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<インタビュー>ソロ活動始動から1年――荒谷翔大が語る、鈴木真海子とのコラボ、yonawoを経てたどり着いた現在地

インタビューバナー

Text:矢島由佳子
Photo:筒浦奨太

 荒谷翔大がyonawoを脱退し、ソロ活動を始動させてから、今年4月でちょうど1年を迎える。4月29日には、ビルボードライブ東京にて、【荒谷翔大 Special Guest 鈴木真海子】を開催。東京・大阪・福岡公演が即完となった【荒谷翔大 × 鈴木真海子ツーマンツアー「Focus」】のプレミアム追加企画として、「荒谷翔大 Special Guest 鈴木真海子」という特別編成で2人の歌が届けられる。

 yonawoの「独白」「tokyo feat. 鈴木真海子, Skaai」から始まった荒谷と鈴木のコラボレーションは、昨年12月に「Focus feat. 鈴木真海子」をリリースしたことをきっかけに、ツーマンツアーやライブ配信などを通してさらに関係性を深めてきた。2人の音楽と人柄から生み出される心地よい空気感とグルーヴは、人々を深く魅了し、癒しも与えるものになっている。

 ビルボードライブ東京公演前に、改めて荒谷と鈴木の関係について聞かせてもらった。そして後半では、ソロアーティストとして活動する中で芽生えた心境変化や、yonawo脱退後に抱いていた胸中について、とても赤裸々に語ってくれた。

女性がいいなと思って、一番に浮かんだのが真海子さん

――そもそも、真海子さんとの出会いは?

荒谷:出会いは6年前かな。お世話になっているイベンターさんがchelmico、STUTSさん、TENDOUJIが出るイベントを企画していて、そこに「オープニングアクトとして出ない?」ってyonawoに声をかけてくれて。そのときが初めましてでした。yonawoの中でも特に(斉藤)雄哉(Gt.)と(田中)慧(Ba.)が真海子さんの曲を聴いていて、真海子さんもyonawoを聴いてくれていて、お互いの音楽も好きだったし、音楽の趣味も合ったので仲良くなって。東京に行くタイミングで遊んだりして、コロナを抜けてからは交流の頻度が上がって、という感じですね。


――イベントで共演した人とその後もすごく仲良くなるケースって、そうたくさんあるわけではないと思うんですけど、荒谷さんと真海子さんはどういうところがハモったんですか?

荒谷:音楽の趣味が合うというのはもちろんだけど、人柄もデカいですよね。お互いに心地良さがあったから、今も関係が続いているんだと思います。真海子さんのほうが1歳上なんですけど、立ち振る舞いもしっかりしているし、「頼りになるお姉さん」という感じで。真海子さんがどう思っているかはわからないですけど(笑)。


――そうやって仲良くなって、Yonawo House(yonawoのメンバーが上京後に一緒に暮らしていた家)で交流する中で2022年に生まれたのが「tokyo feat. 鈴木真海子, Skaai」ですよね。これは2020年代を代表する名曲とも言いたくなるような曲で、反響も大きいと思うんですけど、今あの曲にはどんな想いがありますか?

荒谷:この曲は歌っていると毎回、東京に出てきたときのことを思い出すんですよね。シェアハウスやそこでみんなで制作したときの絵が浮かぶし、上京して今より不安定だった頃の心情も蘇ります。ライブで歌った思い出も入っているし、いろんな感情も思い出もみっちり詰まった曲ですね。yonawoの曲の中では一番今も絵が浮かぶ曲で、絵が浮かぶということはいい曲なんだろうなと思う。自分の中に一生残ってくれる曲になってくれたら嬉しいなと思うし、そういう意味でも歌い続けたいなと思う曲ですね。



yonawo - tokyo feat. 鈴木真海子, Skaai (Official Video)


――ソロになってからも真海子さんをフィーチャリングで迎えて曲を作ろうと思ったこと、しかもそれが「Focus」という曲だったことは、どんな想いからですか?

荒谷:「Focus」はクリスマスに聴かれたいなと思っていて、でも12月に出して聴き込まれる前にクリスマスが終わるのは悲しいから、10月に一度出して、12月に誰かがフィーチャリングしてくれたものを出したいなと思って。誰がいいかなと思ったときに、女性がいいなと思って、一番に浮かんだのが真海子さんで。「tokyo」は真海子さんとSkaaiとyonawoでやったけど、また真海子さんと自分でやりたいなという話をずっとしていたから、このタイミングがいいかもなと思って。バンド(yonawo)のことを真海子さんには相談していたりもして、「ソロでも一緒にやろうよ」みたいに言ってくれていたから、声をかけたら「いいね」って、サポートしてくれる意味でも受け入れてくれたんだと思います。



荒谷翔大 - Focus feat. 鈴木真海子 (Official Music Video)


――素敵な関係ですね。普段、2人でいるときはどういう会話をするんですか?

荒谷:お酒の話とか……「最近ラムを飲んどる」「ワインが好き」みたいな(笑)。音楽の話だったら、詞のことを話すことが多いかもしれないです。最近聴いてる好きな曲の話になっても、詞の部分で「それいいね」っていう話をしたり。「Focus」に真海子さんが入ってくれたときに、改めて腰を据えてそれぞれの詞の世界観についてゆっくり話すことができて、知らないところをもっと知ることができました。




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作詞は自分の実体験やリアルも入れたいんです

――「Focus」の制作のとき、詞についてどんなことを話したんですか?

荒谷:そもそも「Focus」のテーマは、タイトルの通り、「フォーカスする」「焦点を合わせる」ということで。人間って、意図的に焦点を合わせる場合もあれば、無意識的にそうなっていることもあって。意識的にフォーカスしているならいいけど、無意識的にやっている場合、「自分ってこういうことを無意識でやっているんだ」と気づいて、たまには意図的に焦点を変えるとちょっと楽になることがあるんじゃないかなと思って。悲しい物事ばかりにフォーカスして「自分の世界にはこれしかないんだ」って思うこともあるけど、たとえ悲しみがあったとしても、違う感情や出来事に焦点を移すこともできる。自分が選択してそれにフォーカスしているんだって気づけたら、心が楽になれるよね、っていうメッセージが全体的にはあって。真海子さんからは「これは個人的な話なの?」って聞かれたりして(笑)。


――その質問には、なんて答えたんですか?

荒谷:「まあ個人的な話もありつつ」みたいな感じで、ちょっと赤裸々なトークもしつつ(笑)。自分としては、フィクションだけだと味気がないし腑に落ちないので、自分の実体験やリアルも入れたいんですよね。「Focus」の詞は、真海子さんから教えてもらった、島崎智子さんの「穴ぼこ」という曲から影響を受けたものも入っています(「穴ぼこ」のSpotifyの再生画面を見せてくれる)。




――Spotify月間リスナー36人!?(取材当時)

荒谷:(笑)。こういう知る人ぞ知る音楽を、真海子さんはけっこう教えてくれるんですよ。この曲が俺にはもう刺さっちゃって。明るいメッセージも好きだけど、光に対してちゃんと影もある詞が僕は好きで、「穴ぼこ」は影に行ききってあっけらかんとしているというか、一周回った明るさやいい諦めみたいなものがある。わかりやすく言うと、「Focus」のCメロの〈悲しみ 喜び みつめること〉という生き方を僕はしたいなと思っていて、自分の好きな曲からはそういったものを感じます。いい諦めを見つけるまで悩むことも大事だし、悲しむことも大事だし、ということを思いますね。「Focus」を作ったおかげで、真海子さんとそういう話までできました。


――「Focus」リリースの際に「エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングのような男女デュエットをやってみたいと思っていた」というコメントを発表されていましたけど、あの2人が歳を重ねながら一緒に歌い続けたように、荒谷さんと真海子さんも長年かけてデュエットを続けてほしいです。

荒谷:長年やれたらいいですね。真海子さんがいいなら(笑)。


――【荒谷翔大 × 鈴木真海子ツーマンツアー「Focus」】で東京、大阪、福岡、台湾を回ったあとは、どんな気持ちが一番大きかったですか?

荒谷:それぞれのバンドメンバーもすごく仲良くなって、真海子さんと俺だけじゃなくて、スタッフ含め全員でチーム感が生まれたことが一番嬉しかったです。打ち上げも、一人くらい来なかったりすることがあると思うんですけど、みんな来ていたし。ライブももちろん楽しかったですけど、その嬉しさが最初に浮かびますね。福岡で、真海子さんと初めて会った思い出の会場でやれたことも嬉しかったです。yonawoの思い出含め、自分の道のりを振り返られた、いいツアーでした。「Focus」を歌うときも、徐々に緊張がほぐれていって、どんどん肩の力が抜けていって。対バンツアーをやると、一緒に歌うときにお互いの成長を確かめ合えるので、その感覚が楽しいんですよね。次のビルボードライブは、培ってきたものがある上で、またちょっと違うこともしたいねという話をしています。


――ビルボードライブ公演は「荒谷翔大 Special Guest 鈴木真海子」編成なので、荒谷さんのバンドに真海子さんが入って何かをやることを企んでいる……?

荒谷:2マンツアーでは「お酒を飲んだ夜」(鈴木真海子 feat. Mei Semones)を、原曲にリスペクトを込めつつバンドの独断でアレンジしたんですけど、それを真海子さんも喜んでくれて。踊れるようなグルーヴになって、みんなでアドリブを乗せたりすると酒場みたいな雰囲気になって、それには大満足だったので今回もやりたいなと思っています。カバーもできたらいいなという話をしていますね。インスタライブで一緒にやったときに反応がよかった、あの曲をやろうかなと思っています。



お酒を飲んだ夜 (feat. Mei Semones)


――意外とyonawoではビルボードライブでやったことがなくて、荒谷さんにとっては初なんですよね。

荒谷:yonawoのときも誘っていただいてはいたんですけど、(事務所の)社長が「まだ早い、もう少しタイミングを考えよう」みたいなことを言ってて。やっぱりビルボードライブという会場は特別感がありますよね。今回は真海子さんと一緒にやるという、特別感ある企画でできるので楽しみです。


――ビルボードライブは演奏力がバレる場所でもありますからね。そういう意味でも、ある程度熟してからじゃないと、という社長の判断もあったのかなと想像します。

荒谷:そうですね、丸裸にされるからちゃんと実力がないと。今回は普段通りにやるセクションと、ビルボードライブに合わせたセクションを作ろうと思っています。バンドメンバーはみんなアドリブ得意だし、俺も歌のアドリブは好きなので、自由度高めのビルボードライブにできたらいいなって。……死ぬまでに、玉置浩二さんのビルボードライブを観たいんですよね。めっちゃ好きだから。



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やっと自分は「この道を選んでよかった」って心の中で思えた

――なんなら共演を目指してほしいです。ソロを始めてちょうど1年ですが、今はどんな心境ですか?

荒谷:最初は右も左もわからないような手探り状態で。自分もふわふわしてたし。LIQUIDROOMでのファーストワンマン(昨年10月開催)にyonawoのメンバーも来てくれて、それを区切りに、ライブに関しても自分のスタイルを見つけられたし、自分の立ち振る舞いもどしっと構えられるようになりました。「ひとりぼっち」という曲を書けたのは、ワンマン以降に、バンドに対する自分の想いを「今なら冷静に書ける」と思えたからで。もう言ってしまったら「声明文」みたいな、自分の今の気持ちや今までの想いを込めた歌だと思うんですけど。それまでもそういったことを書こうとしていたんですけど、なかなか詞が出てこなくて。恋愛にたとえるのがいいかはわからないですけど、失恋したてのときは、言葉が出てきてもあとで見返すと「いや違うな」ってなるじゃないですか。そういう感じが続いていて。


――自分がどう感じているのかを整理しきれてない状態ですよね。

荒谷:ワンマンを終えて、そのあとにyonawoのメンバーそれぞれと話したり、みんなの状況を聞いたりして、やっと自分は「この道を選んでよかった」って心の中で思えたんですよ。それまでは正直、自分で決めたとはいえ、迷いとかが拭い切れてなかったんです。ツアーで「ひとりぼっち」を歌ったときに、初めてライブで、お客さんが涙しているのを見て。yonawoのときもあったかもしれないですけど、僕が見つけられてなくて。どういう想いで泣いているかはわからないですけど、それだけ心が動いたんだって思うと、「ひとりぼっち」を書いてよかったなと思いました。喜びでも悲しみでも心が動かすことが僕にとって生きがいだし、音楽をやっていて幸せだなと思う瞬間だから。今年「ひとりぼっち」をリリースできて、ツアーもできて、お客さんの心が動いた瞬間も見られたことで、前よりは自信がつきました。正直ずっと「これから本当にやっていけるのかな?」って思っていたけど、今は「やっていける」というより「これがやりたいことだ」って思えるようになりました。



荒谷翔大 - ひとりぼっち (Official Music Video)


――どんな人にとっても、自分で新しい道を選んだときにそれを正しい選択だと信じられるように頑張る時間って、人生においてすごくしんどいものだと思いますし。

荒谷:そこを一個抜けられました。前までは、「これがやりたいことだ」と思おうとしていたというか。今は自分に言い聞かせるまでもなく、上手くいかないときもあるけど、前よりも「これがやりたいことです」と胸張って言えるようになりました。そこが1年のあいだで変われた部分かなと感じます。


――このテーマでリリースするには、今までとはまた違う種類の勇気もいっただろうし。

荒谷:yonawoのメンバーにも影響を与えられたのかなと思っていて。僕は誰に対しても書いてなくて、自分に対して書いた曲だったんですけど、近しい人にはそれなりにストレートに届いていて、それはそれでよかったのかなと。今年のツアーにもyonawoのメンバーが来てくれて、慧も「踏ん切りがついた」みたいなことを言ってくれて、そういう意味でもよかったなと思います。


――他のメンバーがそれぞれの道を歩んでいることも、「これでよかった」と素直に思えるようになった要因になったんでしょうね。yonawoのメンバーもこの曲を受け取って、前向きになれていた感じですか?

荒谷:そうなってくれていたら嬉しいなと思います。話す限りでは、そういう印象を受けました。


――「ひとりぼっち」を作って、荒谷翔大としてどういう曲を作りたいのか、ということもより明確に見えてきたところがありますか?

荒谷:ありますね。曲調というよりも主に詞のことですけど、自分のスタイルが見えてきたかなと思います。もっと自分の赤裸々なことやノンフィクションを書きたいなと思うようになりました。「ひとりぼっち」ができて、そういう自信がつきましたね。全部が全部そういう曲になるかはわからないですけど、今はそっちがやりたいなと思っています。


――「tokyo」も「ひとりぼっち」もノンフィクションで、そういう曲が荒谷さん自身にとっても残る音楽になるんですね。

荒谷:そういう曲を書きたいなと思います。「ひとりぼっち」も、歌っていてバンドで歩んだ道のりとかが浮かんでくる曲ですね。きっとそういう曲は、聴いた人にとっても、僕と同じ絵ではなくても何かしらの絵が浮かぶのかなと思います。



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