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<コラム>レイチェル・ゼグラーの説得力ある歌声と「夢に見る~Waiting On A Wish~」は必見、実写版『白雪姫』サウンドトラックを解説

Text: 村上ひさし
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ディズニー待望の新作、実写版『白雪姫』が公開された。ディズニー初の長編アニメーション映画として1937年に公開された不朽の名作が、いかなる形で現代に蘇るのか。誰もが知るストーリーが一体どのように描かれているのか。早くから注目が集まっていた。もちろん音楽も同様で、長年愛されてきた名曲がどのような形で蘇り、どのような新曲に彩られているのか大いに気になるところ。そんな期待を一手に担ったのが、『ラ・ラ・ランド』(2016)、『グレイテスト・ショーマン』(2017)など大作ミュージカルを手掛けてきたベンジ・パセク&ジャスティン・ポールのコンビだ。このジャンルでは比較的若手の2人が古典と現代を取り混ぜながら、タイムレスなサウンドを誕生させることに成功。以下、アルバム『白雪姫(オリジナル・サウンドトラック)』の収録曲を順に追っていこう。
1.「愛のある場所」〜2.「愛のある場所(村人たちのリプライズ)」
オープニングを飾るこの曲は、いわば本作のテーマ。他人に対する優しさや愛を訴えかけ、一人一人が心がければ皆が幸せになれるという主旨が歌われる。女王が支配を企む以前の、平和で幸せだった日々がここに体現されている。フォークソング調のアレンジが施されたサウンドは、牧歌的だが同時に皆で口ずさみたいアンセム調でも。幼い頃の白雪姫に向かって両親らが歌いかける。
3.「夢に見る〜Waiting On A Wish〜」/レイチェル・ゼグラー
本作の最大のハイライトであり、聴くたびに感動が蘇る名曲は、白雪姫を演じるレイチェル・ゼグラーが、心を込めて、しなやかに、優しく、そして力強く歌われる。ラテン系アメリカ人の彼女は現在23歳。10代からブロードウェイの舞台に立ち、スティーブン・スピルバーグ監督によるリメイク作『ウエスト・サイド・ストーリー』(2021)で映画デビュー。本作のマーク・ウェブ監督が白雪姫役に彼女を選んだ際には、スピルバーグ監督からの推薦もあったという。歌の実力はもちろんのこと、彼女がスクリーン上に登場するや否や、周囲がパッと明るく輝き、生命力を帯びてくる。彼女でなければこの作品も楽曲も、ここまで説得力を持てなかったのではないかと思えるほど。プレミアム吹替版では、ミュージカル『ピーター・パン』出身の女優であり、昨年歌手デビューも果たした吉柳咲良が、優しさから強さまでを巧みに表現する。
4.「ハイ・ホー(実写版)」
おそらく誰もが知っているか、もしくは知らなくとも耳にすれば、すぐさま口ずさめるコミカルチューンは、オリジナルのアニメ版からのお馴染み曲だ。7人のこびとが仕事に向かったり、仕事の最中に歌ったりする、掛け声のような応援歌であり、一人一人の紹介も兼ねられている。クラシック曲としての良さを失うことなく、かと言って現代的すぎないアレンジが施され、時空を超えたファンタジー世界の楽しさが満載されている。ディズニー・ルネサンス期のアニメで育ったというパセク&ポールの古典作品に対するリスペクトも大いに感じさせられる。2人は『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』のほか、ディズニーの実写版『アラジン』(2019)ではジャスミン役のナオミ・スコットの歌った「スピーチレス~心の声」をアラン・メンケンと共に手掛けていた。
5.「美しさがすべて」/ガル・ガドット
ディズニー映画と言えば、ヴィランも大きな魅力だ。パセク&ポールは、ガル・ガドット演じる女王にもオリジナルソングが必要だと考え、今回新たに書き加えた。全てを手に入れようとする女王がいかに欲深いかを克明に、そしてドラマチックに描いていく。『ワンダーウーマン』(2017)をはじめ、善良な平和主義者を演じることが多く、これまで音楽との接点もあまりなかった彼女だが、ここぞとばかりに意地悪な女王を演じきる。プレミアム吹替版では宝塚歌劇団出身の月城かなとが、ステージを観ているかのような存在感で歌い上げている。
6.「口笛ふいて働こう(実写版)」
白雪姫と7人のこびとが、掃除をしながら歌うこの曲は「ハイ・ホー」と同様、フランク・チャーチルとラリー・モーリーが手掛けたオリジナル版アニメからのクラシックソング。ここでは現代風に歌詞がアレンジされている。ストーリー上のみならず、曲中でも口笛がユニークな役目を果たしている点に感服。口笛には、吹いても聴いても、心が浮き立つ不思議なパワーが備わっているのだと再認識させられる。
7.「夢見ごこちなプリンセス」/アンドリュー・バーナップ、レイチェル・ゼグラー
白雪姫と、彼女の“運命の人”ジョナサンが、コミカルにデュエット。ジョナサンが少し白雪姫をからかう調子もあり、パセク&ポールが新たに書き下ろした。両者の立場や意見の相違が、この曲で明確に示される。ジョナサン役のアンドリュー・バーナップは、舞台『インヘリタンス-継承-』で2020年に【トニー賞】を受賞したアメリカ人俳優。現在はニューヨークブロードウェイ『オセロ』の舞台にデンゼル・ワシントン、ジェイク・ギレンホールと出演している。プレミアム吹替版ではグローバルボーイズグループJO1のメンバー、河野純喜が軽妙に演じている。
8.「The Silly Song」
7人のこびとと白雪姫が歌い踊る陽気なナンバーは、オリジナル版アニメ映画からのクラシックソング。ビジュアル的にも楽しいが、サウンド的にもとびきり楽しい森の中での祝宴を華やかに盛り上げる。歌詞らしい歌詞はなく、掛け声による合唱だが、過去のバージョンには歌詞があったことも。ここでは原語バージョンで収録。エンドレスでリピートすれば、最高のパーティミュージックになるのでは?
9.「二人ならきっと」/レイチェル・ゼグラー、アンドリュー・バーナップ
白雪姫とジョナサンの気持ちが寄り添うロマンチックなラブソング。パセク&ポールが、米シンガーソングライターのリジー・マカルパインと新たに書き下ろした。マカルパインは浮遊感溢れる淡い歌を聴かせる25歳。これまでに3枚のアルバムを発表しており、ナイル・ホーラン、ジェイコブ・コリアー、ノア・カーンらと共演を重ね、まもなく始まるニューヨークブロードウェイ・ミュージカル『Floyd Collins』(原題)に出演する。白雪姫が白馬に乗った王子を待つ女性ではなく、みずから行動する女性であるのがいかにも現代的だ。それを自然に歌って演じることができるレイチェル・ゼグラーの豊かで繊細な感情表現に恐れ入る。
10.「美しさがすべて(リプライズ)」/ガル・ガドット
「美しさがすべて」のリプライズは、ガル・ガドット演じる女王が毒りんごを作りながらおどろおどろしく歌われる。最初はそっと口ずさみながら、だが次第に気持ちがスケールアップして、最後には全身全霊の力を込めて歌われる。ヴィラン好きには、たまらない悪の賛歌であるはずだ。
11.「夢に見る〜Waiting On A Wish〜(リプライズ)」〜12.「私がここに」/レイチェル・ゼグラー
「夢に見る~Waiting On A Wish~」のリプライズは短くはあるが、より自信を持って、決意を込めて歌われる。続く「私がここに」で、平和に対する願いが最大級に放たれる。舞台であれば、観客席から割れんばかりの拍手が巻き起こっているであろうこのシーン。役者にとってもパワフルな喉を披露する最大の見せ場となっている。
13.「愛のある場所(フィナーレ)」
そしてもちろん大団円は、愛と平和を象徴するこの曲が再び登場。幸せを謳歌するかのように皆で歌われる。奪回して勝ち取った平和であるだけに、いっそう強く感情を揺さぶられ、オープニングで初めて耳にした時よりも、ずっと感情移入している自身に驚かされる。思わずスキップしながら一緒に歌いたくなったのは筆者だけではないだろう。
以上がアルバム『白雪姫(オリジナル・サウンドトラック)』の収録曲だが、このほかにデラックス版も配信されており、そちらにはジェフ・モローによるスコアも多数収録されている。映画全編やエンドクレジットのバックに流れていたオーケストラ演奏の素晴らしさに、耳を奪われた人も多いのではないかと思う。これを機会にたっぷり味わってみてはどうだろう。
リリース情報

『白雪姫』オリジナル・サウンドトラック 日本語版
2025/3/20 DIGITAL RELEASE
2025/4/23 CD RELEASE
特設サイトはこちら
公開情報

『白雪姫』
全国公開中
(c) 2025 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.



























