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<コラム>レディー・ガガが歌う最新作『ハーレクイン』と“謎の女”が歌う『ジョーカー2』OSTを聴き分けるポイント
Text:松永尚久
2008年リリースのデビュー作『ザ・フェイム』にて、強烈なインパクトを放つビジュアルと歌声で瞬く間に世界のポップ・シーンの頂点に君臨。通算13回の【グラミー賞】受賞、これまでの世界売上は8,700万枚以上、960億回のストリーミング回数を誇り、日本でも不動の人気を得ているレディー・ガガ。また彼女は、そのインパクトをうまく活用し、「あなたはあなたのままが一番美しい」というメッセージを世界に発信。今やスタンダードになっている多様性(ダイバーシティ)の重要さを訴えるアイコンとしても強い影響力を放つ、ポップ(音楽)シーンを超えた存在にもなっている。
現在も世界をカラフルに変える活動を精力的に続けるいっぽうで、最近は彼女自身が持つ表現者としての多様性を感じさせる作品も目立つようになってきた。2014年には、アメリカのポピュラー音楽シーンの象徴的シンガーであるトニー・ベネットとのコラボ・アルバム『チーク・トゥ・チーク』にてジャズ・スタンダードをゴージャスに表現(2021年には第2弾アルバム『ラヴ・フォー・セール』をリリース)。また、2018年には、映画『アリー/ スター誕生』で自身初の映画主演を務め、主題歌「シャロウ」は〈アカデミー賞最優秀歌曲賞〉を受賞、キャリア初のオスカーを獲得するなど、世界の名だたるショーレースを総なめにし、女優としての確固たる地位を確立した。また、最近では2024年8月にブルーノ・マーズとのデュエット曲「Die With A Smile」を発表し、美しく圧倒的なハーモニーを繰り広げ、チャート上位にランクイン。一瞬でわかる強烈なインパクトというよりは、深み・厚みのある表現力をじっくり堪能できる活動へとシフトしているような印象を受ける。
今や、ショウビズ界においてもジャンルや時代の流れにとらわれずに、自身の考えるアートを追求している、レディー・ガガ。日本でも10月より公開された映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』(通称『ジョーカー2』)では、ホアキン・フェニックス演じるジョーカーことアーサー・フレックの前に突然現れた謎の女リー役で登場。<ジョーカー>に心酔すると同時に、<アーサー>の運命を翻弄させるキャラクターを見事に熱演。その壮絶な演技とともに、劇中でホアキン・フェニックスと共に繰り広げる楽曲の数々も、熱い注目を集めているのだ。
(c) & TM DC (c) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
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本作でのストーリーの中心的な役割を担っているのが、サウンドトラック。劇中では、スティーヴィー・ワンダーやビー・ジーズ、カーペンターズ、別映画・ミュージカルのサウンドトラックなど、60~70年代のヒット曲を中心にカバーしている。ガガ演じるリーは、ジョーカーとの出会いは音楽を通じてだったものの、ミュージシャンやエンターテインメントとは直接結びつきのないキャラクターゆえ、映画での彼女の歌声は我々がよく耳にする圧倒的なパワーを放つものとは異なる控えめな印象。しかし、徐々に誰か(ジョーカー)を翻弄させていく魔性を感じさせるミステリアスで妖艶な姿をみせている。映画のサウンドトラック・アルバム『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ [オリジナル・サウンドトラック]』では、役者として歌う魅惑的な彼女の姿を感じることができるだろう。
(c) & TM DC (c) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
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また、今回の役にインスパイアを受けた彼女は、サントラで使用された楽曲の多くから構成されたオリジナル・アルバム『ハーレクイン』を完成させた。<リー>ではなくレディー・ガガとして再構築(レコーディング)しているアルバムだ。この2作品を聴き比べていただくとわかると思うが、ミュージシャン名義となるとその迫力は段違いである。冒頭から、「これぞガガ!」と唸らせる、アンニュイな雰囲気と強烈なソウルが共存した圧倒的なボーカルを披露し、エンタテインメント性の高い仕上がりに。
特に、カーペンターズが1970年に発表しヒットした「遥かなる影」のカバーは、映画バージョンにおいてはジョーカーのそばに1ミリでも寄り添いたい、彼と同化してしまいたいというリーの猟奇的な欲望を感じさせる。いっぽうのガガ・バージョンではカーペンターズの世界に近い軽やかなサウンドに変化し、好きな人のそばにいる純粋な喜びを表現している印象を受ける。また数々の映画のサウンドトラックにも起用されている「ザッツ・エンターテインメント」も、映画バージョンではミステリアスかつ悲壮感のあるオーケストラ・サウンドを駆使して、ジョーカー(アーサー)が歩んできた不遇のコメディアン人生を優しく包むような声を披露。いっぽうのガガ・バージョンは、ビッグバンドのゴージャスなサウンドに彩られ、ショウビズの世界の華やかさを凝縮させており、人生の表と裏、感情によって見える世界の違いを、この2作で描いている。
なお、この作品には映画のために彼女が書き下ろした楽曲が2つ収録されている。「フォリ・ア・ドゥ」は、映画のタイトルを冠したナンバー。密接な関係にある2人以上の人が、1人の妄想を共有する症状を指す言葉のとおり、出会いによって徐々に他の世界とは隔離された独自の世界(山)を築き上げようとしているジョーカーとリーの姿を描いている。ガガ・バージョンにおいてはワルツ調のクラシカルなサウンドに乗せて、ファルセットを駆使した透明感のある歌声を披露。オペラシンガーのようなドレッシーなたたずまいで、没頭する主人公たちを俯瞰で見つめているようなイメージだ。
もうひとつの書き下ろし曲は「ハッピー・ミステイク」。これは自身のオリジナル・アルバムのために制作されたものである。孤独を抱えた自分を隠すために、わざとピエロのメイクをして周囲を笑わせようとするジョーカー(アーサー)の姿と、常にシーンの最前線に立って奇抜なビジュアルなどで世界からの注目を集めるガガの心境とをリンクさせたような、メランコリックなアコースティック・ナンバーだ。シンプルなアレンジであるがゆえに、彼女の息づかい(もしくは慟哭)がダイレクトに伝わってくる。また同時に、いろんな感情を抱えながら、今後も世界をインスパイアさせる音楽、もしくはアートを追求していく、レディー・ガガの力強い足音も聴き取ることができるだろう。
すでに、全米ジャズ・アルバム・チャートとトラディショナル・ジャズ・アルバム・チャートの両方で初登場1位を獲得している『ハーレクイン』(ちなみに彼女にとって、ジャズ・アルバム総合、トラディショナル・ジャズ・アルバムランキングともに3度目の首位となった)。デビュー当時の華やかなダンスポップ路線とは少し系統が異なるかもしれないが、自分の好きなことを貫こうとする強い意思やメッセージは色褪せることなく、いやシンプルになったぶん、より鮮烈に伝わってくる。心を震わせ、そして躍らせる何かを感じられるアルバムになったと思う。
リリース情報
『ハーレクイン』
2024/10/30 RELEASE
UICS-1410 3,300円(tax in)
歌詞・対訳・解説付き
再生・購入・ダウンロードはこちら
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ - オリジナル・サウンドトラック』
2024/10/9 RELEASE
UICS-1407 3,300円(tax in)
歌詞・対訳・解説付き
再生・購入・ダウンロードはこちら
公開情報
『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』
全国公開中
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c) & TM DC (c) 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
IMAX(R) is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema is a registered trademark of Dolby Laboratories
関連リンク
レディー・ガガ 公式サイトレディー・ガガ 日本レーベルサイト
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