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<インタビュー>ディズニーファン必聴の話題の楽曲「ジャーニー・トゥ・ファンタジースプリングス」作曲家ネイサン・パジェットに聞く、音楽マジックの作り方
Text: Mariko Ikitake
©Disney
2024年6月にグランドオープンを迎え、連日大盛況を見せる東京ディズニーシー®の新しいテーマポート、ファンタジースプリングスをイメージした楽曲「ジャーニー・トゥ・ファンタジースプリングス」がディズニーファンの中で話題を呼んだ。“魔法の泉が導くディズニーファンタジーの世界”を想起させる音を作り出したのが、長年ディズニー・パーク&リゾートの楽曲を担当する作曲家のネイサン・パジェットだ。
ネイサンはマクドナルドやメルセデス・ベンツ、P&G、NFL、ESPNといったメジャーブランドのための楽曲なども手がける一流のソングライター。彼が手がけた「ジャーニー・トゥ・ファンタジースプリングス」が多くのディズニーファンからの反響を呼んでいることを受けて、取材を申し込んだところ、快く受けてくれた。新しいエリアとともに楽曲も楽しんでいるファンたちの声は、彼の耳にも届いているようだ。
──「ジャーニー・トゥ・ファンタジースプリングス」の作曲を担当することになった経緯について聞かせてください。
ネイサン・パジェット:この楽曲のミュージック・ディレクター/プロデューサーであるダン・スタンパーに声をかけてもらいました。ダンとは長い付き合いで、一緒に仕事をしはじめてからは、おそらく7~8年になると思います。彼は素晴らしい音楽プロデューサーであり、スーパーバイザーです。ダンが関わるプロジェクトからは、いつもいいものが生まれます。
──「ジャーニー・トゥ・ファンタジースプリングス」のどんなところが、ゲストの心を惹きつけていると思いますか?
ネイサン:日本の方々から、SNSやEメールで素敵なメッセージがたくさん届きました。「ファンタジースプリングスの世界に引き込まれるオープニングが好き」や「子どもがすごく気に入っている」など。徐々に盛り上がるあの展開……儚い感じで始まり、最後は壮大に歌い上げる感じが実にディズニーらしいと思います。特に最後、同じ音を長く伸ばして歌うところ。すごく、すごく長くて、壮大なエンディングに仕上がっています。
──ファンタジースプリングスのストーリーでもある“魔法の泉が導くディズニーファンタジーの世界”を、メロディーでどう表現されましたか?
ネイサン:ディズニーが生み出すコンセプトがすでにしっかりしているので、(作曲には)それがとても役に立ちました。それぞれのディズニー作品のストーリーに想像力を掻き立てられる要素がたくさんあるので、曲と歌詞を合わせることで、エリアの世界感を力強く描くことができました。
──歌詞といえば、〈踊る心〉という意味の歌詞がありますが、ネイサンの心が躍るのはどんなときですか?
ネイサン:人々が自分の曲に反応してくれるときだと思います。私には4人の子どもがいて、一番下の3歳の娘がとにかくこの曲が大好きなんです。初めて聴かせたときから気に入ってくれたので、この曲には人を惹きつける何かがあるかもしれないと思えました。彼女の名前はエヴリンというのですが、この曲を歌いながら家の中を踊っていたので、非公式に「エヴリンの歌」と呼んでいたくらいです(笑)。
──行ったこともない、構想を聞いただけのエリアの音楽を、どうしたらこれほどしっくりくるように書けるのか知りたいです。
ネイサン:ディズニー側からいただいたエリアのクリエイティヴが非常にしっかりしていたのと、完成図といったヴィジュアル資料も多く見せてもらいましたし、どういう場所になるのか、説明もじっくり聞かせてもらいました。構想から完成までに時間をかけて作ったエリアなので、参考にできるものはたくさんあったんです。
──曲ができるまでにどれくらい時間を要するのですか?
ネイサン:「ジャーニー・トゥ・ファンタジースプリングス」は、さほど時間がかからなかったんです。おそらく……曲の核となる部分だけでいえば、ピアノに向かって1時間くらいで書けたんじゃないかな、と。メロディーを曲としてまとめる作業という意味ですが。作曲よりもむしろ、デモを制作する作業のほうが時間がかかります。曲を書いてから、できるだけいい音のデモに仕上げるのには、何日もかかります。デモ制作の過程で曲にさらに手を加えることもありますし、歌詞を変えたり、楽器の伴奏と一緒に聞いて主旋律を調整したり。歌い手の解釈で変わることもあります。
──デモ制作はコンピュータで全て作っているのですか? それとも楽器奏者を呼んで録っていますか?
ネイサン:コンピュータで行うことが断然多いです。曲によっては歌い手を呼んで歌ってもらうことも、自分で歌うこともあります。「ジャーニー・トゥ・ファンタジースプリングス」は、歌唱を担当したレイチェル・ポッターに来てもらいました。時間に余裕があれば、妻のアンドレアにヴァイオリンを弾いてもらったり、僕がトランペットを吹いたりと、デモに自分たちで演奏した楽器を加える場合もあります。
──レイチェルとの仕事はいかがでしたか?
ネイサン:レイチェルに具体的な指示を出した記憶はあまりなく、彼女はスタジオに来て、のっけから完璧に歌いこなしてくれました。曲の意味も、どう歌ったらいいかも理解してくれて、僕は何かをお願いすることもなく、彼女はまさに適任でした。期待以上の歌を披露してくれたと思います。
──ネイサンの幼少期についても教えてください。初めて音楽に触れた思い出は?
ネイサン:子供の頃の記憶にはなぜか必ずピアノが登場するんですよね。どちらの祖母の家にもピアノがあって、教会にも1台ありました。私はいつもピアノに磁石のように引き寄せられて、なかなか離れようとしなかったんです。小さい頃から自分が耳にしたものをなんでもピアノで弾こうとしていたそうで。
──自分の家にはピアノはなかったんですか?
ネイサン:家にはキーボードがありました。自分の部屋にキーボードがあって、それがピアノになり、中学から高校に上がる頃には、90年代のコンピュータや楽譜作成ソフトも導入して本格的な作曲ができるシステムが出来上がっていました(笑)。実は片方の祖母が作曲活動をしていて、彼女の母親はコンサートのピアニストでした。音楽一家で、彼女の家にはオルガンもあって、幼い頃から音楽理論も教えてもらったりしていましたね。
──作曲に興味を持つようになったのは、そこからでしょうか?
ネイサン:8歳か9歳の頃からクラシックピアノのレッスンに通うようになったのですが、レッスンに行っても、自分が作曲した曲を披露して、課題曲のバッハは練習しないなんてこともあって。当時の先生がジュリアード音楽院出身で予備講師もしていた方で、彼からもっと作曲をやるよう勧められたんです。まだ子供の僕に「君はプロの作曲家になれる」とまで言ってくれて(笑)。「君には曲のアイディアが思いつく才能がある。それは曲を作る上で一番大事なことなんだ」って。彼はすごく応援してくれた、とてもいい先生でした。
──ちなみに鍵盤以外の楽器も演奏するのですか?
ネイサン:トランペットを若い頃から学校の合奏部や楽団で演奏していましたし、10代の頃にはギターも覚えました。ほかにもそれなりに弾ける楽器がいくつかあります。
──他の楽器が多少演奏できたほうが、作曲にも役立ちますか?
ネイサン:もちろん。妻のアンドレアとはイーストマン音楽学校で出会ったのですが、彼女は本格的なマルチインストゥルメンタリストで、木管楽器をはじめ、いくつもの楽器を演奏できます。サックス、クラリネット、フルート、ヴァイオリン、マリンバ……楽器の奏法に関してわからないことがあったら彼女に相談しています。彼女はすぐに答えてくれて、実際に演奏が可能かも実践してくれるんです。
──業界に自分の名が知られたようになったと思う作品はどれですか?
ネイサン:特定の作品がきっかけで自分の名が知られるようになったかどうかは判断が難しいですね……。大きい仕事という意味だと、当然、ディズニーの仕事は挙げられます。フロリダのウォルト・ディズニー・ワールド・リゾート向けのプロジェクトが、私が初めてディズニーに関わったものです。たしかマジックキングダム・パークのファンタジーランドのリニューアルオープンの宣伝曲だったと思います。
──奥様のアンドレアもディズニー関連の音楽のお仕事をされているようですね。二人で共同作業されることも多くありますか?
ネイサン:共同作業はしょっちゅうです。具体的なプロジェクト名は明かせませんが、歌詞を一緒に作ることもありますし、「ここのメロディーはどう思う?」と彼女によく相談します。特にデモ制作作業で彼女に頼ることが多いですね。たくさんの楽器を加えることで曲の世界観に命が吹き込まれますから。
──東京ディズニーシーのエンターテイメント「フェスティバル・オブ・ミスティーク」や「ソング・オブ・ミラージュ」の音楽も作られていますね。
ネイサン:なかでも「フェスティバル・オブ・ミスティーク」のことはよく覚えています。キャラクターたちが船に乗って登場するショーで、楽しいショーに合わせて楽しい曲を書きました。メロディーが印象的で、今でもピアノで弾けます。
──他のパークと比べて東京ディズニーシーの印象を教えてください。
ネイサン:世界中でも類を見ないパークだと思います。頻繁に新しいエンターテイメントが登場して、素晴らしいことだと思いますね。
──「ジャーニー・トゥ・ファンタジースプリングス」は、日本ですごく人気があります。ストリーミングでもたくさん再生されていて、一時期、ディズニー映画など、ディズニー関連の楽曲の中で一番再生されていました。
ネイサン:それはすごいですね。レイチェルは日本に行って歌いたいと思っているみたいで、もし彼女が日本で歌うことになったら、私は伴奏をしますよ。
──ディズニーの映画作品やパークのエンターテインメントは夢を見続けること、何かを信じ続けることの大切さを伝えています。過去にくじけそうになったとき、そこから立ち上がる勇気をくれた存在や言葉はありましたか?
ネイサン:プロの作曲家としてまだ私が駆け出しだった頃、いくつもの挫折を経験しました。音楽業界は本当に厳しい世界なので、若い頃はみな苦労するものです。仕事でいい結果が出なかったり、望んでいた機会を手に入れることができなかったり。これは本当の話なのですが、そんなとき、家族と一緒にウォルト・ディズニー・ワールド・リゾートに行ったんです。14歳の娘がまだ小さかった頃の話なのですが、パークでふと娘を見て、ピンときた瞬間があったんです。子どもの頃は、パークに行くと全てがただただ魔法のように見えますが、大人になってから行くと、そもそもこんな場所が作られたこと自体、奇跡のように感じます。途方もないことを成し遂げた人がいるんだということを実感して、すごく刺激をもらったのを覚えています。ウォルト・ディズニーは比類なき存在だと思います。
リリース情報
「ジャーニー・トゥ・ファンタジースプリングス」
好評発売/配信中
UWCD-6061 1,300円(tax in)
※ダウンロード価格は各ストアに準じます。
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©Disney
関連リンク
ネイサン・パジェット 公式サイトファンタジースプリングス ミュージック 特設サイト