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<インタビュー>十勝で過ごした5年間のドキュメンタリー ――ZIONが語る2ndアルバムの手応えと、ビルボードライブ公演への意気込み

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Interview:森朋之
Photo:Shintaro Oki(fort)

 ZIONが2ndアルバム『Countryman』をリリースした。

 光村龍哉(Vo/Gt)、櫛野啓介(Gt)、吉澤幸男(Gt)、鳴橋大地(Dr)、佐藤慎之介(Ba)によるロックバンド、ZION。北海道・十勝に拠点を置いている彼らは、2022年12月に1stアルバム『SUN'n'JOY』を発表し、全国ツアーを開催。その後もEP『Mountainphonic』のリリース、アコースティック編成のツアー、対バンツアーを行うなど、独自の活動を繰り広げている。

 Billboard JAPANでは光村龍哉、吉澤幸男、佐藤慎之介にインタビュー。アルバム『Countryman』の制作、バンドの現状、さらに5月に行われるビルボードライブ公演について話を聞いた。

だいぶ自然と調和してきました

――2ndフルアルバム『Countryman』がリリースされました。前作『SUN'n'JOY』から約2年のインターバルがありますが、この2年間はZIONにとってどんな期間でしたか?

光村:めちゃくちゃ忙しかったです。今もその渦の中にいるんですけどね。

佐藤:ハハハ(笑)。

光村:もちろん制作もずっとやっていたんですけど、僕らはマネージャーがいなくて、あらゆることをメンバー5人でやっているので。決定権は自分たちにあるから、嫌でも納得はできるんですけど、やることが多いんですよ。みんなで集まるたびにホワイボードにToDoリストを書き出して、締め切りを決めて。そういう生活を2年続けてきました。

――十勝に拠点を作って、今年で5年目ですよね? 途中で「メンバー以外の人に手伝ってもらったほうがよくない?」とはならなかった?

光村:そうなった結果、レコーディングにエンジニアの人を呼ぶようになりました。前回のアルバムはミックスまで含めて全部自分たちでやっていたから、録音ボタンを押す人さえいなかったんですよ。ベースの慎ちゃんにパソコンの前にいてもらって、ボタンをお願いして。

佐藤:自分で押してから演奏していました(笑)。

光村:作品が完成したことが奇跡ですよ。

吉澤:制作しているときの記憶もないです(笑)。

光村:一体、どうやって仕上げたのか(笑)。でも、どうしても「せーの」で録りたかったんですよね。「ドラムから順番に」というやり方が一番現実的だとは思うんだけど、それはやりたくなくて。今はエンジニアの方にお願いしているので、ずいぶん楽になりました。「レコーディングってこんなに楽しいのか」と思ったし(笑)、ずっとやっちゃいますね。




ZION - 1st EP『Mountainphonic』LOG


――広大な土地にある自分たちのスタジオなので、時間的な制限はないですからね。ロックフィールド・スタジオ(ウェールズ近郊にあるレコーディング・スタジオ)を自分たちの手で作ったというか。

光村:確かに、ほぼロックフィールドと言っていいでしょうね(笑)。

佐藤:でも、ずっと忙しかったんですよ。1stアルバムのあと、CD付きの手紙を販売したり、EP(『Mountainphonic』)も出していて。ずっと作りモノが続いていた感じです。

――ライブの数も増えましたよね。

佐藤:そうですね。ライブが一番楽しいし、個人的に“生きている”という感じが一番するので。ZIONを始めたときはコロナ渦だったんですけど、ライブを重ねるごとにお客さんも心を開いてくれた感覚があって。「楽しんでくれているな」という実感もあります。

吉澤:ライブに関しては、1本1本に対してきちんと趣旨を持たせていて。「次はこういうライブにしたい」ということをメンバー全員で決めて、それに向けてアレンジを変えたり、構成を考えているんですよ。それも全部手作りなんですけど、一つひとつ意図を持ってやれているのもいいなと。

光村:そういう志向のメンバーが集まっていてよかったです。原曲通りに演奏するのって、1~2回やると飽きちゃうんですよ。

吉澤:「もっと良くなる」と思うしね。

光村:そうそう。去年の【Another Mountainphonic】ツアーのときはアコースティック・アレンジにして。曲数が増えているわけではないけど、アレンジが何パターンもあるから、感覚的には100曲くらいあるような気がする(笑)。

佐藤:そうかも(笑)。

光村:「次はどれでいく?」みたいな話もするんですけど、そういう志向のメンバーが集まって、自然と足並みが揃っているのは奇跡だと思いますね。




――去年9月には、十勝でのライブイベント【MYSTERY TOUR「Live in White House」】も開催。十勝に滞在している時間ってどれくらいなんですか?

光村:月一くらいで行っていて、1回行くと2週間くらいいるから、1年の半分は十勝ですね。5年目なので防寒の方法とか、いろんなことが分かってきて。

吉澤:初年度は“顔が冷たくて起きる”とかありました(笑)。

光村:顔がカチカチになって(笑)。今はそんなことないですね。

佐藤:薪ストーブの正しい使い方も覚えたしね。

光村:メンバーとはもともと東京で出会っていて、みんなパキパキのシティボーイズなんですよ。十勝で5年間暮らして、だいぶ自然と調和してきました。

――東京よりもストレスが少ないのでは?

光村:ストレスの種類が違うんですよね。たとえば十勝にいると、吉野家に行きたいと思ったら車で1時間くらいかかるんですよ。往復で2時間だからなかなか行く気にならない(笑)。風呂に入るにしてもそうだけど、何をするにも時間がかかる。そのぶん音楽だったり、バンドというコミュニティに向き合える時間は濃厚に味わえるんですよね。実際には5年だけど、もっと一緒にいるような気がします。

佐藤:うん。朝から夜まで同じ部屋にいて、寝る前とかに「今日、ずっと喋ってたな」って思ったり。

吉澤:東京とは違う“拡大された時間”があるというか。

光村:みんなで音楽聴いたり、ライブ映像見たり、人生観みたいな話もして。「この先、どうなったらロックバンドってカッコいいだろうね」とか……。そういう意味では、ロマンチストの集まりなのかもしれないですね。

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ドキュメンタリー性がある

――では、アルバム『Countryman』について聞かせてください。前作に続き、メンバー同士でコライトした曲が多いですね。

光村:曲の書き方は特に決めてないし、こだわりもないんですよ。今回は曲を書いた人が歌詞の第一稿を出していて。ちなみに慎ちゃんの曲は処女作です。

――「Petit Revolution」ですね。

佐藤:初出しです(笑)。

光村:慎ちゃんがデモを作ってきたんですけど、基本的にはそのままですね。ただ、俺や櫛野がギターを弾いて、さらに幸男さんが入ってきたりすると、かなり雰囲気が変わるんですよ。慎ちゃんのデモはブルージーでファンキーだったけど、啓ちゃんが弾くとロビー・ロバートソンみたいな濃い口の何かが混ざったり。




――バンドらしい制作プロセスですね。「Countryman」「Newel」「Dreams Come Through」「Memuro Hill」は吉澤さん、光村さんの共作。

吉澤:曲は昔からずっと作っていたんですけど、歌詞に関わったのは初めてで。いい経験になりました。

光村:今回は幸男さん曲が一番多かったんですよ、結果的に。幸男さんが作ったデモがどれもカッコよかったし、「全部採用!」みたいな感じで。

――音楽的な方向性を決めていたわけではなかった、と。

光村:コンセプトみたいなものはまったくなかったですね。「アルバム作って、長いツアーをやりたいね」というところから作り始めたんですけど、みんながどんな曲を書いてくるか全然分からなかったので。もちろんヘンな曲は書いてこないだろうなという安心感はあったし、それぞれのキャラがちゃんと出ている曲が集まったなと。「これが5年間、十勝でひたすらお喋りし続けて生まれたバンドのグルーヴか」っていう。

吉澤:ドキュメンタリー性があるんですよね。せーので曲を作り始めて、プリプロして、レコーディングして。出来上がったものをこの並びで聴くと、この2年間で撮った写真を見ているような不思議な感じがあるんですよ。

光村:ずっと一緒にいるし、曲を作って、一緒に演奏して。そのなかで研ぎ澄まされたところもあるだろうし、結果的に出てきたものは「すごく俺らっぽいな」と思います。自分たちで聴いていても「このバンド、おもしれえな」と思えるアルバムになったのもうれしいですね。

――メンバーそれぞれの音楽的なルーツも色濃く出ているし、バンドとしての個性も滲み出ていて。ロックバンドとしてのオーソドックスな佇まいと、圧倒的なオリジナリティが共存しているというか。

光村:そうですね。あと、ここまでUKっぽくなるとは思ってなかったです。十勝って霧がちで、わりと曇っているんですよ。その雰囲気がもしかしたらイギリスやアイリッシュに近いのかもしれないですね。ちょっとした暗さを孕んだものに惹かれている感じがあるなって、完成してから思いました。




――吉澤さん、佐藤さんもイギリスのロックは通っていますよね?

吉澤:そうですね。どの時代も好きというか、それぞれに面白味があって。

光村:幸男さんの「『ジギー・スターダスト』(デヴィッド・ボウイ)にすべてを狂わされた」っていう話が大好きなんですよ(笑)。

吉澤:(笑)。中1のときにTSUTAYAでいろんなCDをレンタルして聴くようになって。そのなかの一つが『ジギー・スターダスト』だったんですけど、「めちゃくちゃカッコいい」と思って、ヘッドフォンで爆音で聴き続けていたんです。自分で言うのもアレなんですけど、僕、それまですごく頭がよかったんですよ(笑)。テストも勉強しなくてもいい点を取っていたんだけど、『ジギー・スターダスト』を聴くようになってどんどん頭が悪くなってしまって。

――衝撃を受けすぎたのかも(笑)。

吉澤:その後、ボウイのいろんなアルバムを聴いて。【リアリティ・ツアー】の武道館公演がちょうど中学の卒業式だったんですけど、早めに学校から帰ってきて、観に行きました。

佐藤:この話のあとだとかなり薄まっちゃうんですけど(笑)、僕はそんなにイギリスの音楽を通っていなくて。楽器を始めるタイミングで、周りにブルース好きのおじさんたちがいたから、そこが入口になっているんですよね。今も(UKロックは)詳しくないんですけど、レディオヘッドの『OKコンピューター』はすごくいいなと思いましたね。ビートルズも最初はよく分からなかったんだけど、あるとき「すごいヘンなバンドだな」と気がついてから、楽しく聴けるようになりました(笑)。

光村:ビートルズをあまり知らないとか言いながら、「ポールっぽくやって」って言うとめちゃくちゃやれちゃうのが気持ち悪いところですね(笑)。幸男さんの『ジギー・スターダスト』と同じくらい、僕の人生を狂わせたのがビートルズの“ホワイトアルバム”(『ザ・ビートルズ』)なんですけど、あのアルバムのゴッタ煮感、めちゃくちゃ安心するんですよ。今回の『Countryman』はその感じがあるなと思っていて。

吉澤:うん。

光村:“ホワイトアルバム”って作ろうと思っても作れないじゃないですか。メンバーそれぞれのキャラが放射状に存在していて、それがギュッと集まっていて。そんなバンドをやってみたいとずっと思っていたから、そういう意味でもめちゃくちゃうれしいんですよね。

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自分たちが知らないZION

――なるほど。タイトル曲「Countryman」については?

光村:「どういうテーマで歌詞を書こうか?」という話をしているなかで、「“Countryman”ってどう?」というアイデアを出したのがきっかけですね。幸男さんがデモを作ったんだけど、キメのところで“Countryman”って歌っているのが聴こえた気がしたから、そのまま活かしました。

――〈この町で散ると俺は決めた/カントリーマン〉というフレーズも印象的でした。

光村:そこでは“この町”って歌っているんですけど、僕のなかでカントリーは“田舎”というより“この国”とか“この世”みたいな意味なんですよ。いいことも悪いことも、便利なことも不便なこともあるけど、この国で生まれて、この国で死ぬんだよなっていう。それを音楽にできたらカッコいいんじゃないかなと。東京と十勝という正反対の生活を味わって、でも、それは同じ日本で、2025年の今だっていう。そういうことをミクロにもマクロにも歌えたら、自分たちがやっていることのリアリティにつながると思ったんですよね。




――ご当地ソングはたくさんあるけど、“国”や“この世”を歌ったカントリーソングはないかも。

光村:そうなんですよ。ただ、十勝に行ってアメリカのカントリーロックみたいなことをやるのは一番ダサいじゃないですか。もちろんザ・バンドの『ミュージック・フロム・ビッグ・ピンク』みたいなやり方も意識していたし、「それを自分たちらしくやって、説得力を持たせるためにはどうしたらいいだろうね?」という話もずっとしていて。

――それを形にしたのが「Countryman」なのかもしれないですね。「Memuro Hill」という楽曲には、十勝地方の風景が色濃く描かれています。

光村:拠点にしている“White House”の近くに芽室町というところがあって、そこの景色がすごくいいんですよ。買い物や食事に行くときもわざわざそこを通ったりするんですけど、この曲のデモを幸男さんが作ったときに、もう一人のギターの櫛野が「Memuro Hill」という仮タイトルを付けて。

吉澤:まさに「この5年間、十勝で過ごしてきた」というインスピレーションで作った曲なんですけど、自分としては芽室を意識していたわけではなくて。でも、あらためてその場所を見たら「確かにこのイメージだな」と。興味がある方はぜひ実際に見てほしいですね。

――土地と繋がっている音楽でもあるんですね。アルバムリリース後は、2月から3月にかけて全国ツアー【TOUR 2025 Journey of A Countryman】が開催されます。(※取材は1月)

佐藤:『Countryman』の曲をライブでやったことがまだないので、演奏したらどうなるか。まだ分からないですね(笑)。

吉澤:そうだね(笑)。去年の【Another Mountainphonic】ツアーもそうだったんですけど、演奏してみて曲の持っている別の面に気づくこともあるので。

光村:まだどうなるか、全然分からないですけどね。アルバムのレコーディング中も「ライブでどうやったらいいのかな? セットリストどうする?」みたいな話はしていたけど、みんな「(笑)」の状態だったので。もちろんライブでやって楽しい曲ばかりだと思うし、自分たちが知らないZIONが待っている気がします。

――そして5月には東京、大阪でのビルボードライブ公演も。こちらはどんなステージになりそうですか?

光村:アコースティック・スタイルのツアーを去年初めてやったんですけど、その側面も非常に大事にしていて。ビルボードライブ公演はその今年版というのかな。『Countryman』の曲たちも違う形で演奏してみたいと思っています。アルバムのツアーとは180度違う感じになるんじゃないかな。




ZION - Thunder Mountain(Another Mountainphonic△2024.5.19)


――座席があって、お客さんが食事やお酒を楽しんでいる状況はどうですか?

吉澤:すごくいいと思います。

光村:めちゃくちゃ合うんじゃないですかね。俺ら、けっこういろんなところでライブやっているんですよ。帯広の競馬場で、トレーラーの上で演奏したり(笑)。

佐藤:あったね(笑)。

吉澤:そういえばビルボードライブ東京で光村くんに偶然会ったことがありましたね。

光村:ネナ・チェリーのライブだよね。あれはいいライブでした。

吉澤:あとこの前、トッド・ラングレンのチケットを取りました!




――素晴らしい。最後に、ZIONのこの先のビジョンについて聞かせてもらえますか?

光村:ここしばらくの夢というか、目標としては、自分たちの拠点にお客さんを招くというのがあって。White Houseの周辺はけっこう広大な土地なので、そこを整地して、たくさんのお客さんに来てもらいたいんですよね。去年、その計画がついに動き出したので、さらに広げていきたくて。今年も何かしらやりたいし、とにかく「十勝にお客さんを呼ぶ」というのが自分たちの夢ですね。

――「東京ドームでライブ」みたいな目標とは真逆ですね。

光村:そうかも(笑)。なんていうか、「こういうバンドもいたほうが面白いでしょ」という感じもあるんですよね。さっきも言ったように本当にメンバーだけでやっているから、自分たちの体力とか労働力にかかっているんですけど(笑)、それが一番健康的じゃないかなと。反骨精神みたいなものもあるけど、やっぱりロマンチストなんでしょうね。

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