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<コラム> コモン/ディゲブル・プラネッツ/ジャム&ルイス来日公演記念――ヒップホップ、ネオソウル、R&Bの金字塔が時代を超えて愛され続ける理由

インタビューバナー

Text:渡辺志保

 来月8月16日と17日に開催される【SUMMER SONIC 2025】 。8月16日の東京初日にBEACH STAGE内で行われる【Billboard Live & JUJU's BEACH PARTY】に登場し観客を熱狂させること間違いなしの3組、コモン、ディガブル・プラネッツ、ジャム&ルイス。ヒップホップ、ネオソウル、R&Bというジャンルを超えて音楽史に名を刻む彼らが、ビルボードライブでの単独公演も決定した。彼らのルーツ、音楽性、ライブパフォーマンスに込められたメッセージとはどのようなものなのか。そしてこの特別な空間で、どんなセットが繰り広げられるのか。音楽ライター・渡辺志保が、3組それぞれのキャリアとアーティストとしての魅力を綴るスペシャルコラムをお届けする。時代を超えて愛され続ける彼らのサウンドの核心にぜひ触れてほしい。

 ※この記事は、2025年6月発行のフリーペーパー『bbl MAGAZINE vol.209 8月号』内の特集を転載しております。記事全文はHH cross LIBRARYからご覧ください。


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 地元シカゴのみならず、全米を代表するエンターテイナーとなったコモン。コンシャスでクラシカルなラップを軸にしつつも、そのスタイルは常に進化し、若いアーティストらとのコラボレーションも厭わない。

 年齢を重ねるごとに深みを増す彼のラップ・スタイルとキャリアは、前人未到的でもある。1972年、シカゴに生まれたコモンの母である、Dr.マヘリア・ハインズは熱心教育者であり、地元の公立学校の校長を務め、その後、バラク・オバマ元大統領によるオバマ財団理事を務めた人物でもある。校生時代からラップを始めたコモンは、最初のMCネームを“コモンセンス”とし、1stアルバム『Can I Borrow a Dollar?』を1992 年に発表。




 その後、名前をコモンに改め精力的にアルバムをリリースしながら、初期の頃から活動を共にしているプロデューサーのNo I.D.に始まり、J・ディラ、クエストラヴらといったソウルクエリアンズの面々、そして最初はプロデューサーとして活動していたカニエ・ウェストといった素晴らしいプロデューサーらと組み、自身のアーティスト性を高めていったのだった。ローリン・ヒルやザ・ルーツらが参加した『One Day It'll All Make Sense』(1997年)、さらにソウルクエリアンズ色が増し、ディアンジェロやロイ・ハーグローヴ、ピノ・パラディーノといった名演奏家らも集結した『Like Water for Chocolate』(2000年)といったアルバムは、当時盛り上がりを見せていたネオ・ソウルの趣をふんだんに出しながら、人種問題や社会的な問題も取り入れた思想性や詩的な眼差しをリリックに落とし込み、ラッパーとしての存在感を高めていった。




 2005年にはカニエ・ウェストが全体のプロデュースを担った『Be』をリリース。批評家からも高い評価を集め、7作目『Finding Forever』に収録された「Southside feat. Kanye West」ではグラミー賞にも輝いた。




 ソロ・ラッパーとして順調にキャリアを歩むコモンの転機となったのが、映画『グローリー/明日への行進』への出演だ。キング牧師の功績を描いた本作で、コモンは俳優を務めただけではなく、ジョン・レジェンドと共に主題歌「Glory」を手がけ、第87回アカデミー賞では同曲で最優秀歌曲賞を受賞。近年では、かねてから制作を共にしてきたドラマーのカリーム・リギンスとロバート・グラスパーと共に組んだグループ、オーガスト・グリーン名義での活動や、ピート・ロックと組んだコラボ・アルバム『The Auditorium Vol. 1』のリリース、そしてブロードウェイでの舞台演劇、作家、アクティヴィストとしても止まることなく精力的に動き続けている。



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DIGABLE PLANETS


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 オルタナティヴ・ラップとジャズを見事に融合させ、オーガニックなサウンドを作り上げたヒップホップ・トリオがディゲブル・プラネッツだ。

 イシュマエル・“バタフライ”・バトラー、クレイグ・“ドゥードルバグ”・アーヴィング、マリアナ・“レディバグ・メッカ”・ヴィエイラの男女混合3MCによって構成される彼らは、ブルックリンを拠点として活動をスタート。ジャズ・サウンドを基調としたスムーズなラップは革新的であり、当時の東海岸ラップ・シーンに衝撃を与えた。アート・ブレイキー「Stretching」を印象的にサンプリングした「Rebirth of Slick (CoolLike Dat)」やハービー・ハンコック「Watermelon Man」を上ネタに敷いた「Escapism (Gettin' Free)」など、サンプリングのセンスも光る楽曲たちが収録された1stアルバム『Reachin'(A New Refutation of Time and Space)』を1993年にリリース。




 オリジナルなジャズ・サウンドに傾倒した理由として、後のインタビューではバタフライが「ジャズの文化や美学に惹かれて、自分が好きだったジャズをトリビュートするだけじゃなく、自分たちも参加したかった」と語っており、1994年にはデビュー直後でありながらグラミー賞において最優秀ラップ・パフォーマンス(デュオ/グループ)部門を受賞した。対抗馬であるDr.ドレー&スヌープ・ドッグやノーティー・バイ・ネイチャーといった錚々たるメンツが並ぶ中の快挙であり、ブルックリン発のオルタナティヴ・サウンドを全面に押し出したディゲブル・プラネッツがどれだけ革命的だったかが伝わってくる。その後、2ndアルバム『Blowout Comb』(1994年)を発表。




 ブラックパンサー党やファイヴ・パーセンターズといったトピックに触れながら、ブラック・パワーとスピリチュアリティ、そして当時のブルックリンの空気感を巧みに伝えた。現在は、1stアルバムの30周年を記念してアメリカ・ヨーロッパを巡るツアー中。ヴィンテージ&オーガニックなジャジーヒップホップスタイルを今も貫いている。



Jimmy Jam & Terry Lewis


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 言わずとしれたスーパー・プロデューサー・コンビ、ジャム&ルイスことジミー・ジャムとテリー・ルイス。熱心なファンであれば、ジャム&ルイス名義での昨年(2024年)ビルボードライブ単独来日公演で実現した熱いファンクネスの波をまだ忘れられないのではないだろうか。
 ミネアポリス出身の彼らが本格的にミュージシャンとして活動開始したのは1981年、プリンスによって結成されたバンド、ザ・タイムのメンバーとしてだった。ヘヴィなファンクネスと弾むようなシンセ・サウンドを融合させたミネアポリス・サウンドを構築し、ブラック・ミュージック界に新たな風を吹き込んだ。その後、ザ・タイムを離れた二人はプロデューサー業に専念するようになる。その結晶となった作品の一つが、1986年にリリースされたジャネット・ジャクソンのソロ・アルバム『Control』だろう。




 リズムマシンを激しく打ち鳴らすエッジーなサウンドとジャネットの歌声の相性は抜群で、女性としての自立と解放を謳ったジャネットによる歌詞の大胆なヴァイブも加わり、全世界で1千万枚以上を売り上げる歴史的ヒット作となった。そして以後、ジャム&ルイスはジャネットと共に制作を続け、彼女を世界的なポップ・アイコンへと押し上げた。
 アーティストの魅力を120%引き出しながら、グルーヴと流麗なメロディを練り上げていくのがプロデューサーとしての二人の特徴だ。ダンサブルな激しいファンクはもちろん、繊細なバラード、チャーチの雰囲気を醸し出す美麗なゴスペルまで、器用にジャム&ルイス色に仕立て上げる。これまでに手がけたアーティストはマイケル・ジャクソン、メアリー・J.ブライジ、マラ イア・キャリー、アッシャー……そのリストは枚挙に遑がない。ゴールドやプラチナム・ディスクを獲得した楽曲は実に100曲を超え、総売上規模は1億枚を超える。2021年にはモーリス・デイやベイビーフェイス、マライア・キャリーらも参加した初のリード・アルバム『Jam & Lewis, Volume One』を発表。




 2022年にはロックの殿堂入りを果たし、まさにレジェンドとしてポピュラー音楽史にその名を刻んだ彼らの旅路はまだまだ続く……。さらに成熟したジャム&ルイ・サウンドは、これからもR&Bワールドの地球儀を廻し続ける。


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