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<インタビュー>LiSA 全国アリーナツアーで決めた“戦い続ける”覚悟――今だから持つ自信と不安、そして至った新曲「QUEEN」
Interview & Text:小栁大輔(Interview inc.)
Photo:Shintaro Oki(fort)
このインタビューはLiSAの新曲「QUEEN」の配信タイミングに合わせて収録させてもらったものだが、主題は新曲の“前段”になっている。具体的に言うと、まさに今真っ最中の全国ツアー【LiVE is Smile Always~COCKTAiL PARTY~[SWEET&SOUR]】についての独白で、LiSAはこれまでのどのライブとも違う挑戦をしていると語ってくれている。デビュー14年。今、ジャンルのトップを張り続けてきたLiSAが、今LiSA自身に課したハードルとは何だったのか。その覚悟の独白を多くの人に知ってほしいと思う。
新曲「QUEEN」は、作曲こそ共同名義でLiSAも入っているが、作詞をMAQUMA(FZMZ)が手掛けていて、歌い手LiSAにとって自由に、第三者に求められる世界観を正確に、強く歌い抜くためのスタンスで制作された楽曲と言える。ツアーを通して背負うことを決めたLiSAの重責と、どこまでも自由に羽ばたく新曲「QUEEN」。その見事に相関する二軸関係を意識しながら読んでもらえたら嬉しい。
インタビュー冒頭から中盤まで、現在進行中のツアーのセットリストに触れています。各々でご注意いただきながら、読み進めてもらえたらありがたいです。
自分が心配していた“大人のなり方”に自信を持てた
――今まさにツアー中ということで。LiSAの実感としてはどう?
LiSA:(9月28日、29日の)横アリ観てほしかったー! 久しぶりのアリーナツアーということもあって、初めて観る人もそうじゃない人も楽しめるライブ作りを意識していて。空間をライブハウスで作るのとアリーナで作るのでは全然違うんですけど、今回はどちらかと言うとエンタメ寄りな感覚で。横浜アリーナで初めてライブをやったのは(デビュー)5周年の【LiVE is Smile Always -NEVER ENDiNG GLORY-】で、そのあとが平成最後の横浜アリーナ(2019年【LiVE is Smile Always~364+JOKER~】)で、今回が3回目なんですけど、そのふたつで歌っていた曲たちが意図せず入っていたりするから。「シルシ」を久しぶりに歌っていて。「Catch the Moment」とあわせて、「シルシ」は、私にとって大事な曲のひとつだったから、それを歌い続けられる自分でいなきゃいけない。歳を取ってキャリアを重ねていくと歌えなくなってくる曲としても、いちばん大きな存在だったから。その曲たちを歌い切れたということも含めて、自分が心配していた“大人のなり方”に自信を持てたのが、この間の横浜アリーナだったんですよね。
――そうかそうか。
LiSA:“久しぶりに帰ってきた場所で、私はまだちゃんと「シルシ」を歌えた”という安心感がありました。
――「シルシ」を歌えるかどうかというのは、歌い手としてのスキルや体力というテクニカルなことにおいてなのか、マインドにおいてなのか、それはどっちなんだろう?
LiSA:いちばん大きなものは、テクニカルな部分ですね。「Rising Hope」とか「Catch the Moment」も似ているんですけど、歌の意味として歌えないというよりも、体力と歳を取ることへの不安を抱えた状態で試される楽曲だから。子どもの頃は意図せずできていたことが、大人になると計画しないとできなくなっていくなあと感じる。その代表曲なんですよね。調子が悪いと歌えないから、「シルシ」は。
――「シルシ」はこれまでずっとそうだったよね。
LiSA:母がライブに来て、「今日は『シルシ』歌うのやめてよ!」って言うんですよ、その日の調子があからさまに出るから(笑)。でも、今回は2日間違うコンセプトだけど、どちらの日もマストで「シルシ」を入れて自分にハードルを課しているんです。ライブをしながら小栁さんが言っていたことを思い出す場面がたくさんあるんですよ。ライブ中というよりも、このツアーを重ねながら。小栁さんが“いつもLiSAはステージの上で戦っているよね”って言ってくれるのを思い出して。今回のツアーも戦っているんです。それは、余裕のゴールを設定していないからで。少し前だったら、ゴールできないことが怖くて“ちゃんとしたエンターテインメントで、ちゃんとしたライブを作ろう”“お金を払ってくれている人たちに対して、ちゃんといいモノを見せてあげられることをちゃんとやろう”と思っていた。でも、今回はすごく派手なライブだし、全力にならないといけないと思ったし、みんなが好きなLiSAはステージで戦っている姿なんだろうなと思ったんですよね。
――うんうん。
LiSA:それは血を流して曲を作るということだけではなくて、誠実に向き合うこと、その時間に精を尽くすということ、今できる自分のすべてをそこに尽くし続けるということが、私の精一杯の感謝の込め方だなと思ったから。自分に挑戦し続けて、ハードルを越えるために努力することは、たぶん私が“LiSA”としてやらなくてはいけないことだなと、ツアーをやりながら日常でいろんなことを感じて、考えたんですよね。だから、今回(のセットリストには)古い曲もめちゃくちゃ入ってるし、私にとっていちばん難しい「oath sign」も入ってるし。ライブを作る時に“今できること”ではなくて“今やらなくてはいけないこと”――できる/できないは置いておいて、やらなくちゃいけないこと、LiSAとしてやるべきことを今回のライブには詰めました。
――今回のツアーってさ、パーティーじゃない? ツアーを発表した時も、“パーティーだからみんな集まって!”という触れ込みだったよね。でも、そのパーティーに入っていく手前でLiSAとして何をステージに懸けるのか、どういうステージなのかを設定し直して覚悟したという、そういう話なんだと思うんだけども。“パーティーしよう!”という当初の計画と、今話してくれたライブの本質には大きな乖離があると思うんだよね。
LiSA:そう、そもそもは“今のLiSAとしてやることをやらなきゃいけない”と思って作っていったライブではなかったんですよ。その違いは、ツアーが始まってライブをやりながら感じたことです。それまでは、ただただ驚かせたくて、パーティーを楽しませたくて組んだライブでした。やっていくなかで自分が勝手にエモーショナルになって、勝手に覚悟を決めて。昔は、会社終わりの人がふらっと観に行くような音楽をやりたかったはずなのに、今はそういう気持ちでライブができなくて。来てくれた人全員がいい思いをして帰ってほしい。なんとなく来てくれた人の日常に入り込むんじゃなくて、非日常がライブであってほしいと思っているんだなって、今回のライブを作って思いました。
――初めてLiSAを観る人も当然いるだろうし、もしかしたら最後の人もいるかもしれないしね。その人たちすべてにLiSAはどういうLiSAを見ていてほしいのかを今まで以上に設定できたのかもしれないね。
LiSA:うん。私もいつできなくなるかわからないから、「今の私をマジで観ておいたほうがいいよ」って思っています。それは、私の音楽がどうだっていう話ではなくて、ここまでやったら“LiSA”をやり続けられるという今のマックスと精一杯を注いでいるし、本当にいつまでやれるかわからないから。
――うん、まさにその言葉に尽きると思う。昔から言ってはいるよね、“今のLiSAをいつまでできるかわからない”って。モードチェンジして歌っていくLiSAはいるかもしれないけど、この疾走するLiSAはいつまでできるかわからないという。本当に“このLiSAは今日までかもしれない”というね。
LiSA:そう思います。肉体疲労も年齢もあるし、「シルシ」も「Rising Hope」も歌えない日はあるから。こういう曲を歌うために日々を過ごして、それでやっとできている状態なんです。できない日も知っているし、いつまでできるかわからない、いちばんそう感じているのは私自身。たぶん、【メガスピーカー】(2015年開催【LiSA メガスピーカー in 幕張メッセ国際展示場】)の時はできたんです。あの時は何もしなくても「シルシ」は怖い曲じゃなかったし、「Rising Hope」だって怖い曲じゃなかった。だけど、今はそれが歌えることで安心できるというか。自分の身体が変わっていく感覚がすごくあるから、余計に怖かった。“ああ、ここが使えなくなるんだ”“これができなくなるんだ”みたいな。できなくなることを実感していた時だったし、“今日もLiSAができた!”という安心感と不安と恐怖がこのツアーにはあります。
――本当に明日歌えなくなるかもしれないからね。まさにその不安と恐怖、ハードルを越えることの安心感、“今日も私は私の人生をまっとうできた”という達成感に向き合わざるを得なくなったんだね。パーティーなんだから「シルシ」も「Rising Hope」もやらなくていいエクスキューズが本当はあるはずなんだよ。
LiSA:そうなんですよ! だけど、挑戦しないでいられなかったんだと思う、私は。戦わないという選択肢がなかった。“やらなくていい”と言われても、ちゃんと戦う自分を置いておきたいし、ちゃんと自分を奮い立たせたい。それが礼儀だと思っちゃっているところがあるんだと思います。“自分で血を流さないと伝わっている気がしない”という性質は変わらない。どこかしら自分が傷ついていたり、怪我していたり、やり尽くさないと、やっぱり逃した時に後悔するし、その人に伝わらなかった時に後悔する。そう思う性質は変わらないんだなと思いましたね。
ワクワクすることを自分で仕掛け続ける
――それはすごく大きな話で。ただ続いていくものなんてないし、何にだって終わりはあるという。そういうことをLiSAは生き方のなかで感じられたということだと思うんだよね。それはどうしてなんだろうね。
LiSA:なんでなんでしょうか。
――年齢や経験からくる心の変化かもしれないけれど、振り返ってみたら、何かがあったんじゃない?
LiSA:うーん……若い子が元気だから、かな(笑)。
――ああ、それは非常にクリティカルな答えだね。本当にそういうことなんだと思う。でも、ここまで最前を張ってやってきた人間の生き様と説得力は唯一無二のものであって。その唯一無二の在り方をお客さんに見せないとダメだと思ったんだね。ハタチの子が流す血よりも、今のLiSAが流す血のほうがリアルだと思うし、グロテスクな言い方をさせてもらうのであれば、観ている側からすると面白いものだよね。
LiSA:うん。自分がグッとなれる、自分が感動できるものは、エンターテイナーとしてもシンガーとしてもやっぱりそういうものなんですよ。私はホンモノが好きです。自分がホンモノでいるためには、それをやるべきだと思った。
――いろんなものがバズる時代で、そのバズらせ方であったり、バズるスピード感もいろいろある。でも、信じられるものは、“自分がホンモノであるかどうか”ということだけだったりするという話でもあるね。
LiSA:自分の曲が売れようが売れなかろうが、私がやっていることは何も変わっていないわけで。曲の作り方も、曲への愛情も、音楽も、ライブも。でも、それがホンモノなのか、なんとなくやったことなのか、誰かに言われてやったのか、作られたものなのかは、どんな時代でもどんな曲でも嘘をついちゃいけないな、って。アーティストとして大事なのはそれだけのような気がします、私は。というか、LiSAにとっては。
――時代は移り気だからいろんな風を吹かすよね。でも、ホンモノには何度も追い風が吹く。それは来週かもしれないし、10年後かもしれないけれど、ホンモノにはもう一度風が吹く。ただその追い風を受けられる唯一の条件は、ホンモノであるということというかね。ホンモノであることを諦めたら、その追い風は受けられないよね。
LiSA:そう思います。それを続けるのは大変だな、って。続けるモチベーションも――私、キックボクシングもピラティスも本当はやりたくないもん。何もやりたくないし、何も考えずに寝たいもん。
――でも、やるよりしょうがないんだよね。
LiSA:はい。そうであるべきだと思っています。
――今がいちばん戦っていると思うよ。でも、そのタイミングがなんでパーティーでくるかなあ、って(笑)。
LiSA:あはははは! 登っていくためのモチベーションを持ち続けることは簡単なんですよ、登っていくために計画をすればいいだけだから。だけど、続けていくためのモチベーションを作るのはすごく難しくて。それはだから……みんながただ喜んでくれるものを作り続けることではないなと思ったんです。自分が楽しめるもの、そこに注げるものを作っていく。LiSAなりのやり方で言うと、ワクワクすることを自分で仕掛け続けるというか。
――なるほどね。そうじゃないと続けられないということだよね。人に求められるものを素直に作る時もあるけれど、それだけをやっていくことは、LiSAにはできないという。そういうことだよね。
LiSA:うん。
“再生機”としての自信はあるから、
どんな曲であってもLiSA色に塗り替えられる
――この1、2年、LiSAは、楽曲を高橋優くんやamazarashiの秋田ひろむくんに書いてもらったりしてきて。それはきっと、LiSAが自分を楽しませて、そして、歌い続けていくためにやっていることだったんだと思う。
LiSA:そうだと思います。
――そして、今回の「QUEEN」もそういう曲だと思う。
LiSA:そうです。そもそも自分で自分のことを「QUEEN」とは言わないと思いますし。
――どちらかと言うと禁句にしてきた言葉だよね、「姫」禁止(笑)。
LiSA:あはははは!
――どういう経緯で作っていった楽曲なの?
LiSA:甘いものを食べたあとは、辛いものを食べたくなるじゃないですか。そういう気持ちです。辛いものを食べたくて、HONNWAKA88さんに“辛いものを食べたいなあ”って相談して作っていきました(笑)。『シャングリラ・フロンティア』という作品がLiSAという人にすべて託してくれたから。経緯としては、『シャングリラ・フロンティア』の1クール目のオープニングをFZMZがやっていたから、その流れだったらこの作品では“辛いもの”が歌えるなと思ったし、作品に対しての理解度も私に対しての理解度も持っているMAQUMAさんに作詞の相談をしました。
――LiSAが歌詞を書くという選択肢もあったと思うんだけども、自分で書きたいという欲求は、今LiSAのなかでどういうふうにしまってあるの?
LiSA:その時にいちばんいい方法、その作品と曲にとって誰が書いたほうがいいのか――私は、歌を届けるうえでの“再生機”としての自信はあるから。シンガーとしてのキャリアもあって、みんなに愛してもらえる自信はあるから、その作品と曲がよりよくなるためには今、誰に筆を取ってもらうのがいいのかをファン目線で考えてみて。今はLiSAの言葉ではなくて、その楽曲が面白いものになることのほうがいいと思いました。
――いみじくも“再生機としての自信がある”と言ってくれたけど、若い頃は、再生機としての自信だけでは自分を奮い立たせられなかったのかもしれないね。でも、今は再生機としての自分を素直に楽しめるというフェーズに入っているという言い方もできるのかな。
LiSA:ああ、そうですね。楽しめていると思うし、みんなが自分自身のことを理解してくれたということが大きいと思います。私が歌詞にしなくても、筆を取ってくれる人や受け取ってくれる人がいるから。自分の拙い言葉で1から100を説明しなくても、それを受け取って、表現をしてくれる人がいるから、よりよいクリエイトの方法で作ることができているんですよね。たとえば、私のことを全然知らない人に“LiSAはピンクなんです”と紹介したとしても、ピンクにはめちゃくちゃ種類があるじゃないですか。だから、ピンクと言われた時に薄いピンクを想像する人もいれば、濃いピンクをイメージする人もいると思うんですけど、“LiSAのピンク”と言われてショッキングピンクを想像してくれる人がたくさんいるんですよ。LiSAを認識してくれている人たちが(たくさん)いることが、“託せる”幅が広がっていることに繋がっている気がしています。
――それは、今までLiSAがやってきたことへのある種のご褒美というかね。頑張ってきたことの成果を今最大限活用できるようになったということだよね。その変化はどこで感じたの?
LiSA:高橋優さんが書いてくださった「拝啓、わたしへ」が私にとっては大きかったかも。
――そうなんだ。
LiSA:優さんとはあまりお話ししたことないんですよ、昔の人の恋文みたいなやりとりしかしたことがなくて(笑)。私は優さんの作品に対して共感するところや好きなところをお伝えしていただけで、優さんからもそのお返事として「拝啓、わたしへ」をいただいたんです。そうやって、私の人間としての本質を理解したうえで、音楽として曲を書いてくれる人がいたことに感動したというか。先輩(田淵智也)とか(堀江)晶太くんはいつも近くにいてくれる人たちじゃないですか。そうではない方にLiSAというものを一生懸命説明して、それをわかってもらえた気がしたんですよね。再生機としての自信はあったからどんな曲であってもLiSA色に塗り替えられると思って、その間口を広げられることができたんですけど、優さんに曲をいただいて実感しましたね。
――これからも、LiSA自身も楽曲を書いていくとは思うんだけれども、必ずしもそうでなくてもLiSAはLiSAをまっとうできるようになっているし、LiSA本人がそう思えている。それはすごく重要なことだよね。
LiSA:でも、そろそろ血を流して伝えていく場所が必要かもしれないと思っています。それを待っている人がいる気がするから、どこかのタイミングでちゃんと自分と向き合って、自分自身から出さないといけないなと。
みんなに“LiSA”というものを認識してもらえていたから、続けられた
――それで言うと「QUEEN」は、任せる部分は任せたうえで、LiSAは再生機としての自分をやり切るという作り方において、最大限自由度を高めた曲だと思うよ。
LiSA:うん。この曲はHONNWAKA88さんと一緒に作ったけれど、メロディの歌メロとしての重要度はそんなに高くないと思っていて。どちらかと言うと、楽曲としての構成と編曲とサウンド感と、MAQUMAさんの歌詞がいちばん重要だと感じているから、メロに対しては遊ばせてもらいました。LiSAとしての自分が振る舞いたい自分で、音楽をしました。あとは、邦楽として、日本のアニメとして、自分が踏んできたレールの上でちゃんとやりたかったんですよね。サウンドがヘヴィであっても自分ひとりで再生できるものを作りたかった。
――「QUEEN」っていうタイトルはどういう経緯でつけたの?
LiSA:MAQUMAさんがこの曲のなかで私を「QUEEN」と名付けました(笑)。でも、『シャングリラ・フロンティア』だからこそ、作品に寄り添ってもいいのかもしれないと思ったんです。ツアーでも歌っているんですけど、お客さんも喜んでくれていていいなと思いました。私が自分で言っているわけじゃなくて、あくまでMAQUMAさんが「QUEEN」と名付けてくれているわけですし(笑)。
「QUEEN」MUSiC CLiP / LiSA
――すごくいい変化だなと思った。自由なLiSAがいないと、このチャンスにも巡り会えなかったわけでね。と同時に、こうして楽曲制作上の自由を高めていったことで、自由を謳歌するだけではなく、不自由なハードルに追い込んでいく自分をステージで見せなきゃいけないというふうに、正しく反比例して感じられるようになったんじゃないかな。それはどう?
LiSA:うん、そう思います。前だったらやり続けるかやめるかしかなくて、毎回ハードルを超えていくつらさがあったけど、今は少し先のところで自らハードルを設定できる楽しさがあります。それはこうやって自由に遊ばせてもらえる――もちろん「QUEEN」も簡単な曲ではないんですけど、でも楽しみながらLiSAをできる音楽を作らせてもらえる環境にあるから、しんどい曲(「シルシ」)も蘇らせることができて。
――LiSAは、正しいタイミングでアラートが出せる人なんだよね。自由にいろんな可能性を楽しめる土壌を作っても、それだけでステージに立とうとする自分は誠実ではない、何かが足りないと思ったんじゃないかな。
LiSA:まったく同じことをしいたけさんにも言われました(笑)。本当は誰の目にも触れられたくない内気な私と“戦いたい!”と思う私がふたりいる、って。ふたりのLiSAが共存している。私は普通の人でスターじゃないから、ステージに立つ時に“LiSA”というものを被っているんですよね。どちらも危機感を持ってバランスを保っているから、どっちかが危険な状態になったら片方がアラートを出す、みたいな。
――続けていきたい“LiSA”像があると思うんだよね。その意味で、ズタボロになっていく“LiSA”もいると思うし、今は“このLiSAで戦う”と決めてステージに立っているわけだよね。
LiSA:できるうちにやっておこうと思っていて。まだ全部を守りにするのは早いな、できなくなる日のことを考えて生きるのはやめよう、って。できなくなる日のことを考えるのはいいけど、できなくなる日のことを考えて準備するのはやめました。
――ある日ぱったりできなくなろう、っていうね。
LiSA:できなくなった時に考えよう、って。それまでは自分が最高だと思えるものを計画して、それに対してできることを精一杯やろうって思っています。
――こういう自由な曲の作り方ができるようになったこと、そういう自分になれたことで、ステージの上で戦うLiSAを設定し直せたんだね。ふたりの自分というものをそれぞれに認識できたんだと思う。それがこの数年におけるすごく大きな変化なんじゃないかな。
LiSA:この一年……いや、もっと長いかな。自分が楽しく音楽を続けるためにみんなに支えてもらって、いろんな人と制作させてもらいました。嬉しいことに、その間にみんなに“LiSA”というものを認識してもらえていたから。私が表現しなくても“LiSAとはこういうものだ”とわかったうえでみんなが曲で表現してくれて。だから続けられました。
――これは今までしないようにしてきた質問でもあるんだけども。LiSAにとって今“アニソン”ってどういうものなんだろう。
LiSA:今は――あくまで“今”ですけど――クリエイターさんたちと曲を作っている感覚と変わらないかもしれない。作品を通して自分が感じたことを言葉にしたり、音にしたり、歌にしたりするけれど、【COCKTAiL PARTY】というツアータイトルもそうで、こうやって小栁さんと会って喋ったことが曲になっていくこともあるし、晴れている日の空を見てそれが音楽になることもあるし。それはアニメとの出会いや、作品に関わっている人との出会いを音楽として表現しているだけだから、クリエイターさんと出会って音楽を作るのと変わらない。その作品がLiSAという再生機とそのなかにあるものを選んで、会いにきてくれたから、表現しているものな気がします。
――その発言はまさにそうなんだけども、LiSAは考え方がちゃんとしているよね。人としてすごく信用できる人。だからアニソン、というか、作品からの要求が絶えないんだと思う。LiSAなら応えてくれるとみんなが思っている。それはLiSAを続けていくということにおいて、すごく大事なことだよ。シンガーとしてホンモノであるということと、人という価値観においてもホンモノであるということ。とても尊くて、僕自身も尊敬しているところです。
LiSA:ありがとうございます。
――ここまで求められ続けないよ。LiSAはすごいよ。
LiSA:あはははは。最初の頃、私ライブのMCがすごく苦手だったんですよ。だから台本を書いていたんですけど、ちゃんと喋ろうと思えば思うほど言いたいことがよくわからなくなるし、薄っぺらくて何も伝わらない言葉になっちゃって。それで悩んでいたんですけど、ある時、“上手に喋ろうとしなくていい”って言われて。表現がついてくるのは大事なことだけど、いちばん大事なところはそっちじゃなくて、本当にそう思っているということだから。上手に伝えることは技術として大事だけれど、それよりも人に伝わるのはもっと手前のところにあるから、そこを忘れないように大事にしたいなってデビュー前に思ったんですよね。
――素晴らしい考え方だよ。12月、ようやく観に行けるライブを楽しみにしています。
LiSA:ぜひ代々木にいらしてください。
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