Interview & Text：西廣智一

　2024年より全曲の作詞作曲を自身が手がける、“マオ”名義でのソロ活動をスタートさせたシドのマオ。ロック色の強かった1stアルバム『habit』と同作を携えた全国ライブハウスツアーという、作品のカラーが強く反映された活動が続いたが、早くも2作目となる最新EP『夜半の銃声』が7月2日にリリースされた。全6曲からなる本作は、『habit』同様に生々しいロックが軸になっているが、中には新たな可能性を感じさせる楽曲も含まれており、ここから始まる新たなツアーが楽しみになる仕上がりだ。

　昨年の活動を通じて新たに得られたもの、あるいは再確認できたものはあったのだろうか。そして、その要素が続くEP『夜半の銃声』にどんな影響を及ぼしたのだろう。最新ツアーを間近に控えたマオに、じっくり話を聞いた。

やれる、やれないは置いておいて
なんでも歌ってみたい

――マオさんは昨年5月にアルバム『habit』を発売して、その後2か月におよぶ全国ライブハウスツアーを実施しました。そもそも『habit』という作品自体がライブハウスツアーをイメージして作られたと、リリース時のインタビューでおっしゃっていましたが、実際ツアーを通して『habit』の楽曲を表現していくことで得られた手応えって、今振り返ってみていかがでしたか？

マオ：ソロとしては初めてしっかり行うライブハウスツアーだったんですけど、「こういう編成、こういう形でソロをやる」っていうのも意外とハマりがいいんだなと感じたので、今後もライブハウスに合った曲やツアーのコンセプトツアーとか、どんどん挑戦していきたいなっていう手応えにつながりました。なので、そこを踏まえて今回のEPも制作しています。

――確かに、『habit』と今回のEP『夜半の銃声』は地続きであることが聴いてしっかり伝わりました。と同時に、前作以上に攻めの姿勢が強く貫かれた作品集だとも感じて。実際のところ、ある程度新曲が揃ったところで6曲入りEPという形でまとめようと思ったのか、それともEPという形を事前に想定して制作と向き合ったのか、どちらなんでしょう。

マオ：フルアルバムの次だったので、本当は時間があればまたアルバムでもいいかなと思っていたんですけど、新曲がある程度貯まり始めた段階で「早く出したい」という思いが強くなってきて。なので、今回は曲調の統一感みたいなところはあまり考えていなかったんですよ。

――たまたま出揃った新曲がこういうタイプばかりだったと。とはいえ、今作は冒頭の「体温」から5曲目「ストロボ」まで、攻めの姿勢が強く貫かれている印象が強いです。

マオ：確かに。でも、これこそが今やりたいことだったんでしょうね。もともとシドで活動しているときもそうですけど、「こういう音楽のジャンルじゃないと嫌だ」とか「これはやりたくない」というのがあまりなくて。やれる、やれないは置いておいて、やれる範囲で歌えるジャンルだったらなんでも歌ってみたいなという気持ちが常にあって、そこはソロでも同じというだけで。ただ、自分が作詞作曲を全部担当するというところがシドとは全然違うので、それもあって余計にやりたいことだけができているのかもしれないですね。

――ちなみに前作『habit』に対して、当時のインタビューで「作曲の知識がない自分が全力で作ったアルバムだから、ただの俺の“癖の集大成”」とおっしゃっていましたが、そこを経て生まれた今回の『夜半の銃声』はどのような作品なのでしょう。

マオ：今回も癖は出ていると思うんですが、その中でも「“今までやってみたかったけどやれていなかったところ”を拾っていく」ようなイメージが強くて。俺は音楽の世界でもう長いこと活動してきて――最近はライブもそうなんですけど、“やり残し”が嫌だなと思うようになってきたんです。それが今回のEPでは「あれもやりたい、これもやりたい」と思うことを、曲ごとに挑戦できていて。そこに関してはすごく満足しています。

――たとえば、活動が長くなるとファンが求めるイメージを大切にしつつも、そこからどううまく“外れる”か、違った側面を見せて驚かせるかというせめぎ合いもあるのかなと思いますが。

マオ：そこに関してはシド（での活動）のほうがかなり強く持っていて、ソロに関しては実はむしろ自分がやりたいことを重視しているかな。特に「夜半の銃声」という曲は「（ファンが求めるのは）これじゃないだろ」と思いつつも、「でも俺はこれがやりたいんだよね。わかってくれるかな？」っていう一曲ですね。

――せっかくなので、今回のインタビューではEP収録曲についてひとつずつ、マオさんの口から解説していただけたらなと思います。まずはオープニングを飾る「体温」について。

マオ：せっかくソロで作品を再び出すんだったら、前作を聴いて気に入ってくれた人をいい意味で裏切りたいなと思って。ずっと激しい曲とかダークな曲が続いていたので、次の作品……タイトルが『夜半の銃声』というEPがいきなりポップな曲から始まったら面白いだろうなと思ったんです。あと、ライブの1曲目に自分が歌っている姿をイメージしながら書いた曲というのが今までなかったので、そういうことも思い浮かべながら作った曲でもあります。

――この曲はシドから脈々と続くマオさんのパブリックイメージに近いものがあるので、曲としてはすごく親しみやすさがあるんですけど、確かに『habit』から続くソロ活動の中では異質ですものね。

マオ：「迷ってるのかな、この人？」みたいに受け取られてもおかしくないですよね（笑）。でも、自分自身いろんな音楽を通ってきましたし、だからこそ自分でやってみたいと思う音楽もいろいろあるわけで。なので、こういう振り幅も楽しんでもらえたらなと思います。

――いろいろ試せるからこそのソロ活動なわけですものね。この曲はMVも爽快感が強い仕上がりですね。

マオ：次のツアーも『habit』のときと同じバンドメンバーで行えることになったので、せっかくだからそのメンバーでMVを撮ってみたいなと思って。ただ、普通に演奏シーンを撮っても面白くないので、みんなで遊んでいるような内容にしたかったんです。たとえば、ファンのみんなが仕事とかキツイことを終えて帰宅したとき、このMVを観たら自然と笑顔になれる……そういう映像を作りたいと思って、そのためには自分がいちばんはっちゃけていたらいいんじゃないかなと。そういう思いを込めて作りました。

――続いて、2曲目はタイトルトラック「夜半の銃声」です。

マオ：自分が中学生ぐらいの頃に聴いていたちょっと骨太なロックとか、そういうものを自分でもやってみたいなと思ったのが、この曲を作るきっかけで。きっとシドだとやれないんじゃないかなっていうのもありましたし、加えてさっきも言ったように、ファンのみんながノリやすい／ノリにくいとかそういうことも一切考えず、ただただ「自分がやりたくてもなかなかできなかったこと」を拾いに行った結果生まれた曲ですね。なので、レコーディングでもバンドメンバーに……演奏技術の高いメンバーが揃っているんですけど「テクニカルな方向に行かず、初期衝動を大切にしてください」と伝えましたから。

――おっしゃるように、技術で色付けをするというよりもパッションで曲を成立させている印象が強い曲だと思いました。この曲名をEPのタイトルに選んだのも、そういったところが関係しているのでしょうか？

マオ：「夜半の銃声」がこのEPのすべてを占めているというよりは、タイトルとしてハマりがいいかなという程度で。だって、EPからのリード曲は「体温」なわけで、MVも制作したぐらいですし。自分が何か大きなことに挑むときに、誰かに支えてもらったことはもちろん何回もあるんですけど、中にはすごく怖くて足を踏み外しそうなくらいビビっているけど、それでもやるしかないということもあるじゃないですか。もちろん俺は聴き手を包み込んであげるような応援ソングとか、そういうコンセプトのライブも今まで何度もやってきましたし、今もその気持ちは変わらずあるんですけど、たまにはそういう「ビビってるけど、それでもやるしかない」ってことを歌った曲があってもいいのかなと。なので、この曲は誰かにとって鳴り響く銃声のようなものになってくれたらいいなと思っています。

――先ほどマオさんが「自分が中学生ぐらいの頃に聴いていたちょっと骨太なロック」とおっしゃいましたが、確かに自分が10代の頃にこの曲と出会っていたら、有無を言わせずに走り出したくなるような衝動に駆られるのかなと思いました。

マオ：まさに、そういうことを思って作りました。

――3曲目は、昨年のツアーでも先行披露されていた「mannequin」。この曲はツアー終了後にレコーディングを行い、2024年秋にデジタルシングルとして発表済みです。

マオ：やっぱりライブで何回かやってからレコーディングすると、単純に気持ちを乗せやすいので全然違いますね。その一方で、新鮮な気持ちを作品に乗せることはなかなか難しくなってくるので、そこは自分でスイッチを入れてやっていくことを意識したりして。あとは、ライブ感を再現するために途中のシャウトのところは手持ちマイクに変えて録ってみたりとか、そういう仕掛けもありましたね。

――2曲目「夜半の銃声」からの流れで聴くと、よりライブ感が増して非常に気持ちよく響きます。6曲というコンパクトな構成においても、この曲が3曲目にあるといいアクセントになりますし。

マオ：確かに、3曲目ぐらいにあることで全体的に締まりますよね。

――歌詞もかなり刺激的で、〈よくできた 完コピ野郎に 終了の制裁を〉なんてめちゃくちゃ強いフレーズですよね。

マオ：ちょっと悪い俺が出てきているというか（笑）。それこそ「体温」みたいな曲を歌っていた俺が「mannequin」も歌っているわけで、「この人を応援しているといろんな味がして、何度も美味しい」みたいに思ってもらえたら嬉しいです。

自分らしく、自分がやりたいことを
頑張って生きていきたい

――4曲目の「GUILTY」も、昨年のバースデーライブ【MAO「20241023」】で先行披露していた1曲です。

マオ：去年のバースデーライブで新曲を1曲やりたいなと思って制作した曲です。アルバム『habit』にはいろんなタイプのノレる曲は揃っていたものの、こういうヘヴィでどっしり構えた曲はなかったから。これくらいのテンポ感の曲がひとつあると、ライブでもすごく重宝するんですよ。セットリストを組み立てるときも、いろんな場所に置くことができますし。あと、こういうタイプの曲って、照明との絡みもすごくいい気がしていて。ただ元気に突っ走る曲よりもじっくりと世界観が作れそうな気がするので、ここからのツアーでどんどん化けていく曲になるんじゃないかと思っています。

――タイトルの「GUILTY」や歌詞に込めた思いも聞かせてもらえますか？

マオ：今って、たとえば「ここからは有罪で、ここまでは無罪」というような境界線が曖昧になってきている印象があって。以前はもっと自分たちそれぞれの中で境界線を引けていたような気がするんですよね。でも、それが時代とともに変わってきて、最近は「それはよくないんじゃないの？」「これはダメでしょ」って人から言われなくてもわかっていたことを、ネット上では平気でやっちゃっていたりする。そうやって「良いか／悪いか」の線がだんだん引けなくなっていくことで、その渦の中に自分が巻き込まれていくことだけは嫌なので、俺のファンの子達は巻き込まれていかないでねって思いを込めて書きました。

――昔はもっとシンプルだったのに、今はいろいろ難しい世の中になっちゃいましたものね。

マオ：そうなんですよね。大勢になればなるほど、意見がどんどん左右されていくというか。ブレない自分をちゃんと持っていればいいだけの話なんですけどね。だから自分らしく、目の前にある自分がやりたいことを頑張って生きていきたいなという気持ちを込めて、この曲は書いています。

――5曲目の「ストロボ」はパンキッシュでストレートなロックチューンです。

マオ：この曲は以前からデモがあって、ずっとやりたいなと思っていたんですけど。最初はシャッフルビートで、それこそBillboard Liveとか、おしゃれなカフェで流れていそうな曲調だったんです。でも、今回のEPに収録しようと決めたときに、急にギラギラと太陽が照っている西海岸ロックみたいにしたいなと閃いて。そこから今の形へとブラッシュアップしていきました。

――歌詞の雰囲気的には、当初のおしゃれなアレンジも合いそうですよね。

マオ：ですよね（笑）。でも、たまたま今回はそういうタイミングじゃなかったってだけで、いずれそういうアレンジで作ってみてもいいかもしれないですよね。

――この曲もそうですけれど、今作ではギターリフを軸にした楽曲が多い印象があります。マオさんは曲作りをする際に、そういったリフ作りやアレンジなどにおいてどこまで関与されているんでしょう？

マオ：アレンジャーの杉ちゃん（杉原亮）と一緒に作業しているんですけど、自分は音楽用語とか理論とかにあまり詳しくないので、頭の中で鳴っている音を「こういうのがやりたいんだよね」と……そんなにうまく伝えられるほうじゃないんですけど、杉ちゃんは不思議と俺の頭の中で鳴っている音を完璧に読み取ってくれるんです。なので、杉ちゃんがいてくれたからこそ、このEPは成り立っています。

――楽器を弾きながら伝えるとかではなく、マオさんが思っていることをそのまま言葉などで伝えていく？

マオ：そうです。最近は便利な時代になったので、ZoomとかLINEでも通話が簡単にできるじゃないですか。それで杉ちゃんにギターを弾いてもらいながら「そうじゃないんだよね、もっとこっち系なんだよ」とかやり取りして固めていったので、とてもやりやすかったです。正直、「こんなに感覚でやっちゃっていいんだ」って気付けたことで、曲作りがどんどん楽しくなっていて。以前だったら、シドの中でも「これ、どういうふうに伝えようかな？」って悩んで終わってしまうことも多かったけど、今は本当に自由にやれているので、この経験はシドにも活かせるんじゃないかなと思います。

――杉原さんが通訳として最高な仕事ぶりを果たしていることが、マオさんのソロワークにおいては相当大きいと。

マオ：まさにそうですね。

――EPのラストを飾るのは、本作唯一のスローナンバー「君とのこと」です。

マオ：今までバンドでもソロでも、カバーも含めると本当にたくさんのバラードを歌ってきたんですけど、その中でいわゆる王道のロックバラードって意外とやっていなくて。たとえば、「どうやって歌をもっと聴きやすくしようか」とか「どうやってストリングスと絡めて感動的に持っていこうか」みたいなことは昔からバンドの中でもよく話していたんですけど、今回はそういうタイプのバラードじゃなくて、バンドとしての一体感を表しながら心を揺さぶったり、胸を打ったりしてくるようなロックバラードをやりたいなと思ったんです。

――なるほど。このEPにおける攻めの楽曲構成の中で「君とのこと」が非常にしっくりきたのは、まさにおっしゃるようなロックバラードテイストだったことがすごく大きかったんですね。

マオ：そうかもしれないですね。なので、音源で聴いても十分に骨太さを感じてもらえると思うんですけど、実際これがいちばん強いのはライブだと思うので。ライブでは、ドラムはよりダイナミックになると思うし、そこにギターとかベースが重なったときにもっと生々しさが加わって、自分の歌にもさらに感情が乗ると思うので、この曲こそライブで披露するのがすごく楽しみですね。

――しかも、ライブハウスのような規模感で歌うことでより感情をダイレクトに届けられるでしょうし。

マオ：最前列の子とか、生声も聴こえるぐらいの距離感ですからね。そこも含めて、どうやって伝わっていくのか気になります。

――このEPって、入り口となる「体温」はソフト寄りで入っていきやすいけれど、以降は泥臭さのあるロックチューンがぎっしり詰まっているという構成が絶妙だなと思いました。

マオ：確かに。「体温」でこのEPが気になった人には、ぜひそれ以降のドロっとした世界もどんどん好きになってほしいですね。

――7月12日からは早くも新しいツアー【MAO TOUR 2025 -夜半の銃声-】がスタートします。このツアーに対して今、どんなことを期待していますか？

マオ：ライブハウスに来てくれるみんなが、この曲たちでどのぐらいやれるのかな、どのぐらいのことをしてくるんだろうってことが楽しみですね。それこそ〈目と目が合えば 通じ合って どこまでもいけるような 感覚〉っていう「体温」の歌詞じゃないですけど、俺がかっこよくステージで見せて、それを観たファンの子たちの体温が上がるというよりは、同時に上がっていくような、そんなライブにしたいです。

――昨年のツアーでライブハウス規模でのマオさんのライブを一度体験しているからこそ、気持ちの作り方や入り込み方はファンの皆さんも要領を得ていると思いますし、さらにこのEPを聴いたらより気合いが入るんじゃないかなと。

マオ：そうなることを期待しています。

――ツアーを終えて新たに見えてくるものもあるかと思いますが、今後のソロ活動における展望についてどのように考えていますか？

マオ：せっかくシドの活動と並行してやらせてもらえているので、同じ考え方でやるのも違うのかなと。それこそバンドのほうは、ちょっと大袈裟に言うと命を賭けてやっているようなものですし、22年も活動が続いてもなおその思いはどんどん強くなっているし、まだまだ頑張っていきたいと思っているんですけど、ソロのほうはようやく「これもやっていいんだ、あれもやっていいんだ」と思えるようになってきたタイミング。なので、もっと趣味に寄っていくのかなって。もちろんそれは、趣味レベルの音楽をやるっていうことじゃなく、自分がそのときに興味があることや、ずっと好きだったけどまだやれていなかったことが、ソロのほうには反映されていくかなという気がしていて。とにかく、縛りをなくして好きなことだけをずっとやっていくのがいちばんいいのかなと思っています。