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<インタビュー>ワンリパブリックのライアン・テダーが語る、『怪獣8号』第2期テーマ「Beautiful Colors」での原点回帰と世界を魅了するヒットの法則

ワンリパブリックが、7月19日23時より第1話が放送スタートするアニメ『怪獣8号』第2期のテーマ曲「Beautiful Colors」を、7月25日にリリースする。アップテンポな「Nobody」、大人っぽくクールな「Invincible」に続く3度目のタッグとなる今回の楽曲は、バンドにとって“原点回帰”とも言える壮大なバラードに仕上がった。
本インタビューでは、バンドの中心人物であるライアン・テダーが、それぞれの楽曲でのアプローチの違いや、アニメへの楽曲提供における楽しさ、難しさについて語ってくれた。世界的ヒットメイカーとして、常に世界の音楽に耳を傾け、さまざまな国のクリエイターと仕事をしながら、進化し続ける彼のクリエイティブの源に迫る。
──まず『怪獣8号』とのコラボがどのように始まったのか教えてください。ワンリパブリックとしてアニメ・プロジェクトのコラボに惹かれた理由は?
ライアン・テダー:最初にこの話が来たのは……たしか2022年だったと思います。いや、もしかしたら2023年だったかもしれません。僕たちの日本のレーベルであるユニバーサル ミュージック ジャパン(UMJ)から、「マンガやアニメが好きなメンバーはいますか?」と聞かれて、「はい、実は全員好きなんですよ」と答えました。
僕自身、昔からマンガを描いたり、イラストを描いたりしていて、漫画家になりたいと思っていた時期もあるくらいです。90年代にはアニメが大ブームで、その中でも特に日本のアニメを描けたら最高にクールだと感じていました。
普段からマンガを読んでいるバンドメンバーも何人かいて、この作品のことをよく知っているメンバーもいました。UMJが、「『怪獣8号』のチームが皆さんの東京公演の終演後に、シリーズのための書き下ろし楽曲について話したいと言っています」と教えてくれたんです。
僕はこれまでテレビや映画のためにたくさん曲を書いてきました。ワンリパブリックを始める前から、そういった仕事に携わっていたので、この話を聞いた時点で「やりたい」と思っていました。ロサンゼルスにもチームが来てくれて、アニメの映像を見せてくれたんですが、僕たちは全員、その魅力にすっかり引き込まれてしまって。「これはもう、やるしかない」と即決しました
楽曲をいくつか提出した結果、最終的に選ばれたのが「Nobody」でした。日本や海外のほかのアーティストたちとの競争もあった中で、「Nobody」が第1期に選ばれたのは本当にラッキーだったと思います。こうして、すべてが始まりました。
──「Nobody」を書く前に、絵コンテや初期映像を見たそうですね。曲のトーンを決めるのに影響を与えたビジュアルやシーンはありましたか?
ライアン:自分にとって最初の出発点は、何よりもカフカの初期のビジュアルと、その物語を理解することでした。彼がパラサイトを飲み込んで、偶然にも怪獣になってしまうという設定は、本当にクールだと思いました。彼の物語、そして「怪獣を倒す」という目的、それに「親友との約束を守り続ける」というテーマが、「Nobody」の歌詞にある〈Nobody got you the way I do. Whatever demons you're fighting through.〉というフレーズのインスピレーションになったんです。
英語圏では “demons(悪魔)” という言葉は比喩的によく使われます。たとえば、過去のトラウマから逃れようとしているとか、心の中の“悪魔”と戦っている、というような意味ですね。もちろん、宗教的な意味での超自然的な存在として使われることもあります。だからこそ、怪獣というコンセプトが、“demons”という言葉と驚くほど自然に重なったんです。
TVや映画のために曲を書くとき、セリフやテーマを歌詞に直接入れてしまうと、安っぽく聞こえることがあります。たとえば『トップガン マーヴェリック』の僕たちの曲「I Ain’t Worried」には、飛行機とかパイロット、トム・クルーズなんて単語は一切入れていません(笑)。でも「Nobody」の場合、〈Whatever demons you're fighting through〉というフレーズが、あまりにもストーリーにぴったりで、自分でも思わず笑ってしまったくらいです。「これは完璧すぎるな」と。だから、やっぱり自分の中でいちばんのモチベーションは、カフカの物語だったんです。
──過去の映画やTVの楽曲制作と比べて、「Nobody」は創作面で新たなチャレンジや刺激がありましたか? アニメのテーマに寄り添う必要があったとおっしゃっていましたが。
ライアン:はい、チャレンジでしたね。僕はこれまでに数えきれないほど日本を訪れていて、日本が本当に大好きです。左腕に入っているタトゥーのほとんどが日本に関するもので、日本のアーティストともたくさん仕事をしてきました。ここ数年は、アーティストの育成にも関わっています。アメリカと日本の間には、文化的な違いがたくさんあります。それはとても奥深くて、互いに理解し合い、愛せる部分もあれば、まったく異なる部分もあります。
日本の音楽チャートを見ていると、アメリカ人アーティストにとって、日本は世界の中でも特にブレイクが難しい市場だと感じます。日本は島国ですし、日本語で歌う素晴らしいアーティストがたくさんいます。K-POPならまだしも、それ以外の海外アーティストが入り込むのは、本当に難しいんです。
怪獣、悪魔、モンスターって、どれもダークなイメージですよね。だから最初に曲を送ったときは、正直不安でした。「Nobody」は、自分にとってもかなり明るくてポップな曲です。「キャッチーすぎるんじゃないか?」と、逆に不安になるくらいでした。でも制作チームからは「他の要素が全部ダークだからこそ、曲はもっと明るくて、フィーリンググッドでキャッチーにしたい」と言われたんです。日本の音楽をいろいろ聴いていくうちに、「どうかアニメやマンガ、怪獣ファンの皆さんに、この曲が届きますように」と、願っていました。気に入ってもらえなかったらどうしようって、本当に怖かったんです。だからこそ、「このサウンドで間違っていない。これでいいんだよ」と言い続けてくれた『怪獣8号』の制作チームの言葉を信じるしかありませんでした。UMJのスタッフや周りの人たちも、「この曲がベストだ」と言ってくれて。僕は「ほかにも5曲くらい作りますよ!」なんて言ったんですが、みんなが「いや、『Nobody』がその曲だ」と言ってくれたので、それを信じました。
90年代とは文化も大きく変わっています。僕たちが当時観ていたアニメ、たとえば『幽☆遊☆白書』や『カウボーイビバップ』は、まさに90年代を象徴する作品でした。でも、今回はそういったアニメのために曲を書いたわけではありません。今回の取り組みは、ある意味でリスクでもありましたが、心からやってよかったと思っています。
──続いて 「Invincible」についてお聞きします。『保科の休日』のエンディングテーマとなったこの曲は、ポップで楽しいだけでなく、レジリエンス(回復力)や内なる強さという力強いメッセージも込められていますね。このメッセージのインスピレーションは?
ライアン:この曲にはずっと前から取り組んでいました。最初のメロディーだけはずいぶん前にできていて、断片的にアイデアを温めていたんです。でも“invincible(無敵)” という言葉が、あまりにもストレートすぎる気がして、歌詞がなかなか決まらなかったんです。ずっとバンドメンバーたちには、「このメロディーは本当に気に入ってるんだけど、“invincible” っていうフレーズにはまだ説得力が足りない気がする」って話していて。手元にはその一単語と少しのメロディーしかなく、そこからどう展開していけばいいのか、ずっと掴めずにいました。そんなときに、映画のアイデアを見せてもらったんです。それを見た瞬間、「ああ、この作品のための曲だったんだ」って確信しました。その言葉に込めるべき意味が、ようやく見えてきたんです。
「Nobody」とは違って、「Invincible」はもう少し大人っぽく、クールで、自信に満ちた雰囲気にしたかったんですよね。年齢を問わず心地よく聴けるのが「Nobody」だとすれば、「Invincible」では少し成熟したムードを目指しました。
それから、東京でどうしてもミュージック・ビデオを撮りたかったので、それが実現したのもすごく嬉しかったです。ちょうど日本に行くタイミングと重なって、本当に完璧でした。夜中の3時まで東京の街を歩きながら撮影して、心から楽しい時間でしたね。
歌詞は映画の内容からインスピレーションを受けています。あまりにも直球にならないように気をつけましたが、「もし自分が怪獣だったら、きっと無敵だと感じるだろうな」と思って。実際、怪獣ってほとんど無敵ですよね。倒せるのは、よほど特別な存在だけ。つまり、今回のキャラクターは本質的に“無敵”なんです。
──シングルのアートワークも素敵ですね。怪獣がソファでくつろいでいる姿が印象的です。
ライアン:僕たちがこれまでに発表したシングルのアートワークの中で一番気に入っているかもしれません。日本らしさが詰まっていて、ウェス・アンダーソンっぽい雰囲気もあります。色使いもトーンもすべてが絶妙で、僕も大好きなジャケットです。

──そして『怪獣8号』第2期のために「Beautiful Colors」を書き下ろしました。アニメのストーリーは曲作りにどのように影響しましたか?
ライアン:『怪獣8号』のチームからは、「今度はもっと感情に深く訴えかけるような曲がほしい」とリクエストされました。「Nobody」は明るくて勢いのある楽曲でしたし、「Invincible」もテンポ感がありつつ、少しエッジの効いた成熟したサウンドでした。今回は、鳥肌が立つような、あるいは涙を誘うような音楽が必要だと。物語の中で感動的な出来事がいくつも起こるので、それを音楽でしっかり支えたいという意図があったんです。だからこそ、今回はバラードになりました。
主人公たちは、さまざまな試練を乗り越えていきます。「Beautiful Colors」の歌詞を読んでもらえれば、物語で何が起きているか、ある程度イメージできると思います。「Nobody」とは感情のベクトルを完全に変える、ということを意識して作りました。
バラードを書くのは久しぶりだったので、僕自身すごくワクワクしました。そして、これからの1年間で、さらに感情の深みを持った楽曲をリリースしていく予定です。僕たちは、人をハッピーな気持ちにするのが大好きなバンドです。ある意味、ドーパミンを注入するようなバンドというか。レッドブルを開けて、少しお酒を飲みながら、ただ楽しく過ごす、そんな雰囲気ですね。僕はそのアイデンティティがすごく気に入っていますし、ライブで観客が雲の上に浮かぶような気分になっているのを見るのが、何よりも嬉しいんです。
でも、そろそろ感情的な側面をもう一度しっかり打ち出す時期に来ているとも感じています。僕たちの原点は、「Apologize」のような胸を締め付けるようなバラードでしたから。「Beautiful Colors」は、そんな原点への回帰でもあるんです。
──「Beautiful Colors」を制作するにあたり、アニメの制作チームとはどのような関わり方をされましたか?
ライアン:制作プロセスは、とても興味深いものでした。アニメーションは時間がかかるので、僕たちが制作に入る段階では、完成映像はまだなくて、絵コンテや白黒のスケッチ、部分的なカラーのフレーム、そして大まかな物語の概要しか存在していないんです。たいていは、最終完成の9か月も前から作業を始めることになります。
これまで一緒に仕事をしてきた日本の方々は、本当に細部にまでこだわっていて、すごく効率的なんです。これは日本文化の一部なんでしょうね。準備や時間の正確さ、そしてプロフェッショナリズム。どの企業やチームにも、プロセスと規律に対する共通のリスペクトがあると感じます。僕の制作プロセスを尊重してくれて、僕も彼らのやり方を尊重しました。彼らは曲を作るために必要なストーリー、ビジュアル、コンテクストをすべて提供してくれたんです。
『怪獣8号』がほかのプロジェクトと違うのは……たとえばドージャ・キャットやドン・トリヴァーと手がけた映画『F1®/エフワン』の曲や、ハンス・ジマーと共作した同作のテーマ曲では、事前に映画を実際に観ることができました。『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』のときも、映画の大部分を見た上で曲を書きました。
でも『怪獣8号』では、それができませんでした。想像を交えつつ、提供される情報を頼りにするしかなかったんです。僕たちが曲を作り、それに合わせてアニメーションが進められて、あとは物語が変わらないことを祈るしかない。でも、日本のクリエイティブ・チームと仕事をしていると、物語は絶対に変わらないと信じられるんです。アメリカのマンガ実写化だったら、公開の3週間前になってストーリーが変わるなんていう悪夢のようなことが起こりえますから(笑)。「ここを編集しなきゃいけないから、この曲はもう合わない」みたいな。アメリカではよくあることなんですけど、日本の制作チームが「これで行きます」と言ったら、本当にその通りになる。その信頼関係は、本当に貴重だと思いますし、アメリカのクリエイターともいつか、そういう関係を築けたらいいなと思っています。
『怪獣8号』第2期に関われることは、僕たちにとって本当に光栄なことです。とにかく、ものすごくスケールの大きいものになると思います。詳細は……まだ言えませんけどね。

©防衛隊第3部隊 ©松本直也/集英社
──「Beautiful Colors」では音楽的にもいろいろな工夫がされていますが、サウンドやプロダクションにおいて特に気に入っている部分はありますか?
ライアン:久しぶりにストリングスやオーケストラの要素を取り入れました。ピアノから始まる曲で、こんなことは言いたくないですが……これほどまでに“ワンリパブリックらしい” サウンドは本当に久しぶりです。ピアノのメロディーを聴いた瞬間に、「あ、これって『Apologize』の人たちの曲だよね」って思ってもらえるような仕上がりになっています。あの曲はもう18年前の作品ですが、まさに“原点回帰”と言えるような楽曲です。2007~2008年あたりから僕たちを聴いてくれていた人たちには、絶対響くはずです。
昔のワンリパブリックらしさを残しつつ、しっかりと2025年のサウンドに仕上げています。時代遅れにはなりたくないので、常に進化を続けて、何が今うまくいっているのかに注意を払わなければいけません。それが、どんなアーティストと仕事をするときでも、プロデューサーとしての僕の役目だと思っています。たとえそれがワンリパブリックであっても、&TEAMでも、ONE OR EIGHTでも、関係ありません。
時代を超えて愛される、素晴らしい曲でなければならない。でも、そのためのプロダクションは常に進化していなければいけない。世界の音楽が今どこに向かっているのか、常に意識し続ける必要があるんです。確かにチャレンジングではありますが、それが僕の毎日の仕事なんです。
──さまざまな国のアーティストと制作をされていて、最近ではパンジャーブ系アーティストとも仕事をされたそうですね。国や文化によって制作アプローチは変わりますか?
ライアン:間違いなく変わります。例外もありますけどね。僕はこれまでK-POPアーティストとも多くの仕事をしてきました。LISAをはじめ、BLACKPINKの最新シングルにも関わりましたし、JIMINのアルバムでは2番目にシングルカットされた曲も担当しました。K-POPはサウンドの面で、独自のジャンルだと言えると思います。でも最近では、そのスタイルも少しずつ変わってきていると感じています。
マイリー・サイラスのニュー・アルバムでは、「Easy Lover」という曲を手がけました。あの曲は、“2025年版のナンシー・シナトラ”みたいなサウンドで、ちょっとウエスタンな雰囲気もありつつ、70年代の空気感も漂っています。そして、テイト・マクレーの新曲は、リアーナの才能に惚れたときの感覚を思い出させてくれるような、マイリーの曲とはまったく違うタイプの作品になっています。
さらにワンリパブリックの「Beautiful Colors」や「Invincible」も、それぞれ違うサウンドです。デヴィッド・ゲッタなどの大物DJとのダンストラックも登場する予定で、これまたまったく異なる世界観を持っています。
つまり、僕が作るすべての曲が“別物”なんです。それぞれの曲に、まったく違うアプローチが必要になる。僕が常に自分に問いかけているのは、「このアーティストは何を表現したいのか?」「何を伝えたいのか?」ということ。その問いに、自分の知識や世界中のトレンドを掛け合わせるのが、僕の仕事です。そして何より大切なのは、自分自身が「これを聴きたい!」と心から思える曲を作ることなんです。
ヒット曲やグローバルで受け入れられる曲が生まれるときって、自分の直感と、世界中の人々が“無意識に求めていたもの”がピタッと一致する瞬間なんですよね。それが一生に一度あるかどうか。でも、運がよければ僕のように、20年続けることもできます。
その状態を維持するための唯一の方法は、常に好奇心を持ち続けること、そして文化やポップカルチャーへの愛を失わないことです。だからこそ、僕はいつも旅をしてます。つい2週間前も、イスタンブール、チューリッヒ、アゼルバイジャン、アブダビ、バンコク、メキシコを、10日間で回ってきました。たとえばバンコクでトゥクトゥクに乗ってスクンビット通りや市街地を走っていると、道沿いやタクシーの中からいろんな音楽が流れてくる。それを、僕は全部意識して聴いています。
東京でも同じです。ラジオを聴いたり、表参道や中目黒のカフェやショップで流れている音楽に耳を傾けたりしています。それが、僕の仕事なんです。文化ごとに「今、何が響いているのか」を理解するには、それしか方法がないと思っています。少なくとも、僕にとってはそうです。それをやらずに作曲していたら、あとはもう全部勘で作ることになりますが、それって、かなり危険なことなんですよね。
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