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<インタビュー>水瀬いのり、心の中で紡いできた気持ちを投影したツアー【heart bookmark】映像作品をリリース
Interview & Text:一条皓太
Photo:興梠真穂
水瀬いのりが3月12日、ライブBlu-ray『Inori Minase LIVE TOUR heart bookmark』をリリースする。
2024年8月に発表した、自身初のハーフアルバム『heart bookmark』。海外ロケ初挑戦の水瀬を待っていたのは、華やかなフランス・パリの街並みで、彼女の音楽活動にまた新たな風を吹き込むビジュアル撮影だったとのこと。そんな世界観とテーマを引き継いで開催された、本作と同名のホール&アリーナツアー。全国6都市7公演の中から、収録作には11月3日のLaLa arena TOKYO-BAYでの千秋楽が選ばれており、水瀬がライブ終盤、感極まる姿も収められている。
初めてのパリで見つけた、本当の自分とは? さらには、ライブパフォーマンスを通して印象が変化した曲から、ファン想いなライブ演出の裏側まで。水瀬の本音が敷き詰められたインタビューとなった。
「自分のなかにある“好き”がずっと変わらないタイプ」
――本ライブのステージセットは、“私だけのパリ”をテーマにしたものでした。おさらい的な意味合いでお聞きしますが、ハーフアルバム『heart bookmark』はなぜ、数ある海外諸国のなかでもフランス・パリを撮影の舞台に置くことにしたのでしょう。
水瀬いのり:制作チームのみんなが「水瀬いのりを色々な国に置いてみた!」と、“ifの世界線”を想像してみた結果、ふらっとカフェに入って、フランスパンを買って出てくるようなイメージが合いそうとのことで、パリの街を選んでくれました。たとえば、アメリカだとややシティ感が強すぎたり、そもそも私が海外ロケビギナーだったので、変に気負いせず、歩いているだけで絵になる街が望ましかったり。色々な条件を考慮しつつ、私の気持ちの温度感も大切に現地でのプランを組んでくれたおかげで、あまり緊張せずに撮影できました。
――“おしゃれパリジェンヌ”なイメージですね。パリの雰囲気は、日本と比べるといかがでしたか?
水瀬:街も人も全然違いました。毎朝、ホテルの窓を開けると、石畳の建物がずらーっと並んでいて「東京ディズニーシーにいるのかな?」みたいな気分に(笑)。「この街並みが、ここに住む人たちの日常なんだ」と思うと、こっちまで楽しくなっちゃって。あと海外に行くと、日本の当たり前がよい意味でフラットに無くなるじゃないですか。
水瀬いのり「フラーグム」ライブ映像(Inori Minase LIVE TOUR heart bookmark)
――その感覚、ありますね。
水瀬:日本だったら料理もシェア前提だけど、フランスでは自分の食べたいものを好きに頼む。現地の方々が、自分の道を自由に歩む姿が格好よかったし、私自身も白黒をハッキリつけたい性格なので、海外の雰囲気は合っているのかもと感じましたね。すごく刺激になる5泊7日でした。
――ありがとうございます。“白黒”繋がりでお話を進めると、本作のジャケットデザインがまさに白色ベース。
水瀬:で、ロゴが黒い!(笑)

――(笑)。華やかなイメージだったステージと一転して、とてもシンプルな仕上がりですね。
水瀬:ライブと映像作品で毎回、イメージをがらっと変えてくださるデザイナーさんをすごいなと感じます。今回のジャケットも遊び心豊富だし、なによりキュートですよね。美術スタッフさんに大きな本を用意していただき、私がしおり=heart bookmarkとなって、物理的に挟まってみるという(笑)。お洋服も、ライブロゴやグッズでたくさん使ったピンクとグリーンのものにしていただきました。
――とても素敵です。早速、ライブの振り返りに入って参りますが、本公演のセットリストは水瀬さんご自身が考えたもの。選曲時のテーマなどはありましたか?
水瀬:“heart bookmark”にちなんで、私がこれまであえて言葉にはせず、心のなかでモノローグとして紡いでいた気持ちを曲選びに反映させるようにしました。イメージとしては、希望を歌う楽曲よりもむしろ、自分自身を肯定して、抱きしめてあげたい内情的な気持ちに寄り添うように。結果、普段はあまり前に出てこないシングルカップリングやアルバム曲が多く並ぶ形になりましたね。
――選曲には迷いましたか?
水瀬:試行錯誤はしたものの、アルバム収録曲「フラーグム」ミュージック・ビデオ撮影のメイクをしてもらっている時間中に出来上がりました。1曲目は「We Are The Music」一択だったし、MC明けや着替えのタイミングを考慮すると、わりと決めやすかった印象です。迷いでいうと、スタッフさんに提出した内容にどんな反応が返ってくるのかが気になったのと、欲をいえばもう少しだけ日替わり曲を多めにしたかった……贅沢な悩みですよね(笑)。
――先ほどの“白黒ハッキリ”な性格が曲選びに活かされたのかもしれないですね。水瀬さんは普段からプレイリストなどを作るタイプでしょうか。
水瀬:好きなアーティストさんの曲で作ることがあります。私はいわゆる“B面派”で、カップリング曲好き。色々なプレイリストがあっても、“ツウ好み”の方を選ぶことが多いです。好きな曲も、好きなものもそう。自分のなかにある“好き”がずっと変わらないタイプで、それを軸に生きています。
- 「実感はいつも後からやってくるんです(笑)」
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――ここからの話題は、実際のライブ映像について。本ライブでは『heart bookmark』収録曲すべてをセットリストに組み込みましたが、なかでもステージで披露することで、レコーディング時に抱いていた印象から大きく変化のあった楽曲はどれでしょう。
水瀬:これはもう「燈籠光柱」です。レコーディング当時から、曲中に登場する掛け声はライブ会場のみなさんに歌ってほしいと思いながら収録をしていたので、ライブで歌うことを通してようやく完成した1曲となったのですが……私の想像以上に、会場のみなさんから「やってやるぞ!」の気持ちが伝わってきて。もう「浴びた!」って思えるほどの歓声の量でした。本当にすごかった。足を運んでくださった一人ひとりに握手をして回りたくなったくらいです。
水瀬いのり「燈籠光柱」ライブ映像(Inori Minase LIVE TOUR heart bookmark)
――水瀬さんの喜びようは、映像にもしっかりと収録されていましたよ。うれしさが爆発していました。逆に、レコーディングの際からよい意味でイメージそのままだった曲は?
水瀬:「グラデーション」ですかね。いわゆる“声優アーティストならではの武器”ではないですが、曲中に声色の使い分けが必要なポエムラップのようなパートがあり。レコーディング当時は、ニュアンスの付け方に若干の迷いがあったものの、ライブで歌ってみて「これで合ってた!」とますます自信を持てるようになりました。ステージ照明も含めて、ひとりの世界にぽつんと立って歌うイメージは新鮮でありながら、同時にコンペ当時から表現したいと狙っていた雰囲気でもあったので、よい意味でイメージそのままだったなと。
――この曲を歌っているとき、具体的にどのようなことを考えていたのでしょう。
水瀬:私自身、歌詞の主人公に憑依して歌うことが多いので、この曲もそんな気持ちでしたね。ただ、その上で根底には、ライブを開催できているのは当たり前じゃない。目の前にファンのみなさんがいてくださる現実に、ただ「ありがとう」の気持ちもあって。それに、どんなにステージ数を経験しても、過去の私からしたら夢で見る夢のようなお話すぎて「こんなすごいライブをしていたんだ……」と、実感はいつも後からやってくるんです(笑)。

――それは同時に、ボーカルにどれだけ没頭しているかの証拠になるかもしれませんね。ところで今回のライブでは新たに、すまりさん(須磨和声)によるバイオリンと、にゃんちーさん(若森さちこ)のパーカッションが、お馴染みの“いのりバンド”に加わりました。先ほどの「グラデーション」もそうでしたが、両パートの音色により、さらに表情豊かになったと感じる楽曲をそれぞれ教えてください。
水瀬:バイオリンだと「Starry Wish」。これまで以上にしなかやで、気品を感じるようになりました。バイオリンは、曲終わりに次の展開へのアイキャッチのような役割も担ってくれたし、一瞬鳴るだけでもその場が引き締まるというか。客席のみなさんの視線が弦の方に向くのがとても伝わってきました。楽曲をすごくドラマティックに彩ってくれますよね。
――まさしくです。
水瀬:演奏面とはまた別なのですが、パーカッションでは「Kitty Cat Adventure」などで、振り向けば一緒にポーズを取ってくれていたにゃんちーがとても頼もしくて。初の女性バンドメンバーということもあり、お姉さんができた気持ちでたくさん背中を預けちゃいました。パーカッションは客席からの手拍子のきっかけも作ってくれたし、譜面に縛られない心の鼓動もビートなんだと教えてくれるようなパートでしたね。
――個人的には、ライブ序盤の「Ring of Smile」間奏直前で、みっちーさん(島本道太郎/Ba)がものすごい笑顔になるシーンが印象深かったです。人ってこんなに優しい笑顔をできるもんなのかと。本取材時点では、パッケージ収録のデータがまだ調整中とのことでしたが、あのシーンはぜひ映像に残っていてほしいです。
水瀬:すごーい! みっちーさん、本当にいい顔をしすぎなんですよね。バンマスという立場から、私の悩みや葛藤もたくさん拾い上げて、なんならボーカルの音で感じてすらくれるので、みっちーさんが楽しそうにしていると、私もすごくうれしくなっちゃう。この記事が公開されたら、みっちーさんにリンクを送ります!(笑)

「未来の自分が幸せそうな笑顔をしているのが見えちゃって」
――ライブタイトル曲「heart bookmark」についても振り返りましょう。個人的な話ですが、歌い出しにある<きみの大好きが きみを作ってくよ>の部分がとても好きで。なんというか、“人生”ってそういうものだなと。映像もとても素敵でした。
水瀬:作詞家の岩里祐穂さんに本当に感謝ですね。私自身も、アーティストとしてここまで歩めたことへの卒業証書を受け取った気持ちになった歌詞でした。それこそ、いま挙げてくださった部分は、声優や歌のお仕事を志していた、かつての私の想いが詰め込まれている原点のようなフレーズなんです。曲を聴いていると、色々な葛藤を経て、いまこうして“大好きな私”を作り上げられたことに、本当にしみじみとしちゃいますね。
――落ちサビの<未来のわたしは今日のわたしと歩いてる>は特に気持ちがこもっていて、ステージ上で自身の足元を大きく指差す姿がラッパーのようでしたよ?
水瀬:あはははっ、やばい(笑)。私、そんなことしていたんですね。そうなんですよ、自分が紡ぐ歌詞に泣きそうになることが結構あって。あと、あの曲の落ちサビを歌った瞬間、未来の自分が幸せそうな笑顔をしているのが見えたんです。「今日の私だったら、未来の私に“安心していいよ”って約束できる」なんて思うと、気づけばウルッとする展開に。
――そうした理由が。
水瀬:しかも、後ろには大好きなメンバー、目の前にはファンの方がたくさんいて。幸せにサンドイッチされた空間で、これまで出会ったすべての方々と幸せな人生を歩めている自分が大好きだって、もう迷わず言えるなと。全部にグッときてました。
――すごく……カッコいいです。
水瀬:どうしよう、なんか“刺さった”みたいですね(笑)。

――刺さりまくりです。そういえば、ライブ中盤のMCで「自分なりにやってみたいこと」や「こんなふうに歌いたい」などがあるとお話していましたが、具体的にそれぞれどんなことを指していたのでしょうか。
水瀬:前者は、シンクロライトの導入です。ありがたいことに、どの公演にも私のライブに初参加の方がいらっしゃるので、曲によって「何色にしたらいいんだろう?」と、ペンライトの色に悩む頭のてっぺんを、ステージから見ることが多いんです。
――“ライブあるある”な光景ですね。
水瀬:私自身は「そんなに気にしなくていいよ〜」と思っているのと、可能ならばみなさんの座席はひとつの個室のように。一人ひとりがライブにいる幸福とだけ向き合ってほしいと考えていたので、そうした心の迷いや一瞬流れる現実感を取り払うために、シンクロライトを使ってみたいとお願いしました。
――とても優しいですね。それでは後者は?
水瀬:私の気持ちを歌にのせること。まだ未熟な部分や、もっと磨きたい部分はありますが、“楽しく歌う”という目標は、このツアーで間違いなく達成できたと振り返っています。それもこの10年を通して、バンドメンバーやスタッフさんと色々な話をして、悩みや弱音を隠さずにいられる関係性を築けたおかげ。私のアーティスト活動で、いちばんの財産だと思っています。
――かつてはそれが難しかったんですね。
水瀬:以前の私は、ソロライブ=1人だけで歌うことと決めつけたり、そのせいで「こんなにいい曲なのに、どうして上手く歌えないんだろう」と思い悩むこともあって。曲に乗りきれないのも勿体ないし、「あのときがいちばんよかったな」と、過去を羨ましがるのも悲しいじゃないですか。むしろどんなときも違うから、活動を振り返ったときに最高がたくさん残っているのが理想だと、いまは思えるようになりました。
――最高は“上書き保存”ではないんですよね。
水瀬:本当にそう。最高はフォルダ分けされたもの。“名前をつけて保存”です。これってもう、“heart bookmark”そのものですね。

――最後に“heart bookmark”にちなんで、今年に入ってブックマークしたくなった思い出があれば聞かせてください。
水瀬:つい最近、旅行で香港ディズニーランド・リゾートを訪れたときの思い出ですね。向こうがちょうど旧正月の時期だったのと、ミッキーとミニーちゃんに会いたくて行ったものの、あまりに人気すぎて、私の到着時点でミッキーのグリーディングはすでに締切。ミニーちゃんは「そもそもショーにしか登場しません」と言われてしまって。
――あら。
水瀬:かなりの絶望ぶりだったんですけど、色々調べてみると「近くのホテルに行けば、宿泊者じゃなくてもミニーちゃんに会えるかも?」という情報をキャッチして。頼みの綱を掴む気持ちでいざ向かうと、ミニーちゃんがいたんですーーそこでの私たちの熱いハグ。「香港、永住アリかも!」なんて気持ちが込み上げてきました。たった一度のハグで、あんなに元気を取り戻せた自分の才能にも拍手だし、いまだに寝る前とかにふと思い出して、ニヤってしちゃう思い出です。
――頼むから、日本国籍だけは残していただきたいものです。
水瀬:まだ日本に居ようと思います(笑)。でも、みなさんがイベントなどで推しに会う気持ちが、私もめちゃめちゃわかるんですよね。「みんな、これだよな!」って思いながら、水瀬はミニーちゃんの胸のなかで感涙しました。
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リリース情報
関連リンク
Inori Minase LIVE TOUR heart bookmark
2025/03/12 RELEASE
KIXM-618/9 ¥ 8,800(税込)
Disc01
- 01.OPENING
- 02.We Are The Music
- 03.Sweet Melody
- 04.MC 1
- 05.Ring of Smile
- 06.ほしとね、
- 07.ソライロ
- 08.バンドメンバー紹介
- 09.フラーグム
- 10.Kitty Cat Adventure
- 11.MC 2
- 12.グラデーション
- 13.夏夢
- 14.Short Movie
- 15.スクラップアート
- 16.アイオライト
- 17.MC 3
- 18.八月のスーベニア
- 19.三月と群青
- 20.Starry Wish
- 21.Interlude
- 22.燈籠光柱
- 23.My Graffiti
- 24.glow
- 25.MC 4
- 26.heart bookmark
- 27.Step Up! (ENCORE)
- 28.笑顔が似合う日 (ENCORE)
- 29.MC 5 (ENCORE)
- 30.MELODY FLAG (ENCORE)
- 31.MC 6 (DOUBLE ENCORE)
- 32.Ready Steady Go! (DOUBLE ENCORE)
- 33.Line Up (DOUBLE ENCORE)
- 34.Endroll (DOUBLE ENCORE)
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