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<インタビュー>Night Tempo、日本というエモーショナルな国で育んだいろんなつながり

インタビューバナー

Interview & Text:柴 那典 / Photo:SHUN ITABA

 Night Tempoが11月10日に東京・ビルボードライブ東京、23日に大阪・ビルボードライブ大阪でワンマンライブ「コネクション Connection」を開催する。

 先日に新作アルバム『Connection』をリリースしたNight Tempo。2020年1月リリースのローファイ・アルバム『Concentration』の続編となる『Connection』は「つながり」をテーマにしたコンセプチュアルな一枚で、チルやローファイ・ヒップホップを中心にした楽曲が並び、広末涼子、南野陽子も参加している。ライブは初となるバンド・セットで行われ、ゲストにはアルバムにも参加している土岐麻子 (vo.)、竹内美宥 (vo.)、中園亜美 (alto sax.)が決定した。


 先日に開催されたアメリカツアーも大盛況だったというNight Tempo。新作とライブについて、そしてこの先の野望について、語ってもらった。

バンド・セットで魅せるチルなステージ

――初のバンド・セットでビルボードライブ・ツアーを行うということですが、これはどういう意図で取り組んだんでしょうか?

Night Tempo:もともとDJにギターやベースの生楽器を加えたスタイルのパフォーマンスをやりたかったんです。2017年くらいの、まだアンダーグラウンドな活動をしていた時代にやったこともあるんですよ。その時の友達たちは今でも仲良くて、今回のアルバムでも弾いてもらっているんです。それをライブでもやってもらおうということでお誘いしてます。だから、バンド・セットというよりは、生楽器を加えたセットという感じです。


――全てが生楽器の演奏というわけではないんですね。

Night Tempo:楽器が入るパートは半分くらいです。バンドをやろうと思ったわけではなく、自分が作る曲の中でジャンル的に必要があるところで楽器を入れる予定です。

――これまで基本的にはDJのスタイルが中心だったと思いますが、お客さんの楽しませ方も変わってきたりしますか?

Night Tempo:今のお客さんは【昭和グルーヴ】のDJとか、そのあたりで知ってくれた人が多いので、新しい楽しみ方になると思います。前はダンス・ミュージックのスタイルでやってましたけど、今回はチルな感じでやろうと思ってます。


初ビルボード・ツアー11月に開催決定!!ぜひ来てください!!

――新作アルバム『Connection』の世界観を表現するということもあり、ライブのモードとしても、がっつり踊るテンションの高いものというよりは、ゆったりとしたものになりそうな感じですか?

Night Tempo:そうです。ビルボードライブを想定したセットにもなるので。アルバムを作るときにビルボードライブでやりたいと思っていたんです。前作の『Concentration』もチルなもので、そのときはギャラリーでライブをやってみたかったんですよ。コロナ禍がなかなか終わらなかったのでできなかったんですけれど。日本では今まで盛り上がったり一緒に高揚するようなものが多かったのですが、今回はそれとはまた違うテイストでやろうと思ってます。あと、今までいろんなフィーチャリングの方とやってきたので、その方たちと一緒にこれまでのような盛り上がるスタイルじゃなくてもライブができるのを証明したいというのもあります。今回のビルボードライブのセットも自分のライブのプログラムの一つとして持ちたいというのが大きいです。

――『Concentration』に遡って、Night Tempoさんの中でフューチャー・ファンクとは違う、チルやローファイなサウンドを表現したいという思いは、どういう由来で生まれたものなんでしょうか?

Night Tempo:フューチャー・ファンクをやっている時は全く日本のことを考えていなくて。自分がもっと日本のことをいろいろ勉強するようになって、カルチャーだけが好きだったところから、社会の風潮とか街並みの風景とか、そういうものも好きになりました。いろいろ勉強してみたら、そこから自分が表現したいものが出てきたんですね。日本という国って、どちらかというとちょっと切なさがある。どこにいてもそういう感情を感じる。それもあって、今インバウンドが増えていると思うんです。特にそういうロマンを楽しみたい欧米の方は渋い街をいっぱい歩いてるんですよね。そういう目線から見ると、日本のそういったエモーショナルな場所を探しに行くのが楽しくて。そういうところから音楽性もそっちに寄っていきました。自分が勉強したものと自分が感じたものを合わせてみたら、『Concentration』というアルバムができ、そして自分がその後に経験したものをいろいろまとめてみたら今回の『Connection』になったという感じです。


▲『Concentration』

――『Concentration』と『Connection』で音楽的な方向性も少し変わっていますよね。

Night Tempo:『Connection』はジャンルがいろいろ入ってますね。基本はチルで、チル・ハウスとかローファイ・ヒップホップもあるし、ヴェイパーウェイヴもあるし、シンセウェイブもある。基本的にすごく個人的なアルバムになっています。ストーリーテリングも、自分が勉強したもの、自分が見てきたものだけなので。

――『Concentration』のときには昭和の日本へのノスタルジーみたいなものも感じました。

Night Tempo:そうですね。経済復興でオイルショックから抜け出した頃の日本にあった勢いや、万博もやっていたり、キラキラしてるところに興味を持っていたので、それを表現しました。

――『Connection』はその延長線上ではありながら、かなり違うコンセプトやテーマの作品になったと思うんです。ここに関してはどういうアイデアやイメージがあったんでしょうか。

Night Tempo:『Concentration』は自分が生まれる前の時代なんですけれど、『Connection』は自分が生まれた80年代から90年代を通して自分が感じた感情とか、成人になった2000年代初頭とか、その時にあったブーンバップや2ステップやガラージのようなジャンルの要素や、自分の青春だった頃のサウンドを探して入れているんです。「Hyper Experience」という曲はダイヤルアップのモデムの音を入れているんですけれど、それも電話線にモデムをつけてインターネットにつないで、その時に自分が初めて世界と繋がった感じがしました。そういう経験自体が自分にはすごく衝撃的だったので、それにハマって僕は最初、プログラマーになったんです。そういう風に、今回は自分の自叙伝をアルバムとして表現しています。小説のように、その時に感じた感覚をタイトルにして曲を書いてるんですよ。

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アルバム『Connection』について

――フィーチャリングの曲についても聞かせてください。まず広末涼子さんをフィーチャーした「Deep Breath (feat. Ryoko Hirosue)」については、どんなイメージから作っていったんでしょうか。

Night Tempo:これは広末さんの考えを聞いてみたかったんです。人と人のつながりや関係性についてどう考えているのか。人と人との関係って、いろんなものがあるんじゃないですか。恋愛も友達も仲間も親子もある。そこを決めずに語ってくださいとお願いして抽象的なものにしてもらっています。

――歌じゃなくて語りにしたのはどういう意図だったんですか。

Night Tempo:今回、歌手さんが歌っている曲も2曲あるので、このアルバムでは歌はそれで十分だと思いました。『Concentration』もナレーションみたいな声が入っているので、それを今回も表現してみたかったということで。あと南野陽子さんもそうなんですけど、俳優ということもあるので演技をお願いしてみたかったんです。



――「Rainforest (feat. Yoko Minamino)」についてはどうでしょうか。この曲でも南野陽子さんの語りがフィーチャーされています。

Night Tempo:これは南野陽子さんが思う、人と人の関係性についての曲です。さらっと聞くと恋の別れの話にも思えるんですけれど、実はそこに“愛”とか“恋”という言葉は一切出てこないんですよね。友達との関係かもしれない。「Deep Breath (feat. Ryoko Hirosue)」は広末涼子さんの人間関係を片付ける話。この曲は南野陽子さんの人間関係を片付ける話になってます。

――「Lil Bit (feat. Asako Toki)」は土岐麻子さんをフィーチャーした曲ですが、これは?

Night Tempo:この曲はもともと広末涼子さんに歌ってもらおうと思って作った曲なんです。以前に広末さんをフィーチャーした楽曲制作のお話があったので、土岐さんに90年代っぽい歌モノにしてみたいというアイディアを話しました。土岐さんは90年代の私と今の私がつながる物語を書いてみたいと言っていたので、僕も90年代のMISIAさんのようなR&Bのビートを作って、曲にしたんです。でもそれがボツになってしまった。で、自分のアルバムに土岐さんを誘おうと考えている途中に、偶然、土岐さんから連絡がきたんです。ライブがあって飛行機で移動中に以前自分が歌った仮歌を聴いて、この曲やっぱりいいね、いつか出したいねって話が出てきたんですよ。だったら今回お誘いしたいと思っていたので、じゃあ、その曲を歌ってくださいってことでパパッと決まりました。せっかくなのでイメージの元である広末涼子さんの声をアルバムのラストにちょっとだけ入れてもらいました。


▲Lil Bit (feat. Asako Toki) 【Official Visualizer】

――土岐麻子さんとNight Tempoさんは制作のパートナーとして感覚が近い感じがあるんじゃないでしょうか。

Night Tempo:はい。彼女の声はダンスにも合うと思うし、いろんなアイディアをいっぱい持ってるので。自分もいろいろ考えてるし、前向きにいろんなことをトライしてみたいと思っています。土岐さんは今は日本だとシティポップ・シンガーみたいなイメージが多くて。シティポップ案件でみんな誘うじゃないですか。でも僕としてはあんまりフレッシュじゃないなと思うんです。そういうものじゃなくて、今までやってないことをやってみたい。彼女も新しいものをどんどん試してみたいっていうので。今後コラボアラバムを作りたいなって思って、今はそんな話で盛り上がってたりもしてます。


――「Sweet Lies (feat. Miyu Takeuchi)」についてはどうでしょうか。竹内美宥さんとのつながりはどういうところから?

Night Tempo:この曲を書いたのは結構前なんですけど、竹内美宥さんとは仲も良いし、前にコラボした時も良いものができました。もともとこの曲のアレンジはニュー・ジャック・スイングだったんですよ。そういう曲を歌ってもらいたくて、聴かせたら絶対歌いたいですってことで一緒にやりましょうという話になって。で、アルバムを作っている途中に今回はこのアルバムに合わせてアレンジを変えて今の曲になったんです。今後はもとのバージョンも出してみたいなって思ってます。今回は竹内美宥さんが歌詞を書いてみたいというので、いい感じの歌詞を書いてくれました。


――「Truth? (feat. Ami Nakazono)」では中園亜美さんがサックスとして参加していますが、この経緯は?

Night Tempo:偶然なんですけど、以前誘われたどこかのライブで演奏を見てすごく格好いいと思って。繊細さもあるし、海外留学をしてたからこその自由さもあって。日本のフュージョンをやっているプレイヤーの方とはちょっと違うなと思って、彼女の名前も知らず、演奏については覚えていたんです。で、しばらく経ってInstagramを眺めていたら、その彼女が自分の事をフォローしてくれていて、すぐDMしました。「前に演奏を観たときの印象が残っていて、思い出しました」って言ったら、僕の音楽が好きで普段から聴いてくださっていたみたいでびっくりしてくれて。じゃあ今度一緒にセッションしてみたいですということで、参加してもらうことになりました。知り合ったのは今年なんですけど今はすごく仲良くて、今回のライブにも誘ったんですけど、今後も一緒にいろいろやってみたいなという気持ちです。

――ライブではいろんな曲にサックスで参加してもらう予定ですか?

Night Tempo:少なくとも3曲以上はやってもらおうと思っています。ライブまでにセッションしながらアイディアを交換しようと思っています。

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「自分が考えていることをもうちょっと信じよう」

――『Connection』というタイトルもそうですが、ここに来ていろんなつながりができていることがNight Tempoさんの音楽に影響を与えているんじゃないかと思います。そういう実感はありますか?

Night Tempo:実感はあります。アルバムタイトルが『Connection』になった理由も、自分がつながっている全てのものに関してのアルバムなので。今回は日本で誘った方たちも活動が始まってからつながった方だけ誘っています。オファーをして新しく出会った方はいないです。南野陽子さんも番組で仲良くなって、ご飯を一緒に食べながらお願いしました。広末涼子さんも以前に一緒にやったけど、それがダメになったんで、悔しいからまたやりましょうということで声をかけました。土岐麻子さんは普段からコラボを一緒にしていますし、竹内美宥さんは韓国にいた頃から仲良しです。中園さんもライブで観て格好いいな、素敵だなと思っていたところから偶然の機会でつながって一緒にやってもらうことになりました。それに、今回参加してくれてるギターの水永康貴さんとベースのKurojiさんは8年前くらい、僕が日本に来た時に初めてできた友達なんですよ。そこからずっと仲が良くて、一緒にやろうということになりました。


▲Sigh 【Official Music Video】

――今年には日本に拠点を移したわけですが、生活も、アーティストとしてのあり方もかなり変わった感じがあるんじゃないでしょうか。

Night Tempo:前は仕事が終わったら韓国に帰るという感じだったから、あんまり未練というものがなかったんです。でも住み始めたらここがホームと感じるようになって、ここでもっと何か残してみたいなと思うようになりました。今までは打ち込みだけでやってたんですけれど、いろんな人とセッションをやったり、いろんな人と関わってみたいな、というのも大きくなっています。

――先日にはアメリカでのワンマンツアーもありました。SNSで映像を拝見したところ相当な盛り上がりだったみたいですけど、どうでしたか?

Night Tempo:最初は心配していたんですけれど、実際に行ったら会場がパンパンで盛り上がっていて。今まで日本の仕事に集中しすぎて、アメリカのことを放っていたと反省しました。今後は日本で仕事をするのはもちろんですけれど、アーティストとしてはアメリカ向けの活動を展開しようと思っています。次のアメリカ・ツアーとか、新たなプロジェクトも考えています。

――この先やれること、やりたいことがどんどん大きくなってきてる感じがあるんじゃないでしょうか。

Night Tempo:これまである程度叶えたものもあるし、叶えられそうなものもあるんです。でもそこで終わったら、自分自身のモチベーションと興味が落ちてしまいそうで。だから、次を見ないとダメだなと思っています。だから今はアメリカのビルボードチャートに入りたいというのが、今の目標設定になっています。アメリカのレーベルも興味を持ってくれて、向こうの音楽業界の人もライブに来てくれたので。考えはもっと広くなりました。水は流れなかったら腐るのと同じように、自分も腐らないようにいろんな方向に流れていかないといけないなと思いました。これからは自分が考えていることをもうちょっと信じようと思っています。今はアメリカの活動をもっと頑張ろうと思ってるんですけれど、それを日本で制作しようと思っていて。アメリカに拠点を移さなくてもアメリカで上手くいくんだっていうのを証明したいと思っています。

Night Tempo「CONNECTION」

CONNECTION

2024/10/23 RELEASE
VICL-66013 ¥ 3,400(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.フォアワード
  2. 02.リル・ビット (feat.土岐麻子)
  3. 03.トゥルース? (feat.中園亜美)
  4. 04.ハイパー・エクスペリエンス
  5. 05.エンド・ポイント
  6. 06.デジタル・デトックス
  7. 07.サンセット・イン・トーキョー [インタールード]
  8. 08.ディープ・ブレス (feat.広末涼子)
  9. 09.サイ
  10. 10.ブリージー
  11. 11.スウィート・ライズ (feat.竹内美宥)
  12. 12.リグレット
  13. 13.レインフォレスト (feat.南野陽子)
  14. 14.ポゼッション
  15. 15.ニュー・エイジ
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