Interview & Text：一条皓太
Photo：興梠真穂

　次世代ガールズバンドプロジェクト「BanG Dream!（バンドリ！）」。同作の劇中バンド・MyGO!!!!!が4月23日、6thシングル『聿日箋秋』をリリースした。

　表題曲は、今年3月まで放送されていたTVアニメ『BanG Dream! Ave Mujica』#13 挿入歌に。ボーカルの高松 燈（CV：羊宮妃那）がかつて、前身バンドといえるCRYCHICで同じ時間を過ごし、気持ちがすれ違ったまま疎遠になってしまったAve Mujicaの豊川祥子（CV：高尾奏音）に向け、＜優しい君が君のままでいられるように＞と、別れとエールを歌った節目の曲となっている。

　Billboard JAPANでは今回、メンバーの青木陽菜（要楽奈役/Gt.）、林鼓子（椎名立希役/Dr.）にインタビューを実施。表題曲については、バンド史上初となる立石凛（千早愛音役/Gt.）とのツインギターソロに対する想い。Ave Mujica関連でいえば、最も共感したキャラクターから、プライベートでカバーしてみたい曲まで、“放送を終えたいまだからこそ”なエピソードをたっぷりと語ってもらった。

「やっぱり、バンドのフロントマンは“神”じゃないとね」（林）

――TVアニメ『BanG Dream! Ave Mujica』も最終話を迎えたわけですが、まさかここまでサスペンスホラー仕立てになるとは。よい意味で期待を裏切られましたね。

林鼓子：私たちも同じ気持ちで、お客さまにどう受けとってもらえるのかドキドキでした。それこそアフレコ当時も、柿本広大監督からキャラクターの背景解説をいただけるのが収録の度にだったので。毎週のように謎解き感覚を味わっていたのは、私たちも皆さんと同じだったのかもしれません（笑）。

――若葉睦（CV：渡瀬結月）の自我が眠り、代わりに彼女を守る別人格＝モーティスが表出するのが最難題となりましたが、青木さん演じる楽奈は睦が多重人格者だと真っ先に見破っていましたね。

青木陽菜：本能と言うべきか……楽奈の勘が働いたんでしょうね。個人的にも、猫ちゃんたちと戯れながらの「モーティス、気に入ったって」のシーンは特にお気に入りで。自分でセリフを入れながら、ほっこりした気持ちになっちゃった。

青木陽菜（要楽奈役/Gt.）

――今回はシリアスな展開続きだっただけに、楽奈や愛音の存在には何度も心救われました。

林：MyGO!!!!!は今回、癒し担当だったよね。

青木：#1で、そよりん（長崎そよ/CV：小日向美香/Ba.）と愛音ちゃんが一緒にライブに行ったりとか。

林：そよも嫌な顔をしていたはずなのに。「結局行くんかい！」って思わずツッコんじゃいました。

青木：#13からも伝わったけど、Ave Mujicaが色々な問題に直面する裏で、MyGO!!!!!にもちゃんと物語があって。日常生活やそこでのコミュニケーションを通して、一人ひとりの心がほぐれていく様子が垣間見えたよね。

――林さん演じる立希も、面倒見がとてもよくなって。

林：前作のTVアニメ『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』を経て、MyGO!!!!!という居場所を作れたことで、彼女なりに安心や自信を持てるようになったんだと思います。今回は海鈴（八幡海鈴/CV：岡田夢以）に向けて“信頼”とはなんぞやとアドバイスをして、彼女の仮面を剥がす立役者になれて。立希は確信を突くけど、まだ言葉足らず……だけど心情としては「皆まで言わずともわかってほしい」なんですよね。

青木：「立希ちゃんもお姉さんになったんだ」なんて思ったら、すごくアツく感じちゃったよ。

林：私もうれしかった。演じながら「いいぞ、立希！」って拳を握ったくらいです。

――個人的には#10で、海鈴に発した「絶対、こっちだから」のシーンがぶっきらぼうで最高でした。

林：まぁ、立希も数か月前までは、思いきり選択を間違えていたんですけどね（笑）。

――ーたしかに（笑）。反対に、Ave Mujicaのなかで特に共感したメンバーはいましたか？

林：私は完全ににゃむ（祐天寺にゃむ/CV：米澤茜）でした。表ではインフルエンサーとして“祐天寺にゃむ”を演じつつ、裏で嫉妬や葛藤にまみれた感情を剥き出しにしていたのがもう役者だし、人間そのものだなと。あの子はすごくいい子です。

青木：私は海鈴ちゃんがかなり刺さって。序盤は淡白な子というイメージでしたが、終盤になるにつれて、掛け持ちしていたバンドをすべて辞めてAve Mujicaへの覚悟を示したり。それでも、本当に振り向いてほしい人には振り向いてもらえなかったり。鼓子ちゃんの言う「人間らしさ」をそのあたりに見出せたのと、私たちも生きていて感じるようなもどかしさがしっかりと描かれている気がしました。掛け持ちバンドを辞めてきたシーンは、まさしく彼女の“仮面”が取れた瞬間でしたよね。

――間違いないです。とはいえあの時点では、直前まで巻き起こっていたCRYCHIC再集結の余波が大きく。祥子をはじめ、かつて同バンドに身を置いていたメンバーはかなりの悩みを抱えることに。おふたり自身がもし同じ境遇に置かれたとしたら、どんな決断をすると想像しますか？

林：私自身がもし本当にCRYCHICのメンバーだったらですか？　いや〜、躊躇うだろうな。でも、「いまの私にはMyGO!!!!!がいるから」って、キッパリと宣言すると思います。

青木：私ももちろん悩む。ようやく事情がわかったとはいえ、やっぱりあんな別れ方をしているわけだし……。それに、楽奈と愛音も待っているからね。

林：Ave Mujicaの話に戻ると、祥子が終盤に「わたくしが神になります」と宣言したのが最高すぎたよね。あれこそ“ジュブナイルの頂点”。アニメを観ながら「これだよ、これ！」って唸っちゃいました。

青木：わかる、神々しかった。完全に神話だったし、こうして物語は作られていくのかと。

林：やっぱり、バンドのフロントマンは“神”じゃないとね。

――となると、MyGO!!!!!にも“神”は存在する？

林：立希からすれば、燈が完全にそうですね。彼女にとっては燈がすべてだと思うので。

青木：神の枠を担えるのは燈ちゃんだけだよね。なんたって、彼女が紡ぐ言葉に合わせて、メンバーが音楽を奏でるわけですから。

林：立希は最早、燈を神格化しすぎて触れられないんだと思います。

青木：でも、万能すぎて恐れ多い感覚って、同性同士でも感じるよね。

林鼓子（椎名立希役/Dr.）

――あくまで所感ですが、立希 → 燈への矢印は、三角初華（CV：佐々木李子） → 祥子に近しいものを覚えました。

林：学校も一緒で席も縦並びだし、話してみたら意外と仲よくなれそうなのにね。個人的には、仲のよい佐々木とようやく初絡みができて、その点でも思い出深いシーンになりました。

青木：今回は最後に少しだけ会話していたよね。私も観ていてうれしくなっちゃった。

――このパートの締めくくりに、ご自身がプライベートでカバーしてみたいAve Mujicaの楽曲を特別に教えてほしいです。

林：私はやっぱり「Ave Mujica」。キャッチーなキラーチューンだし、なによりバンド名を叫ぶって……最高！　私もグループ名を叫びたい！

青木：MyGO!!!!!にはないもんね。ちょっとメロコアっぽい曲で挑戦したいかも。

林：本当に好きな曲なので、いつも一人でずっと歌ってるんです……「いや、ドラムじゃなくて歌ってるんかい！」って指摘されそうですけど（笑）。

青木：私は「黒のバースデイ」が好き。王道メタルなイントロのギター然り、MyGO!!!!!にはないフレーズが散りばめられているから、弾いていてとても楽しそう。あとそもそも、睦ちゃんと初華ちゃんは7弦ギターを使っているので、私のよりも低音が鳴るから本当にカッコいいんだよね。バッキングを弾くだけでも様になるだろうし、いつかシャッフルライブなんてしてみたいかも！

「MyGO!!!!!は、どこよりも楽しくギターを鳴らせる居場所」（青木）

――ここからは、6thシングル『聿日箋秋』について聞かせてください。表題曲は『BanG Dream! Ave Mujica』#13 挿入歌としてオンエアされましたが、＜わかれ道の先へ 僕らは歩き出す＞などのフレーズから伝わるように、また大きな意味を持つ曲となりそうですね。

青木：初めて歌詞に目を落としたとき、燈ちゃんの成長をものすごく実感しました。

林：アニメとのリンク度が高くて、集大成のような雰囲気。それを抜きにしても、MyGO!!!!!も持ち歌がたくさん増えているはずなのに、まだまだ新しい表情を見せてくれるのかと。本当に扱うサウンドが幅広い！

「聿日箋秋」ミュージック・ビデオ

――今回は2000年代の邦ロック路線を突き進むサウンドで、とても新鮮な印象でした。とはいえ、演奏はこれまた難しそうで……。

林：間違いなく技術を求められます。ドラムでいうと、テンポ感のわりに連符が多いのと、全体的にリズムパターンが変わる曲で、特にAメロがやや難儀です。

――AメロとBメロ、どちらもループごとにドラムのフレーズが変わりますよね。

林：そうなんです。フレーズごとのお尻の部分が少しずつ違うんですよね。とはいえ、立希は真面目にリズムを刻むドラマーなので、この曲を通してそうした遊び心やおしゃれで肩の力を抜ける感覚を楽しんでくれたらとワクワクしています。

――そして青木さんの方はついに、立石さんとのツインギターソロを披露することに。ギターソロに限れば、結成以来初の試みとなります。

青木：そうなんですよ！　いつもは自宅で音源に合わせて練習をしているので、もしバンドで合わせるとなったら、凛ちゃんの生音やニュアンスをしっかりと意識するのが大切なポイントになりそうです。私は普段通り、バッキングとギターソロをするわけですが、凛ちゃんはそこからしてチャレンジなので。まぁ、私もまだ苦戦しているんですけど（笑）。

林：本当に？　青木ちゃんはいつも困っているイメージがないし、ドラムで後から見ていても「ふたりとも上手だな〜」なんて感心するばかりです。それにリードギターって音で歌える役割だし、凛はリズム感が優れているから、ツインギターでハモるのが本当の楽しみ。最近はもう、ふたりの姿に拍手しそうになってるんだよね……いや、ドラムを叩かなきゃいけないんだけど（笑）。

青木：うれしい（笑）。そういえばこの間、凛ちゃんがギター練習の休憩中にもギターを練習していたと聞いて、「愛音ちゃんだ……」って面影を重ねちゃった。

――キャラクターと表裏一体すぎます。

青木：各々、休憩時間の過ごし方にらしさが出るよね〜。

林：そうだね〜。普段の羊ちゃんは、ごはんとか食べていてかわいい。それにいつも、抹茶ラテとか飲んでいるよね。楽奈みたい。

青木：むしろ楽奈より飲んでる。

林：この間、抹茶ラテを一個くれて。一緒に飲んだんだけど、すごくかわいかった。

――感想が味ではないのに笑ってしまいました。歌詞のなかで、特に印象的だったフレーズはありますか？

林：2番Aメロの＜自分のことも まるでわからないのに/それでも君のこと わかりたかったんだよ＞ですかね。ここはもう、CRYCHICを離れた祥子を追いかける燈の心情そのもの。それに、アニメの物語を抜きにしても、日常で同じような感情になる瞬間がたくさんあるなと。人って、自分の癖とかにも気づかないくらい、意外と狭い視野で生きているじゃないですか。そのせいで他人を羨んだり、嫉妬したりすることもあって。私自身にもすごく刺さる部分でした。

――いわゆる“ないものねだり”ですね。

青木：私は1番Aメロの＜こころ写す言葉 剥がして連れて行って＞かな。これまでの物語のすべてが詰まっていると思う。この部分は、ドラム、ボーカル、ベースだけで演奏されていて、つまりは旧CRYCHICメンバーの楽器しか鳴っていないんですよ。

――たしかに！

青木：そこから＜わかれ道の先へ 僕らは歩き出す＞と、楽奈と愛音の鳴らす音が重なって「ここからはMyGO!!!!!として進んでいくんだ」という意思表示がなされて。楽器構成の部分で、すごくグッときちゃいました。

――今回は歌詞や楽器構成のおかげで、その時々の情景がビジュアライズされやすい曲に仕上がっていますよね。ところで劇中、ご自身の担当キャラクターがどんな気持ちで演奏していたか、事前に想像などはしましたか？

林：まぁ、立希は歌詞を見た瞬間、燈が祥子に向けた想いにすぐ気がつけると思うので。だから、立希から発信するような想いもよい意味で無さそうなのと、どの曲でもそうですが、あまり自ら前に出てくるようなタイプの子でもないですし、むしろ燈に寄り添って歌いたいことを歌わせる。そのために自分がいい曲を書いて、全力で演奏することに懸けるんだと思います。

青木：楽奈はどんな曲でも楽しく弾けちゃうとは思いつつ、#13のライブパートでの表情を目にして、彼女にとってMyGO!!!!!はどこよりも楽しくギターを鳴らせる居場所なんだなと、改めて確信できました。コーラスにもたくさん入れるようになったね。それこそサビで＜筋書きのない日々を生きてく僕らは＞と歌っている通り、その“僕ら”のなかに自分自身も入っていると、ちゃんと認識しているんだろうなと思います。

「なんたって私たちは、“前に進む”バンドですから」（青木）

――カップリング曲「掌心正銘」についても聞かせてください。

林：こちらは、バンドの成長とその先を見据えたインディーロック曲になっています。イントロの時点で1990年代の邦ロックらしさを感じて「たまんねえ！」って思いました。

青木：ね、イントロ熱いよね。リフのメロディがとにかくロックバンドな感じで、曲の顔にも相応しい！　と言いつつ、ギターは「聿日箋秋」に比べるとややトリッキーかも。

林：ドラムは逆に、これまで習得してきたパターンも入っていて馴染みやすかったです。“バンドあるある”だけど、リズムを食う部分は興奮すると突っ込みがちになるから気をつけておかないと。これは技術よりもむしろ心構えの部分ですね。あとは、この曲はコーラスがベタ付きなので、ライブでもボーカルと一緒にしっかりと歌を届けたいです。

――リズムを食うのに多少の先走りをしても、この曲であればむしろ勢いとして昇華できそうですね。

青木：そうそう。疾走感に繋がりそうだなと。なんたって私たちは、“前に進む”バンドですから。

林：迷子でも進まないとね！

「掌心正銘」

――歌詞についても、なにか想いはありますか？

青木：全体を通して、1コーラスごとの気持ちのグラデーションが美しいなと感じました。燈ちゃんが曲の序盤で抱いていた葛藤も、次第に優しい気持ちに移り変わっていって。終盤の＜（たいせつなんだと伝えてみるよ）＞と心開くところを、彼女以外のメンバーがコーラスしているのも秀逸。歌いわけの部分に、この曲をバンドとして鳴らす意味が込められているような気がします。

林：なかでも2番の歌詞がいいよね。というか、面倒くさいオタクみたくなりますが、私は基本的に2番の歌詞が本質を突いてくるから大好きです！

――（笑）。

林：今回も＜くだらないものでも 見向きさえされなくても（されなくても） 僕だけが知っていればいい＞のところで、「そうだよな、自分だけがよさをわかっていればいいんだよな」という気持ちになり。MyGO!!!!!の楽曲は、一歩踏み出せない人を引っ張るより、一緒になって寄り添うものなので。私たちの気持ちを代弁してくれています。

――ありがとうございます。取材も終盤ですが、ここ最近のMyGO!!!!!ですとYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』で「潜在表明」を演奏していたのが印象的でした。あのスタジオに入るとやはり、緊張するものですか？

青木：というか、緊張しかない（笑）。でも、鼓子ちゃんは落ち着いていたよね。

林：そう見えていたならよかったです。本音はドキドキしすぎて、収録のことをあまり覚えていなくて。

――とはいえ“一発撮り”の意味では、ライブなども同様なのでは？

林：一回しか撮れないことよりも、あの動画を通して『BanG Dream!（バンドリ！）』シリーズのことを調べて、知ってくださる方がいること。それと、私たちは結成からそこまで長い年月も経っていないバンドにも関わらず、作品の代表として選んでいただいたことに、背筋を正される想いで緊張しちゃったんです。

――なるほど。そんな大一番で最後、青木さんがエフェクターのスイッチを“バンっ”と踏む動作を綺麗に決めてきたのに痺れました。

青木：あのシーン、めちゃめちゃ褒められます！　スイッチの音ももちろん、その場のマイクで拾った生音で。『THE FIRST TAKE』は、衣擦れの音なども臨場感をもって聞こえてくるし、どこまでも“リアル”にこだわったチャンネルなのだなと身をもって実感しました。

――それでは最後に、今月末に控えるAve Mujicaとの合同ライブについて、意気込みのほどお願いします。

青木：TVアニメも最終話を迎えて、Ave Mujica、CRYCHIC、sumimi、そしてMyGO!!!!!へと、ファンの皆さんが物凄い熱を持ってくださっている頃かと思います。その期待値にしっかりと応えたいし、Ave Mujicaちゃんとも頑張ってリハーサルをしている最中です！　複数バンドを掛け持ちしている子もいますが、私はMyGO!!!!!に全力投球なので。その一瞬一瞬に全力を捧げて、皆さんと同じ熱になれることを目指します。

林：前作『BanG Dream! It’s MyGO!!!!!』から約1年半を掛けた物語も、まずはひと段落。アニメを観てくださった方は、これまでの集大成として。そうでなくとも、バラエティ豊かなバンドがたくさん登場するライブになるので、ぜひ会場に足を運んで楽しんでいただきたいです！

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