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<コラム>藤井 風と“Feelin' Good”な時間をもう一度……LIVE Blu-ray&CDの注目ポイントを紹介
Text: 柴那典
藤井 風がLIVE Blu-ray&CD『Fujii Kaze Stadium Live “Feelin' Good”』をリリースした。今年8月24日と25日に神奈川・日産スタジアムで行った自身最大規模のワンマンライブ【Fujii Kaze Stadium Live “Feelin' Good”】を収録したこの作品。2日間で14万人を動員したライブは、藤井 風のアーティストとしての魅力をありありと伝えるものだった。類まれなるミュージシャンシップに、卓越したエンターテイナー精神。スタジアムライブらしからぬリラックスした自然体の佇まい。そしてオーディエンス一人ひとりに親密に寄り添う、愛に満ちたマインド。筆者もライブに訪れたが、約2時間のステージはとても幸福な余韻を残す体験だった。
作品は、ライブをさまざまな角度から深く掘り下げた内容になっている。現地に訪れた人はその日の興奮を追体験できるだろうし、これまで藤井 風のことをよく知らなかった人も、なぜ彼がここまで多くの人を惹きつけているのかを実感できるようなものになっている。
Blu-rayは2枚組で、DISC 1には8月25日の公演を中心に編集されたライブ映像が収められている。監督はライブの演出も担当した映像作家の山田健人だ。DISC 2には公演の舞台裏を追った約70分のドキュメンタリー『Feelin' Good (Documentary)』が収録。こちらは映像作家のエリザベス宮地が監督を務め、撮り下ろしインタビューでは藤井がライブのコンセプトや自身の思いを率直に語っている。そしてCDには藤井自身がセレクトした16曲が収められている。その見どころや聴きどころを紹介していきたい。
ライブにはさまざまな仕掛けや演出があったのだが、映像はそれをよりわかりやすく楽しめるようなものになっているというのがポイントだ。オープニングは、スタンド席に突如サプライズで現れる藤井の姿からスタート。歓声が湧き上がる中、ゆっくりと階段を降り、観客との至近距離を歩いて、アリーナ中央の芝生に置かれたグランドピアノに向かう。オーディエンスの驚きと歓喜の表情もリアルだ。
草木が生い茂る階段や橋やガレージなどが立ち並ぶ、まるでテーマパークのような雰囲気のステージセットにも目を見張った。「ネイチャー」を感じられるものにしたいという藤井 風の思いのもと、山田健人が土の質感やガレージ内部の小物など細部のディティールまで突き詰めて作り上げたものだという。背後には巨大なLEDビジョンがそびえ立ち、そこに映し出される街や空などの映像と融合して一つの世界を感じられるような設計になっている。
ダンサーたちのパフォーマンスも見どころの一つだった。特に中盤の「きらり」や「キリがないから」では、藤井とダンサーたちが一糸乱れぬダンスを披露。自由闊達にピアノを弾きながら歌うイメージが強い彼だが、ダンスパフォーマンスにもスター性を感じた。
ドキュメンタリー『Feelin' Good (Documentary)』で藤井 風が語ったことによると、今回のライブには「青春」というキーワードもあったのだという。ダンサーたちと肩を組んで揺れながら歌った「青春病」や、8ビートのパンクロックにアレンジされた「旅路」など、スタジアムに集った7万人と青春のみずみずしいエネルギーを分かち合うような瞬間も、ライブのハイライトのひとつになっていた。
Blu-rayが映像として完成度の高い作品になっている一方、CDはライブの臨場感を音源として堪能できるような仕上がりになっている。今回のバンドメンバーは、バンドマスター&キーボードにYaffle、ギターにTAIKING(Suchmos)、ベースに小林修己、ドラムに佐治宣英、パーカッションに福岡たかし、そしてバッキング・ヴォーカルにARIWA(ASOUND)とEmoh Lesという面々だ。「燃えよ」のファンキーでダンサブルなビート、「死ぬのがいいわ」の分厚いハーモニーなど、ライブならではのアレンジも聴きどころだろう。
振り返ってみれば、藤井にとっての2024年は多くの挑戦を成し遂げてきた1年だった。5月から6月にかけては自身初の北米ツアー【Fujii Kaze and the piano U.S. Tour】を行い、ロサンゼルスとニューヨーク公演は共にソールドアウト。10月から12月にかけてはアジア10都市をまわるアリーナツアー【Best of Fujii Kaze 2020-2024 ASIA TOUR】を行い、こちらも大盛況のうちに幕を閉じた。
2024年にリリースされたのは、山田智和の長編映画初監督作品『四月になれば彼女は』の主題歌で自身5曲目のストリーミング1億回再生を記録した「満ちてゆく」と、プロデューサーにA. G. Cookを迎え7月にリリースされた「Feelin' Go(o)d」の2曲のみだったが、他の楽曲制作も意欲的に進んでいるようだ。スタジアムライブやアリーナツアーは現時点でのキャリアの集大成を見せるような場になったが、2025年は藤井 風の新たなモードを見せてくれる機会にも期待したい。
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