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<『Tokyo Highway Radio』スペシャル インタビュー>彼らが感じる日本の魅力と可能性

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 Appleが提供するサブスクリプションの音楽ストリーミングサービス:Apple Music。1億曲以上の楽曲をストリーミング配信し、音楽サブスクの中でも世界的に人気の高いサービスだ。そのApple Musicが配信するApple Music Radioは、世界160カ国以上で配信され、音楽とポップカルチャーを世界中に届ける「Apple Musicの心臓部」として展開。アルゴリズムやAIではなく、人間の感性に基づいた「ヒューマンキュレーション」こそが音楽の魅力を最大限に引き出すという考えを重視し、人の手による選曲・編成を2015年のサービス開始当初からモットーとしてきた。そしてこの度、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、ナッシュビル、パリ、ベルリンに続き、東京にスタジオが開設された。グローバルな影響力を増している、日本の音楽や文化を発信し、そのカルチャーを世界に広げることをサポートする、特別なプログラムの制作もスタートした。そのひとつが、みのがホストを務めるプログラム『Tokyo Highway Radio』スペシャルだ。その番組のゲストとして、現代美術家の村上隆と、ラッパーのJP THE WAVYによるユニット「MNNK Bro.(Takashi Murakami & JP THE WAVY)」が登場した。また、Apple Music 1のヒップホッププログラムのDJや、Apple Musicのヒップホップ/R&B部門のグローバル編成責任者も務めるイブロ・ダーデンも出演。「MNNK Bro.(Takashi Murakami & JP THE WAVY)」について、そして東京の音楽シーンについてなど、多角的なトークが繰り広げられた。本稿では、その番組からの抜粋と、その後に行われたビルボードジャパン特別インタビューの様子を、テキストとして再構成する。(Interview & Text:高木"JET"晋一郎 I Photo:筒浦奨太)

あの村上隆から一緒に曲を作りたいという連絡が来る人生だとは思っていなかった

 現代アートの旗手として世界的な活躍を展開し、ルイ・ヴィトンとのコラボなどを通してポップカルチャーとの関係も深い村上隆。また、『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』のサウンドトラックに唯一のアジア人アーティストとして参加するなどシーンの先端を走るラッパーJP THE WAVY。その二人が「MNNK Bro.(Takashi Murakami & JP THE WAVY)」としてタッグを組んだきっかけは、京都市京セラ美術館で行われた個展【村上隆 もののけ 京都】のテーマソング制作に、JP THE WAVYを招いたことから始まる。これまでにもカニエ・ウエスト(Ye)のアルバム『Graduation』や、カニエとKid Cudiのユニット:Kids See Ghostsのアートワークを手掛け、海外のヒップホップアーティストとも親交のあった村上が、JP THE WAVYに興味を持ったきっかけについて、村上はこう話す。



▲「Mononoke Kyoto」MV / MNNK Bro. (Takashi Murakami & JP THE WAVY)

 「僕の娘が、ダンスの発表会でWAVYさんの『Pick N Choose feat. LEX』で踊っていたんですよね。そこで初めて聴いたときに「日本のヒップホップの元祖が生まれた!」とすごく衝撃を受けたんです。アメリカのヒップホップの真似事ではない、自分たちのカルチャーを、自分たちの言葉で歌っていて、「これが世界に広がるヒップホップだ!」と感動しました。それで「僕の展覧会の曲を一緒に作って頂けませんか」とお声がけをしたのがきっかけですね(村上)」

 m-floやAwich、¥ellow Bucksなど、数々のアーティストとコラボを展開してきたJP THE WAVYにとっても、そのラブコールは驚きだったという。「信じられなかったですね。あの村上隆から一緒に曲を作りたいという連絡が来る人生だとは思っていなかった(笑)。もう連絡を頂いてから、すぐに村上さんのアトリエに車を飛ばして、そこでいろんな話を聞かせて頂きました(JP THE WAVY)」



MNNK Bro. (Takashi Murakami & JP THE WAVY)

 世代的には大きく離れている両者だが、「全く別だから、それこそが面白かった」とJP THE WAVYは話す。「話が通じないと思ったことは全く無いですね。僕が知らないアートの世界を教えてくれるし、音楽についてもすごく詳しい。だから勉強になることがすごく多かった(JP THE WAVY)」

 「MNNK Bro.(Takashi Murakami & JP THE WAVY)」は、2017年リリースのJP THE WAVY「Cho Wavy De Gomenne」の映像制作を皮切りに、映像作家としての名声を高めているSpikey Johnが監督を手掛けたMVも話題を呼んだ「Mononoke Kyoto」に続き、ディレクターデュオのBRTHRが手掛けたサイバーなコラージュやアニメーションも印象的な「LV MURAKAMI」を発表。両曲とも世界的に注目された。また、新たな楽曲の制作も進んでいるという。「「MNNK Bro.(Takashi Murakami & JP THE WAVY)」の制作は、僕と村上さんでトピックについて話し合って、そのイメージを基に制作した音源に対して、村上さんの「魔改造タイム」が入るんですよ(笑)。そこから更に擦り合わせやキャッチボールをして、どんどんブラッシュアップしていく過程がすごく刺激的だし、自分としても制作がとにかく楽しいです(JP THE WAVY)」



▲「LV MURAKAMI」MV / MNNK Bro. (Takashi Murakami & JP THE WAVY)

 「MNNK Bro.(Takashi Murakami & JP THE WAVY)」の生み出すアートに対して、イブロ・ダーデンは「非常に興味深く、大好きなユニットです。「MNNK Bro.(Takashi Murakami & JP THE WAVY)」は全体としてどういったメロディやサウンドを組み合わせてパッケージするかに、すごく意識を払っているように感じる。特にビートやサウンドに対するラップのアプローチを、JP THE WAVYさんはすごくしっかり勉強されているんだろうなと。そこには、世界でもトップレベルのMCに、アーティストになりたいというエネルギーや、自分にとって偽りのないコンテンツを作り続けたいという意思を感じました。そういった部分をJP THE WAVYさんと村上さん、トラックメイカー(「Mononoke Kyoto」はXansei、「LV MURAKAMI」ではJIGG)やエンジニアが、丁寧に考え、その上で素晴らしい音楽を作ることで、それが"DOPE"な音楽に繋がり、人々を魅了する、世界中の人々に響くものになったんだと思います」と語る。


イブロ・ダーデン

 みのも「MNNK Bro.(Takashi Murakami & JP THE WAVY)」についてこう分析する。「JP THE WAVYさんのラップの持ち味が非常に堪能できる内容になっていることはもちろん、村上さんの批評的な部分が効いてると感じました。作品には必ず日本的な音やモチーフ、そしてあえての違和感や引っ掛かりを感じるサウンドが作品に込められていて。そのあたりは村上さんの音楽に対するアプローチだと思いました。ヒップホップを日本に着地させるための格闘の跡、みたいな部分を毎回楽しみに聞いています」

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(日本の文化は)海外からの承認を求めなかったからこそ、オリジナルなマジックが生まれた

 その意見に対して、村上は「僕としては、WAVYさんとの作品を「ヒップホップ版のはっぴいえんど」というようなものにしたかった。海外の文化であるヒップホップをどう日本に着地させるか。そして日本の、日本人のヒップホップがオリジナリティを保ったまま、海外にどうやって出ていくか。そのシミュレーションというか、実験をしているつもりです。だから商業的な成功よりも、どう歴史に残すかを考えていますね」と答えた。

 さらにその言葉を受け、イブロ・ダーデンは「日本のアートやファッション、音楽、文化が海外で人気が高いのは、「世界からどう見られようが構わない」という態度が強かった、つまり海外からの承認を求めなかったり、自尊心が高かったからこそ、オリジナルなマジックが生まれたんだと思います。成功を目的にしたり、承認欲求に基づいた表現だけでは、そうした文化は育たなかったと思う。自分の活動を通して、どういったインパクトが残せるか、自分の生み出すカルチャーにはなにが大事なのかという、表現に対するルーツに立ち返りつつ、その上で自分たちが楽しいものを作るという態度は、凄くクールだと思うし、「そのままでいる」という態度から生まれるオリジナリティこそが、海外から注目されたり、求められる理由かもしれない」と話した。

 そして『Tokyo Highway Radio』をはじめ、東京のスタジオで制作され、「Apple Music Radio」を通して世界中に発信される日本のミュージックシーン。その熱気を生み出す日本の、東京の魅力は、彼らにとってどんなものだろうか。


みの

 「東京はすごくエネルギッシュな街ですよね。でもグローバルなスケールで見たときに、その煮えたぎるマグマのようなエネルギーが、なかなか噴出できないフラストレーションを感じるときがあるんです。それには言語の壁だったり、地理的な問題もあると思う。ただ、最近は韓国や東南アジアも含めて、文化的な交流が非常に増えてきているし、そういう越境的なコラボレーションが、音楽シーンの中では非常に活発になってきている。そういったうねりの中で、東京のApple Musicのスタジオという発信の場から、この街のエネルギーを世界に提示できれば嬉しいですね(みの)」

 「とにかく日本の音楽は盛り上がってると思うし、ヒップホップへの注目も高くなっている。日本のヒップホップシーン自体、いま中心になっているTRAPの他にも、王道のヒップホップや、いろんなサブジャンル、もっと言えば新しいジャンルを作っているようなアーティストが沢山いるんですよね。若いアーティストもとにかく増えてるし、自分にとってもそれがすごく刺激になる。新陳代謝がとにかく激しい、それがエネルギーになっているのが東京だと思いますね。自分もその中で置いていかれないようにしたいし、常に新しいものを作り続けないといけないと感じていますね(JP THE WAVY)」

 「アメリカのヒップホップやラッパーは、東京が好きですよね。それは街として面白い部分がたくさんあるからだと思う。ただ、東京のカルチャーを外に出すだけではもったいない。もっとクリティカル(批評的)に東京という場所を見るようなアプローチも大事になってくるのかなと思います(村上隆)」

 「ロックであれ、ヒップホップであれ、ファッションであれ、地域や自分の立つ場所に対して、コミュニティを築くことが大事であり、それによって自分自身に忠実であることができると思います。そういったコミュニティが東京にあることを、Apple Music Radioを通して伝わることを願っています。また、日本人はジャズやブルース、ヒップホップを始め、他の文化に対してすごくリスペクトの感情を持っているし、自分の心の中の願いを満たすために音楽を作る姿勢に、本当に敬意を感じます。そして、Apple Musicからそういった音楽が世界に発信できることを祈っています(イブロ・ダーデン)」


JP THE WAVY

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