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<対談>“殴り書き”メモから世界に通じるYURIYAN RETRIEVERメジャーデビュー曲「YURIYAN TIME」が完成 yonkeyが狙ったポイントは
Text & Interview: 永堀アツオ
Photos: 興梠真穂
お笑い界を席巻してきたゆりやんレトリィバァが、YURIYAN RETRIEVERとしてソロアーティスト活動を本格的に始動するという発表から早一週間。yonkeyと共作したメジャーデビュー曲「YURIYAN TIME」の中毒性は高く、コミカルな展開ながら、何度も聞いていると自然と勇気も沸いてくる。緊急来日したYURIYAN RETRIEVERの過密スケジュールの合間を縫って行われたyonkeyとの対談で明かされたのは、それこそが狙いとも言えるYURIYAN RETRIEVERが伝えたい芯の部分だった。yonkeyのプロデュース力が発揮された「YURIYAN TIME」の制作裏話をお届けする。
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──初対面の印象から聞かせてください。
yonkey:まず、ミーティングしましょうってことで、会議室のような場所でお会いして、いろいろとお話を聞かせてもらったんです。YURIYANさんからも「作った曲があるので聴いてもらえますか?」って。僕がプロデュースするミュージシャンとの打ち合わせでも、そういう会話になるんですけど、大体はiPhoneで流すことが多いんですけど、YURIYANさんは「音源ないんで、ここでやっていいですか?」って歌いはじめたんですよ。

──生歌で歌いはじめたってことですか?
YURIYAN RETRIEVER:はい。
yonkey:ビートだけ流して、その場でバリバリのパフォーマンスを披露してくださったんです。それがめっちゃ衝撃で。どんなアーティストよりも気合いが入ってるって思ったのが第一印象ですね。
YURIYAN:「ドライバーライセンス」という運転免許の曲ですね。気合いあるって言ってくれましたけど、ただ音を作る技術も録音技術もなかったんで、直でやらせてもらいました。
yonkey:でも、普通、机を挟んだくらいの距離で歌うって恥ずかしいじゃないですか。でも、そういう場でもパフォーマンスできる人だったら、絶対にアーティストとしてもうまくいくって直感して。そのときの衝撃がすごかったですね。
YURIYAN:(yonkeyさんが)いかつい人なのかなと思ってたんですけど、めっちゃ優しい方だったから、萎縮せずにどんどん自分の話を聞いてもらっちゃって。まず、「どんな雰囲気の曲が好きですか?」ってyonkeyさんが聞いてくれて。私は入りがビビッとくる曲がカッコいいと思うことが多いので、「入りが独特な曲が好きです」ってお伝えしました。あとは、「私はネタでも自分の思いを乗せてやること多いんです」って言ったら……走り書き? 殴り書き?
──箇条書きですかね。
YURIYAN:YES。「箇条書きでいいから思いを書いてください」って。

──最初にお話をした時点でどういうサウンドにしようかイメージはあったんですか?
yonkey:以前、YURIYANさんのライブに誘っていただいたことがあって、音楽を絡めたショーの曲選が僕もビビっときていたので、結構イメージしやすかったです。そのライブでホラーテイストのネタをやられてて。「あっ、これいいな」と思って、サウンドにも日本の童謡チックな音や和を連想させるような、ちょっと怖い音を入れたいなと思ったんです。イントロにカラスの鳴き声をディレイで飛ばして、夕暮れ時をイメージさせたら、YURIYANさんがネタで書いていたホラー寄りのテイストを再現できるかなと思って。
──あのカラスの鳴き声にはそういう意味があったんですね。
YURIYAN:yonkeyさんからは「日本から世界へ」という意味で和のテイストを入れてくださったと聞いていたんですけど、実はわたし、すごく前に占いの人に「守護霊がカラスだ」って言われたことがあって。
yonkey:すごいっすね、それ(笑)。
YURIYAN:サッカーの日本代表のシンボルでもある八咫烏がついているんですって。あと、私の地元がNYCなんですけど……
──NYC?
YURIYAN:あ、奈良吉野町(Nara Yoshino-Cho)です。
yonkey:あはははは! ついていけなかった。
YURIYAN:もしかしたらyonkeyさん、私の八咫烏に取り憑かれて、カラスの鳴き声を入れてくれたのかなって。
yonkey:ビビッときたから、そうかもしれないですね。しかも、「YURIYAN TIME」という、YURIYANさんの自己紹介曲でそれが出たのも、すごいことですね。
YURIYAN:その占いの人には「八咫烏が世界に行くことを応援している。でも、『日本の心も忘れずに』と言ってる」って言われたんですよ。八咫烏が私を世界に連れてってくれているって聞いてうれしかったです。しかも、私はヒップホップが好きで、ラップとか、テンションが上がる感じが好きですってお伝えしてできたのが、これで……This is exactly what I want!(まさにこれが私の欲しかったものや!)
──(笑)。リリックはどうやって2人で詰めていったんですか?
yonkey:僕はメディアで見るYURIYANさんしか知らなかったので、普段どういうことを考えてるのか知りたくてお願いしたら、箇条書きのアイデアノートにご自身の恋愛体験や日々感じている鬱憤が書かれていて。YURIYANさんから出たワードを僕が音楽でデザインしていくみたいな感じで作っていきました。いわゆる耳障りのいいデザインは僕がやったんですけど、根っこのアイデアやワードストックはYURIYANさんから着想を得てます。
YURIYAN:それこそ殴り書きを送ったら、yonkeyさんが自分でも気づかなかった私の芯みたいなところを全部、歌詞にしてくださってうれしかったです。しかも、キャッチーでかわいくて、感動しました。
──その「自分でも気づかなかった芯」というのは?
YURIYAN:最初は恋愛でうまくいかない悔しさをバーって書いて提出したんですけど、yonkeyさんが書いてくれた詞を見ていくと、これは恋愛だけに限ったことじゃないなって感じて。誰にも媚びない自分というか、私は私でいいじゃないか、みたいな。自分の価値を自分で見いだして、「これでいいんです!」って言うことが根本にありますね。
yonkey:うん。それが芯にあると思います。でも、ところどころに繊細な部分やか弱い部分もあって、それを持ちつつ、「私が一番なんだ」って言っていくYURIYANさんの姿にすごく感銘を受けて。Aメロで、わざと弱気なことを言ってるんですけど、その後に<せぇへんでええわぼけ!>って、ちゃんと強い自分を誇示している。そこで二面性を表現したいと思ってました。

──そこは演歌っぽいテイストになりますね。
yonkey:制作の途中で、ここはもうがっつり雰囲気を変えようってアイデアを思いついたんです。そこだけ作り直して、演歌のバックトラックに差し替えて。YURIYANさんは器用だから、こういう歌い方もできると思っていたら、案の定、すごく上手でハマりましたね。
YURIYAN:一曲の中で感情がコロコロ変わるのが楽しいです。
──他にもアイデアノートから引っ張ってきたリリックがふんだんに入ってますね。
YURIYAN:私のネタとか、実際の私生活とか。あと、Netflix『極悪女王』でダンプ松本さん役をやらせてもらったことや、私がトレーニングでずっとお世話になっている岡部友さんのことも入れてくださって。
yonkey:YURIYANさんの日常が出るところは全部、メモから取りました。ヒップホップって普遍的なことだけ歌っても伝わりづらいことがあるんですよ。その人のライフスタイルを素直に出すのが一番いいと思ってるので、そこをもらえたら絶対にいいものができるっていう確信がありました。<まる三角四角/男に語る資格なし>もYURIYANさんのアイデアノートに殴り書きされてて、面白いと思って入れました。
YURIYAN:私が昔、恋愛で苦しんだ時に感じた「丸と三角はあるけど、好きになる四角(資格)はないよね」っていう話を殴り書いたんですよ。そしたら、yonkeyさんがデザインしてくださって。
yonkey:形だけで終わるのもあれなので、そこはデザインしました。あと、YURIYANさんが参加された「Bad Bitch 美学 Remix」にも繋げたいな、と。
YURIYAN:“美学”と“磨く”の韻を強調するためにニュアンスを合わせるとか、レコーディングで教えていただきました。
yonkey:僕がディレクションしたら、YURIYANさんはすぐにできちゃって。やっぱりモノマネもされてるところが活かされてると思います。
YURIYAN:高校生の時に先生のモノマネばっかりしてたことが活かせました!
yonkey:あ、そこがルーツなんだ(笑)。
世界中にこの曲を広げて【グラミー賞】に行きたいです
──お話にありましたが、レコーディング作業はどうでしたか?
yonkey:これが、すごく面白い作り方をしたんですよ。スタジオに一緒に入って、まずビートを流して、「とりあえず思うままにやってください」って言ったら、結構、面白いワードやラップのフロウがスラスラと出てきて。それを持ち帰って、キャッチーだと思ったパーツと足りないと思って作った部分を音楽に落とし込んでいきました。例えば、「YURIYAN TIME」というタイトルは僕が提示したんですけど、YURIYANさんがフリースタイルで<YURIYAN TIME IS MONEY>ってビートに合わせて言ったんです。それを聞いて、これ入れちゃおうって。
YURIYAN:そうなんや。
yonkey:「YURIYAN TIME」っていう言葉自体はパッと出てきたものだったんですけど、それをYURIYANさんが広げてくださってから、一気に曲にまとまっていきました。覚えてます?
YURIYAN:……もう口から出まかせだったので覚えてないです。
yonkey:(笑)。いや、もうすごかったですよ。こんなことできる人は、なかなかいないです。
YURIYAN:苦し紛れに言ったものを使って広げてくださったyonkeyさんこそ、すごすぎる。

──そのセッションのことを覚えてないんですね?
YURIYAN:……あ、あ、あの時ですよね!?
yonkey:怪しいな~(笑)。
YURIYAN:軽くやるだけかなと思ったんですけど、結構、長尺のフリースタイルだったんで、苦し紛れに言ったんです。大丈夫かなって心配してたんですけど、yonkeyさんが「これ、使いましょう」って温かく迎えてくれてうれしかったですよ。
──そして、この曲で世界デビューを果たすことになります。
yonkey:デビュー曲なので、YURIYANさんの自己紹介的な曲にしたいっていうアイデアはずっとありました。だから、タイトルにも名前を入れたかったんです。YURIYANさんの活動拠点がアメリカっていうのもあって、世界のSpotifyのプレイリストに入っても遜色ない音楽を目指そうと、トラックにもこだわりました。かつ、日本のアイデンティティをしっかり入れることも意識して、あえて日本語で歌ってもらいました。僕は新しい学校のリーダーズをプロデュースしてるんですけど、日本語にこだわることを意識していて。日本人って英語が発音しにくいじゃないですか。海外のプロデューサーと話をすると、逆にその発音がユニークだって言っていたので、それは武器だなって思ってて。今、翻訳機能はどこにでもあるし、何を言ってるかも分かる時代なので、よりいっそう、YURIYANさんのユニークさを出せるのは日本語しかないと思って。そういうのもこだわって作った曲です。
YURIYAN:本当にありがとうございます。感謝してますし、めちゃワクワクしてます。今、当たり前のように「デビューさせてもらって~」みたいに話してますけど、「こんなことあっていいのかな?」って普通にまだ信じられないんです。アメリカに引っ越したタイミングでyonkeyさんにこの曲を作っていただいて、ユニバーサルさんからデビューもさせてもらえて……うれしい限りなんです。なので、本当に頑張ってハネたいです。TikTokも数日前に始めたんで。
──まだやってなかったんですね!?
YURIYAN:はい。「YURIYAN TIME」をバズらせたいので慌てて始めました(笑)。でも、私の自己紹介的な曲なので私のことを知ってほしいんですけど、聞いてくださる方々のエナジーを高める曲にもなっていると思うんですね。だから、「AKIKO TIME」とか、自分の名前にして楽しんでもらえたら。世界中のいろんな人に聞いてもらいたいんです。特に聞いてもらいたいのは……大人の方と、子供の方。

──結局、全員ってことですね(笑)。このタッグで2曲目も作ってると聞いてます。
yonkey:「YURIYAN TIME」と同じく、アイデアノートから着想を得て作りました。最初はカロリーのことを歌った曲だったんですけど……
YURIYAN:「すみません、私はカロリーが高い低いより、栄養素とか何が入ってるかを重視します」って正直に言ったんです。
yonkey:いっぱいコーラ飲んで、たくさん食べても、これがありのままの私っていう内容に僕がしちゃって。
YURIYAN:でも、そこを「見た目より、内面のありのままをベースにした曲にしましょう」って、気さくに変えてくださって。サビがまるまる変わりましたよね。めっちゃお手数かけちゃって申し訳なかったです。
yonkey:いや、でも逆にターゲットが広くなった気がします。
YURIYAN:好きな人からLINEの返事が全然こなくて悔しいっていうネタの中で、<私は希少な女。お前はキショいな、ほんま>っていうセリフがあって、yonkeyさんがそれを入れてくださって。
yonkey:ライブで衝撃的だったんで(笑)。これもアイデアノートに書いてあったのでキャッチーだと思って入れました。やっぱり、その人からスッと出てくるワードが一番聴き心地いいし素直なので。絶対使いたいなって思ったんです。
──YURIYANさんの音楽のルーツがモーニング娘。だそうで、<もっとHold on me!>というフレーズが気になっていたんです。
YURIYAN:モー娘。に入りかったんです。
yonkey:そうだったんだ! ここもYURIYANさんのメモから作っていったんですよね。
YURIYAN:“衝動” “報道” “行動”って、韻を踏みたくて殴り書いた気がします。図らずもモーニング娘。さんになって。しかも、次に気持ちよく入る感じに仕上げてくださりました。

──メルセデス・ベンツのくだりもありますね。
YURIYAN:Awitchさんの楽曲(「Bad Bitch 美学 Remix」)で<一括で買ったベンツで帰宅>って歌っていて、それを踏まえた歌詞を書いてくださったんですよ。でも「あの、私、ペーパードライバーで、ベンツは買ったんですけど、5回だけ乗って売っちゃいました。すみません、もう乗ってないんです」ってお伝えしたら、「本当の自分を出すのがめっちゃヒップホップ!」って言ってくださって。もう本当に、フレキシブルにどんどん変えてくださったんです。
yonkey:ここはちょっと強引に詰め込んだぐらいが逆に面白いなと思って。僕、きれいに韻を踏みがちなんですけど、ここはあえて崩しました。
YURIYAN:逆にめっちゃ煽ってる感じになってて、楽しいですよね。たまに道を歩いてると「今日も一括で買ったベンツで帰るんですか?」って聞いてくる人がいるんです。心の中では「タクシーです」「電車です」って思ってるんですけど、そう言ってくれてきた人たちを謎に煽る感じが楽しいです。
yonkey:オーバーにやっていただきたくて、「もっといっていいですよ」って何回も録り直しました。
──yonkeyさんはYURIYANにどんなアーティストになってほしいですか? 今後に期待することを聞かせてください。
yonkey:実はさらにあと2曲、一緒に作っているんです。ジャンルもまた違ったものになってて。
YURIYAN:確かに、この2曲からは想像できないですよね。
yonkey:すごくバラエティーに富んだ、個性的でいい曲になってるので、僕もめっちゃ楽しみです。僕は今回、音楽面でプロデュースしましたけど、YURIYANさんの活動を見ていると、音楽だけじゃ括られない活動を目指しているように感じてて。本当に何にも縛られない、唯一無二の存在になっていってほしいです。
YURIYAN:恐れ多い……光栄です。ありがとうございます。夢を叶えてくださってありがとうございます。せっかくいただいたチャンスなので、世界中にこの曲を広げて【グラミー賞】に行きたいです。
yonkey:うん、ぜひ会場に行きましょう。
YURIYAN:え? 会場に行くだけ!?
yonkey:いや、受賞しに会場に行きましょうっていう意味。
YURIYAN:あと、【コーチェラ】のヘッドライナーも。
yonkey:【コーチェラ】出るチャンスあると思いますよ。でも、まだ4曲しかないから、ちょっと足りないですね。
YURIYAN:4曲を早く歌ったり、ゆっくり歌ったり、いろんなバージョンで歌います。ほかにも夢はたくさんあるので、頑張ってアレします。
──最後、ぼんやりしました(笑)。
YURIYAN:頑張ってアレしますので、ぜひお願いします!
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