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<鼎談>音楽マネジメント会社代表が語る、日本の音楽シーンの今と未来



インタビューバナー

Interview:松島 功
Interview Photo:板場 俊
Text:Billboard JAPAN


 ストリーミング・サービスの浸透、ショート動画プラットフォームの出現、無所属・新興事務所アーティストの躍進、K-POPのシェア拡大、J-POPの本格的なグローバル進出など、日本の音楽を取り巻く状況は、この10年で大きく変化した。今回、ビルボードジャパンでは、そんな激動の10年をリードした音楽マネジメント会社の代表3氏による鼎談をお届けする。

 メンバーは、Eve、HoneyWorksなど動画サイト出身のアーティストが多数所属するインクストゥエンターの代表取締役社長 田村優氏。あいみょん、C&Kなど数々のストリーミング・ヒットを世に送り出してきたエンズエンターテイメントの代表取締役社長 丸野孝允氏。きゃりーぱみゅぱみゅ、新しい学校のリーダーズなどグローバルに活躍するアーティストを輩出し続けるアソビシステムの代表取締役 中川悠介氏。3氏はともに1980~81年生まれ、クラブカルチャー育ちの同世代だ。

 3人でインタビューを受けるのは、2015年以来およそ10年ぶり。この10年に起こったさまざまな変化について、今もなお最前線で奮闘する3氏のリアルな声を聞いた。

この10年で一番変わったこと

――この座組のインタビューは2015年以来、10年ぶりとなります。今も頻繁にお会いになっているんですか?

中川:月3,4回は会ってるかな?

田村:今週2回目だもんね。

丸野:今日の夜も一緒だし(笑)。

――10年間、情報共有はずっとし続けてらっしゃるんですね。

丸野:そうですね。10年後も元気にやれててよかったなぁ。

中川:たしかに。また次の10年生きてるかってわからないからね。

――10年経って、ストリーミング・サービスやTikTokなどの動画プラットフォームが急速に普及しましたが、マネジメント的にどんなことが大きく変わりましたか?

丸野:音楽は聴きやすい環境になりましたよね。音楽に触れる機会が圧倒的に増えたはず。

中川:新曲じゃなくてもいい時代になりました。「シングル出すぞ、プロモーションだ!」みたいなところから変わってきた。

田村:でも、マネジメントにはそんなに変化はないかな。そのなかで”個”が出てきていい時代になった。

中川:DIYアーティストがすごい増えましたよね。

――インクストゥエンターは、エージェント型の表記のアーティストが多くいらっしゃいますよね。

田村:DIYのアーティストとか、クリエーターのエージェントとか、サポート業務をやっています。今はボカロPとか歌い手が増えました。

――エンズエンターテイメントは?

丸野:うちはいないですね。一つ一つ大事に時間かけて、一人一人とちゃんと向き合ってっていう方針でずっとやっています。

中川:うち(アソビシステム)は、エージェントっぽいクリエーターもいますけど、ほぼマネジメントですね。だから、10年で変わったのは、レーベルが事務所始めて、事務所がレーベル始めて、というところですかね。でも、僕らより後発の事務所は完全に代理店事務所か、クリエイティブ事務所かじゃないですか。僕らが最後のザ・事務所世代。

――最近出てきたところ、ほとんどそうですもんね。インフルエンサーがいて、そこに音楽をやってる人がいる。

中川:「IPエージェンシー」みたいなね。

――メジャーレーベルとのお付き合いは、この数年でどう変わりましたか?

田村:僕のところは特に変わってないですね。

中川:僕は全然、付き合わなくなりましたね。仕事としては。

――事務所だけでも出来る領域が多いからでしょうか。

田村:いや、できないこともある。メジャーは絶対必要。DIY、事務所所属、メジャーと組む、みたいに技が増えましたよね。10年前は今ほど技がなかったじゃないですか。

丸野:たしかにそうですね。いろんなやり方、選択肢が出てきた。

中川:フルコースのメジャーレーベルから、アラカルトな選択肢が増えました。

――そのなかで、みなさんが今、面白いと思う事務所さんは?

田村:僕はこっちのけんとさんの所属事務所(blowout Inc.)。

中川:プレイリストの流行らせ方、うまかったですよね。僕は乃紫さんが所属しているMR8。ここはインフルエンサーも混ざってますね。


▲中川悠介氏(アソビシステム株式会社)

――中川さんの目線で、この10年の音楽業界の変化で一番大きい変化って何でしょう?

中川:僕らってずっと業界にいて動いてるから、少しずつアップデートされていく感じなんですよね。逆に松島さんはどう思いますか?

――「使うものになった」ってところじゃないですかね。聴くだけじゃないものになった。これはいい意味も悪い意味も含めて。

中川:たしかに。うちのタレントも、カメラ向けたときにポーズ決めるか、動くかで、年代が変わる。カメラ向けられたら固まりません? でも、若い子たちってカメラ向けたら動くんですよ。動画ネイティブですよね。

丸野:10年後も生きていくには、そういう環境の変化に対応していくことが大事ですよね。

――この流れで、今後、新規で御社にマネジメントに関与されるようなアーティストがいた場合、これだけは必ずやってくれということはありますか?

田村:日々勉強すること、何でも経験すること。あと体が資本なので健康管理。

丸野:仕事だと思わないで楽しくやってほしい。自由に自分を表現してほしい。もちろんルールは守った中で。

中川:やっぱりうちのスタッフが好きでいれる人と仕事したいなって思います。

丸野:それはめっちゃ大事だと思う。スタッフが一番最初のファンじゃないですか。

中川:どんなに才能があっても、スタッフに愛されない人は無理だと思うし。

丸野:それができない人は長く続かないですよね。どれだけ仲間を増やせるかが大事だと思う。人が人を呼んで、どれだけその輪を大きく出来るか。


▲丸野孝允氏(株式会社エンズエンターテイメント)

DIYができる時代にマネジメント会社がある意味

田村:この10年で大きく変わったこと、ありますよ。K-POP。(K-POPグループに)10年前は日本人もっと少なかったじゃないですか。

丸野:たしかに。10年前よりK-POPの存在感あるもんね。

田村:あと、この10年で変わったと一番感じているのは、ファンダムが大きいアーティストと、ストリーミングでヒットを持っているアーティストが別になったこと。どっちもヒットじゃないですか。ヒットの形がいろいろできたのかなと思いますよね。

丸野:でも、15年前の着うたのときもこういう感じだったじゃないですか?

中川:ライブ入らないとか。

丸野:そう。ファンが作れてなかったから続かなかったり。

田村:それと同じような現象はTikTokでも起きてるよね。やっぱり総合力が大事なんだろうね。


▲田村優氏(株式会社インクストゥエンター)

――そこで並走できるのは、マネジメントの一番大きなメリットですよね。

中川:お金を稼ぐだけだったら、絶対自分でやったほうが早いですから。

丸野:でも、全部を自分でやるのって難しいと思う。自分のことを一番わからないのって自分だと思うんですよ。例えば写真を撮られたとして、どの写真がいいかってあんまりわからないと思うんですよね、自分だと。

田村:最初はね。中盤からはいけるかもしれないけどね。

丸野:それを僕らは「この角度がいいと思うよ」とか「この歌はこの声の領域が一番かっこよく聞こえると思うよ」とか、サポートしてあげたり、助言できる。売れた後もいろんな人と関係性を保ち続けなきゃいけないし、作り続けなきゃいけないから、一人でやるのは無理だと思うんですよね。使う脳も違うから。だから、パートナーをちゃんと入れて、いろんなことをシェアしていくほうが結果的に大きくなるんじゃないかな。

中川:最近、エンタメじゃない取材で「レコード会社、要りますか」とか「事務所、要りますか」って質問されるんですよ。僕は両方、なくならないと思ってる。技が増えただけで、自由なやり方もある分、逆に事務所の価値は上がっているんじゃないかな。

――僕もそう思います。さきほどの新しいマネジメント会社の話に少し近いのですが、この数年で、すごいと思ったアーティストはいらっしゃいますか?

田村:Vaundy。2019年デビューで、5年でここまで来ていて、すごい才能だと思います。今ロンドンに住んでいて、自分でグローバルアーティストになろうとしてる。24歳でそこまでできるのってすごい。

――動員もストリーミングもすごいですからね。どっちも強い。

中川:僕はYOASOBI。ストーリーメイクの仕方とか、仕掛け方とか。音楽をああやってストーリーで売れるすごさと、才能とのぶつかりのすごさ。あれこそ事務所とチームがある意味がある。

丸野:YOASOBIって、田村君が作ってきたボカロカルチャーの最高傑作。

田村:ボカロや歌い手のようなインターネットカルチャーの中からは、そうかもしれませんね!

中川:アイドル文脈でいうと、K-POPは長年育成するじゃないですか。一方、日本はデビューして何年経っても、もう一回デビューできるというのがあると思うんですよ。ME:Iもそうですし、(YOASOBIの)Ayase君もそうじゃないですか。そういうセカンドキャリアって、ちょっと前までなかった。

――それはいいことなのかもしれないですね。

田村:めちゃくちゃいいですよね。

丸野:素晴らしい。

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J-POPのグローバル元年は2025年?

――今、YOASOBIの話も出たので、グローバルに向けてのお話をお聞きしたいです。

中川:グローバルに向けてこの10年で変わったのは、やっと日本の業界が一つになろうとしているということですね。

丸野:それはすごい変わったと思う。

田村:それもやっぱりK-POPがぐーんと伸びたから。「どうやったらK-POPに勝てますか」みたいなね。

中川:ずっと国の会議に出てきて言い続けたオールジャパンみたいなことが、やっとできるようになった空気はすごい感じる。

丸野:この10年で目線が変わったと思う。みんながグローバルの話をするようになった。10年前、話してるのはこの辺だけだった気がする。

中川:俺はすごいうれしいです。今年(2024年)コーチェラ行って思ったんですけど、きゃりーぱみゅぱみゅが出た2年前、コーチェラに日本人、全然いなくて。でも今年行ったら「こんないるんだ」って。

――この2年でもそれだけ変わったってことですよね。

中川:変わりました。だから、2025年のアワード(『MUSIC AWARDS JAPAN』)も頑張りたいです。


▲【コーチェラ2024】には、日本からYOASOBI、新しい学校のリーダーズらが出演

――みなさんそれぞれ、所属アーティストの海外公演多くなってますよね。

中川:めちゃくちゃ多いですね。韓国では日本のフェスみたいなのもあるし(【WONDERLIVET】)。

田村:それ、俺、行ってきました。

中川:個社で戦ってきたこの10年間があって、やっと国も、業界団体も、プレーヤーのみんなも、まとまりだしている。

丸野:僕は、本当のグローバルのヒットが出るのはもうちょっと先かなと思ってます。若いときから世界を意識してやってる子たちが大人になって活躍して、そこで初めて本当のグローバルヒットが出るかなと。僕らの世代ってそんなにそこを意識して育ってきてないから手探りでやっているけど、最初から意識してる人たちはもう情報の入れ方が違うはずだから。

田村:5年、10年はかかるかもですね。

丸野:僕らは橋渡し役ですよ、たぶん。

田村:言語も重要ですよね。僕らは全然、英語しゃべれないけど、やっぱり英語しゃべれないと。韓国や中国の人ってみんな英語しゃべれますからね。

中川:韓国人って、ソウル、ロサンゼルス、釜山の順に人口が多いって言いますもんね。

田村:2025年にやるアワードも英語ベースでやるってことになってるよね。だから、ちょうど2025年が元年なんじゃないですかね。

――僕、NewJeansがデビューしたときに、良い意味で違和感があって。「グローバル・ガールズグループ・デビュー」って文言がなかったんですよ。韓国はデフォルトがグローバルだから。

丸野:今売れてる韓国のアーティストは、絶対小さい頃から世界を意識していたと思う。もうそれが大きく違う。日本も時間はかかるけど、一個一個積み重ねてくしかない。それをみんなでやらないと、単発で終わっちゃうだけなんですよね。

――お三方ともクラブカルチャー出身だから、早い段階でグローバルを意識できていたんだと思います。みなさんの世代のDJって最初から海外志向高いパフォーマンスだったじゃないですか。

田村:そりゃそうだよね。

中川:この辺の世代のクラブってかっこよかったですよね。

丸野:かっこよかった。

中川:クラブ時代からの知り合いで、今も業界で活躍している人結構います。

――あの時代を生きた人はサバイブ力が強いのかもしれませんね。あとグローバルな部分で期待してること、もうちょっとこうなったらいいなみたいなことってありますか?

中川:さっき言った通り今の世代じゃないかもしれないし、すぐにじゃないと思うけど、やっぱり打席に立ち続けないと、東南アジアに負ける気がしています。勝ち負けじゃないですけど、すごい速度で追い抜かされそう。日本のやるべきことは、もっとみんなで打席に立ったほうがいい。

田村:(東南アジアも)英語ネイティブが多い。マジで日本だけでしょ、こんなにしゃべれないの。

丸野:本当だよね。小学校からちゃんと教えてほしかったね、英語。

田村:それ、思いますよね。小学校からやりたかったね。

中川:ブルーノ・マーズとBLACKPINKのロゼみたいなことができないと、グローバルヒットは出ないと思う。それには英語しゃべれないと無理なんですよ。


▲ROSÉ & Bruno Mars「APT.」

――最後に、10年単位でもそうでなくても、今後、エンタメ業界においてどんなムーブメントが起きるか、予測を教えてください。

田村:コロナ禍を経て、インターネットやスマホがむちゃくちゃ普及したじゃないですか。そのおかげでグローバルに流行らせる力が大きくなってきたので、それを使って僕らも頑張りたい。プラス、リアルなイベントや会場も増えてきたので、ハイブリッドに活用してやっていくムーブメントが、最新のエンタメの形なんじゃないかなって思います。今、ロンドンでやってるABBAのバーチャルライブとか、ラスベガスのSphere(球体型アリーナ)とか、そういう面白いものがどんどん流行るムーブメントになってくるんじゃないかな。

丸野:10年でいろんなものがどんどん変わっていくと思うんですよ。また新しいデバイス出るかもしれないし、新しいSNSも普及するだろうし、流行も変わっていく。それに変化に適応していくことが一番大事かな。

――アーティストにもそれを頑張ってもらうってことですね。

丸野:そう。だから、ちゃんとみんな毎日遊んで楽しんで、それを当たり前に利用し続けていくってことですね。

――当たり前にしていくのって大事ですよね。さきほどのグローバルの話もそう。

丸野:仕事と遊びって、特にこの業界だとあんまり境がないから。遊びながら色々経験して吸収したものを出していくのは大事かな。ずっとそれをやり続けないと。やっぱり自分たちが楽しんでないと、人を楽しませるエンターテイメントは作れないと思う。

中川:僕は、AIの発達が人間の才能のライバルになるって言う人と、ならないって言う人がいるじゃないですか。そのなかで本物のクリエーターこそ、AIを楽しんでるなと思っていて。何が言いたいかっていうと、結局は人間のあたたかさというか、作り出すクリエイティビティが勝つ。それをサポートするためにAIは発達していくのだと思っています。
そういう世の中になると、やっぱりエンタメやってるんだから楽しまなきゃいけないんじゃないかな。仕事だけど仕事じゃない。やりたくてやってるし。楽しみ方をどんどん時代で変えていって、いつまでも遊び続けられるっていうのが、この業界の花だと思います。それを後輩たちに見せていかなきゃいけない。

――いいですね。年齢的にもそういうフェーズですよね。

丸野:ね。そういう歳になっちゃったから。

田村:それでいうと、10年経って一番変わったのは、歳取った。10年後、誰かが体壊してるかも。

中川:危ないです、俺(笑)。

丸野:10年後も元気に会いましょう。

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