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<わたしたちと音楽 Vol.62>CENT(セントチヒロ・チッチ) ソロになって、自分と向き合う難しさと楽しさを知った
米ビルボードが、2007年から主催する【ビルボード・ウィメン・イン・ミュージック(WIM)】。音楽業界に多大に貢献し、その活動を通じて女性たちをエンパワーメントしたアーティストを毎年<ウーマン・オブ・ザ・イヤー>として表彰してきた。Billboard JAPANでは、2022年より、独自の観点から“音楽業界における女性”をフィーチャーした企画を発足し、その一環として女性たちにフォーカスしたインタビュー連載『わたしたちと音楽』を展開している。
今回のゲストは、セントチヒロ・チッチ。BiSHのメンバーとしての活動を経て、2022年からはCENTとしてソロの音楽プロジェクトを開始。活動の形を変えながらも、自分の気持ちと向き合い伝えることを大切にしてきた彼女は今、表現者として何を考えているのか。(Interview:Rio Hirai[SOW SWEET PUBLISHING] l Photo:Shinpei Suzuki)
ソロアーティストとして、
新しい自分と出会えた3年間
――2023年6月にBiSHが解散し、ソロ・プロジェクトのCENTを始動して3年が経ちました。今はどんな感覚で音楽に向き合っていらっしゃいますか?
セントチヒロ・チッチ:グループ時代はキャプテンの立ち位置だったので、グループのことを考えるのがすごく楽しくて、メンバーのことを考える時間が自分の時間の中で大半を占めていました。ソロになって待ち受けていたのは、自分と向き合う日々。今までどれだけ向き合ってこなかったかがわかって、私にとっては難しいことなんだなと気が付いた3年間でした。
今は自分について考えるのがすごく楽しいし、セルフ・プロデュースだからこそ、一度初心に立ち返り「自分ってどんな強みがあるのかな」、「どんな音楽が好きなのかな」と考えながら音楽を作る楽しさに目覚めて、今もすごくワクワクしながら取り組んでいます。
――セルフ・プロデュースによって、新しい自分と出会えたのですね。
チッチ:そうですね。今でもさまざな楽曲を作っていく過程であったり、誰かとセッションをするうえで「私こんなこともできたんだ」、「こんな色を持っていたんだ」という発見に出会えて、ときめきながら楽しんでいるんです。
――CENTという名前には、どんな意味や思いが込められているんでしょうか。
チッチ:100個ぐらい名前の候補をあげて、最後に残ったのが“CENT”でした。私の本名を変化させてセントチヒロ・チッチって名前を作って、BiSHでセントチヒロ・チッチとして過ごした9年間があって、この9年がなかったら今私はここにいないというこの思いを、ちゃんと自分の歴史の中で残したかった。だからCENTという名前にしたんです。スペルは違うけど、「愛情や思いを“送りたい”」という意味で“送る=sent”、あとは何千人、何万人のお客さんが来てくれても1対1と変わらない100%の思いを伝えられるアーティストでいたいという思いで100%の“%”という意味も込めました。
自分が思う愛の形を
伝える強さを持ちたい
――“女性であること”は、アーティスト活動にどんな影響があるでしょうか。
チッチ:BiSHのときは、カウンター的な考え方で楽曲を出すことを面白がってくれていた人がたくさんいたと思うんです。少し前のロックやパンクのテイストを取り入れた楽曲を、女の子が6人集まって歌って踊るギャップに惹かれてくれた人がいると思うと、女性であることが強みだったんじゃないかなって。こうやってBiSHの話をすると、「過去にすがるな」とか「引きずるな」みたいなことを言われたりするんですけど、切り離して考えられないのにってモヤモヤしたときもあったんですけどね。
CENTとして活動をスタートさせからは、素直になることを学びました。「こういう女の子として見られたい」という感覚がそぎ落とされて、生身で自分らしくいられるようになりました。女性の自分だから感じる感覚も、自分らしさとして表現していきたいと思っています。
――生きていく中で、社会のジェンダー規範についてはどう考えていますか。
チッチ:私が意識しているのは、強く生きること。女性だから優しくしてもらえる機会もあると思うのですが、「女性だけど強い」という感覚は常に持っていたいんです。そう思うようになったきっかけはオノ・ヨーコさんで、彼女から女性らしく強く生きるパワーを教わって、何年も前から憧れの人です。自分ではまだまだ到達できないけれど、恐れずに自分が思う愛の形や平和を音楽として表現して、メッセージを伝えていきたいというのが、私が今女性としてやりたいことです。
――オノ・ヨーコさんの存在を知る前と後では、考え方はどう変化したのでしょうか。
チッチ:彼女を知る前は、自分にとってのスーパーヒーローは男性ばかりだったんです。自分の孤独を救ってくれた音楽を作った人や、テレビを見て憧れていた人がみんな男性だったんですね。でもオノ・ヨーコさんの存在を知り、彼女に強い意思のある内面的なたくましさを感じた。「内面の強さって、こんなに美しいんだ」と気が付いて、自分ももっと思考を巡らせようと思うようになりました。
――チッチさんが目指す、強さとはどんなものなのでしょうか。
チッチ:折れない志があって、覚悟のある言葉を持っている強さですかね。
人とのつながりが生む強さ
1人で生きていかないということ
――強くありたいけど、折れそうになったり、つい流されてしまう人も少なくないと思うのですが、どうしたら強くあるための勇気が湧いてくるでしょう。
チッチ:私は「強くありたい」と思ってそれを言葉にできるけれど、うまく言葉にできない人もいて、その気持ちがわからないのに、自分の考えを押し付けてしまったことがあったんです。その人の気持ちを聞かせてほしいけれど言ってもらえない、というときに「どうして自分の意見を言えないの?」と言ってしまって。「世界には、自分の意見を伝えるのが得意じゃない人もいるんだよ」と言われて、自分がそれに気が付いていなかったことにハッとしました。自分の気持ちをうまく言葉にできない人が頑張って変わらなきゃいけないというより、違うやり方で表現できる場所があれば良いなと思って。そうやっていろいろな人の気持ちが伝わるような社会になれば良いなと願っています。自分の気持ちを言葉にするのが苦手な人にお勧めしているのは、手紙を書いてみること。口で伝えるのは難しくても、手紙ならできるかもというお友達もいるので。
――手紙を書いてみるのは、自分の気持ちを言葉にしてみる良い訓練になるかもしれないですね。ほかにも、困難に立ち向かうチッチさんなりのコツはありますか。
チッチ:1人で生きていかないこと。悩んだときや困ったとき、自分1人で頑張ってしまうとどこかで爆発してしまうので、仕事でもプライベートでも必ず誰かとディスカッションするようにしています。私は弱い自分を吐き出すことが自分に合っているので、絶対人に話すようにしてて。人に話すことによって、自分1人では見つけられなかった選択肢が生まれることがあるんです。だから、人と話してディスカッションすることは、大切にしています。
――自分1人で頑張りすぎないほうが良いと気が付いたのは、どんなタイミングだったんですか。
チッチ:昔から、自信はないんですよ。不安だからこそ、自分を好きになるために、自信を持つために、BiSHでもキャプテンを担いたかった。人ほど個性がないってどうしても思ってしまうことがあって、キャプテンでいることで自分が強くなれる気がしたから、自分でその場所に身を置いたんです。今だって別に「自分が最高」だとか、「ここがカッコいいんだぜ」って思うことってなかなかなくって。だから人と話したときに自分の良いところを聞くようにしています。そうやって自分の中で良いところを集めて強くなっていくようにしています。
広い視野を持って、
長く活動を続けていきたい
――活動している中で、ジェンダーギャップを感じることはありますか?
チッチ:音楽フェスティバルやイベントに出ると、圧倒的に男性の出演者が多いことは多いなとは感じます。そこに違和感を覚えることもなかったのが、もしかしたらおかしかったのかもしれないですね。
――女性がこの業界で活躍しやすくなるには、どんな変化があるといいでしょうか。
チッチ:すごく難しいところなんですけど、やっぱり守られすぎてるなって感覚があって。女性だから守られていると思うのですが、私としてはもっと近くに感じてもらえる存在になっていきたい。でも、すごく繊細で難しい問題ですよね。何も間違ってはいないし、みんなが好きなものを好きって言っているだけなんだけどな。
――チッチさんが、今の活動を長く続けるために大事にしていることって何かありますか?
チッチ:目の前のことだけじゃなくて、できるだけいっぱい考えるようにしています。自分は競走馬じゃないと思っていても、自分の周りだけに集中しちゃう時があるんだけど、できるだけ応援してくれる人の声を拾うようにしています。やっぱり愛してくれる人がいるからこそ、音楽をやってて楽しいなって感じられるので、そういう自分でいられるために考えるようにしています。
プロフィール
2020年8月にソロ音楽活動を開始し、1stデジタル・シングル「向日葵」を発表。2023年8月にはアルバム『PER→CENT→AGE』をリリースし、11月に初の全国ツアー【Hello Friend Tour】を全国13か所にて開催した。2025年1月8日に自身初のアニメ・タイアップ曲である「百日草」を発売。同5月15日には自身初のZepp公演【CENT oneman live「CENTIMETRE」】をZepp DiverCityにて開催。ソロ活動3周年となる8月20日に、ビクターエンタテインメントよりメジャー1stミニ・アルバム『らぶあるばむ』をリリースする。
公演情報
【CENT
Billboard JAPAN Women In Music vol.3】
2025年9月22日(月)
東京・ビルボードライブ東京
1st stage open 17:00 start 18:00 / 2nd stage open 20:00 start 21:00
詳細はこちら
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