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<インタビュー>go!go!vanillas、TVアニメ『SAKAMOTO DAYS』第2クール エンディング・テーマに書き下ろした「ダンデライオン」と海外公演を経たバンドの現在地

インタビューバナー

Interview:小松香里
Photo:Shintaro Oki(fort)


 go!go!vanillasの新曲「ダンデライオン」は人気漫画が原作のTVアニメ『SAKAMOTO DAYS』第2クール エンディング・テーマだ。時折トランペットが響く心地よいグルーヴが貫く洒脱なシンセポップは明らかに新機軸。元・伝説の殺し屋である『SAKAMOTO DAYS』の主人公・坂本の家族観と死生観が切なく力強く描かれている。最新アルバム『Lab.』を引っ提げたツアーではライブハウスにホール、アリーナを周り、自身初の武道館2デイズをソールドアウトさせた。「ダンデライオン」に加え、メジャーデビュー12年目にして支持を拡大し続けている現状にも迫った。

「音楽って言葉関係なく伝わるんだな」って初めて肌で感じた

――「ダンデライオン」はTVアニメ『SAKAMOTO DAYS』第2クール エンディング・テーマです。まずどんなことを意識して作ったんでしょう?

牧達弥(Vo./Gt.):僕は主題歌の話を頂いてから原作の漫画を読んだんですが、めっちゃハマりました。僕が熱心に読んでいた頃の『少年ジャンプ』の世界観と、今っぽい革新性とのチューニングの仕方がすごく好きで。特に戦闘シーンが良くて、原作者の鈴木祐斗先生の熱量がどんどん入っていくような流れに惹かれました。第2クールのストーリーは特に好きだったので主題歌を担当できることになって嬉しかったです。楽曲自体の大枠は去年の夏ぐらい、アルバム『Lab.』を作り終えた後に作っていたんですが、タイアップのお話をいただき、「この曲が合いそうだな」って思って歌詞を書いていって。『SAKAMOTO DAYS』に対して僕が思う坂本のことや家族、刹那、生と死のことを考えながら作り上げていきました。


長谷川プリティ敬祐(Ba.):『ジャンプ』の漫画には面白い作品がたくさんありますが、ある程度のフォーマットがあると思っていて。でも『SAKAMOTO DAYS』は「源流はどこなんだろう?」って思う程、キャラクターや戦闘シーンにオリジナリティがある。新たな感動を与えてくれるところが、まずすごいなと思いました。


柳沢進太郎(Gt.):ジャンプの顔みたいな存在になりつつある漫画なので「熱いな」って思いました。2クールはちょっとおしゃれな映画っぽいニュアンスがあって。それと『ジャンプ』の世界観が融合しているのがすごい。どんどん絵が上手くなっていって、度々一枚絵の美しさを感じるシーンがあって良いなって思います。


ジェットセイヤ(Dr.):坂本と奥さんの出会いが、奥さんが働いているコンビニで。バニラズには「コンビニエンスラブ」っていう曲あるので「めっちゃ『コンビニエンスラブ』やん!」と思いましたね。


――牧さんのデモを聞いた時はどう思いましたか?

柳沢:めっちゃ俺たちの『SAKAMOTO DAYS』のエンディングっていう感じがしました(笑)。


長谷川:勝手に頭の中でエンディングのアニメーションを作ってこの曲を流してました(笑)。こういう画だったらかっこいいなって。


セイヤ:坂本が画面の左側を歩いてる画が浮かびました。




――ダンデライオン=タンポポは多くの曲のモチーフになっていますが、それをフィーチャーしようと思ったのはどうしてだったんでしょう?

:坂本は殺し屋の世界とは真逆の家族がいる安寧の世界で過ごすことになったわけですが、昔と今を対比させたら面白いだろうなと思いました。コンビニで働いていた奥さんの名前が葵、娘の名前が花なので、坂本を仲間に入れてあげようと思いながらも、元いた世界の血生臭さを考えると葛藤しているだろうなと。ダンデライオンはタンポポのことで、見た目がライオンの歯をイメージさせるっていう理由でダンデライオンという名称が付きました。坂本はフィジカル面は強いけど、家族という守るべきものがあって、それはいつか壊れてしまうかもしれない。タンポポの綿毛のような儚さがあってヒリヒリするなと思い、坂本にぴったりだと思いました。


――作詞はスムーズに進んだんですか?

:全く悩まずスムーズにできましたね。自分が坂本だったらどんなことを感じているだろうと思うと、影から支えてる感じだろうなって。過去に何人も殺しているけれど、娘っていう新たな命が生まれて。でも、過去のことをすべて忘れて生活は送れないだろうなと思いました。ギャグの要素も強いですが、シリアスなテイストも濃くある部分に着目しました。


――余白の部分が大事なアンサンブルだと思いましたが、どんなことを意識して向き合いましたか?

セイヤ:バトル後の朝という気持ちで向き合いました(笑)。脱力感もあり、「やっと家に帰れるわ」みたいな感じですかね。


柳沢:歌のメロディーがとても綺麗なのでできるだけ邪魔したくないと思い、これまでのバニラズの曲のカウンターメロディーみたいアプローチはあまりやらずに、コードワークでいきたいと思いました。デモのコードワークが7割ぐらいだったので、自分がプラスするのはなるべくシンセと融合することを考えて弾きました。


長谷川:ベースとしてのしっかりとした存在感というよりは、空気の中に漂わせるというか。音をすぱっと切った後も、浮遊感を空間に流していくような、これまで全くなかったベースのスタイルなので、相当苦労しました。


:ベースが一番新しい挑戦だなと思いました。間を埋めるんじゃなくて、サステインも含めて、余韻を楽しむアプローチをやってみたいなと思って、レコーディングでも一番ベースにこだわりましたね。でもあまり考えすぎちゃっても良くないなと。さっきセイヤが言ってたことに通じるかもしれませんが、無機質の中に人間味を感じるような、揺れを消しすぎないようなうまいバランスでできたらいいなと思いました。そういうのってマインドで結構変わるんですよね。正解はないから難しい部分っていうか。その辺をプリティとすり合わせするのも難しかったです。




――バニラズの楽曲としては新しいサウンド・デザインの曲だと思いますが、参考にした楽曲などはありましたか?

:ありました。フランスのバンドですが、M83みたいな雰囲気とか、2005年頃に流行ったアナログシンセとバンドサウンドのマッチングを意識したり。特にベースのサステインが伸びてサブローみたいな音がしっかり出ているような音色で作りました。


――昨年リリースしたアルバム『Lab.』から「ダンデライオン」という流れは、どんどん楽曲の引き出しが増えている印象がありました。

:そうですね。「ダンデライオン」は北海道にある芸森スタジオ(&Cloud Lodge)で作ったんですが、同時に『Lab.』に収録されている「来来来」の制作にも着手してたんです。「来来来」はかなり展開が激しいアップテンポの曲なので、真逆のことがしたいと思ったところもあります。


――確かに「来来来」の情報量の多さに比べると、「ダンデライオン」はかなりすっきりしていますよね。

:デモの段階から結構音を抜いてましたね。それで「この曲が主題歌としていいんじゃないか」と思った時、今は日本のアニメが海外でもたくさん見られ、主題歌が聞かれている時代なので、日本的な何かを感じさせたいと思いました。演奏のアプローチはUKを意識したり、The Weekndっぽさを出すことにトライしたんですが、言葉とメロディーは東洋チックなものを入れたいと思いながら作っていきました。


――5月にはソウルで初の単独ライブを行い、その後ブライトンとパリでのフェスに出演しました。海外でのライブはどんな経験になっていますか?

:アマチュア時代みたいに、誰も僕らのことを知らないアウェイで、まずはファーストインプレッションで勝負をするという機会は日本では少なくなっているので、新たなフロンティアって感じで火が付いて楽しかったですね。


長谷川:言葉が伝わらなくても自分たちの好きな音を鳴らすことができてすごく楽しかったです。「音楽って言葉関係なく伝わるんだな」っていうことを初めて肌で感じられました。


:そうだよね。「エネルギーがマジでかっこいい」って現地の方に言ってもらえて、向こうの人たちは数多ある音楽に関連する要素の中でも、特にパッションやエネルギーを大事にしてるんだなと思いました。


柳沢:ぶち上がっているであろう瞬間が日本とは違うポイントで面白かったですね。それもあって日本よりアグレッシブに全編パッションでいきました(笑)。会場が小さくてお客さんが目の前にいるような距離感で、手を伸ばせば触れるくらいだし、段差がほぼなくて目線が同じだったのも刺激的でしたね。熱量を出したら出した分返ってくる感じでした。


セイヤ:メンバーのぶち上がり具合を後ろから見てるのがめちゃ面白かったです。「進太郎、そこでいつも首振らんやん」って思ったり、プリティの汗が最前の人にびちゃびちゃかかってたり、牧は12年ぐらい前の時期のぶちあがっている時みたいな顔してて(笑)。あと、ブライトンのフェスは1日目が必死でしたが、2日目は改善点を踏まえて良いバランスでできましたね。


柳沢:初日は俺の機材が壊れて音が出なくて、本番直前までテンパってたんです。モニターがあまりなかったり、日本とは環境もインターフェイスも全然違って必死でしたけど。



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――10月からはホール&アリーナツアーが始まりますが、どんなツアーにしたいですか?

:前回の「Lab.」ツアーは、ホールの合間にライブハウスを回ったんですが、今回はホールの後、ライブハウスがなくてアリーナに入っていくのが新鮮ですね。前回ホールを回ってみて、お客さんとバンドの距離感を感じさせないようにいろいろ意識してやった結果、距離は全く感じなかったですし、しっかり音楽を楽しめたと思うんです。今回はもっとブラッシュアップできたものを見せられそうだなと思っているので楽しみですね。


長谷川:ホールとアリーナっていう広い会場なので、イギリスのライブハウスとは見せ方が違ってくると思うんですが、やっぱり大事なのはエネルギーを放出して人の心に刺すということだと思ってます。ライブハウス、アリーナ、海外でのライブといったいろんなことを経験してきた意味をしっかり出すつもりです。


柳沢:ツアーが始まる頃にはまた新しい曲も披露できるタイミングだと思うので、そこもしっかり表現できるように頑張りたいですね。


――もっと幅が広がるような曲が生まれてるのでしょうか?

:いや、そんなことないかも(笑)。


柳沢:かなりアッパーな曲が多いですね。


:イギリスで物理的にお客さんとの距離が近いライブをやった影響は曲作りに出てるかもしれないですね。「イギリスで演奏するならこういう曲だな」って考えながら作った曲もありますし。何か呼び起こされる感じがありました。


セイヤ:慣れたらダメだと思うので、次のツアーは「初めまして」という感じでいこうと思います。ホールの経験も増えてきましたが、ライブハウスだとドラムの位置から見える客席のスペースが限られてくるんですが、ホールだと全部の客席が見えるんです。だからこそステージングを思いっきり楽しんでほしいという気持ちでやりたいです。あと新曲を新しい形で見せたいですね。



――最新アルバム『Lab.』を引っ提げたツアーでは初の武道館公演2デイズを開催しましたが、メジャーデビュー12年目にして状況が伸び続けていることについてはどう思っていますか?

:本当にありがたいです。


セイヤ:ホールやアリーナだとバニラズのライブに初めて来てくれる人も多いと思うんです。最近子連れの方が増えていて。多分俺らの世代のお客さんが子どもを産んだケースもあって。


:そんな気がするよね。高校時代とかにバニラズを聞いて、結婚して子供を産んで子育てや仕事で忙しい時期を経て、またライブを見に来てくれる人もいるよね。でも、若いお客さんも多いのがまた不思議で。


セイヤ:超ピースフルな空間だよね。


――サブスクやSNSで楽曲が広がりやすい時代だからこそ、バニラズの曲の良さが世代関係なく広がっているのかもしれないですね。

:確かに。もしかしたら楽曲の幅が広いのが今の時代に適しているのかもしれないですね。


長谷川:若い世代に刺さる曲もたくさんありますし、上の世代に刺さる曲もある。幅広い層に刺さる曲があるのは大きいのかなって思います。


セイヤ:だいぶおもろい状況ですよね。俺は友達とかも含めていろんなライブに行くんですけど、バニラズほどステージ上で動くバンドはいないんですよね(笑)。


柳沢:運動量がね(笑)。


セイヤ:だから見てても面白いだろうし、曲はいいし最高なんじゃないかなっていう気持ちでやってます。


柳沢:ひとつの正解みたいなものにたどり着いたとしてもすぐ次に行こうとするマインドのバンドなんです。たとえばすごく良いツアーができて満足したとしても、次より良くするためにはどうしていこうかっていうことを常に考えていて。フェスとかで他のバンドを見ると、ずっと同じ機材を使っていることも多いんですが、バニラズは頻繁に機材を変えて試行錯誤し続けてる。それが趣味みたいなところはあります。


――機材から変えるっていうのは自分たちが飽きずに続けられるポイントでもあったりするんですか?

柳沢:機材自体が好きっていうのもありますけど。色々試してみたい気持ちが強くて。それでハマりが良かった機材をスタメンにしていくっていうサイクルをずっと続けていますね。



――牧さんはいろいろな音楽を聞いている印象がありますが、ご自分から間口が広い多彩な曲が生まれ続けている理由を自己分析すると?

:音楽は、もう一巡した気がしますね。新しい音楽を掘るというよりは「僕はここしかないんだな」っていうところに落ち着いたというか。結局自分の核とかどんな感情を持ってるかっていうところが他のアーティストの楽曲と差別化するために一番大事だと思ってます。ここ5年ぐらいは自分の言葉というものを探していて、言葉が楽曲の普遍性の高さに繋がると思っています。年齢関係なくちゃんと届く言葉を書きたいなと。僕は服も好きですが、服を選ぶ時も無意識にオーセンティックかどうかっていうことを基準に選ぶようになってきています。自分の必要なものだけを手にするようにもなってて。自分の生活が音や言葉になっていってる感覚が強くなっていると思います。


セイヤ:曲が刺さったらライブに来てほしいですね。バニラズのライブに友達を連れてきてくれる人もたくさんいて。どんどん連鎖していってほしいです。


――満員の武道館2デイズを見て「バンドって夢があるな」と思いました。

:そうですね。少しずつだとしても動員が上がってるから楽しく活動できてるところはあると思います。例えば過去にすごく上り調子の時期があって、そこから落ちていってしまうと焦ったりモチベーションが保てなくなってしまって、解散に追い込まれるバンドもいますよね。一度もそういう状況になったことがないバンドなのがすごくありがたいです。


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