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<コラム>ポルノグラフィティが支持され続ける理由――『EIGHT-JAM』特集回からみる楽曲の魅力、ミュージシャンシップと人間力
Text:岡本貴之
「ポルノグラフィティは、なぜ25年以上にわたり愛され、支持され続けているのか?」――長年のファンにとってはたまらなく嬉しい、ポルノグラフィティの魅力を掘り下げる特集が、2024年9月29日に『EIGHT-JAM』で放送された。
今年9月8日にメジャーデビュー25周年を迎え、アニバーサリー・ライブ【因島・横浜ロマンスポルノ'24 ~解放区~】も大成功させたポルノグラフィティ。10月30日には、ライブ当日に披露された新曲「ヴィヴァーチェ」をデジタル・リリースするほか、11月8日、9日、10日には【ロマンスポルノ'24 ~解放区~ 因島SP DELAY VIEWING】として、9月1日に故郷の広島・因島で開催されたライブの模様が劇場公開される。25周年という区切りを経て、まだまだ精力的な活動とファン・ファーストな姿勢による企画の提供で楽しませてくれている。
『EIGHT-JAM』の特集は、そんなポルノグラフィティの音楽について改めて深堀りしようというもの。スタジオには岡野昭仁(Vo.)、新藤晴一(Gt.)のふたりとともに、ライブでのバンドマスターを務めるギタリスト・tasuku、公私共に親交の深いスガシカオが出演した。番組冒頭では、その存在がいかに現在の音楽シーンにも多大な影響を与えているのかを紹介。米津玄師、Official髭男dismらシーンのトップを走る後輩アーティストたち、なかでもKing Gnuの井口理(Vo. / Key.)は自身のラジオ番組でポルノグラフィティ特集を勝手に組むほどのマニアックなファンとして知られており、岡野とは番組での共演をきっかけに、コラボ曲「MELODY (prod.by BREIMEN)」をリリースしたほど。音楽シーンの最先端で活躍中のアーティストたちからの支持は、ポルノの曲がいかに普遍的なものであるかを証明している。
-岡野昭仁@オールナイトニッポン0(ZERO)- / -Akihito Okano @ All Night Nippon0 (ZERO)-
ポルノグラフィティの魅力を端的に表すと、なんといっても誰もが一度は口ずさんだことがあるヒット曲に代表される、楽曲のキャッチーさにあることに異論はないはず。番組ではそうした“ポップでキャッチーな曲”が、いかに音楽的に優れた構成のもとでつくられているのかが明らかにされた。【名曲8選】として紹介された曲のうち、デビュー曲「アポロ」についてコメントを寄せたOfficial髭男dismのギタリスト・小笹大輔は、「20年以上経った今でも色褪せない普遍的な曲。新しさすら感じる」と称賛。ライブのみならず楽曲制作にも携わっているtasukuは「アポロ」について、「リスナーとしては普通に聴いていたが、演奏してみると、アップテンポの軽快なビートに対して特にサビがめちゃくちゃ難解」と語った。この、「リスナーとしては普通に聴いていた」というところに、デビュー時から今に至るまでのポルノの特徴、「耳馴染みの良いキャッチーなポップス」が、じつは相当練りに練られて構築されていることが感じられる。
アポロ ("OPEN MUSIC CABINET"LIVE IN SAITAMA SUPER ARENA 2007") / ポルノグラフィティ
「アポロ」の歌詞の上に振られたコード展開は、B♭7(13)、F#(#11)といったテンションコードが多用されているだけでなく、同じメロディの繰り返しだと思っていた部分もコードが違うなど、見るからにじつに複雑だった。ミュージシャンにとってハイクオリティな音楽センスを感じる楽曲が、リスナーにはとても親しみやすいというのは、なかなか実現できることではない。「ミュージック・アワー」の紹介では、ライブで岡野が踊る“変な踊り”に、会場を埋め尽くすオーディエンスが一糸乱れぬ一体感で振りを合わせるシーンも。“変な踊り”にも関わらず、大観衆を惹きつけられるのはメロディのキャッチーさがあればこそだ。またポルノといえば、“ラテン調”の楽曲が真っ先に頭に思い浮かぶ人も多いはず。「アゲハ蝶」「サウダージ」、さらにそうした楽曲のひとつとして、長年の友人だというスガシカオは「オー!リバル」を取り上げて、「スパニッシュ・フレイバーのマイナー調の曲がポルノにはよく出てくるが、これもその流れ」と紹介。こうした、情熱的で大きなサウンドスケープを描く楽曲は、ポルノグラフィティが巨大なスタジアム会場でライブを行ううえでの大きな武器だ。
オー!リバル(14thライヴサーキット“The dice are cast ” Live in OSAKA-JO HALL 2015) / ポルノグラフィティ
スガシカオは、ポルノグラフィティのライブ・スキルの高さを語り、同じボーカリストである岡野の歌唱力、声を絶賛。「何十回もライブを観ているけど、音程を外しているのを見たことがないし、終わると喋れなくなっているぐらい全力投球」と称えた。「サウダージ」をアカペラで聴かせるライブのシーンでは、スタジオから「すげえ」と声が漏れたほどだった。
新藤のギターについては、コメントを寄せた小笹曰く「音の良さが本当に圧倒的」。ポルノの曲では必ずギターソロがあり、ライブの主役としてのギターソロを、抜群に良い音で広い会場の隅々まで届ける技量がすごいと称えた。自らもギタリストとしてファンキーな演奏に定評のあるスガは、新藤の基礎テクニックが完璧であることを語る。さらにtasukuが語った新藤のギター評は、「基本的にソロの構成がシンプルだが、印象に残るし普遍的。それがすんなり出てくるのがすごい」というもの。これはまさに、先日の横浜スタジアムでのライブを観たときに感じたことだったのだが、決してトリッキーなプレイやエフェクティブな音色を前面に出すギタリストではないにもかかわらず、どんなリズムの曲でも絶妙のタイム感で聴かせるだけでなく、出音の素晴らしさもピカイチ。それは、岡野のボーカルを最優先で支えつつも、自らのギターもキラリと光るという、ポルノグラフィティのバランスの良さ、聴き応えの良さに繋がっている。
また、どんな風に歌詞を書いているのかをスガに尋ねられた新藤は、あくまでも曲先で制作しており、アレンジが呼んでくる雰囲気を大事にして歌詞を書いていることを明かした。「ハネウマライダー」では、イントロのギターリフから受けた印象から「ハネウマライダー」というタイトルが出て来たことから歌詞になっていったという。音が纏うイメージが言葉に繋がって音楽的な響きと結びつくことで、唯一無二の名曲が生まれるのだろう。
ハネウマライダー (横浜ロマンスポルノ'06~キャッチザハネウマ~) / ポルノグラフィティ
こうした音楽的魅力を紐解いていくことで新たな発見や、アーティストについてより深い理解をしていくのが『EIGHT-JAM』という番組のコンセプトだが、終盤に語られたデビュー当時の大ヒットの裏にあった葛藤が、ポルノグラフィティの魅力をより際立たせたように思う。
デビューした際、インディーズ時代に主に作曲を手掛けていた当時のメンバー、Tama(Ba.)の曲ではなく、プロデューサーの本間昭光が“ak.homma”名義で「アポロ」「サウダージ」「アゲハ蝶」などの作曲を手掛けた。これはヒット曲を生むグループにしようという意図のもとだったが、想定していたよりも“ポルノグラフィティ”がどんどん大きな存在になっていくにつれて、「自分たちは曲を書いていない」というジレンマもあったという。名前が売れて行くことは望んでいたことでもあり、その状況をポジティブに受け入れつつも、初期の代表曲は本間が書いた曲であることにコンプレックスを抱いていたそうだ。だが、冒頭にあったような後輩アーティストたちからのリスペクトの声を聴き、「誰が作っているとか関係なく、ポルノグラフィティを認識してくれているんだと思ったときに、肩の荷が下りた」と岡野。そうした思いから、ふたりがいちばん得意なこと、ストロングポイントである“ライブ”に映える曲を作るようになったのかもしれないと回顧した。新藤は、「バンド上がりで、プロのチームにヒット曲を預けてもらって、今ライブで評価してもらっていたとしたら、幸せなストーリーだと思う。ヒット曲もあるけど、それをライブでしっかりと表現できているんだとしたら、それが自分たちのストロングポイントだし、それを続けていきたい」と、気持ちを吐露した。
アゲハ蝶 (つま恋ロマンスポルノ'11~ポルノ丸) / ポルノグラフィティ
デビュー時のタフなレコーディングの様子などを聴くにつれ、華やかなヒット曲の裏でストイックに音楽と向き合ってきたであろう覚悟とモチベーション、25年ものあいだトップランナーであり続けてきたふたりのミュージシャンシップが見えてきた。自分たちに正直に、常に最高の音楽を届けるためにやるべきことを続けてきたからこそ、大観衆を前にステージに立てるのだろう。そして、最も近くでふたりの活動を見つめて来た本間からのメッセージ「常に周りに感謝する姿勢を持ち続けたことが、25年の長きに渡り皆さんから愛され続けたいちばんの理由だと思います」という言葉は、岡野、新藤から溢れる人間力こそが、その音楽の魅力として表れていることを示していた。
ポルノグラフィティ全書 ~ALL TIME SINGLES~
2024/09/04 RELEASE
SECL-3143/7 ¥ 5,999(税込)
Disc01
- 01.アポロ
- 02.ヒトリノ夜
- 03.ミュージック・アワー
- 04.サウダージ
- 05.サボテン
- 06.アゲハ蝶
- 07.ヴォイス
- 08.幸せについて本気出して考えてみた
- 09.Mugen
- 10.渦
- 11.音のない森
- 12.メリッサ
- 13.愛が呼ぶほうへ
- 14.ラック
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