Special
<インタビュー>再集結のRIP SLYMEが語る、四半世紀を経て辿り着いた“今のヒップホップ” 国内外バズにも言及【MONTHLY FEATURE】
Text & Interview: 柴那典
Photos: 筒浦奨太
Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ “MONTHLY FEATURE”。今月はメジャーデビュー25周年イヤーに突入し、5人体制での活動を再開したRIP SLYMEのインタビューをお届けする。
ベストアルバム『GREATEST FIVE』には、再集結後初の新曲となる「どON」や「Wacha Wacha」を含む、これまでの軌跡と現在の姿を示す楽曲が収められている。約1年間という期間限定で活動する彼らは、どのような経緯で再び集結し、どのような思いで音楽を制作し、今後の活動で何を見据えているのか。メンバー5人が率直な言葉で語った。
左から:ILMARI、PES、FUMIYA、SU、RYO-Z
──5人体制での再始動の話はどんなところから始まったんでしょうか?
ILMARI:2022年4月に3人で活動を再開したとき、その1曲目の「Human Nature」のリリースタイミングの取材の後にRYO-ZくんとFUMIYAに残ってもらって、「ゆくゆくはまた5人でやりたいと考えている」と伝えて、その後、PESくんとSUさんに個々で連絡をとって話をしました。あれ、いつ頃だったかな。
PES:たしか僕が連絡をもらったのは2022年の年末くらいでした。
ILMARI:PESくんはソロの活動やプロデュースの仕事があってすぐにはできないし、僕たちも3人でのリリースの予定もあったし、SUさんもSUさんで仕事があったから、そのときは「ゆくゆく本当にできるタイミングがあったら」ぐらいの感じだったんです。そこから徐々に話す機会が増えていって。2024年の春くらいに5人で一回集まって「来年、5人でもう一度活動するのはどうですか?」っていう話をちゃんとして、秋頃に「じゃあ、曲を作ってみようか」っていう話になって。僕はその間にメンバーだけじゃなく、今までお世話になったスタッフの方々にもコンタクトをとり、相談を進めていました。そうしたらデビューから一緒にやってくれていたワーナーミュージックにも「ぜひ一緒にやりましょう」と言っていただけて。それで今に至るという感じですね。
──実際に5人で活動を始めて、いろんな反響が集まっていると思うんですが、実感はどうですか?
RYO-Z:もちろん僕らも「お待たせしました」という気持ちがありました。SNSでは「待ってました」「おかえりなさい」っていう反応もありましたし、初めてRIP SLYMEというグループに触れる人たちもいました。友達や周りの人間を含めたいろんな人たちから「やっと5人揃ってやるんだ、おめでとう」っていう声もいただいて。フェスとかライブを少しずつやらせてもらいながら、「また始まったな、楽しいな」と実感しています。
SU:「もう迷惑かけるんじゃないよ」って叱咤激励をいただくことも多いですし。喜んでくれる人がいるぶん、精一杯やろうっていう気持ちです。
PES:周りの反響もそうだし、やってよかったなっていう気持ちは、メンバーみんな同じだと思います。
FUMIYA:ミュージック・ビデオの再生回数の上がり方を見ていても、「待っててくれたんだな」って思いますね。
ILMARI:ここを目指して準備を進めてきたので、ちゃんと始めることができた、ようやくスタートできたっていう感じです。

──ベストアルバム『GREATEST FIVE』に向けた構想はどんなところから?
ILMARI:新曲も作っていたんですけど、前回(2010年)のベスト盤以降にTikTokで「熱帯夜」がバズったり、「この曲、聴いたことあるけど誰の曲かわからない」みたいな感じもあったりして、いろいろな観点から、今までの曲と新曲を合わせた新しい形のベスト盤っていう話がワーナーミュージックからありました。赤塚不二夫さんのキャラクターで世に出てきた流れをここで一度締めたいなっていう思いもあったんで、25周年イヤーにまたご一緒することとなりました。
──アルバムの制作に向けて、どんなことを考えましたか?
FUMIYA:まず選曲ですね。曲数がだいぶ多かったので、スタッフの意見を取り入れつつ、いろいろ考えました。曲順もかなり悩みました。前期、中期、後期でわけて、そこに新曲を入れ込むという。難しかったですけど、DJ感覚で並べました。
──新曲についても聞かせてください。「どON」は復活一発目っぽい景気のいい曲という印象を受けたんですけども、これはどんなイメージから作っていったんでしょうか?
FUMIYA:「Wacha Wacha」と同時に取りかかっていたんですけど、スタッフと話し合って一曲目は「どON」に決めました。初期の作り方に近いような、音をあまり足さないシンプルなサンプリングベースのアレンジというイメージでした。
PES:4月のリリースに向けて25曲くらい作って、その後にトータル30曲くらいになって。一曲ごとにテーマを決めて、僕も作って提案して選んでいきました。どれが最初の曲になるか僕もわかってなかったので、そういうクライアントワークと同じやり方がRIP SLYMEにもフィットしたと思います。全体的に、再結成や我々のことをメタ的な目線で見て歌詞を書きたいとはずっと思っていて、そういう客観的なタッチで全部、曲を書いてます。“どON”は、普段から「熱中してる」っていう意味で個人的に使ってるワードで、今回のRIP SLYMEのプロジェクトにも合うと思って作った曲の内のひとつです。
──この曲のリリックでは〈チーム友達 ずっと友達 ドープな奴は未だに友達〉と世代を超えた日本語ラップのパンチラインの引用もありますが、これはどういうアイデアでしたか?
ILMARI:PESくん、SUさんで始まって、僕とRYO-Zくんで繋いでいくオーソドックスなマイクリレーの曲で、そういう意味でも原点回帰っぽいなと思います。
──RYO-Zさんの〈バスタをフューチャー 新しいリーダーズ〉というリリックはいかがですか?
RYO-Z:新しい学校のリーダーズのグループ名は、リーダーズ・オブ・ニュー・スクールが元ネタだろうから、そんな子たちがバスタ・ライムスをフィーチャーしたらめっちゃ楽しいなっていうイメージでRECしたんです。この間、本人たちにお会いしたら「大丈夫ですか? 私たちディスられてないですよね?」って言われて。「全然、そんなことしてません!」って申しました(笑)。新しい学校のリーダーズ、しっかり応援してます!
──「Wacha Wacha」には、どんなアイデアやモチーフがありましたか?
PES:友人たちからよく「RIP SLYMEってワチャワチャしててよかったよね」って言われることがあって。僕がプロデュースしているKOMOREBIというグループも、よく「ワチャワチャしてんな~」って言われるんですよ。男の子が集まるときの一般的な慣用句が「ワチャワチャ」というワードだと思ったので、そこに言葉遊びも入れて作りました。トラックには、FUMIYAくんから指示が結構あって、「どON」よりは手間がかかった曲ですね。結果的にお祭りっぽいところに着地してよかったと思います。
──この曲は祭り囃子っぽい感じと多国籍感があるトラックの印象ですけど、どんな風に作っていったんでしょうか?
FUMIYA:まさに、どこかの民族のお祭りをイメージしていました。どこの国かははっきりしてないんですけど、焚き火の周りをぐるぐる回ってるっていう。お祭り感のあるダンスミュージックよりのアレンジで、パーカッションをいっぱい入れました。
──「結果論」はセンチメンタルな側面を持ったRIP SLYMEらしさもある曲だと思います。どういうところから考えていったんでしょうか?
FUMIYA:「どON」と「Wacha Wacha」ができた後に、メロウな曲もあったほうがいいなって思ったところが大きいですね。
PES:「夏っぽい曲を」って言われてできたのが「Chill Town」でした。それで、少しポップで歌謡曲チックな曲を入れたいな、というアイデアが生まれて。この曲も自分たちの現状を客観的に見て書いてます。「青春はまだ続いてる」みたいなものもありかなと思って。「どON」と「Wacha Wacha」にバカ騒ぎっぽさがあるので、少しトーンを落とした曲調と内容のほうがいいかなと思ったんです。昔だったらちょっと小っ恥ずかしいことも、今なら改めて言えるし。
──「結果論」っていう言葉は今の自分たちをどう象徴していると言えますか?
PES:もう、そのままですよね。いろいろなごちゃごちゃはあったけど、「終わりよければすべてよし」っていう。同じ世代の皆さんも、結果論、なんとかうまくやってきた方たちだと思うので、そういう方々にも伝わるといいですね。

──「Chill Town」はまさに夏らしい曲ですが、どういうイメージがありましたか?
FUMIYA:自分が若い頃、盛り上がるヒップホップはメロウな曲が多かったので、その雰囲気を出せたらいいなと。J-WAVEのキャンペーンソングとして「アゲない夏」っていうお題をもらって、すごく楽しんで作りました。
PES:意外と書くのは難しかったです。サウンドは、90年代前半のミドルテンポな夏のヒップホップというイメージ。自分たちの世代には懐かしい響きもあり、かつ世界的にもあまりない方向性の曲調だとは思います。夏のまったり感というか。
──「サヨナラSunset feat. WISE & おかもとえみ (RS5 Remix)」と「Rightnow! feat. SAMI-T from Mighty Crown (RS5 Remix)」についても聞かせてください。SUさんとPESさんが参加した5人のバージョンで収録されていますが、どんなアプローチを考えましたか?
SU:もともと曲として完成されていたものだったので、その空気感は絶対壊さないようにしなきゃなって。もう一度RIP SLYMEに参加することになって2曲目ぐらいに録った曲なんで、「自分はどうやってたかな」っていうことも考えながら、「なるべく邪魔にならないように」という気持ちでやりました。
PES:曲としてすでに出来上がってたんで、英語で書いたり、お笑いのフレーズを引用させてもらったりして、遊び心のある参加を心がけました。
──アートワークやミュージック・ビデオなど、ビジュアル面のクリエイティブにはどんな考えがありましたか?
ILMARI:RIP SLYMEはもともとgroovisionsさんがデザインしてくれていて。MVの監督さんとか、スタイリストさんとか、今まで関わってきてくれた方々とは面白いことをずっとやってきたので、その延長にあるRIP SLYMEにしたいという構想はありました。今回クリエイティブ・ディレクターとして入ってくれた金田遼平さんはgroovisionsに所属されていた方で、彼が思うRIP SLYMEと僕が思うRIP SLYMEが非常にマッチしてました。
──今の音楽シーンや日本のヒップホップシーンについても聞かせてください。ここ数年はアリーナや大きな会場でライブするラッパーやヒップホップ・アーティストもどんどん増えていると思いますが、このあたりの変化についてはどう思っていますか?
RYO-Z:とにかく今の若い人たちは、みんな上手いなって思ってます。ライブのレベルもどんどん上がってるように感じますし、すごく嬉しいことでもあります。よく「昔、聴いてました」って言われることがあって、どこをどうすればこんな風になれるんだろう、と逆に驚嘆している次第です。みんなイケてますよね。
PES:今の若い子たちは器用だし、ネットネイティブで、面白いものも教えてくれる。すごく楽しい世界になりましたよね。個人的に、ラップとかヒップホップがすごく独立した世界になったと思ってて。みんな“瞬間風速”を持っているし、ラッパーとして大成する方法もたくさんある。ただ、長くやればやるほど、音楽という大きな括りの中でミュージシャンシップを持ってやっていかないといけなくなる時が来るので、周りにいる若い子たちをそういう方向へ引っ張っていきたいという思いはありますね。音楽はもっと広大な世界で、ステレオタイプになってしまってはダメなんだと。RIP SLYMEって、そういうことを最初にやってきた人間だと思うし、活動休止や再結成を繰り返しながら、50になっても60になっても、こうやって音楽をやってるところを見せられたら、いいお手本になるんじゃないかなと思ってます。

──最近ではHALCALIの「おつかれSUMMER」がアジアを中心に海外でたくさん聴かれていますよね。RYO-ZさんとFUMIYAさんのO.T.Fがトータルプロデュースを手掛けていたHALCALIですが、この状況をどんな風に受け止めていらっしゃいますか?
RYO-Z:近しいスタッフから「HALCALIがすごいらしいよ」って聞いて、身内びいきな話かと思っていたら、Yahoo!にまで載るぐらい、本当にすごくて、「おお、キテるんだ」って驚きました。ただ、曲のプロデュースはFPMの田中知之さんで、田中さんの曲だってことが重要なんで、記事に田中さんより俺たちのことのほうが書かれていたのにはすごく恐縮しました。でも、それを機に僕らO.T.Fがプロデュースした曲を聞いてくれる機会が増えたと思うと、やっぱりすごく嬉しいことです。アジア圏で聴いてくれている人が増えたという点も、言葉を超えたバイブレーションがあって面白いですよね。
──TikTokで「熱帯夜」がバズったという話題もありましたが、それだけじゃなくRIP SLYMEの曲がリバイバルしたり、再発見されたりする機会も多いですよね。そして、それがちゃんと再生回数に結びついている。そういうヒットのあり方についてはどう感じますか?
ILMARI:TikTokもそうですし、マクドナルドの三角チョコパイのCM(2021〜)で「太陽とビキニ」を毎年使ってもらったり、ソフトバンクのGalaxyシリーズのCM(2025)で「GALAXY」を使っていただいたりと、思わぬところで自分たちの曲が使われています。昔はリリースして1か月、2か月後の売上で、その曲がどれだけヒットしたか評価されていましたが、今は違うところで、違うタイミングで火が点いて評価される。自分の別のユニットのことですけど、TERIYAKI BOYZ®️の「TOKYO DRIFT (FAST & FURIOUS)」(2006)もいまだにずっと聴かれていて、チャートインもしていることがすごく不思議です。僕たちがデビューした時代とまるっきり違うので、時代は変わったなと思いますね。

──「TOKYO DRIFT」も愛され続けている曲ですよね。
ILMARI:コロナ禍のときにAwichとかJP THE WAVYとか、いろんな人が「TOKYO DRIFT FREESTYLE」をやってくれたり、重盛さと美さんが歌ってくれたり。僕たちがデビューした頃には無かった文化なので、見ていてすごく面白い現象だなと思ってます。“出して終わり”じゃなくて、ずいぶん時間が経っても思わぬところでヒットになる。しかも、いつヒットするのか、次に何が出てくるのかが読めないっていうのも、今っぽいですよね。
──HALCALIもTERIYAKI BOYZ®️もそうですが、ここ数年のグローバルなリバイバルヒットがRIP SLYME周辺の人脈から生まれているのは、すごく面白い現象だと思います。
ILMARI:PESくんがプロデュースしているKOMOREBIの「Giri Giri」もそう。ああいうネットのバズはすごく面白いですし、僕たちの周りでそういうことが起こってくれることも、とっても嬉しいし、ありがたいです。
PES:今は誰にでもそういうことが起こり得る時代ですよね。ただ、RIP SLYMEで言えば、ライブがよかった点も大きいと思います。ライブを高く評価してくださる方々が本当に多くて。僕もライブをやるためにやっているようなもんだし。KOMOREBIもHALCALIも、ライブをやってほしいですね。(バズのような)数字だけじゃなくて、実際に目の前にいるお客さんと過ごす時間のほうがもっと価値があるので。ILMARIくんが言うように、そういう現象に囲まれていることはすごく幸せなことだと思いますし、そういうことがずっと続いていくといいですよね。
──この先の活動についても聞かせてください。来年3月までの一年間の期間限定の活動ということですが、どんなビジョンがありますか?
ILMARI:久しぶりに出させていただく大きなフェスをはじめ、僕らが感謝しているフェスにたくさん出られるのが、すごく嬉しいです。秋からやる【DANCE FLOOR MASSIVE】ツアーは、ダンスフロアに見立てて、ダンスっぽいアレンジでやるシリーズで、今回がファイナルになりますが、ずっとやってきたこのシリーズをまたできることも嬉しいです。ちょっと綺麗事っぽく聞こえちゃうかもしれないですけど、ファンの皆さん、スタッフの皆さんに感謝を伝える一年にしたいなと思ってます。
リリース情報
ベストアルバム『GREATEST FIVE』
2025/7/16 RELEASE
<初回限定盤(三方背BOX+3CD)>
WPCL-13654~6 / 5,500円(tax in.)
<通常盤(3CD)>
WPCL-13651~3 / 4,200円(tax in.)
CD購入はこちら
ツアー情報
【RIP SLYME TOUR 2025 DANCE FLOOR MASSIVE FINAL】
10月3日(金)、4日(土)神奈川・KT Zepp Yokohama
10月10日(金)、11日(土)福岡・Zepp Fukuoka
10月17日(金)、18日(土)大阪・Zepp Osaka Bayside
10月23日(木)、24日(金)愛知・Zepp Nagoya
11月3日(月・祝)宮城・仙台GIGS
11月9日(日)北海道・Zepp Sapporo
11月14日(金)、15日(土)東京・Zepp DiverCity(TOKYO)
詳細はこちら
456