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<インタビュー>もっといろんな境遇にいる方々に寄り添いたい――2ndワンマン控える手がクリームパン、ステップアップを決意したSNS発の新世代シンガー・ソングライター

Interview & Text:矢島由佳子
トレードマークは、クリームパンのSNSアイコン。2020年よりTikTokへの動画投稿をスタートしたシンガー・ソングライター、手がクリームパン。2021年9月に初のオリジナル曲「特別じゃなくても君を想ってる」を発表し、2ndシングル「会いたいな」はSpotifyバイラルチャートにランクイン。翌年8月にはドラマ『パパとムスメの7日間』のオープニング・テーマを手掛け、昨年はUscool「ラブミー (feat. 手がクリームパン & 多部大)」をバイラルヒットさせるなど、SNS発の新世代シンガー・ソングライターとして注目を集めている。
5月24日、渋谷WWW Xにて開催する2ndワンマンライブのタイトルは【steps】。そこには、「ここからステップアップしたい」という手がクリームパンの強い決意が込められている。その想いを実現するための一歩として、初めて音楽メディアのインタビューに姿を表した。
目指したい方向性が変わってきた
――2020年からクリパンさんのTikTokを見ていました。最初はback number、SEKAI NO OWARI、クリープハイプなどのカバーを上げていましたよね。どんな想いでTikTokを始めたんですか?
手がクリームパン:当時は大学3年生で、早めに就職活動を始めてはいたんですけど、ずっと「アーティストになってみたい」という憧れが潜在的にあって。ちょっとチャレンジしてみて、何も起きなかったらそのまま就職活動をしっかりやろうと思ったことがきっかけで、勇気を出してTikTokにカバー動画を上げてみました。
――「アーティストになりたい」という夢は、いつ頃から持っていたんですか?
手がクリームパン:中学3年生ですね。5つ上の姉がYUIさん、miwaさんとかがすごく好きで、その影響で私もギター女子を好きになって、特に井上苑子さんが大好きで。井上苑子さんに憧れて、中学3年生のときに父の友人から壊れているギターを譲っていただいて練習を始めたことが、「アーティストになってみたい」と思うきっかけでした。3歳の頃から、これも姉の影響で、ピアノは習っていたんです。中学時代はテニス部だったんですけど、高校では「3人でガールズバンドを組みたい」と言って軽音部に入りました。中高一貫の女子校だったので転部することがすごく珍しくて、テニス部の先輩から「転部したらしい」「しかもバンドを始めるらしいよ」とか言われながら(笑)。
――もともとバンドをやられていたんですね。クリパンさんのパートは?
手がクリームパン:高校1年生で3人組ガールズバンドを始めて、ギターボーカルをやってました。back number、B’zとかをコピーしてましたね。大学ではアカペラサークルに入ってペンタトニックスとかを歌っていたので、なんだかんだずっと音楽に触れてはいたのかなと思います。
――B’zからペンタトニックスまで、カバーしてきた音楽の振り幅がすごいですね! TikTokに動画を上げ始めてから、就活はどうされたんですか?
手がクリームパン:TikTokを始めて3か月くらいはカバー動画を上げていたんですけど、全然伸びなくて。「自分の声は別によくないよな」と思ったんですけど、3か月くらい経ったときに、「オリジナル曲を聴いてみたいです」というコメントがたくさん来ていたので上げてみようかなと思って。高校生のときにオリジナル曲も少し書いていたんですよ。それを上げたら1本目からすごく伸びて、「これはもしかしたら」と思って、そこから毎日、オリジナル曲を15秒から30秒くらいのサビ尺で上げ続けていたら、今の事務所の方に声をかけていただきました。
特別じゃなくても君を想ってる / 手がクリームパン
――大学卒業後、今の事務所に所属しながら、他のお仕事もされていましたよね?
手がクリームパン:そうです。マーケティングの会社で働きながら、音楽活動をしていました。平日は朝から夜まで働いて、仕事が終わってからレコーディングに行ったり、朝5時までデモを作ったり、土日にライブをしたりという感じで、一番大変な時期だったかもしれないです。「そろそろ両立がキツイな」と思い始めて、しっかりケジメをつけるためにも、1年目の11月くらいに「音楽一本で頑張っていこう」と決めて仕事は辞めました。
――両立がキツくなったのも、音楽活動が順調だった証だと思います。でも去年の今頃は、活動休止を考えるくらい悩んでいたそうですね。
手がクリームパン:そうなんです、曲を作ることにすごく悩んだ時期でした。大学生の頃に書いた曲が100曲以上あって、そこから完成させてリリースしたりもしていたんですけど、その球数がなくなっていくことにどんどん不安が募ってしまって。書きたいことが枯渇しちゃって、新しく出てこなくなったことにも焦っていました。それまでは中高生のコメントに寄り添って書いた恋愛のバラードとかが多かったんですけど、もっと幅広い人に聴いていただきたいとも思ったので「頑張ったで賞」みたいな応援ソングに挑戦してみたり……変化の年でしたね。
頑張ったで賞 / 手がクリームパン【Official Music Video】
――その悩みの壁を乗り越えられた実感はありますか? それともまだ戦い中?
手がクリームパン:まだ戦い中ではあるんですけど、去年は去年ですごく戦ったなって。初期から変わらないのは、わかりやすい表現しか使っていないことだと思っていて。比喩表現とかも全然使ってないですし。自分もJ-POPをたくさん聴くんですけど、どストレートな言葉の表現が大好きで。すごく疲れているときやつらいときにスッと入ってくるのは、わかりやすい国語力だと思うんです。その基準を人に伝えるときに私が使っている表現は“偏差値50”なんですけど(笑)。それはそのままで、恋愛だけじゃなくてもっといろんな境遇にいる方々に寄り添いたいという気持ちが出てきたんですよね。
――“偏差値50”って、パンチワードですね(笑)。より多くの人に届けたい、恋愛ソング以外も歌っていきたいという気持ちが芽生えたのは、どうしてなのだと思いますか?
手がクリームパン:音楽を始めた頃は、ギターを持っている女の子が等身大で歌っている姿に憧れて、「私もティーンの憧れになりたい」という気持ちが大きかったんですけど、音楽をやる中で目指したい方向性が変わってきたのだと思います。それこそaikoさん、SUPER BEAVERみたいな、「この人が紡いでいる言葉だからすごく説得力がある」という表現者になりたい。年齢層問わず心に沁みて、いつでも帰ってこられるような、そういう楽曲を歌っているアーティストを目指したいなって、去年くらいから思うようになりました。
――察するに、アーティストとして長く活動したいという気持ちも明確になってきたのかなと。
手がクリームパン:はい、そうですね!
2ndワンマンは覚悟を見せられるライブにしたい
――ここまで“寄り添う”という言葉が何度か出てきましたけど、それはクリパンさんが音楽を作って届けるうえで、特に大事にしていることですか?
手がクリームパン:そうですね。音楽を聴くときって、孤独なことが多いと思うんです。フェスとかでみんなで盛り上がる音楽もあるけど、ルーツを遡ると、私が音楽を聴いていたときは一人だったなと思って。自分を奮い立たせたいとき、頑張りたいとき、ベッドの中でしんどいとき、友達には話せないけど誰か隣にいてほしいとき、そういうときに音楽があったので、自分の音楽もそういうものでありたい。ストレートでわかりやすくて、スッと心に入ってきて、自然と涙がポロポロっと出てきて浄化されるような音楽が、自分にとって“寄り添う”ということなのかなと思います。たとえば竹内まりやさんの「元気を出して」、小田和正さんの楽曲とか、スッと入ってくるじゃないですか。ああいう音楽が自分のルーツで、自分も作っていきたいなと思います。
――去年リリースしたUscool「ラブミー (feat. 手がクリームパン & 多部大)」はたくさんの人に届いた楽曲だと思うんですけど、その経験を通して、音楽活動に対する考え方が変化した部分もありますか?
手がクリームパン:一番大きかったのは、中学時代から大好きな柏木由紀さんが踊ってくださって、曲が広まるとどこでどう使っていただけるかが本当にわからないなって(笑)。TikTokや楽曲の力を実感しました。多部大くんが作るメロディはすごく耳に残るようなキャッチーさがあるなと思っていたので、Uscoolからお話をいただいて「誰とやりたいですか?」と聞かれたときに、「多部大くんとやりたいです」と自分からお伝えさせてもらったんです。なので制作を通して、作曲面でもすごく勉強になりました。歌詞は一緒にホワイトボードに書き出したりしながら、キャッチーさに振り切って、言ってしまえば“バズりにいった”みたいな楽曲ではあって。すごくいい経験になりましたね。
「ラブミー (feat. 手がクリームパン & 多部大) / Love me」【Music Video】
――バズに振り切っても狙い通りにバズれるわけではない世の中で、ちゃんと結果を作ったのは素晴らしいですね。
手がクリームパン:いやでもびっくりですよね。最初の1、2か月くらいはバズらなくて。11月にリリースしたんですけど、インフルエンサーさんが踊ってくださり始めたのは1月とか。それまでずっと粘って投稿していました。いろんな画角で撮影したり、手書きで歌詞を書いたり、いろんな動画を上げ続けてやっと伸びたという感じでした。
――運だけではなく、ちゃんと自ら掴みにいったバズだったんですね。5月14日にリリースされた「消えないで(feat.上野大樹)」(以下「消えないで」)も上野大樹さんとの共作ですが、これも上野さんとの制作によって、新たな扉を開きたいという想いがあった?
手がクリームパン:幅広い世代の方やいろんな境遇で戦っている方に寄り添いたいということ含め、どんどん階段を上っていきたい気持ちがあって。でも、まだ経験してないから書けないことがたくさんあるなと思っていて。自分のルーツである上野大樹さんのお力を借りて、まだ書けない部分も書いてみたいという想いで共作をお願いしました。曲は上野大樹さんに書いていただいて、歌詞は、私から「こういう年代の方が、こういう孤独な夜を過ごしている」といった曲の設定をPDFにまとめて送らせていただいて、そこから抜粋して書いてくださいました。できあがったものに対して「この歌詞の語尾はこっちにしたい」とか、いろいろディスカッションさせてもらいながら完成した楽曲です。
――上野さんも、クリパンさんにとって憧れの存在だったんですね。
手がクリームパン:「NAVY」「ラブソング」「て」とか、ピアノやエレクトリック・ピアノを使いながら優しい声で歌われている曲にすごく救われてきましたね。なので“孤独”というテーマで共作させていただいて、本当に幸せな気持ちです。
上野大樹 - て
――「消えないで」はある意味、クリパンさんがこれまで歌ってきたことの集大成のような曲だなと思ったんですよ。片思いも両思いも、喜びも悲しみも歌ってきたクリパンさんが、「どの感情も抱きしめて生きていこう」「すべての感情を肯定しよう」と歌っているようで。
手がクリームパン:そうですね。まさに、できあがったときに「今の自分だな」と思いました。なんで音楽を始めたのか、どういうふうに表現して誰に寄り添っている自分が好きなのかということが、〈私の中 滲んでしまった ぼやけてしまった/想いよ消えないで〉〈どんな私で居たい/心照らして1から示そう〉とかに込められている気がして。階段を上っていくうえでは、今までの自分を肯定してあげないといけないと思うから、すごく大事なことが込められているなと思います。「手がクリームパンが言っている言葉や紡いでいる音楽だからいい」と言ってもらえる表現者になっていきたいという決意も、この楽曲には込められていますね。
――クリパンさんの音楽って“友達”というワードが似合うなと思っていて。クリパンさんの音楽に触れていると、「こういう切ないことってあるよね」「これ、キュンとしない?」みたいなことを友達と共有しているような感覚になる。そういったリスナーとの関係性は変わらず、人生における深い喜びや苦しみなど、もっといろんな感情を共有していくようになるのかなと想像します。
手がクリームパン:たしかに、そうですね。今まで書いてこなかったテーマも、いろんなスパイスを加えながら書いていきたいです。そのためには殻を破らないといけないなと思っています。人の痛みをすべては理解できなくても、理解する姿勢がある楽曲を生みたい。それがワンステップ先の、自分の音楽なのかなと思います。この世にはいろんな人がいるんだということを、もっともっと自分から学びにいかなきゃなと思っていますね。
――「消えないで」は、サウンド面でもステップアップできた手応えがあるのでは?
手がクリームパン:そうですね。ストリングスを生音で入れさせていただいたんですけど、後半にかけて壮大に広がっていく音像で感情の揺れ動きを表現できました。最初は自分の中にこもってしまっているような感じでピアノ1本で始まって、どんどん音像が膨らんでいくことで、「こうなっていきたい」みたいな意志の強さを表現したいなと思っていました。
――とても素敵なアレンジですね。そういった音と歌詞によって、この曲はどういう寄り添い方ができる曲になったと思っていますか?
手がクリームパン:きっと、不安定になっている方に届くのかなと思っていて。そういう方って多い気がするんですよ。自分は何が好きで、何がしたいのかがわからなくなったり、なんでこの道を選んだのかがわからなくなったりする瞬間って、人生であると思うんです。そうやって迷う瞬間に、その選択をした自分を肯定してあげたり、迷いを一回取っ払って赤ちゃんの姿になるというか(笑)、自分の原点を考えてみるのも大事だなということを、この曲を聴いて再認識してもらえたらなと思います。一緒にまたスタートして、なんとか1段ずつ階段を上っていこうよ、という気持ちが届いたらなって。
――5月24日に開催するワンマンライブ【steps】は、今日話してくださった「ステップアップしたい」という強い想いをファンへ伝える、大事なライブになりそうですね。
手がクリームパン:今までの自分を認めつつ、新しい手がクリームパンも見てもらって、「私はこうやって階段を上っていきたいんだよ」ということを体現するライブにしたいなと思います。1stワンマンは、待ってくださっていた方に「応援してくれてありがとう」「これからも頑張っていくからよろしくお願いします」ということを伝えるものだったんですけど、2ndワンマンは覚悟を見せられるライブにしたいですね。私、自分に自信がないタイプなんですよ。そこも【steps】で、自信を持てるように、そして愛してもらえるように、これからも努力していきたいなと思います。



























