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木村カエラ 『Scratch』 インタビュー
取材時間40分。1秒も無駄にすることなく、ガッツリぎっしり。ボールを一球投げたら10球ぐらいになって投げ返してくる感覚。今回がインタビュー初登場なので比較はできませんが、今の木村カエラ“伝える”というか“伝えなきゃ”という想いに激しく駆られている様子。その理由は、2006年僕らの世界に影を落としたイジメや自殺にありました。「伝えなきゃ」「相手を思いやらなくては」そうしなければ、人も世界も変われない。アルバム『Scratch』に込めた想い、木村カエラが真剣に語ります。
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--デビュー当時からカエラさんの作品とツアーは全部堪能させていただいているんですけど、昨年の秋冬に行われた全国ツアー【LIVE tour 2006 ~PARLOR KIMURA DE BOB TOUR~】(以下ボブツアー)でのライブを観て、すっごくナチュラルに音楽を楽しんでいる印象を受けまして。そこっていうのは、自分の中でもデビュー当時から比べて変わってきていると感じる部分だったりしますか?
木村カエラ:そうですね。特に何か気が抜けてる部分はやっぱりボブツアーのときはあったのかなぁ(笑)って思いますね。なんでだろう?今までずっとやって来て、どこか緊張してたり、「どんな風に見られてるんだろう?」って考えたり、やっぱり表に出る以上思うことはいっぱいあって。それで「しっかりやらなきゃ!」とか、そういう気負いがあって。もちろんボブツアーのときも「しっかりやらなきゃ」とは思ってるんだけど(笑)でもちょっとした安心感だったりとか、アルバムが出てのツアーじゃなかったというところでやれたのもあって、どこか気が楽だったというか、そんなに「しっかり形にして見せなきゃ!」っていうのがなかったので、それが結果、ナチュラルにライブをすることができたのかなぁって。
--それっていうのは、ボビーというキャラクターの登場とかにも現れていましたよね。あと、そんな木村カエラの心境の変化にあわせて、やっぱりライブでのオーディエンスのテンションも変わってきていると思うんですが、それは自分でも感じます?
木村カエラ:逆に私から言わせてもらうと、お客さんの状態を見て「あ、いいなぁ」って思うからこっちも上がるっていう。お客さんのおかげで私のテンションも上がっている状況というのも結構あったりして。私の状態が変わってるからっていうのももちろんあるんでしょうけど。
--僕はこの前のツアー、川崎CLUB CITTA'でのライブを観させてもらったんですけど、もう老若男女問わず良い意味で壊れまくっていて。これはもうファーストツアー【1st Tour 2005 4YOU】の頃とは明らかに変わってきてるなと思って。
木村カエラ:そうですね。いろんな人が来てくれるのはすっごい嬉しくて。ボブツアーのときに来てくれたお客さんの中でね、妊婦さんとか、最前列に着物を着たおばあちゃんとか居たの!で、周りの若い男の子とか女の子はジャンプしたりダイブしたりしてるから「大丈夫!?」って思いながらライブをしたときもあったんだけど(笑)。そうやっていろんな人が来てくれるのは嬉しいなって思う。 でもなんでだろう?こういう音楽をやっている女の人って「他にいるか?」って言ったらいないじゃないですか。私がやってる音楽って、メジャーで人に認められる音楽がこういうモノか?って思うと、違うような気もするんですよ。でも、CM出たりとか、雑誌に出たりとか、面白いことやったりとかしている中で、そうやって応援してくれる方が増えてきて、その中で私という人間を知って音楽を聴いてくれている人もすごく多いんですよ。そんな流れの中でいろんな人が応援してくれているのは、ライブをしてるとしっかりと見えるんですよね。こんないろんな人が来てくれて、「ライブ激しいけど大丈夫かな?」っていう心配もあるんですけど、私は音楽をやってるときが一番素の自分だったりするので、「できればこのまま一緒にいてください」って(笑)思ったりしますね。
--その素が出せている部分っていうのは前々から感じていて。お客さんとも普通に話しちゃう感じとか、そういうアットホームな感じがずっとあるじゃないですか。そのフラットさっていうのはデビューする前から変わらない部分だったりするんですか?
木村カエラ:だと思いますね~。いろんなアーティストの方のライブとか観てきたんですけど、みんな良い意味で距離を置いているというか、自分を飾ったりしている人もきっといるだろうし、やっぱり格好良く見せたり、可愛く見せたりとか、いろんな見せ方をしている人がいると思うんだけど、私はね、自分を飾ることとか、「ほら!みんなぁ!」みたいな感じとかできないんですよ、恥ずかしくて!だからああやって普通になっちゃうのかなとは思うんだけど「そうする必要が私という人間の中にあるか?」と言ったらないんですね。で、お客さんがそういうモノを求めているのも知ってるし、私がどこかで大声で声を掛ければみんなが上がるのも分かるんですよ。でも私にはそれができないので。やろうと思ったことは何回もありますよ!でも無理なんですよ(笑)。恥ずかしくて。だからああいうライブになるんだろうなぁって思います。
--ただそういった性格の持ち主である反面で、すごくよく悩んだり葛藤する人っていうイメージもあるんですよ。実際のところはどうですか?
木村カエラ:ずっと悩んでますよ(笑)。みんな悩みはあるでしょうけど、私はすっごい考えますね、いろんなことを。自分のことも他人のことも、ちょっとしたことでも。例え話をすると、夢を見たときにその夢が気になって仕方なくなってしまったりとか、夢辞典の本が家にいっぱいあったりとか(笑)、一日一日何をしようかって目標を立てたりとか、そういうところにも私の悩み癖って現れてるんですけど、「ちゃんとした人間になりたい!」っていう部分があるんですよ。実際には全然ちゃんとしてないんだけど、なんか、一人の人間として何かどこかしら「強いモノを持っている人間になりたい」って思うんですよ。
Interviewer:平賀哲雄
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--カエラさんの言うところの「強いモノを持っている人間」ってどんな人間?
木村カエラ:すぐに諦めない人。すぐカッカしたり、すぐ甘い誘惑に惑わされたりとか、そういうことがないようにしたいなとは思いますね。だから毎日同じことを続けてみたりとか、そういうことをすると人って強くなる気がするので。敢えて嫌なことをやったり、それを続けたいと思ってやったりとかはしてしまいますね。
--ただそういう理想の自分を追い求めていく中で、どうしたって逃れられないネガティブな要素に時として襲われることはあると思うんですけど、それはどうやって打開していくの?
木村カエラ:「無理なことは無理」って思います(笑)。私にとって一番無理なことは、一度寝たら起きれないこと(笑)。本当に寝ることが何よりも幸せなので、一瞬ちょっと目が覚めても起きようとせずにまた寝るんですよ。小さい頃は誰よりも早く起きて誰かしら起こしに行っていたらしいんですけど、小学校入った頃はずっとそんな感じ。それは自分でどうにかしようとしてもできないんです(笑)。 「あ~!ダメ人間!」って思うけど。いろんな方法を試みるんですけど、どうにもなんないんですよね。
--あと、僕はカエラさんの『You』が大好きな曲なんですよ。あの曲は、どうやったって逃れられない孤独だったり、ネガティブな要素を受けとめながらもそれをポジティブに転換した曲じゃないですか。ああいう詞はやっぱり嫌ってほど悩んだり苦しんだりしないと書けないし、歌えないと思うんですが、自分ではどう思いますか?
木村カエラ:初めてバンドメンバーでもあるASPARAGUSのしのっぴ(渡邊忍)と「一緒に作ろう」って言って作った曲なんですけど、何かテーマを持って作った曲じゃないんですよ。私の場合はいつも曲を聴いてそこから膨らむ想像を自分の生活に繋げて書いたりとか、やっぱりテーマってその曲を聴いて考えることがすごく多いんですけど、あの曲はそうじゃなくて、しのっぴは私に向けて書いて、私はしのっぴに向けて書いてるんですよ。だからね、お互いが見てて弱いところだったりとか、心配になる部分だとか、そういう部分を書いてるんですよね。だから逆にすごく素の部分の弱いところがそのまま乗っているというか。人に向けて「この曲を聴いて元気になってくれればいい」って書いてる部分ももちろんあるんだけど、結局自分を励ましたり、近くにいる人を励ましたりとかする要素があの中には入っているんです。そんなに深く考えることもせず書いた曲ではあるんですけど、だからこそすっごい素直な言葉になってるんだと思います。
--なるほど。では、あの詞はまんま木村カエラとも言えるわけですね。
木村カエラ:そうですね。「あ、こんな風に思われてんのか」と、しのっぴに対して思ったりもするんですけどね(笑)。でもあの詞がメールで送られてきたときにちょっと泣きそうにはなりましたね。そのときに「カエラちゃんのことを歌ってるんだよ」ってハッキリ言われたわけではなかったんですけど、自分がそういうモードだったっていうのもあるんですよ。よくそういう話をしのっぴとしたりしていて。だから「今私が考えることズバリの内容だな」って。「人の心ってあのままだな」とも思ったり。でもね、ああやって落ちるのは、自分が何かをしてての結果だったりするから、落ちるのは自分のせいでもあったりするなって、普段生活しして思うんです。それを理解した上でやっぱりポジティブに生きていかなきゃいけないと思うし。だから「もっともな曲」っていう印象はあるんですよね。あの曲をシングルで出すのも不思議なことなんだけど(笑)本当に誰もがそうやって生きているということを歌った曲なので。
--で、僕は去年、『Magic Music』を聴いたときにそういう葛藤、思考の渦から抜けきった木村カエラを感じたんですよ。
木村カエラ:『Magic Music』は【ライブツアー2006『Circle』】をまわっているときにホテルでずっと書いていた詞で、ライブからすごく感じた部分が反映されているんですよね。ライブって、お客さんも「昨日誰かとケンカした」とか「親に怒られた」とか「テストの点数が低かった」とか本当にいろんな問題を抱えながらもその日のために時間を空けて来るわけじゃないですか。だから「ライブのときぐらい何もかも忘れて弾けちゃえばいいじゃん!」って。「弾けることもいいんじゃない?」って思って、それで生まれた曲なんですよね。なんか、『You』があったからこそ、あの曲というか。だから「何もかも嫌なことあったから忘れちゃおう」という流れとはまた違くて、「ライブのときぐらいはいいよ!」「みんな同じだもん」って思う感覚。
私もライブいっぱいしてきたけど、絶対に同じライブなんてできないじゃないですか。やっぱり自分の気持ちに合わせてライブの様子も変わるし、歌も変わるし。だからこそ毎回観に来てくれても違う私っていうのが見えてるだろうし。そうやって本当に素直に生きてきてるんだけど、「ライブのときは楽しくありたいよね」っていう想いが一貫して私の中にもあるので、お客さんもそうであったら嬉しいなって。そんな気持ちで書いた曲ですね。
--確かにこれぐらいのポップさというか、あっけらかんとした感じは人生に必要だなと。
木村カエラ:そうですよね。
Interviewer:平賀哲雄
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--更に去年リリースされたシングルで言えば、『TREE CRIMBERS』。めっちゃ突き進んでいこうとする意思を感じさせる曲でしたが、あの曲も今の自分の心境が反映されたナンバーなんじゃないですか?
木村カエラ:あれはね、私の勝手な妄想なんですけど(笑)「人生が“宇宙の図書館”で作られてる」って勝手に妄想してるんですよ。神様がね、いろんな人の名前が書かれた本がたくさんある図書館にいて、その本を見ながら「次はこの人別れ道だ。どっち選ぶんだろう?」「お、こっちを選んだか。この人は成功しますね」みたいな。そういう神様のイタズラ的なモノに私たちは操られているんだけど、でもその決められた人生を動かすチャンスをいくつかくれているって思うんですよ。そういう状態で世の中が進んでるんじゃないかって。だから私がもしかして人生の道を間違ったら他の仕事に就いていたかもしれないし、そういうようなことをずーっと常に考えてるんです(笑)。『TREE CRIMBERS』はその妄想からできた詞でもあって。
あと、自分のやりたいことって、小さいときはいろいろできるでしょ?でも大人になったら大人になっただけやっぱり関わる人も多いし、自分のやりたいことをどこまで出せばいいのか?とか、やっぱり常識を考えた上で判断することがいっぱいあるじゃないですか。でもやっぱりそれを考えた上で子供みたいに何でもかんでも「あれは何?」「これは何?」って聞いてしまうような、食べちゃいけないモノを食べてしまうような、そういうモノに対しての興味の持ち方、そういう気持ちをずっと忘れないで、いい大人になっていきたいって思ったんですよ。「あ~これもやりたかったのに~」と思いながら次の日もその次の日もちゃんとやらなかったりしていたら、気付いたら何もできないまま速攻おばあちゃん!みたいな。そういうことを考えてモヤモヤしていた時期でもあったんですよ。だから「子供でありたい」気持ちというか、「どこまでも何かを突き詰めていくような人間でいたい」という気持ちを込めて『TREE CRIMBERS』は書きましたね。
--今日初めてお会いして感じたことなんですけど、木村カエラの原動力って今話していたような、あらゆるモヤモヤからの脱出願望なんじゃないですか?
木村カエラ:でも考えすぎて面倒くさい方向に自分で進んでいるときもありますよ(笑)。ていうか、それがほとんどだとも思うんですけど。それで結果が生まれればいいんですけどね。でもやっぱりなんか「あんまり深く考えないことが一番なのにな」って自分でも思います(笑)。考えて考えて上手くいくこともあるけど、考えて考えてダメになることもあるし。何が正しいかはまだ私には分かってないので。
--ではそろそろニューアルバムの話に入っていきたいと思うんですけど、前作『Circle』はアルバムタイトルがそのまま作品のコンセプトを物語っているアルバムでしたが、今作のタイトル『Scratch』にはどんな意味や想いを込めているの?
木村カエラ:このアルバムを作っているときに“森の中にさまよっているイメージ”がずっとあったんですよ。なんか抜け出せない、やっぱりモヤモヤ感(笑)。「何かしらモヤモヤしてんな」っていう自分の心の中の状態が森の中に例えられていて、きっとそれはね、小さいときにディズニーのアニメとかおとぎの国の話、ファンタジーなモノがすごく好きで、今も好きなんですけど、人が迷ったりとか「怖い」と思うときってどこに居るかって言ったら森なんですよ、私の中で。だからこのアルバム、動物がよく出てくるんですよ。
その動物が出てくるのは、例えば私が出逢った人だったりとか、自分の身の回りで起きた出来事だったりとか、そういう物事が動物に例えられてるんですね。で、おそらく「森だから動物」っていう単純なイメージで意識せずそういう風になっていったと思うんですけど、そうやっていろんなことに出逢っていく中で、そのまま問題を解決せずに森の中でずーっとさまよい続けるかどうかは、自分でその問題を良い方向に持っていこうとするかどうかなんですよ。自らスタートラインを引いて、そこからまた始まりを作ればゴールが見つかるんじゃないかってところから『Scratch』って付けたんですね。『Scratch』の意味は、人に負わせた古傷のことだったりもするんだけど、何にもないところに自分で棒で線を引いて作るスタートラインという風にも捉えられるので、だから「すべての問題は自分で作るスタートラインによって変わっていく」っていうことを今作では表現したくて。絶対に終わりはなくてすべてが始まりでしかない状態っていうのを現したくて、付けたタイトルですね。
--今動物の話が出ましたが、個人的に今作に収録された新曲の中ですごく心を奪われたのがですね、『ワニと小鳥』『dolphin』『きりんタン』の動物三部作。今勝手に命名しちゃいましたけど(笑)もうトラックも歌詞もすごく童話的で、どれも絵本にしようと思えばできる内容ですよね?
木村カエラ:動物三部作(笑)。私ね、絵本が大好きなんですよ!「絵本が書きたい」とずっと思っているので、だから歌詞も自然とそういう流れになってしまうんです。あと変に恥ずかしがり屋なので、個人名とか、例えば「あなた」とか「私」とかを特にあんまり出したくない。で、そういう動物に例えた方が大人の耳にも子供の耳にも入りやすいという考えから、こういう詞が自然と増えていくんです。だからそんなに計算して書いてないので「動物三部作をこうやって聴いたらストーリーが完結する」とかは特にないんですよね(笑)。これもまた自分の妄想です。
--あと、これは気になってどうしても今日会ったら聞きたかった質問なんですけど、ワニは結局食べちゃうの(笑)?
木村カエラ:食べてしまうんです。
--あそこ今作で一番切なかったです。
木村カエラ:うん、切ない。
--でも「バカだから食べちゃうんだよな~」って妙に共感しちゃったりもして(笑)。(※詳しくは、木村カエラのニューアルバム『Scratch』にて(笑))
木村カエラ:そう、だからどっちにでも捉えられる感じ。ただあれは最後に作り終わってから考えたんですよね。「最後、結局ワニが食べちゃうってどう?」って。その前に「小鳥の声をあそこに入れたい」っていう話があって、そこからの流れで結局食べちゃうところに繋がっちゃったんですけど(笑)。「いろいろ反省しつつも結局同じことを繰り返しちゃうんだよなぁ」って思いながら。
Interviewer:平賀哲雄
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--今作、そんな童話的な表現をした曲もあれば、すごくリアルでストレートな表現をしている曲もあって。『sweetie』、この曲はどんな心境がカエラさんに綴らせたモノだったりするんですか?
木村カエラ:失恋した女の子の気持ちを書きたかったんですよ。今までの私って自問自答する詞ばかりを書いていたんです。だから分かりやすい恋愛の歌詞とか、第三者が出てくる歌詞とかってほとんどないんですよ。でも今回敢えて『sweetie』でストレートに失恋した女の子の気持ちを書いたり、『L.drunk』みたいに「愛して」って言葉を使ったり、素直な言葉をいっぱい詰めたのは「素直な言葉を伝えるべき相手には伝えなきゃいけない」っていう気持ちが生まれたからなんですよ。「いつまでも自問自答ばかりしていていいのか?」「ちゃんと言葉を大切にしなきゃいけないんじゃないか」っていう想いから生まれた変化というか。
--なんなんでしょう?そうやって木村カエラの心境に変化を与えたモノは。
木村カエラ:2006年に私が見てきたニュースの中で一番心にドシン!と来たニュースって、イジメとか自殺とかの問題だったんですね。アーティストの方でこの問題を受けて詞や曲を書いてる人って今すごく多いと思うんですけど、やっぱりそれが私の中でも強烈で、すごく考えさせられたんですよ。それでさっきの「素直な言葉を伝えるべき相手には伝えなきゃいけない」っていう気持ちに繋がるんですけど、例えば、イジメられてることを伝えなかったり、「伝えてほしい」って待ってる側も自分の気持ちを言葉としてちゃんと伝えなかったりとか、そういう流れで自殺者が増えていたりとか、自分のことしか結局は考えられなくなってしまっている自問自答の人間がものすごく増えてるんじゃないかって。で、結果が出てから他人を責めてしまう人間がすっごい多いんだなって気付いたんです。自分の中で「相手にこれは言わないでおこう」「優しい嘘を付こう」と思っていたとしても、相手にとってそれは優しい嘘ではないというか、「ちゃんと言ってよ!それぐらい」って思うようなことが世の中にめちゃめちゃ溢れ出てるんじゃないかと思ったんですよ。
--なるほど。
木村カエラ:あと、自分が中学生の頃、好きな子に電話するときって、まだ携帯電話を持っていないから家の電話だったんですよ。それで「親が出たらどうしよう?」「思春期の男の子に「木村カエラです」って女の子から電話が掛かってきたら、彼の親はなんて思うだろう?」とか考えてすごくドキドキするじゃない?で、実際その男の子が電話に出ても「何喋っていいかわかんない」とか(笑)。あの受話器を持つ手に汗をかいてるようなドキドキしちゃう感覚。顔も合わさないでほんの一瞬喋るだけなのに、それにすら緊張していた自分が確かにその頃にはいたんですよね。でも今は携帯のメールで「うん」とか「はい」とか最低限の会話で済ましちゃったりするじゃないですか。多くを語らず、嫌なことがあっても「言っても仕方がない」って思うようになる。今の私ぐらいの世代とその前後の世代って特にそういう人が多いと思うんですよ。
--うん。
木村カエラ:でもそれじゃダメだって私は気付いたんですよ。言葉を喋るってものすごく勇気がいるし、難しいことなんだけど、やっぱりただ自分のことをぶつけるだけじゃなくて、まず相手の気持ちを分かった上で話をするのが大事なことだと思うんですね。そうすると、相手も自分を思いやった気持ちで言葉を話すようになると思うの。それを繰り返していると、相手の気持ちも分かるし自分の気持ちも分かってもらえるっていう流れが生まれると思うんですね。でもそれを面倒くさくてやらなかったら、こういう事件がめちゃめちゃ増える。自殺してしまう人の“死ななくちゃいけない何か”っていうのは、そこに原因があるんじゃないかって思って。そしたら「おーっと!自分も一緒」「私も他人のことを言えない」「表に立っている人間としてこれはイカン!」って気付いて、これからは「ちょっとしたことでも伝えるべきことは全部伝えよう」って。だから一曲目から「愛して」って言葉を使ったりとかしてるんですよ。そういう意味では、自分にとってはリハビリのアルバムなんですよ、『Scratch』は。もちろんみんなにとっても良い方向へ向かえるアルバムになってほしいなとも思ってるんですけど。
--それに必要不可欠というか、より今作を有意義にする上で各曲のトラックの素晴らしさについて触れないわけにはいきません。で、前作もそうだったんですけど、みんな天才的にすごい曲を作ってきてますよね?それこそみんなの頭の中を覗いてみてみたいぐらいに(笑)。
木村カエラ:「森のイメージで作ってください」って伝えたんですけど、「みんな森のイメージでこれ!?」って(笑)素直に驚かされましたね。でもいろんな人に曲を書いてもらうことでいろんな自分が出るっていうのは、すごく私にとっても面白いことなので、すごくワクワクドキドキしながら聴いてましたね。「え~!これにどうやって詞を付ければいいの?」って悩みながらも(笑)。それが楽しいんですけどね。「これをどう料理すればいいのか」って考えるのが。でも基本的に「この曲を誰が作ってるか?」っていうのは無視です。それを気にし始めたら、申し訳なくて何も(詞を)持っていけないんで(笑)。だから最初の頃は大変でしたよ。「あ~、こんなスゴイ人たちに作ってもらってるのに私の詞なんて持っていったら・・・」って考えちゃって。しかもみんな何も言わないんですよ!私の詞に対して。「でも頭の中じゃ「なんだ?この歌詞」って思ってるんだろうな~」って(笑)。だから今は無視です。無視しなきゃ書けないし、持っていけない。
--(笑)。
木村カエラ:でも今回『きりんタン』の歌詞に関しては、リアクションがあったんですよ!アイゴン(會田茂一)さんから初めて「これ何っ?」って言われました(笑)。「歌ですよ」「え?歌?」「とりあえず気にしないでください」「とうとうここまで来たか」みたいなやり取りをして(笑)。でも実際に完成したら「『きりんタン』良いね!」ってアイゴンさんが言いだして「ほら!だから言ったじゃないですか」みたいな(笑)。
Interviewer:平賀哲雄
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--あと、今作『Scratch』の最後を『Ground Control』で飾った理由を聞かせてもらいたいんですけど。
木村カエラ:このアルバムって、最初はね、現実的なことに向き合って歌ってる詞ばっかりなんですよ。8曲目の『Scratch』までは。で、『Scratch』で現実に向き合うのが嫌になってきて、森に迷い込むんですよ。それで妄想に走るんですね。例えば『SWINGING LONDON』は「60年代に行きたい!」っていう妄想だったりして。でも妄想に走りながらも「自分でどうにかしなきゃ」って現実に戻されることが何回もあるんですよ。それを繰り返していく中で最後に『Ground Control』に辿り着くんですけど、『Ground Control』の歌詞の意味は「そこまで行かないで、戻っておいで」「大切な人を僕はコントロールしているんだよ」っていうモノなので、それで結局逃げていた妄想の世界から戻されるっていう。だから自分でどうにかしなきゃいけないこともあるし、たくさんの問題に立ち向かわなきゃいけないときもあるんだけど、結局いつも誰かによって本来居るべき場所に戻される。そういう流れが作りたくて、『Ground Control』を最後に持ってきました。
--自分の中にある大きなテーマを一枚のアルバムとして表現できたわけですね。
木村カエラ:そうですね。実際聴く人にとっては、私がこんなにいろんなこと考えて作っていたとしても、そんなことは分からなくていいことかもしれないけど、自分が納得できる作品ができたことにまず「よしっ!」っていう。そこは自己満足ですよね(笑)。で、あとはみんなにとって、楽しいときでもツライときでもどんなときでもサラ~って聴けるアルバムになってればいいなって。そういうアルバムが一番だと思っているので。だからテーマだったりコンセプトだったりは、こういうインタビューの記事を読む人以外は気にしなくてもいいんですよ。
--でも作品自体からもカエラさんが掲げたテーマやコンセプトは伝わると思いますよ。なんかハッピーになったり、ポジティブになったり、人に優しくなったり。そういうことは絶対あると思う。
木村カエラ:そうなんですよね~。また人によって引っ掛かる曲も感じ方も違うしね。『Snowdome』とかも自分としてはイジメをテーマにして書いた詞だったりするんですけど、「これって亡くなっちゃった人のことを歌ってるの?」って聞いてくる人もいれば、「恋愛の詞だね」っていう人もいるし、もう人によって全く違うんですよ、感じ方が。そう考えると、どの曲も引っ掛かる人もいればそうじゃない人もいると思うんですよね。でもそれでいいと思うし、分かる人が分かってくれればいいと思う。それもある意味、開き直りなんだけど(笑)。ただ私は「今だからこういうアルバムなんだろうなぁ」って思ってます。
--どう伝わり、響くのか?それを感じられるのが、このアルバムを引っ提げた全国ツアー【木村カエラ LIVE TOUR 2007】だと思うんですけど、どんな内容になりそうですか?
木村カエラ:まだ全然考えてないです(笑)。ただいつも飾らずにやっているので、それは変わらないと思う。でも今回妄想の世界に走って詞を書いてる曲があったりとか、浮かぶ風景や色が自分の中でハッキリしているモノが多いので、そういうのが上手くライブの中で表現できたら面白いだろうなって思ってます。
--あと、先程「絵本が書きたい」という話もありましたけど、最後に将来的に叶えたい夢とか目標があったら聞かせてもらえますか?
木村カエラ:いっぱいありますよ!やりたいこと。まずタイツ屋さんになりたいでしょ!
--タイツ屋さん?
木村カエラ:うん!タイツが大好きなんで。あと、絵本作家になりたいでしょ。おばあちゃんになったら“みんなのうた”を作りたいでしょ。その前に子供を産みたいでしょ。う~ん、そんな感じかな?必ず現実にしたいのは。あとは、バンジージャンプしたい。あ!車の免許取りたい!
--(笑)。
木村カエラ:いつできるか、チャンスをいつも狙ってますね!それで「今できる!」って思うと、すぐ動き出しちゃうんですよ!だから今言ったことはチャンスが来たらすぐやると思います。
Interviewer:平賀哲雄
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