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NIKIIE 『Equal』 インタビュー
NIKIIEのライブでは、涙する人の姿をよく目にする。分かりやすい応援歌や失恋ソングが歌われる訳ではないのだが、老若男女が涙する。
そこには傷付けたり傷付けられたり、誰かの優しさに気付いたり気付かなかったり、自分を好きになったり嫌いになったり、家族や友達に相談するようなことではないんだけど、どうしようもなく自分の胸をチクチク刺してくる想い。それを丸出しのエモーションで歌い奏でるNIKIIEの姿がある。「私と同じ想いや違和感を共有できる人がこの世界のどこかにいるんじゃないか」
2ndフルアルバム『Equal』のリリースに先駆けてのインタビューでは、そんな彼女の独自性。涙腺を刺激する要因を探った。
苦しみさえも「楽しい」っていう感覚に変えられる
--なんで金髪にしたんですか?
NIKIIE:心境の変化……かな。去年の春に発表した『hachimitsu e.p.』のデザイナーさんに「髪の色を明るくしてみよう」と言われたのがきっかけなんですけど、そこからどんどん明るくなって、気付いたらこんな感じになってました(笑)。
--1stフルアルバム『*(NOTES)』以来約1年半ぶりのインタビューになるんですが、そこから2ndフルアルバム『Equal』に辿り着くまでの日々は、NIKIIEにとってどんな期間になりましたか?
NIKIIE:どんどん自分を開いていく日々でしたね。1stフルアルバムを創るまで……というのが、すごくストイックな日々で。自分の楽曲に自分はどんな音を求めていて、どんなことを伝えたいのか。すごく緻密に向き合っていたんです。アレンジャーさんとのやり取りも、自分の子供を託しているような感覚だったので、怖くて楽しむ余裕がなかった。アレンジしてもらったものに対して「これは違うんです」って言うときとか、自分の想いを言葉にして伝えるのにもすごく勇気が必要だったし。柔軟ではありたかったんですけど、なかなかそれが上手くいかなかった。でもツアーに出たり、震災の影響による心境の変化もあったりで、とにかく楽しんで自分の作品と向かっていきたいなって。
--そこからどんどん自分を開いていくと。
NIKIIE:そうですね。アレンジャーさんとのやり取りも、楽しんでいるからこそナチュラルに「これは違う気がする」「ここはこういう風にしたいんです」って出てくるようになって。それに後押しされて、自分にも責任感が出てきたりとか、言葉を伝えていく上でのタフさが生まれてきた。そしたら苦しみさえも「楽しい」っていう感覚に変えられるようになったんですよね。
--そうやって音楽を対峙してきて、今、NIKIIEってどんなアーティスト/ミュージシャンであると、自分では思いますか?
NIKIIE:……面白い質問ですね(笑)。あんまり考えたことなかった!
--では、せっかくなんで、ちょっと考えてみましょうか。
NIKIIE:うーん……どんなアーティスト? 面倒くさいアーティスト。
--(笑)
NIKIIE:とにかく変化し続けていたいタイプの人間で、同じアレンジャーさんと曲を創っていたとしても、また違う引き出しを開けたいなと思っていて。だから聴いている人は「あれ、また変わった?」みたいな。『*(NOTES)』で「これがNIKIIEです」と表現して、その次にすごくポップでキャッチーに昇華された『hachimitsu e.p.』が出てきたとき、『*(NOTES)』を聴き込んでいた人はビックリしたと思うんですね。
--路線変更かと思った人もいるでしょうね。
NIKIIE:私の中では、自分の藻掻きとか葛藤とか、その先にある答えを表現したくて『*(NOTES)』は創ったんですけど、ライブになったときに、答えを持って「私はこうです」って言っている私と、答えが見出せなくて「何も見つけられない」って言っている私がいて、それをどう表現すればいいのか迷っちゃったんです。なので、一度振り切ってみようと思って『hachimitsu e.p.』で光を表現してみることにして。で、それとは対照的に自分の影を表現したいと思って『CHROMATOGRAPHY』を創って。
--自分で「面倒くさいアーティスト」と言っちゃいましたけど、今話してくれた面倒くさい作業は、自分の中でどうしても必要だった訳ですよね。
NIKIIE:そうですね。でも受け取る側も柔軟じゃないと「え、今度はこんな感じなの?」ってなると思うんです。そういう意味で、面倒くさいかなって(笑)。
--この約1年半は“NIKIIE”としての正しさみたいなものを見出していった期間だったんじゃないかなと想像するんですが、どうでしょう?
NIKIIE:去年11月に『CHROMATOGRAPHY』のツアーが終わったときに「やっとスタートだな」って思ったんですよね。もちろんその前からスタートしてはいたんですけど、なかなか素の自分がステージにいなかったりとか、怖くて見せられない部分があったりとかしたんですけど、守らないことの凄さ、強さを『CHROMATOGRAPHY』のツアーで改めて知ることができて。それで「やっとありのままで歌っていけるな」って思えた。それはいろんな人と出逢って、いろんなやり取りをしたことも大きいし、だからこそ2ndフルアルバム『Equal』が出来たんだと思います
リリース情報
Equal
- 2013.01.30 RELEASE
- 初回限定盤[COZP-747/8(CD+DVD)]
- 定価:¥3,360(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
- 通常盤の詳細・購入はこちらから>>
関連リンク
Interviewer:平賀哲雄
「声を失うってこんなに怖いことなんだ?」って
--あと、NIKIIEの音楽ってNIKIIEの生活と超密着してるじゃないですか。故に絶妙な感情の機微を歌詞や音楽に昇華できると思うんですけど。
NIKIIE:やっぱり音楽は嘘がつけないし、自分が自分と向き合ってる時間によって生まれると思うんですね。普通に生きていく中では笑って誤魔化せる瞬間とかあるけど、音楽と向き合っている中では笑って誤魔化せることってないんです。だからこそ、ありのまんまの自分になる。丸裸ですよ。ライブするときもそうだし。
--いわゆる自分のリアルを歌う人ってたくさんいると思うんですけど、その中でもNIKIIE特有の切り口ってあるじゃないですか。
NIKIIE:なんですか?
--例えば、昨年夏の女性限定ライブにおけるMC。実家のお母さんと妹が遊びに行くよって言ってくれたんだけど、その日は“自分は全然頑張ってないんじゃないか”って不安になっていた日で。いつもだったら「来て!」って言うのに「来なくていいよ」って初めて言ってしまった。そしたら電話切った後に物凄く涙が出てきて、自分の事ばかり考えてしまったことにすごく後悔をして……。
NIKIIE:マズイ。そういうこともありましたね。
--MCや歌詞のチョイスにこのページを選ぶのがNIKIIEだなと。ただ精神的に調子よくなかったから「来なくていい」って家族にあたってしまったっていう話なんですけど、そこでの感情の動きには物凄く人間が凝縮されてる。
NIKIIE:私、前置きをあんまり好まないタイプで、急にザクッと感じたこととか思ったことを伝えることが多いんです。綺麗に始まりと終わりが用意されているんじゃなくて、何か起こった直後の話から始まったり。でもそこが一番ハッとするところなのかなと思っていて。
--あのMCも唐突でしたからね。何故ライブ中に話したのか分からないし、綺麗に終わってもいないし。でも多くの人が涙しました。
NIKIIE:多分、お笑い芸人さんとか、お話のプロの人からすると、「それで、どうなったの?」ってなると思うんですよ。「後悔して、その後は?」って。
--話が重苦しいまま終わっちゃいますからね。でもそこから抜け出そうとする意思は、開放的なメロディやサウンドで表現しています。
NIKIIE:めちゃくちゃ泣きながら「カナリア」みたいにポップな曲を創ったりしているときもあって。光に向き合えば向き合うほど、その根っこにあるネガティブな曇り、淀みはすごく滲み出てくるもの。影に向き合えば向き合うほど、どこかに光を見出そうとするパワーが生まれる。そこは切り離せないものだなってすごく思います。
--「カナリア」ってめちゃくちゃ明るくて可愛いですけど、愁いを感じさせますよね。別にポジティブなことひとつも言ってないですし。
NIKIIE:結局、自分が光を感じるときって影にいるときなので。こういう曲を書いているときも、こういうメロディだからこそ出せる暗さみたいなものがある。しかもこの曲を書いていた時期って、音楽と向き合いすぎて、がむしゃらになりすぎて、声帯を壊して声が出なくなったりしていて。「声を失うってこんなに怖いことなんだ?」って知ったんです。目の前が見えなくなる。そのときの暗さがどうしても滲み出てる。
--それで「歌ってよ」って鼓舞させているんですね。
NIKIIE:そうなんです。
--「カナリア」は象徴的ですけど、どんな服を着ても、どこに出かけても、NIKIIEらしさというか、NIKIIEならではの重量感や湿度って消えないですよね。
NIKIIE:本当ですか? 自分では気付いてないところですね。逆にそれがない感じがしていて。何を着ても、どこにいても、私が感じられないというか。だから感じられるように、消えないようにしている。
--具体的に聞かせて下さい。
NIKIIE:弱ったときとか特にそうなんですけど、自分の否定に走るんです。「自分なんか……」「どうせ」って小さくなっていく。だからなるべくそうならないように保とうとしている気持ちがあって。どこにいても「私であろう」という意識を持っている気がします。それを持っていないと、風に吹かれて消えそうです。
--なんでそんな風になったんですかね?
NIKIIE:なんでですかね? 昔からですね。自分は必要とされてない感……みたいなものを自分で生み出すパワーが半端ない(笑)。
--有り難くないパワーですね。
NIKIIE:本当に(笑)。
--でも今やそれが無かったら音楽を作れない感じだったりするんですかね?
NIKIIE:そうですね。それがなかったら音楽に自分の想いは託さなかっただろうし。小学生の頃、学校で嫌なことがあったときとか、遠くで私の悪口を言っていると感づいてしまったときとか、それってなかなか人に言えないことだったりして、自分の中にどんどん抱え込んでいたんです。でも家に帰ってピアノにその想いをぶつけたりしていて。自分の存在している理由が分からない感じ。その違和感がなかったら「アハハ」って笑って、別に音楽なんて要らないものだったかもしれない。
リリース情報
Equal
- 2013.01.30 RELEASE
- 初回限定盤[COZP-747/8(CD+DVD)]
- 定価:¥3,360(tax in.)
- 詳細・購入はこちらから>>
- 通常盤の詳細・購入はこちらから>>
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生きる理由を見つけられずにいたけど……
▲Morning in the dark(short ver.) / NIKIIE
--その違和感や逆境から生まれた曲は、今作『Equal』にも収録されてますよね。1曲目「Morning in the dark」。どんなイメージや想いから創ったものなんでしょう?
NIKIIE:この曲は『hachimitsu e.p.』出した後ぐらいに書いた曲だったんですけど、光をテーマにライブしたりしている中でも、自分の影みたいなものはついてきていて、真っ暗な時期とかもあったんですよ。ただ、前が見えないぐらい真っ暗な時期って、停滞しているような気持ちになる瞬間もあるけど、実はその逆で、物凄い勢いで自分自身が変化していたり、本来持っていないスピードで前に進んでいたりするんですよね。で、どんなに真っ暗な闇からでも光は見出せる。そういう力強さを込めたいと思って創りました。
--また、世の中には“母”について歌った曲はたくさんありますけど、この「Mother's cry」は他にないタイプだと思います。どのような経緯で生まれたのか教えてもらえますか?
NIKIIE:実体験なんですけど、学校も行かず引き篭もっていた中学生時代、この世から消えることばっかり考えていて。でもそんな自分をすごく大切に想ってくれている人がいて、生きる理由を見つけられずにいたけど、誰かの想いに応える為に生きるっていう理由もあるんだなと。そこに居るだけで、自分の生きている意味になるというか。実は生きているだけでいろんな人を救っていたりするんだなって。大人になってその重みを知って書いた曲です。
--実際にお母さんに聴かせたことは?
NIKIIE:歌いました(笑)。
--反応はいかがでした?
NIKIIE:そのときは自分から感想を聞けず、母も触れずにいたんですけど、こうして音源になったので、改めて聴いてもらえたらいいなって……。でも恥ずかしい。
--NIKIIEさんと話していると、お母さんの話ってよく出てきますよね。
NIKIIE:私の底辺みたいな時期を一緒に乗り越えてくれたというか、底辺まで下りてきてくれて一緒に上ってくれたので。だから今は親子なんですけど、親友みたいな感じなんです。もらったものもすごく大きいし。大事です。
--続いて、アニメ『LUPIN the Third -峰不二子という女-』EDテーマとなった「Duty Friend」。それまでのNIKIIEのイメージを大きく覆したジャズナンバーですが、何度聴いても興奮します。
NIKIIE:おぉ!「Duty Friend」は自分にとってもチャレンジの曲で。今までジャジィな感じとかファンクな感じは、自分のアレンジでは避けてきたんですよ。私の世界観とは違うと思ってたし、私の声に合わないだろうなという先入観があったので。でも「Duty Friend」は、普段誰にも明かさない部分を敢えて言葉にしちゃう歌詞だったので、サウンド面も新しいことにチャレンジしようと思って。やってみたら、自分が心配していたような違和感もなく、いろんな意味で自分の壁を取っ払えた曲になりましたね。
--そんな振り切れたNIKIIEが満載の今作ですが、そんなNIKIIEの今の生き様が直接的に表現されているのが「Everytime」なのかなと。
NIKIIE:この曲自体は、答えを出せている曲じゃなく、答えがあることを確信しながら答えを模索している曲で。ツアーで歌っていく中で自分自身も励まされたことが何度もあったんです。誰かと比べたりすることもあるけど、「見失うのはもうやめた」って歌ったりすることで。そこを振り切って前に進んでいくっていう気持ちは、自分らしいなって思いますね。
--誰かと比べる。日常的によくあることだとは思うんですが、音楽的な部分でもそうしてしまうことってありますか?
NIKIIE:いっぱいありますよ。みんな、自分にしかできないことをやってると思うんですけど、誰かと比べたりする瞬間はあると思うんです。多分、私だけじゃなくて、音楽やっている人全員が経験してる。でも「私だけじゃないな」って思えるようになったから、そういう比べちゃう自分も認められるようになれた。
--具体的には、なんで比べるんだと思います?
NIKIIE:うーん……無い物ねだり。私は常に欠けている感じがしているから。でも無い物ねだりで何かを得たとしても、それは自分ではない。やっぱり音楽ってそうなるべくしてなったものがすごく多いと思っていて、「あ、そうだ。私はこれだった」って確認しながら進んでいる感じはします。
--ちなみに前作『*(NOTES)』は、NIKIIEいわく「中学生時代、引き篭もっていた頃から書き綴っていた、本質的なものが集まったノートのようなアルバム」だった訳ですが、今作『Equal』はどんなアルバムになったと感じていますか?
NIKIIE:改めて自分自身が自分を受け止めることができたアルバム。光も影も、ようやく自分の中に混在しているものを受け止められたアルバムだなって。それを受け止めたからこそ、人を受け止めたりとか、求めたりとか、そういう勇気も持てたし、今後の自分を広げてくれる作品になったと思います。
--そんな今のNIKIIEの目標は? 武道館でのワンマンは変わらず?
NIKIIE:武道館でライブする夢は変わらないんですけど、いつまでにやりたいとかは考えてなくて。今はとにかくどんな形であれ、この音楽活動を続けていくことが目標。ひとつひとつ点をつけていって、いつか辿り着けたらと思っています。
--では、最後にこのアルバムを届けたい皆さんにメッセージを。
NIKIIE:そもそも私が「歌いたい」って思ったのは、「私と同じ想いや違和感を共有できる人がこの世界のどこかにいるんじゃないか」って求める気持ちからだったので。恋愛や友達のことで悩んでいる人でも、未来のことで悩んでいる人でも、どこかチクチクしているところがある人に聴いてもらいたいです。
Music Video
リリース情報
Equal
- 2013.01.30 RELEASE
- 初回限定盤[COZP-747/8(CD+DVD)]
- 定価:¥3,360(tax in.)
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Interviewer:平賀哲雄
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