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<インタビュー>おいしくるメロンパン、結成10周年イヤーに放つミニアルバム『antique』完成――過去を内包しながら新たに描く世界とは

インタビューバナー

Text:宮本英夫
Photo:ヨシハラミズホ

 結成10周年を迎えるおいしくるメロンパンが、過去の自分たちを振り返りつつ、新たな世界への扉を開けた絶対の自信作。それが9thミニアルバム『antique』だ。

 疾走感みなぎるメロディックなギターロック「旧世界より」で幕を開け、先行配信曲「千年鳥」や新曲を連ね、昨年夏にリリースされたドラマチックな大作「渦巻く夏のフェルマータ」に至る全5曲。スリーピースの限界に挑む豊かなアレンジ、深い心象と美しい風景を描く歌詞、透明な抒情溢れる歌声が、耳をとらえて離さない。アニバーサリーを飾る傑作はいかにして作り出されたのか、ナカシマ(Vo. / Gt.)、峯岸翔雪(Ba.)、原駿太郎(Dr.)に話を訊いた。

バンドのことを、ちゃんと好きでいることができてる

――バンド結成10周年イヤーおめでとうございます。振り返って、どんな思いがありますか。

ナカシマ:まさか10年続けられるとは、という感じではありますね。バンドって本当に続けること自体が難しいものだと感じているので、このメンバーだから続けられたと思ってます。


原駿太郎:始めた頃は何も見えてなくて、続くかどうかもわからない感じで始まったので、本当に10年を迎えられて良かったなと思います。続けていく中で、周りのバンドが解散することも普通にあるから、すごいことだなとあらためて実感しています。


峯岸翔雪:自分たちが出す作品に対する姿勢が、最初からずっと変わらず真剣に、こだわり抜いて100パーセントで作り続けているなと感じていて、それは大変素晴らしいことだなと我ながら思います。3人がそれぞれ、おいしくるメロンパンというバンドのことを、ちゃんと好きでいることができているな、と感じますね。


――10年間の中では、いくつか転機があったと思います。たとえばどんな時期のことを思い出しますか。

ナカシマ:3枚目の『hameln』というミニアルバムを出した時に、「自分のやりたい音楽はこれだな」というものが一つわかった瞬間があって。そこから自分のスタイルをしっかりと持ってやってこれたなと思うので、『hameln』という作品は僕の中ですごく大きいものになったなと感じています。




――『hameln』で、何をつかんだんでしょう。

ナカシマ:視覚的に美しいものを音楽で表現するという、自分の中にある心象風景だったりを、サウンドや詞によって聞く人に伝えるというスタイルが、『hameln』で「やりたいことはこれだな」ということに気づいて、それが表現できたなと思います。やっていること自体は最初から変わってないなとは思いますけど、何も考えずに初期衝動的にやっていたものが、「こういうことか」と自分の中でわかったという感覚は、しっかりありましたね。


――原さんはどうですか。

:個人的なところで言うと、6枚目の『cubism』が出た時にバンドの雰囲気が変わったというか……それはコロナがターニングポイントだったのかもしれないですけど、視界が開けたというか、視野が広がった感じがしました。5枚目の『theory』までは、自分たちの内側をずっと見続けている感覚があって、自分たちの世界観を作るぞというところから、「僕らを見てる人は、僕らの世界をどういうふうに感じてるのかな?」みたいな、そういう感じで雰囲気が変わったのが『cubism』だったかなと思います。




――視点が変わったんですかね。

:俯瞰するようになったのかな。音源も『cubism』からは彩度が上がったというか、ぐっとレベルアップした感覚はありました。


――立体的な視点で作品を構築していくのは、まさに“キュビズム”じゃないですか。すごく腑に落ちます。峯岸さんは、二人の話を聞いてどう思いますか。

峯岸:転機が多いバンドというか、大きい転機というよりは細かいターンをしてきている印象なんですよね。ナカシマが言った『hameln』もその通りだし、原が言った『cubism』もまったく同感で、ほかにも色々あるんですけど、今回の『antique』もそうだなと思っていて、1枚を通してすごい内容になっていて、集大成と言ってもいい作品になっているので。今回の作品ができて、また次の作品でバンドが結構動いていくだろうな、という雰囲気を感じています。


――今がまさに何度目かの転機の真っ最中。その最新作『antique』は、どんな作品に仕上がったという手ごたえがありますか。

ナカシマ:おいしくるメロンパンがずっとやってきたことを内包しつつも、また世界観を拡張するような解釈ができる作品になったなと思っていて。今までの道のりを説明しつつも、新しい扉を開いた作品だと思ってます。


――それは去年の夏に先行で「渦巻く夏のフェルマータ」を出す時には、もう予感していましたか。

ナカシマ:『antique』の中で、一番最初に「渦巻く夏のフェルマータ」の歌詞を書いたんですけど、それは『hameln』に入っている「水葬」という曲に繋げた曲を書こうと思っていて。『hameln』という自分が作りたかったものが最初にできたミニアルバムがあって、そこに繋がるものを作ることによって、今までの道のりを総括するような曲に「渦巻く夏のフェルマータ」がなって、そしてそれをさらに深く表現するためのミニアルバムができればいいなと思って『antique』を作ったので。



「水葬」Music Video


――そういう順番なんですね。

ナカシマ:はい。なので、ちゃんと今までの道のりをしっかりと内包した作品になっているな、と思います。


――原さんにとって、『antique』はどんな作品になりましたか。

:「おいしくるメロンパンってどんなバンドだっけ?」って振り返るというか……僕のイメージなんですけど、1枚目の『thirsty』から5枚目の『theory』までが第1期で、6枚目の『cubism』から今までが第2期みたいな、そんな感覚があって。第2期では色々なことを試してみようって、どんどん広げていって、そこで一旦「おいしくるメロンパンの世界はこういうことだよね」というものを再確認するというか、昔の雰囲気もある中であらためて再定義するみたいな、そんなことを感じています。


――峯岸さんは?

峯岸:二人が言った通りです(笑)。とにかく、おいしくるメロンパンの要素がすべて詰まっている作品だと思います。


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世界観をより拡張するものが作りたかった

――お気に入り曲はありますか。

峯岸:新曲の中だと、「額縁の中で」ですね。おいしくるメロンパンらしいというか、らしさは色々あるんですけども、らしさの方向性として我々メンバーが思うおいしくるメロンパンの一番濃い部分が出ている曲だと思います。


――「額縁の中で」はリズムが面白いですよね。5拍子と3拍子の組み合わせですか。

峯岸:そうとも言えますけど、5と6かな。


ナカシマ:しかもサビは4拍子。


――昔からこういう変拍子が得意ですよね、おいしくるメロンパンって。

ナカシマ:そうですね。この曲はメロディを作りながら、このメロディをはめるならここは6にしたいし、ここは5にしたいし、みたいな感じでした。最初にサビができたんですけど、4拍子だけど4拍子に聴こえない感じがあって、ほかの部分でも変拍子が合いそうだなと思って、6とか5を混ぜてみました。いつも、ざっくりとした雰囲気や情景を見せたいというイメージだけがあって、そこからサウンドを作っていって、メロディを作って最後に詞を書く感じです。


――原さんのお気に入り曲は?

:やっぱり「渦巻く夏のフェルマータ」ですね。先にシングルでも出てますけど、1曲だけでも感動的なすごい曲だなということを感じていて、それがミニアルバムになって、よりストーリー性を感じるというか、本当にうるっときちゃったんですよね。5曲通して聴いた時に、『antique』の5曲にはそれぞれ意味がちゃんとあると感じられると思うし、やっぱり「渦巻く夏のフェルマータ」はすごい曲だと感じられるんじゃないかな。



「渦巻く夏のフェルマータ」Music Video


――演奏もアレンジも、組曲のように景色が変わっていく。「渦巻く夏のフェルマータ」はものすごい大作だと思います。この曲はライブでも完全再現できているのでしょうか。

:いや、まだやっていなくて……ライブでやるのが楽しみです。



――相当、難度が高い気がします。これを再現するのは、あとメンバーが3人くらい必要かも。

ナカシマ:そうですね(笑)。ただ音源とライブは、僕の中では切り離して考えているので、ライブでできる最大限のことができればいいかなとは思っています。


――そして、ミニアルバムのタイトルの『antique』。これはどこから出てきたイメージですか。

ナカシマ:タイトルは、「渦巻く夏のフェルマータ」を作った時ぐらいにはもうありました。次は過去に焦点を当てた作品になるなと思ったので、過去に特別な価値を抱くような意味で“アンティーク”というワードはいいなと。最初は結構ざっくりとしたイメージでしたね。そしてミニアルバムの最後に「渦巻く夏のフェルマータ」を置きたいというのがあって、そこにどうやって繋げていくのか?という感じでほかの曲を作っていきました。


――あまり分析するのも野暮ですけど、今回の作品の中には、記憶とか、思い出とか、そういったワードがたくさん出てきます。それは意識的なものですか。

ナカシマ:元々、おいしくるメロンパンというバンド自体にそういうテーマがあって、今回はその世界観をより拡張するものが作りたかったので、おのずとそういうワードがたくさん出てきてるのかな?とは思います。


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自分の中にある美しいだけの世界を表現する

――そこをもう少し掘り下げてもいいですか。ナカシマさんの書く世界って、非現実的な、それこそいつか夢で見た風景みたいな、不思議な浮遊感を感じるものが多いと思うんですけど、でもファンタジーとも違うんですよね。なんと呼べばいいのかなって、いつも思うんですが。

ナカシマ:心象風景というか……ファンタジーというよりかは、理想みたいな感じですかね。こうであったらいいな、みたいな。『hameln』という作品で「水葬」を作った時も、「自分の中にある美しいだけの世界を表現する」ということが、たぶん一番やりたかったことで、それができたなと思ったので。ファンタジーというよりは理想の世界みたいな感じかもしれないですね。



――リスナーのみんなもそこに入り込める、音楽で美しい理想の世界を作りたいということなんですかね。

ナカシマ:僕が音楽を昔から聴いていたのも、そういう意味合いが大きかったので。自分で音楽を作るとなった時に、自分にとってもそういうものであってほしいというのもあるし、ひいては、みんながそういうふうに聴いてくれたら嬉しいですよね。


――そんな、10周年の集大成的な作品を引っ提げて、次のツアーが始まります。5月から6月にかけて開催される全国8か所のツアー【おいしくるメロンパン antique tour - 貝殻の上を歩いて - 】。ファイナルは6月29日、初の東京・日比谷野外大音楽堂での野外ライブ。それぞれの意気込みを聞かせてください。

峯岸:僕自身はあまり難しいことは考えていないですね。いつも通り、作品ができたのでその曲たちをいい形で発表したいなというツアーなんですけども、『antique』という作品がすごく濃い作品になっているので、ライブの内容も今までより一層おいしくるメロンパンの曲の多彩さが見えるようなセットリストになると思います。楽しいライブになりそうです。


:今回のツアーは、ここ最近のツアーよりも、より「これぞおいしくるメロンパンだな」と思ってもらえるのかな、と個人的には感じていて。『antique』の5曲もそうですけど、セットリストでもそれを感じられるようになってると思うので、楽しみにしていてほしいです。自分も楽しみですし、どういうふうに見てもらえるのかわからないですけど、すごく楽しんでもらえると思います。


ナカシマ:『antique』のツアーになるので、『antique』という作品を、過去曲も通してしっかりと「こういう作品だ」というものが提示できるような内容にはしたいんですけど、もちろんライブとしても楽しんでいただけるような、ちゃんと盛り上がりを作ったりとか、お客さんを置いてけぼりにしないような工夫もちゃんとしつつも、ライブとして完成させたいなと思ってます。


――ツアータイトルにある「貝殻の上」って、『antique』の3曲目の「海馬の尻尾に小栴檀」に出てくる歌詞の一節でもありますよね。どんなイメージがありましたか。

ナカシマ:僕はあんまり歌詞について説明しないんですけど……貝殻は、自分が何度も生まれ変わった死骸みたいな、過去の輪廻転生した記憶たちみたいな意味が僕の中にはあって。その上を蹄鉄高らかに歩いていくという、何度も終わるけど、そのたびにまた始まっていくイメージがあって。今回この『antique』という作品を一つの区切りとして、おいしくるメロンパンが一度終了じゃないけど、区切りを打つという形で、その先にまた行けるかなと思っているので、そういう意味合いもあります。


――「海馬の尻尾に小栴檀」は、『antique』の中でも一番軽やかで楽しく聴ける曲ですけど、そんなに深いイメージがあったとは。

ナカシマ:この曲は、『antique』の中でも一番最後にできました。4曲が出揃って、結構重めな作品になるなと感じたので、軽いやつが欲しいなと思いながら書いたんですけど、歌詞は『antique』のテーマに沿って書きました。


――ツアーで聴けるのが楽しみです。そしてツアーファイナルの日比谷野外大音楽堂。初めての野外ワンマン、どういう場になりそうですか。

ナカシマ:andymoriやフジファブリックがやっているのを映像で見たことがあって、憧れの場所ではあったので、あそこでついにライブできるんだという嬉しさはありますね。


――何か特別なことはしますか。

ナカシマ:考え中です(笑)。


――楽しみにしています。そして10周年イヤーを経て、この先の未来に何が見えていますか。

ナカシマ:あんまり考えてないですね。未来は、目の前のやりたいことをやっていく先にしかないと思うので。でも作品はずっと作り続けたいなと思います。

[ナカシマ] KICS DOCUMENT. カーディガン¥37.400、ポロシャツ¥26.400
KHONOROGICA パンツ¥33.000(すべてHEMT PR・03-6721-0882) muff リング¥108.900(Muff
[原] KANEMASA PHIL. ブルゾン¥44.000(KANEMASA TOKYO OFFICE・03-5784-1602)
[峯岸] KANEMASA PHIL. シャツ¥27.500(KANEMASA TOKYO OFFICE・03-5784-1602)


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Disc01
  1. 01.旧世界より
  2. 02.千年鳥
  3. 03.海馬の尻尾に小栴檀
  4. 04.額縁の中で
  5. 05.渦巻く夏のフェルマータ

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