはメロディと一緒に降りてきたんですよ。この1行目のフレーズに従いながら、そのあとの歌詞も書いていったんです。


――サビでは<雨は上がって 一緒に歌って>と歌われますね。やまない雨はないし、明けない夜はないということがここで示されている。

Furui:そう。それにこのアニメは梅雨明けから始まるんです。梅雨明けから真夏の暑い季節を舞台にしたアニメなので、私が表現したいことと近いなと思いました。なので、よく聴くとわかるんですけど、Bメロには雨音が入っていて。そうやって細かいところでもリンクさせたりしています。


――この曲はピアノで始まり、ビートと歌が入って、ホーンが重なってというふうに生音感、バンド感が前に出た作りになっています。それも拘ったところなんだろうなと思いました。

Furui:生音っぽさは大事にしたいと思いました。ぬくもりが大事というか。あと、楽しさの中に切なさがあることがわかるようなサウンドを目指したというのもあります。


――さっき話されていたように、クラップやコーラスでゴスペル的なニュアンスが顔を出すところもありますね。

Furui:自分の中のゴスペル・ルーツは、やっぱり勝手に出てきちゃうんですよね。いろんなところに顔を出しちゃう。


――とはいえ決して暑苦しくはない。エモーションの込め方の度合いが絶妙なボーカルだなと感じたんですが、歌い方で意識したことはありますか?

Furui:暑苦しく「この思いを聞いてくれ」みたいにはしたくなかったです。サビも、もっと強く歌うことはできたんですけど、そうじゃなくてこう、みんなで寄り添って泣きながら笑うみたいなイメージを浮かべながら録音していました。


――泣きながら笑う。なるほど。

Furui:押しつけがましいのは嫌だったので。


――この曲に限らず、Rihoさんの曲って押しつけがましく歌い上げるようなものはないですよね。「これはこうだー!」みたいなものよりは、「こんな感じで一緒にどう?」って聴き手に寄り添うような歌が多い気がします。

Furui:そう思ってもらえて嬉しいです。昔、クラブの深夜のR&Bイベントとかでよく歌っていたんですけど、もともとホイットニー・ヒューストンやマライア・キャリーが大好きだったこともあって、その頃は歌い上げ系のスキルをアピールしたいみたいな感じだったんです。まさに押しつけがましく歌っていた。だけどそんな自分が嫌いになったことで今の歌のスタイルができて。


――嫌いになったきっかけがあったんですか?

Furui:自分はなんのために音楽をやっているんだろうって冷静になったんですよ。「誰かから上手いねって言われたいから、こんなふうに歌い上げているの? それは違うでしょ?」って。承認欲求で満たされた自分の価値なんてたいしたものじゃないなって思ったんです。人に認められないと生きていけない自分がすごく嫌になったし、そんなことより人の心に寄り添って心を動かす歌を歌えるほうがよっぽど価値があるじゃないかって。それで変わったんです。


――そうだったんですね。それとこの曲で何回か「ヘーイ!」って掛け声が入るでしょ? それを合図に飛び出していけるというか、下向きだった気持ちを吹っ切る合図のようにも感じられて、そこがまたいいなって思ったんです。思い返すと、ああいう掛け声的なものが入っている曲ってこれまでもいくつかありましたよね。

Furui:そうですね。あれを入れることで自由さだったり無邪気さだったりを表現できている気がして。自分の人間性がそっちなんですよ。カッコつけるんじゃなく、楽しいことを楽しいとありのまま表現したいというか。それでそういう手法をよく使ったりします。


――「かっこつけず」「ありのまま」というのは大事なことで。この曲の言葉選びにもそれが表れています。抽象的な言葉を用いるなどしてイメージで伝える手法もあるけれど、この歌詞は平易な言葉で誰にでも伝わるように書かれていて、しかも思いがこもっている。そこがいいんですよね。

Furui:京アニの方と打ち合わせをしたときに「子供もお年寄りもみんなが楽しめるアニメにしたい」とおっしゃっていたので、特にサビがそうですけど、簡単な言葉でみんなが一緒に歌えるようにしたかったんです。それに私にはこれぐらいしか言えなかった。これ以上深くも言えないし、これ以上浅くもしたくなくて、これが自分の精いっぱいの願いであり祈りだったんです。


――因みに京アニの作品は海外でも非常に高い評価と人気を得ているので、新作に期待している国外の方々も多いと思います。そういう人たちに主題歌「Hello」をどんなふうに聴いてもらいたいですか?

Furui:どんなふうに聴いてもらってもいいんですけど、アニメ文化のある日本に生まれてアメリカルーツのゴスペルで育った自分が歌うというのはなんだか面白いし、意味のあることのような気がします。


――海外での活動も夢のひとつとしてあったりしますか?

Furui:海外でのライブはすごくしてみたいですね。私はカナダに留学してから日本語のよさに気づくことができて、日本語で歌うことにすごく誇りを持ってやってきたんです。それとJ-ポップが素直に好きだったから、それを作ることをいいなと思ってやってきたんですけど、ここにきてそれを日本人だけじゃなく世界の人に届けることにも興味がでてきて。


――最近ですか?

Furui:最近ですね。やっと国内で少しずつ広まってきたから、次は世界で聴いてくれる人を増やしたいという挑戦の気持ちもあるんですけど、何より自分の曲で世界の人と繋がることができたらステキだろうなって思って。


――心の準備はできている。

Furui:はい。今までは国内にしか目を向けられなかったけど、今、わりと外を向いている自分がいますね。



Furui Riho - Hello (Official Music Video)


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