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<インタビュー>あのときの感覚をもう一度――TOMOOが原点に立ち返る、アニメ『アオのハコ』EDテーマと日本武道館ワンマン【MONTHLY FEATURE】

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Interview:Takuto Ueda

 Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、東京出身のシンガー・ソングライター、TOMOOのインタビューをお届けする。

 幼少期からピアノを弾き、中学時代にはオリジナル曲の制作もスタート。そこから本格的に音楽活動を始めたTOMOOは、2022年8月にポニーキャニオン内<IRORI Records>から1stシングル『オセロ』でメジャーデビューを果たし、2023年9月には待望の1stフルアルバム『TWO MOON』をリリース。その歌声の魅力は、秦基博、藤原聡(Official髭男dism)、Vaundyなど、数多くのアーティストからも支持を集めている。

 1月8日にリリースされた最新シングル「コントラスト」は、現在放送中のTVアニメ『アオのハコ』第2期エンディングテーマに起用。5月には自身初の日本武道館ワンマンも控えるなか、アーティストとして着実なステップアップを重ねているTOMOOの現在地と原点について、話を聞いた。

自分がこれからも残していきたい特性

――TOMOOさんにとって、2024年はどんな一年になりましたか?

TOMOO:どこかで大きな変化や転換点みたいな節目があったというより、ライブにしろ、テレビ出演にしろ、2023年の延長でいろんな活動がもう一歩、もう一段階、先に進んだのが2024年だった気がします。

――着実なステップアップというか。

TOMOO:そうですね。客観的に言えばステップアップという感じだったような気がします。2023年にアルバムを出して、そこから『EIGHT-JAM』に取り上げていただいたりしたのは、年を跨いだ2024年の年始だったので、ちょっと境目が曖昧なんですけど。あと、初めて夏フェスに出たのも去年でした。

――ステージ上から初めて見る景色があったり、そういうところで活動の歩みを実感したりも?

TOMOO:ありました。春フェスは一昨年も呼んでいただいたんですけど、それも去年、ステージが大きくなったり、集まってくださるお客さんが増えたりしていて。数年前まで自分はフェスに縁があるとは思っていなかったんですよ。でも、意外と自然体でいられるようになったというか、馴染んできた感じもありました。あとは、対バンに呼んでいただく機会も増えて、それもすごく大きな刺激になりましたね。


Photo:Kana Tarumi


――なかなか難しいと思いますが、特に印象に残っている対バンを挙げるとしたら?

TOMOO:うーん、全部ですね。緑黄色社会さんはずっと遠目に見ていた同世代で、声をかけてくださった時点でめちゃくちゃうれしかったです。すごくハートフルな場を作り上げて私のことを迎えてくださって。いろいろなものを背負いつつ、真心とかヘルシーな気持ちを持ってたくさんのお客さんを喜ばせている姿を見て、あらためて励みになったし、私ももっと頑張りたいなと思いました。

――11月にはback numberのツアーにもゲスト出演されました。会場は神奈川・横浜アリーナ。

TOMOO:とにかくステージが大きかったんですよ。あんなに大きなところでライブをするのは初めてで。しかも2days。でも、二日間とも客席側からback numberさんのパフォーマンスを見ていたんですけど、横アリなのにライブハウスにいるような気持ちになりました。自分が10代のとき、お客さんが数十人くらいのライブハウスで対バンの先輩を見ていた頃の気分が体感として蘇ってきて、「やっぱり関係ないんだ。むしろ会場が大きいほど、その人たちが与える近さがこんなに浮き彫りになるんだ」「back numberすご!」と思いながら見ていましたね。

――心理的な距離の近さがあった。

TOMOO:はい。同じ11月に対バンしたBREIMENはある意味、ずっと私の音楽ルーツ的な存在でもあって。もともと私、しっとり静かな映画のエンディングみたいな曲を書くことが多かったんですよ。雑な表現ですけど(笑)。それが10代の頃の自分の特質で、BREIMENと知り合ったのもその時期だったけど、20代前半の頃には接点も増えて、音楽的な影響も少しずつ受けるようになって、私自身の音楽性もだんだん変わっていった。そんな大きなきっかけになった存在と久しぶりに対バンする機会だったので感慨深かったです。

――「Cinderella」や「夢はさめても」など、高木祥太さんがプロデュースで参加した曲も多いですよね。

TOMOO:そうですね。何度もお願いしました。以前はちょっとコンプレックスを感じていたんですよ。私はああいうふうに踊れる曲を作れないし、ああいう音楽の取り入れ方もできないから、ちょっと境界があるように感じていて。でも、今はそんなふうに思わなくなりました。対バンでは私のバックバンドもBREIMENだったんですよ。「こういうアレンジできるんだ」とか「生音だけでも全然いけるんだな」とか、ライブにおける曲の在り方や可能性に気づくことができて、そこでも大きな刺激と影響を受けた気がします。




TOMOO - Cinderella【OFFICIAL MUSIC VIDEO】



TOMOO - 夢はさめても【OFFICIAL MUSIC VIDEO】


――この数年間の活動を経て、アーティストとして自信が生まれてきたからこそ、過去のコンプレックスも乗り越え、今に至っているという実感はありますか?

TOMOO:ありますね。自分が編曲を全部できるわけじゃないから、ちょっと真似事というか、かじって取り入れているだけ、みたいに思っちゃうこともあったけど、でも、ポップスって東京駅とか横浜駅みたいな、いろんなものの中継地なのかなと思っていて。自分が感覚的に欲しいと思ったものを、人の力を借りてエッセンスとして取り入れる。そういうことをあまり卑下しなくなりました。10代の頃はポップスって、よりコアな音楽とかルーツが色濃い音楽に対して、ちょっと劣位にあると思っていたんですよ。

――分かります。どうしても分かりやすい刺激や個性に惹かれてしまう時期だからこそ。

TOMOO:でも、活動を続けていくうちに「やっぱりポップスって大変だよ」と思って。どちらかに転びきれない綱渡りみたいなことをずっとやっているような感じ。そういうことを続けてきたおかげで、そろそろ板についてきたというか、自分を肯定できるようになってきた感じはありますね。遠目に見ていたミュージシャンの方々との縁もできて、「こんな人も聴いてくれるんだ」「こんな人が手を貸してくれるんだ」と思うなかで、そんなに卑下しなくていいなと思えたんだと思います。

――「TOMOOとは、こんなアーティストである」と今、自己紹介するとしたら、どんな言葉で表現すると思いますか?

TOMOO:陰陽、新旧とか。歌詞の一部を切り取って「人生経験が豊富なように見える」というコメントをもらうときもあれば、逆に「少年少女性を残しているように聴こえる」と言われるときもあるんですけど、それは自分がこれからも残していきたい特性というか、時代観として新旧を混ぜていきたいと思っているし、陰と陽が両方あるのも自分の個性だと思っています。明るくてもセットで陰りがくっついてきたり、陰りがあってもその先にほんのり光が見えてきたり。歌にしろ、コード進行にしろ、サウンドにしろ、全部にそういう特徴があるだろうなって。

――むしろ特定のカラーに染まり切りたくない?

TOMOO:そうなんですよね。「TOMOOといえば赤だよね」「青だよね」と言われると「なんか違う気がするな」って。どちらかと言えば、それを映し出せる透明な器みたいなものだと思っていて。自分の中に発信したいことが常々あるというより、その時々にそこに入ってきたものを器として、形として見える状態にしておきたい。10代の頃は「私らしさって何だろう」とか、自分を分かりやすく可視化できる何かが欲しかったけど、「そうじゃなくてもいいかも」と思い始めたのが最近かもしれないです。

――20代前半ぐらいまでは「自分はこういう人間だ」「こういう大人になるべきだ」みたいなアイデンティティを追い求めがちですよね。

TOMOO:「個性をもっと、さあ」みたいな無言の何かが働いていたような気もする。

――TOMOOさん自身はどんなふうに向き合って、折り合いをつけていきましたか?

TOMOO:「時が経ったら何かが変わるのかな」と思っていたら、そんなに変わらなかったから「だったら、そういうもんなのかもな」と思ったのかもしれないですね。今は活動を続けてきた12年間があるけど、当時の自分はまだ振り返るだけの過去がなかったし、考えられることが浅かった。だから何かを頑張ったり、もっと苦悩したら自分が見えてくるものだと思っていた。でも、別に見えてこなかったという。

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何もない状態でピアノと向き合って

――そういう気づきは創作に影響していると思いますか?

TOMOO:でも、作り方は昔からあまり変わってないんですよね。だから変化みたいな形としては現れてないかもしれないけど、「自分の思ったことや考えていることは、歌詞の中でちゃんと言ったほうがいいかも」みたいな意識にはなったかもしれないです。もともと「自分の考えなんて伝わらない」寄りだったけど、「伝わるかもしれないし、共鳴する人がいるかも」寄りの気持ちで書くことが増えました。

――最初は「伝わらないかも」寄りだったんですね。

TOMOO:ずっとそうでした。普通に喋っていても「何を言っているか分からん」と周りの人に言われ続けてきたので(笑)。「私って変なのかな」と思ったり、自分が安心安全すぎる人生を歩んできたので、人に届くような曲、共感を得られるような曲が逆に書けないんじゃないかと思っていたときもありました。今はそんなこと思わないですけど。そういうものが沈殿して、蓄積して、発酵して曲に昇華していく流れはあったのかなと思いますね。

――TVアニメ『アオのハコ』第2期エンディングテーマの最新シングル「コントラスト」は、まさしくリスナーやアニメの視聴者から大きな共感を得ている楽曲なんじゃないかと思います。オファーの率直な第一印象はどんなものでしたか?

TOMOO:お話をいただいてから原作を読み始めたんですけど、あの透明感と爽やかさで、しかも自分より10歳ぐらい若い子たちの気持ちに寄り添えるのかなと思いつつ、でも自分が10代の頃は本当に素でそういう曲を書いていたし、そういう作品の主題歌もやりたかったよねって。なので、うれしかったです。

――楽曲のイメージについて、事前にアニメ制作サイドからリクエストがあったりしたのでしょうか?

TOMOO:2期は恋模様もけっこう動くので、お話ごとにハイライトになる情緒が違うけど、それぞれに浸透するような曲だとうれしい、というのは最初にお聞きしていました。

――映像でフィーチャーされていたのは雛でしたね。

TOMOO:そうですね。ただ、原作を読んでいくなかで、特にメインの3人である大喜、雛、千夏先輩のいろんな印象的な場面をノートに書き出したりしたんですけど、それって実は自分も思ったことがあるものばかりで。それぞれのキャラクターのセリフや心情、あるいはモノローグや表情に自分もシンクロしながら歌詞を書いていきました。結果的にサビは雛を強く感じるなと自分でも思うけど、でも、大喜目線の言葉も全然あるし、「ここの歌詞は千夏先輩っぽいよね」と言ってくださるリスナーさんもいたりして。




TVアニメ『アオのハコ』第2クールノンクレジットED │ TOMOO「コントラスト」


――自分にとって新しかったり、新鮮に感じる表現が引き出されたような感覚もある?

TOMOO:あると思います。いつも以上に曲のキャラクターがシンプルに感じたと言っている方もいたんですけど、ある意味それもそうで。自分が置かれているその時間、その季節、その環境という限られた“ハコ”の中で、目の前の瞬間に集中しているシンプルさでもあるし、まだあまり免疫がない状態でうれしいも悲しいも全身で味わっている感じのシンプルさでもある。まさに自分が15歳ぐらいの頃にどんなことを思っていたか、その感覚を呼び出せるように原作を読みながら歌詞を考えていきましたね。

――作詞が先でした?

TOMOO:最初にメモをたくさん書いたので、そういう意味では詞先だけど、サビはほぼ同時だったかな。ボイスメモでアカペラを残しながら作っていたのは覚えています。Aメロはピアノに向かって、歌詞もない状態から作りました。それこそ10代のときみたいな作曲のやり方でしたね。初恋がどんな気持ちだったかを思い出しながら弾いていたら、あんな感じになりました。思ったより結構しんみりしちゃったんですけど。でも、「これは頭で考えたわけじゃなく、五感の記憶が染み出てきたものだから、これでいこう」みたいな。何もない状態でピアノと向き合って、感覚とか素直な歌心みたいなものが先行していく感じ。そういう作曲は久しぶりでした。

――編曲の江口亮さんは初タッグですよね?

TOMOO:そうです。私が希望しました。自分が二十歳ぐらいのときから江口さんのことは意識していて。小学生、中学生の頃に好きだったアニメの楽曲も、江口さんの編曲がたくさんあったので、いつか自分がアニメに関わる機会があったら江口さんに頼みたいと思っていました。自分が思った以上にストレートというか、素直な曲が出来上がったので、どこかにエッジを効かせたいと思っていて、江口さんは私の中で漠然とそういう編曲をしてくださるイメージがあったんですよ。でも、結構いろいろ変遷しましたね。具体的にどんなアレンジにしたいか、私の中で定まっていたわけではないので、何方向か試させていただいて。

――キャッチボールを重ねながら?

TOMOO:初期はもうちょっと骨太なバンドサウンドだったんですよ。でも、作曲の時点で結構ハートフルに作ったので、風とか空とか建物の影とか、そういう環境としての涼しさみたいなものを想起させる要素が欲しくて、打ち込みのリズムとか、すごく遠いけどストリングスみたいに聴こえるエレキのかき鳴らしを入れてもらったり、ちょっと構築的でクールな感じを足してもらって、温度感のバランスを図りましたね。


Photo:Kana Tarumi


――そして、5月には初の日本武道館公演が控えています。どんなライブにしたいですか?

TOMOO:今まで以上に妥協しないライブというのが一つ。どのライブも決まったスケジュールの中で最大限やってきたけど、今回は話し合って、準備期間をできるだけ取っているので。あと、これはいつも言っていることでもあるけど、「近かったな」みたいに思ってもらいたいんですよ。自分がお客さんとして見に行ったライブでも、ステージに立つ人たちが近くに感じた経験ってすごく印象に残っていて。それってうれしいことだと思うんです。ずっとファンでいてくれている人も、ふらっと来てくれる初めての人も、距離とか関係なく「妙に近く感じたな」という気持ちを持って帰ってほしいんですよね。

――そういうマジカルな体験ってありますよね。

TOMOO:何年か前にsumikaの武道館を見に行かせてもらったとき、片岡さんがMCで「武道館はお客さんの顔がよく見える場所」とおっしゃっていて。それを聞いて、自分もお客さんを近くに感じるし、お客さんも自分を近くに感じてもらえる武道館というのを、一つの大事な目標にしたいなとずっと思っていて。あと、妥協しないライブの中に含まれそうだけど、なんだかんだ音に圧倒されるライブを作りたい。

――おお、楽しみです。

TOMOO:ずっと武道館は集大成とか節目とか、そういう一つのゴールだろうと思っていたんですよ。そこから2章が始まる、みたいな想像もしていたけど、いざ自分がそのステージに臨むとなったら、それもだんだん違うような気がしてきて。それは来てくれる人それぞれの感覚とか心持ちに任せればいい。なので、原点に立ち返っています。心理的な近さと音。活動を始めたばかりの頃、フロアライブをやったことがあるんです。前後左右にお客さんがいるなかで、始まる前は少し怖かったけど、ライブ中はすごく集中していたし、一瞬一瞬に緊張感があって。ドキドキしながら燃えていた、あのときの感覚をもう一度思い出したい。そういう気持ちを携えて武道館に臨みたいと思っています。


Photo:Kana Tarumi


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