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<コラム>.ENDRECHERI. 彼の“命を救った”ファンク、その生ける伝説=ジョージ・クリントンとの奇跡のコラボ「雑味」に込められた“生きる喜び”
Text:永堀アツオ
シンガー・ソングライターである堂本剛のクリエイティブワールドとして、ファンクを追求するプロジェクト、.ENDRECHERI.(エンドリケリー)がジョージ・クリントンとのコラボ楽曲「雑味 feat. George Clinton」をデジタル・リリースした。
説明不要だろうが、御年83歳を迎えたジョージ・クリントンは、ジェームス・ブラウンが60年代末に確立したファンクの継承者であり、“Pファンク”の創始者でもあり、ファンク・ミュージック界の生きる伝説である。“ザ・プレジデント・オブ・P-ファンク”と呼ばれるジョージのキャリアは、理容師だった1956年に、床屋の仲間たちとドゥーワップ・グループ〈ザ・パーラメンツ〉を結成したところから始まった。60年代後半には契約上の理由で〈ザ・パーラメンツ〉という名前が使えなくなり、〈ファンカデリック〉に変更。この頃からバンドサウンドを前面に押し出すようになり、ニュー・ソウルやロック、サイケデリック、ジャズ、ブルースなどを貪欲に飲み込みながら、ひたすらワングルーヴで唸りを立てるファンクビートで解放感を表現するファンク集団となり、1972年にはジェームス・ブラウンのバンドに在籍していたブーツィーとキャットフィッシュのコリンズ兄弟が〈ファンカデリック〉に加入。75年には〈パーラメント〉名義での活動を復活させ、メイシオ・パーカーとホーンセクションが加わり、ジェームス・ブラウンのスタイルを受け継ぐ正統な後継者と称されるようになった。
ふたつのバンドのメンバー構成はほぼ同じで、簡単に言えば、宇宙を題材にしたストーリー性を感じる歌ものが〈パーラメント〉、重いビートでギターに焦点を当てたファンク・ロックが〈ファンカデリック〉という、楽曲の方向性の違いしかない。パーラメントは、1976年にファンクを代表する超名盤『マザーシップ・コネクション』をリリースし、このアルバムに収録された「P-Funk (Wants To Get Funked Up)」から“Pファンク”と呼ばれるようになった。一方、ファンカデリックは1978年にリリースしたアルバム『ワン・ネイション・アンダー・ア・グルーヴ』がヒットし、ワールドワイドな知名度を獲得するに至った。
80年代に入ると、〈パーラメント〉と〈ファンカデリック〉のメンバーが自由に参加するファンク集団〈Pファンク・オールスターズ〉を作り、1997年には〈パーラメント/ファンカデリック〉としてロックの殿堂入りを果たしているが、彼らがその後の音楽に与えた影響は計り知れないものがある。80年代末には、ヒップホップとPファンクを融合させたGファンク(ドクター・ドレー、スヌープ・ドギー・ドッグ[現:スヌープ・ドッグ]、2パックなど)が生まれ、ジョージのソロ曲「Atomic Dog」はヒップホップ界隈に非常に多くサンプリングされた曲としても知られている。また、レッド・ホット・チリ・ペッパーズやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなどのミクスチャー・ロックに大きな影響を与えたほか、ムーグシンセの先駆者であるパーラメントのバニー・ウォーレルがシンセ・ベースで通した「Flash Light」は、現在のヒットチャートでも耳にするシンセポップやニュー・ウェーブに受け継がれるなど、枚挙にいとまがない。
Atomic Dog / ジョージ・クリントン
現在もライブを中心に活動を続け、世界中を駆け巡り、今もなおファンクの継承者として、世界中にファンク・ミュージックを広めているジョージ・クリントン。日本の奈良で生まれ、14歳で上京し、アイドルとして活動していた堂本剛も彼に多大な影響を受けたひとりだ。影響と言うと少し軽すぎるかもしれない。彼はライブのMCやラジオ、雑誌のインタビューなどで何度も「ファンク・ミュージックに命を救われた」と語っている。
堂本剛は、2002年5月に〈堂本剛〉名義でシンガー・ソングライターとして、両A面シングル『街/溺愛ロジック』でソロデビュー。そして、土屋公平(ex. THE STREET SLIDERS)からエレキギターを学び、ファンクに出会ったことを契機に、ファンク・ミュージックに没頭することになる。
2005年には自身が飼っている古代魚の名を記した〈ENDLICHERI☆ENDLICHERI〉というプロジェクトネームでの活動を始動。2008年には様々なルールに順応しながら〈244 ENDLI-x(ツヨシ・エンドリックス)〉、翌年には〈剛 紫(つよし)〉、2011年からは「美 我 空」「SHAMANIPPON」と、プロジェクト毎にアーティストネームを変え、2018年には13年ぶりに “LI”が“RE”になった〈ENDRECHERI〉が帰還。2023年には新たにドットを追加した〈.ENDRICHERI.〉とした。その名前には、終わり(END)と始まり(RE)が含まれているが、そこには「何度終わってもいいし、何度始めてもいい」「新たな挑戦のために過去をポジティブに終わらせる」という意味が込められているようだ。
2024年3月31日をもって長年所属していた事務所から退所した堂本剛は、Instagramで「人生の新しいフィールドへと進むことにいたしました」と発表。2017年6月に発症し、完治は難しいと言われている左耳の突発性難聴の症状にも触れながら、「人生の新しいフィールドへと進む」「アーティストとしての人生をここから先も進むためには環境を大きく変化させる必要があると感じました」とコメント。以前の自分に戻ることはないが、そのことをネガティブに捉えすぎるのではなく、この病とうまく付き合いながら、新しい音楽を奏でていこうという、再出発(リスタート、リボーン、リセット)に向けた想いが伝わってくる文面であった。
10代の頃から過換気症候群やパニック障害を患っていた彼にとって、「生きる意味」とまで言い切るファンクとは何だろうか? ファンクとは元々アフリカン・アメリカンたちのレベルミュージック(反抗の音楽)であった。激しい差別によって面と向かっては言えないことを、音楽に乗せて発する戦いの音楽だった。彼にとっては、アイドルという肩書きの中で、ひとりで向き合っていかなければいけない苦悩や孤独に対してのレベルミュージックだったのだろう。なおかつ、ギター、ベース、ピアノ、ドラムを演奏するマルチプレイヤーである彼にとっては、ときに言葉よりも雄弁である楽器を通して自分自身を解放してくれる、どのフィールドよりも自由に泳げる場所であったのではないかと思う。
昨年夏に行われたFCイベントでは改めて、ファンク・ミュージックを好きな理由を丁寧に説明するシーンがあった。「アイドル文化を生きてきて、世の中が自分に持つイメージに悩まされてきた中で、痛みの果てにファンク・ミュージックに出会った」という彼は、「自分は死なずに生きることを選択したんです。苦しくて、しんどかった時に導いてくれたのがファンク。ファンク・ミュージックをやるたびに、生きようと思ったあの日に立ち戻れるし、ファンク=自分。自分を惜しみなくアウトプットできる。自分の喜びを表現できるし、自分の命を最大限に生きることができる」と語り、ファンク・ミュージックを語る上では欠かせないレジェンド・ミュージシャンとして、ジェームス・ブラウン、スライ・ストーン、プリンスに続き、ジョージ・クリントン、そして、最後に.ENDRECHERI.を紹介した。
ジョージ・クリントンと.ENDRECHERI.が奇跡的な邂逅を果たしたのが、昨年5月に開催されたジャズ・フェスティバル【LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2023】だった。ステージ袖でずっと見ていたという堂本剛はジョージ・クリントン&パーラメント・ファンカデリックのステージにギタリストとしてサプライズ出演し、「Flash Light」をセッションした。リハーサルでは「俺が合図をしたら、お前は弾きたいだけ弾け。ステージにはいたいだけいろ」とジョージに言われたそうで、本番ではメンバーが盛り上がって踊り出すほどのギターソロをかまし、ステージを降りた後に「ファンクだったぞ」とビッグハグをされたという。そして終演後のバックヤードで、通訳を通して「僕はあなたに命を救ってもらったんだ」と伝えると、「Welcome to Mothership」と言う言葉とともに「デュエットしよう」と誘われ、その後、実際にコンタクトを取り合い、楽曲制作が実現したのだという。
そして先日、ステージ上での共演は叶わなかったが、再び同じステージに上がった音楽フェス【Blue Note JAZZ FESTIVAL in JAPAN】で「雑味 feat. George Clinton」を初披露。「僕自身は今年、新たな道を歩き出し、人生が大きく変わりました。この楽曲は、自分の個性を愛し、自分の心を、意思を信じて生きよう。今と向き合い、戦う人々へのエールです。手を加えて完璧に磨き上げた美しさもあるけど、荒々しいというか、生まれたそのままの自分を愛そうというメッセージを込めています」と語った。名曲「One Nation Under The Groove」を体現するかのように、ひとつのグルーヴの元に集まったジョージが〈こんにちは〉や〈ENDRECHERI〉、〈Mothership〉という言葉を放つファンク・ミュージック。タイトルの「雑味」=「That’s Me」には、多様性の時代だからこそ、周りと自分を比べて孤独に感じることもあるけれども、誰もが完璧ではないという意味での「雑味」であり、「そんな自分」を愛すことで、ありのままの自分を取り戻し、本来の自分らしく生きることへの喜びが描かれている。
ちなみに、10月18日より公開される主演映画『まる。』の主題歌として、シンガー・ソングライターとしてのデビュー曲「街」を映画のために再レコーディングした「街(movie ver.)」が起用されることも発表となった。22年前に作詩作曲した楽曲にも「自分を生きることこそ素晴らしい」というメッセージが込められていることは、決して偶然ではないだろう。
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