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<インタビュー>#KTCHANが妄想恋愛をラップする――メジャーデビュー2ndシングル「ワンチャン」
Interview & Text:whole lotta styles
Photo:筒浦奨太
今年1月、シングル「距離ガール」でメジャーデビューを果たした#KTCHAN。2022年7月開催の【第17回高校生RAP選手権】でラッパーとして活動を始めると、学生生活と対極にある大人たちとのMCバトルに“JK”の青春を捧げる。2024年6月にはアーティスト活動専念を目的にバトルのステージを離れたわけだが、あれから約8か月。彼女はいま、なにを感じるのか。
そこで、2月28日の2ndシングル「ワンチャン」リリースを機に、Billboard JAPANではインタビューを実施。新曲の制作秘話はもちろん、今年成人を迎えての心境から、MCバトル時代の印象がいまだ根強い課題まで、#KTCHANの想いを赤裸々に語ってもらった。アーティストとして真面目な姿勢を崩さぬ取材のはずだったが、終盤のみ彼女の“妄想パニック”が炸裂してしまっている……。その点も含めて読了後、誰もがきっと#KTCHANのことを愛おしく思ってしまうことだろう。
「妄想して、恋愛するのが私のリアル」
――#KTCHANがMCバトルを卒業して約8か月が経過しました。かつての居場所から離れて、ふと寂しいと感じることはありますか?
#KTCHAN:この期間は曲作りにライブにと、目の前のことにだけひとつずつ向き合ってきたので、正直に言うと寂しいと感じる暇もなかったです(笑)。でもたしかに、先輩たちに会う頻度が減って寂しいですね。「カルちゃん(呂布カルマ)に会いたいな。たまちゃん(DOTAMA)も元気にしてるのかな?」なんて考えちゃいます。
――想いを馳せるのはやはり、そのお二人なんですね。
#KTCHAN:そうですね。実は私、LINEの友だちが17人しかいないんですけど、そのうちの一人がカルちゃん。10月に20歳を迎えたタイミングで、カルちゃんとGOMESSさんが地方ライブの時に一緒にお酒を飲んでくれました!
――すごい絵面のテーブルですね(笑)。そういえば、T-Pablowさんが『フリースタイルダンジョン』のモンスターを引退した当時、バトルでディスられることのストレスが減り、肌荒れが治ったという逸話もありましたが、#KTCHANにもなにか変化はありましたか?
#KTCHAN:よい意味で変化はなかったです。強いて言えば、自宅で過ごす穏やかな時間が増えたので、自分自身ともっと対話するようになったかな。曲作りやライブを問わず、どんな仕事にもアグレッシブに、バイブスを上げて挑戦する気持ちはずっと持ち続けようとしていますが、そうした気持ちをさらに強く抱くようにもなりましたね。
――改めて、ここまでお話を聞いたMCバトルを卒業したのも、すべてはアーティスト活動に専念するため。今年1月にシングル「距離ガール」でメジャーデビューを果たしましたが、現状の手応えはいかがでしょう。
#KTCHAN:私の曲がたくさんの方に届いているのがすごくうれしいです。リリース週には「ラジオ・オンエア・チャート」で第1位をいただけたり、“JAPAN Heatseekers Songs”(急上昇中の新人アーティストを抽出したチャート)にもチャートインできたり。全国を巡ってのプロモーション活動など、行ける場所が増えたことにも大きな変化を感じられました。
「距離ガール」
――とても素敵です。さて、数ある候補作があったと想像されるなか、2ndシングルとしてリリースした「ワンチャン」デビュー初期の大切なタイミングで、この楽曲を選んだ理由が気になります。
#KTCHAN:むしろ「ワンチャン」以外は考えていませんでした! というのも、恋する女の子が気になる相手と距離を取ってしまう心情を歌ったのが前回の「距離ガール」。そこから“あの人”とすれちがい、体感0.5ミリくらいの進展があったのが「ワンチャン」なんです。
――いわばシリーズ物なんですね。たしかに「ワンチャン」をリリースするほかありませんね。となると、3rdシングルも?
#KTCHAN:今後のお楽しみです(笑)。
――なるほど。「ワンチャン」というテーマはどのように生まれたのでしょうか。
#KTCHAN:ある日、街を歩いているときにすれ違った人と目が合うか、合わないかみたいな瞬間があったんです。そこでふと気づいて。「もしいまのが好きな人だったら、私は絶対に相手の方すら向かないな」って。私自身が「距離ガール」で描いた恋愛観そのままを生きているのと、ちょうどあの曲を作り終えた時期で、思考回路がそのままになっていて。
「ワンチャン」
――脳内で自然と妄想劇場が始まったと。
#KTCHAN:「相手にとって理想の私であり続けたいから距離を取りそう」「きっと“好き避け”しちゃうはず」「でも、もしこっちを見ていたら、私のことを“ワンチャン”、好きなんじゃないかな?」。こんな感じで、“ワンチャン”から始まる妄想曲があったら面白そうだなと。
――この考え方がすべてではありませんが、ことヒップホップでは“リアル”であることが重視されます。あえて、その対極にある“妄想”を軸に曲作りを続ける理由は?
#KTCHAN:妄想して、恋愛するのが私のリアルだから。リリックで描いているのは空想ではなく、私の現実での恋愛模様。曲の主人公もつまりは私自身です。それこそ、ライトな恋愛曲であればインディーズ時代にも作ってはいましたが、「距離ガール」からはさらに踏み込んで、ありのままの私をさらけ出すようになりました。新たに見つけた自分像もありましたし、そのおかげで「ワンチャン」では妄想が加速して。これが私なりのリアルです。
- 「私の想像を超える曲が生まれて、本当に最高」
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リリース情報
公演情報
【LIVE HOUSE TOUR ‘ワンチャン’】
2025年3月15日(土)愛知・名古屋RADSEVEN
2025年3月30日(日)大阪・北堀江club vijon
2025年4月4日(金)東京・渋谷eggman
チケットはこちら
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「私の想像を超える曲が生まれて、本当に最高」
――#KTCHANは、リリックとフロウだとどちらを先に考えるタイプですか?
#KTCHAN:リリックからです。
――いわゆる“宇宙語”でフロウを考える過程は踏まないと。
#KTCHAN:個人的な意見ですが、先にリリックを完成させないと、トラックやフロウの雰囲気に流されて、私の伝えたいメッセージが100%で乗らない気がするんですよね。なので、リリックとトラック制作は並行作業。ふたつを合わせるのは、本当に最後のタイミングです。
――#KTCHANの手法だと、事前に用意した言葉が小節からはみ出すなど、色々な問題も発生しそうですが。
#KTCHAN:そこがむしろ、私がこの作り方を好む理由なんです! 細かな言い回しを変えることで、さらに面白い言葉の響きが見つかったり。たとえば“アゲ”なバイブスのリリックを書いているとき、ゆったりエモメロウなトラックが届いたら、想像もしていないような化学変化が起こったり。これが本当に最高なんですよ。

――逆転の発想ですね。今回の「ワンチャン」でも“化学変化”は発生しましたか?
#KTCHAN:トラックを聴いた瞬間に「これだっ!」って確信しました! なんか、私みたいな音をしていたんですよね。
――というと?
#KTCHAN:私って、恋すると頭のなかで無限に喋っちゃうんです。「どうしよう?」「あれかな?」「それともこれかな?」「いや違うかも?」みたいな“炸裂パニック”状態にハマりがち。それを代弁するかのようなトラックだなって。
――バグパイプのアラビアや中東っぽさと、アニソンっぽさがどこか漂う、中毒性あるトラックですよね。
#KTCHAN:EDMのようなテイストもありつつ、色々なジャンルがごちゃ混ぜになっていて、これぞ#KTCHANワールド! トラックメイクしてくださったmaeshima soshiさんに、本当に感謝です。
――なぜか癖になるサウンドが、アニメキャラが“糸巻き”のダンスをする1時間耐久動画などとも相性よさそうなので、ぜひ制作のご検討を。
#KTCHAN:わーっ、いいかも! たしかに糸巻きの動きがぴったりそう!
――少し話を戻して、リリック執筆時に韻にはどのような意識を払っていますか?
#KTCHAN:私の場合は、ラップに興味を持ち始めた子にも楽しんでもらえるよう、踏んでいるのが伝わりやすいようなライムをするよう心がけています。完全に母音が一致せずともリズムやメロディでそう聴かせる、いわゆる“音踏み”は避けるようにしていますね。

――では「ワンチャン」で特にお気に入りのラインは?
#KTCHAN:2バース目の<Ah ぐるぐる うずうず あっちから zoom zoom すぐくる すこぶる パニック/私を見たとて まず誰だよって 思われそう 100%>。私の特徴といえる擬音を使いがちなところを聴き心地のよさに上手く繋げられました。音抜きの部分は、maeshimaさんが後から付けてくださったもので、言葉も、想いも、アレンジのアイデアもたくさん詰まったラインになっています。
――レコーディングはいかがでしたか?
#KTCHAN:フックの<ワンチャン>のニュアンスをひたすら詰める時間でした。“ワン・チャン”と切るのか、あるいは“ワ〜ンチャン”と溜めるのかなど、中毒性あるトラックに負けないよう、耳に残るフロウを研究しましたね。
――#KTCHANが考える、この曲が最も刺さってほしいリスナー像はありますか?
#KTCHAN:私みたいに、好きな人ができたら“距離ガール”になっちゃう学生さん。それこそ、違うクラスに好きな相手ができた日には「もう廊下を歩けねえよ!」なんて思っちゃうはず。そんなときはイヤホンで「ワンチャン」を聴きながら、その人とすれ違う瞬間を楽しんでみてほしい!
――そんな“距離ガール”たちも集まる、自身初の東名阪ツアー【#KTCHAN LIVEHOUSE TOUR ‘ワンチャン’】が、3月より開催されます。
#KTCHAN:今回はクラブではなくライブハウスツアーになっているので、ヒップホップ、そして#KTCHANに最近興味を持ち始めた子や、ヒップホップのイベントと聞くと少し尻込みしちゃう子たちにも集まってみてほしいな。これまでライブは東京開催のみだったので、ぜひお近くの会場に遊びにきて!
- 「来世の野望は水になること」
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【LIVE HOUSE TOUR ‘ワンチャン’】
2025年3月15日(土)愛知・名古屋RADSEVEN
2025年3月30日(日)大阪・北堀江club vijon
2025年4月4日(金)東京・渋谷eggman
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「来世の野望は水になること」

――【第17回高校生RAP選手権】出場をはじめ、メジャーデビューにまで至ったアーティスト活動など、弱冠20歳とは思えぬスピード感で人生を切り拓いている#KTCHAN。正直なところ、自身の名前の広がり方に対して年齢的に気持ちが追いつかない節はありませんか?
#KTCHAN:その気持ちはないです。むしろ「この年齢なのに、まだここに居ていいの? まだいけるっしょ?」くらいに感じていますね。
――なんと。
#KTCHAN:たしかに周囲の先輩たちと比較すれば若者ではあるものの、それでも確実に20年間は生きていて。もし人生100年だとしても、5分の1はもう経ったわけじゃないですか。あくまでこれは現時点での私の考え方。これから感覚が変わるかもしれないし、イマのこの瞬間を大切に過ごす必要性も知っています。それでも、アーティストの仕事をしている以上、活動のスピードをもっと加速させなきゃならないです。
――そうした意識を持ったのはやはり、メジャーデビューを経験したから?
#KTCHAN:もちろんこの数か月間で、その意識は高まりました。とはいえ【第17回高校生RAP選手権】当時から同じ考えですね。あの頃から将来はアーティストになりたいと夢見ていたし、#KTCHANチームも変わらぬメンバーでやってきているので。
――とても頼もしい言葉です。一方で、乗り越えるべき課題も様々ですよね。たとえば、MCバトル出身ラッパーのほとんどに当てはまりますが、どうしてもかつてのイメージが強く残りがちで、リスナーをいわゆる“音源”の方へと流入させるのに、長年苦労している印象です。
#KTCHAN:MCバトルのイメージが根強く残ってしまうのは重々理解していて。ただ、あくまで私の捉え方として、最も有効な解決策はシンプルにいい曲を作って、いいライブをたくさんして、アーティストとして多くの方々に認められること。むしろ“認めさせる”くらいのバイブスを持っていたいです。
――もう少し教えてください。
#KTCHAN:MCバトルに出ていた印象が強くなるのは、そこである程度のレベルまで到達できたから。言い換えれば、いまの私があの頃の私を超えられるくらいに成長すれば、そのイメージを塗り替えられるし、私以外のラッパーもきっとそう。それを証明するためにも、バトル時代に思い出深い両国国技館でワンマンライブを開催して、お客さんでパンパンにしたい。その光景を前にして初めて、過去の私を超えられると思っています。
――先ほど、ご自身以外のラッパーについて言及がありましたが、今後はそうした方々と客演曲を作る可能性も?
#KTCHAN:あるかもしれません。ただ、いまは私の世界観や表現を突き詰めるフェーズ。まずは応援してくださる方々に、#KTCHANというイメージを固めてもらえるよう頑張りたいです。
――今後の可能性にも期待です。そういえば、ご自身のYouTubeチャンネルで、頭のなかで曲名、歌詞の内容、アーティスト名が一致していない作品だけを集めた「うっすら」というプレイリストを作っていると明かしていましたね。最近のお気に入りの曲はありますか?
#KTCHAN:そうなんです(笑)。最近だと、セントラル・シーさんの「Doja」とか、リル・ナズ・Xさんの「Industry Baby」。あとは普段からドージャ・キャットさんの曲をよく聴いています。

――セントラル・シーは先日、待望のデビューアルバム『Can't Rush Greatness』をリリースしましたね。
#KTCHAN:しましたね! ちょーカッコよかった。
――そんな海外ラッパーたちはよく、楽曲ストックが「数千、数万曲ある」と発言していますが、#KTCHANの場合はいかがでしょう。
#KTCHAN:これはナイショ(笑)。ただ、私の場合は曲数より、リリックのピースになる部分がたくさんあって。普段から、日常で感じた想いや人生で重要だと気づいたことをノートに書き溜めるようにしていて。過去に残したアイデアのスケッチが、もう何冊もあるんです。それをひとつずつ、着実に形にして世に出さなきゃならないと思っています。
――ありがとうございます。それでは最後に、2025年に“ワンチャン”あれば叶えたい野望を教えてください。
#KTCHAN:世界中を巡る“エビ旅”をしたいです。「距離ガール」のプロモーションで全国に行かせていただいた際、各地のご当地エビを堪能しまくっちゃって。エビに目がない私なので、今度は日本を超えて、世界の絶品エビを食べる旅ができたら……アツくないですか?
――エビの食べすぎは色々と怖くないですか?
#KTCHAN:それはそれで幸せな終わり方かなと。成功したアーティストさんにも、必ずといえるほど葛藤が付きものじゃないですか。ただ、私が野望を語るといつも、現場がこんな感じの空気になるけど……もう慣れてます(笑)。あと、来世の野望は水になることです。
――ん?
#KTCHAN:最初に生まれ落ちる場所はどこでもよくて。たとえば海水になったとしたら、太陽光で蒸発して雲になって。そこから空を飛ぶ旅を楽しんだ後、雨になって森とかに降り落ちて。すると今度は、川下りもできるし、下水のアンダーグラウンドを感じつつ、浄水場で飲み水として綺麗にしてもらって。飲み水になれば人の体のなかも探検できるし、もう私の全身を使って、本当の意味で世界一周ができちゃうじゃないですか!
――下水を“アンダーグラウンド”とヒップホップ的に解釈したのもそうですが、いわゆる取材の“オチ”に用意していた質問を、アーティスト側から自ら広げられたのも10年弱のライター人生で本当に初めてだったので、本当に驚いています……。
#KTCHAN:こんな脳みそを炸裂させて曲を書いているので。これぞ「ワンチャン」妄想パワー!

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【LIVE HOUSE TOUR ‘ワンチャン’】
2025年3月15日(土)愛知・名古屋RADSEVEN
2025年3月30日(日)大阪・北堀江club vijon
2025年4月4日(金)東京・渋谷eggman
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