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<コラム>「BanG Dream!」から生まれた歌声合成ソフトウェア──『夢ノ結唱 BanG Dream! AI Singing Synthesizer』の魅力に迫る



コラム

Text:成松哲

 7月16日、Synthesizer V 2 AI 夢ノ結唱 POPY・ROSE・PASTEL・HALOのアルバム『CULTIVATION』がリリースされる。




アルバム『CULTIVATION』視聴動画


 夢ノ結唱POPY、ROSE、PASTEL、HALOはブシロードが手がけるメディアミックスプロジェクト「BanG Dream!」(バンドリ!)ブランドから発売された歌声合成ソフトウェア。正式名称を『夢ノ結唱 BanG Dream! AI Singing Synthesizer』という。Poppin'PartyのGt. & Vo. 戸山香澄(CV.愛美)と、RoseliaのVo. 湊友希那(CV.相羽あいな)、Pastel*PalettesのVo. 丸山 彩(CV.前島 亜美)、ハロー、ハッピーワールド!のVo. 弦巻 こころ(CV.伊藤 美来)のそれぞれの歌声を深層学習等のAI技術を使い、声質・癖・歌い方をリアルに再現した人工歌唱ソフトが収録されている。ソフトウェアに歌詞とメロディを入力すると、それぞれのキャラクターの声でそのメロディを歌わせることができるソフトウェアだ。

 スマートフォン向けゲームやアニメなどと、出演声優からなる“リアルバンド”による作品内楽曲の実演というバーチャルとリアルの両面でコンテンツ群を展開する「バンドリ!」ブランドがなぜDAWソフトを作るのか? その成り立ちや仕組みとそれらを使って制作された楽曲から、「バンドリ!」内での夢ノ結唱の立ち位置を探ってみた。

 ヤマハの手掛けるVOCALOIDから大学の研究室の手によるものまで、音声合成技術・ソフトは数多あるが、夢ノ結唱の特筆すべき点は、 よりリアルで人間らしい歌声にフォーフォーカスした点にある。




Synthesizer V AI 夢ノ結唱 HALO/手を叩け今ここで祈るだけ願うだけ


 歌声合成ソフトを使う際、悩みのひとつに楽譜どおりにメロディや歌詞を打ち込むと声の抑揚や発音のタイミングがいかにも機械的になり、まさにロボットが歌っているように聞こえるというものがある。ところが夢ノ結唱はAIによる機械学習の一分野である深層学習(ディープラーニング)の技術を使って、香澄であり愛美、友希那であり相羽、彩であり前島、こころであり伊藤の歌声に関するデータから彼女たちの声質や発音の癖、歌い方を解析し、よりリアルな歌声を再現している。

 実際、夢ノ結唱のYouTube公式チャンネルを覗いてみると、まずその動画のバリエーションと歌声に驚かされる。YouTube用に書き下ろされたオリジナルナンバーや高橋洋子『魂のルフラン』などのカバーバージョン、さらにはROSEが歌うRoselia「LOUDER」など“中の人”の楽曲を夢ノ結唱で再現したカバー動画や、POPYによるハロー、ハッピーワールド!「えがおのオーケストラっ!」のような「バンドリ!」シリーズの登場グループ内で楽曲を交換するカバー動画などが並んでいる。




夢ノ結唱 ROSE『魂のルフラン(COVER)』(Roselia LIVE TOUR「Rosenchor」より)


 その動画内の彼女たちのボーカルはスムーズそのもの。DAWやDTMのプロによる音源であることを差し引いても、ボーカリストが音声合成ソフトであることを知らされないまま聴けば、ヒトが歌っているかのように錯覚しかねない出来映えだ。しかもそれでいて、ROSEと友希那や相羽は“別人”といえば“別人”。同じ「LOUDER」であっても夢ノ結唱バージョンでは、オリジナルバージョンとはどこか味わいの異なる歌声を楽しめる。

 なお、YouTubeで「夢ノ結唱」で検索をかけるとユーザーが制作した動画・音源も大量にヒットする。公式に負けず劣らぬクオリティの隠れた名曲や意外なカバーも少なくないのでこちらもぜひチェックしてみてほしい。

 そして冒頭で紹介した『CULTIVATION』は、POPY、ROSE、PASTEL、HALOとミュージシャンや作家がコラボレーションした楽曲を集めた1枚。アルバムのクレジットには川谷絵音(ゲスの極み乙女 / indigo la End / 礼賛 etc.)、DÉ DÉ MOUSE、中野雅之(BOOM BOOM SATELLITES / THE SPELLBOUND)、長谷川白紙、冨田恵一(冨田ラボ)、中村未来(Cö shu Nie)など、まさに腕っこきの名前が並ぶ。

 しかもクリエイターのラインナップからわかるとおり、収録楽曲のジャンルは幅広いにもほどがある。川谷の「あなたなんて幻」は自身のバンド同様、ギター、ベース、ドラム、キーボードの複雑なフレーズが絡み合いながらもダンサブルなギターロックに仕上がっており、DÉ DÉ MOUSEの「流れ星のDarling」はドリーミーで少しアダルトなエレクトロに仕立て上げられている。また長谷川は自信の楽曲よろしく、ともすればノイズに聞こえなくもないアタックの強い電子音を重ねながらも実は美しい和声を奏でる「汀の宿」を提供し、中野は彼一流の世界標準のデジロックナンバー「世界中に響く耳鳴りの導火線に火をつけて」を提供。冨田は極上としか言いようのないポップス「透明の縁」でPASTELとHALOをデュエットさせている。




Synthesizer V AI 夢ノ結唱 PASTEL/あなたなんて幻





Synthesizer V AI 夢ノ結唱 ROSE/流れ星のDarling





Synthesizer V AI 夢ノ結唱 POPY/汀の宿


 名うてのクリエイターによる佳曲の数々を楽しむもよし。彼らの合成音声ソフトへの楽曲提供という新たなチャレンジに感嘆するもよし。それらさまざまなジャンルを自在に歌いこなす夢ノ結唱の実力・機能性の高さに驚くもよし。多角的に楽しめる1枚といえるだろう。

 「バンドリ!」は、これまでガールズバンドモノのスマートフォン向けゲームやTVアニメを配信・放送すると同時に、その出演声優陣が実際にバンドを結成して実演するというバーチャルとリアルのそれぞれにさまざまなタッチポイントを用意することで国内はおろか海外にも強く訴求してきた。そのブランドがDAWソフトをリリースするのは一見意外なようだが、実はバーチャルシンガーがシンセサイザーを通じてリアルに歌い出す夢ノ結唱はまさに「バンドリ!」らしい試みなのだ。

 しかも夢ノ結唱は 「バンドリ!」ファン・通称バンドリーマーが推しキャラを模した歌声合成ソフトを使ってCGM的なコンテンツを生成することを可能にした。つまりコンテンツの受け手だったバンドリーマーたちが「バンドリ!」の世界に参加することができるようになったのだ。

 「バンドリ!」のありようを拡張する夢ノ結唱はこれからどんな未来を描き出してくれるのか。まずは『CULTIVATION』を聴きながら、その行く末を楽しみにしたい。

夢ノ結唱 POPY・ROSE・PASTEL・HALO「CULTIVATION」

CULTIVATION

2025/07/16 RELEASE
BRMM-10953

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.停止線上の障壁(バリア)
  2. 02.世界中に響く耳鳴りの導火線に火をつけて
  3. 03.Little Lazy Princess
  4. 04.汀の宿
  5. 05.ポータルB
  6. 06.Hatch
  7. 07.ヌード
  8. 08.antidote
  9. 09.流れ星のダーリン
  10. 10.比較言語学における陰謀的研究法の可能性について
  11. 11.最も濃いもの
  12. 12.マルカリアンチェイン
  13. 13.Singer
  14. 14.あなたなんて幻
  15. 15.手を叩け今ここで祈るだけ願うだけ
  16. 16.私がマスター
  17. 17.すべてがそこにありますように。
  18. 18.透明の縁
  19. 19.Leap up Lollipop
  20. 20.心の愛

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