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<コラム>メジャーデビュー曲が台湾バイラルチャートでトップ3入り 新世代バンド「luv」とは?

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Text:金子厚武


 luvが7月にリリースしたメジャーデビュー曲「Fuwa Fuwa」が台湾のバイラルチャートで好アクションを見せている。リリースから1か月後の8月26日にトップ50入りを果たすと、偶然にもその週にメンバーがミュージック・ビデオの撮影のために台湾入りをし、メディアキャンペーンを実施したことによって、9月13日にはトップ3入り、その後も1か月に渡りチャートインを続けた。9月11日には台湾で撮影された新曲「好人紀行」のミュージック・ビデオが公開され、さらに台湾のリスナーが増加して、YouTubeやSNSでも台湾からのコメントが数多く寄せられている。


▲Spotify バイラルチャート<台湾>(9/13公開)

▲luv「好人紀行」MV

 luvは2023年6月に結成された全員2003年生まれ、関西出身/在住の5人組。Hiyn(ボーカル・ギター)、Zum(ベース)、Sho(ドラム)、Rosa(キーボード)、Ofeen(DJ)という、幼い頃からの友人や大学のジャズ研で出会ったメンバーによって結成され、現在4人が現役の大学生という若手のホープである。バンドの顔であり、ソングライティングの軸を担うHiynは父親の影響で小さい頃からブラックミュージックを聴いて育ち、トム・ミッシュを経由して1990年代のアシッドジャズやネオソウルのファンになったそうで、メンバーの中にDJが含まれているのはあの時代への憧れをよく表している。

 そんなHiynの趣向をメンバー全員で共有しつつ、それぞれのバックグラウンドも活かしながら、スタイリッシュかつグルーヴ感のある演奏を聴かせるluvの楽曲は、どれも自然と体が揺れるものばかり。また、彼らは10代のときにSuchmos、Yogee New Waves、never young beachといったバンドを自然に吸収してきた世代で、「あの頃の雰囲気を自分たちの世代でもう一度」という感覚も持っている。歌詞は日本語と英語を織り交ぜているが、サウンドを重視した空耳的な言葉のチョイスも大きな特徴で、それをHiynが甘い歌声でリズミカルに歌い上げることにより、ポップスとしての間口の広さを担保している。

 「Fuwa Fuwa」以前にはコンピレーションへの提供曲も含めて8曲が配信されていて、特に今年2月にリリースされた4曲入りのEP『Garage』は彼らの個性を凝縮したような仕上がりだ。歌詞にメンバーの名前を散りばめて、〈we’re luv〉〈I hope you groovin’ more〉と歌う自己紹介ソング「Lee Un Vile」に続き、「Stevlay」は彼らの遊び心を感じさせる一曲。タイトルはスティーヴ・レイシー、サンプリング元はボブ・マーリー、歌詞にはエリカ・バドゥとディアンジェロが出てきたりと、年代を問わないミュージックラバーぶりが伝わってくる。

 ピアノインストの「Rovel」はメンバーの中で唯一クラシックをルーツに持つRosaの作曲で、彼は5月にリリースした「Jamlady」でストリングスのアレンジを担当したりと、ソングライティングの面においてHiynに並ぶキーパーソン。そして、4曲目の「Cooen」は真骨頂とも言うべきメロウなネオソウルナンバーである。この曲のラストには〈a new path begins, but you can always return to the garage.〉というアナウンスが挿入されていて、EPのタイトルにもなっている「Garage」は彼らと縁が深い神戸のライブバー「ガレージパラダイス」のこと。『Garage』という作品が彼らにとっていつでも帰ってくることのできる原点であると明確に記されているのだ。

 メジャーデビュー曲の「Fuwa Fuwa」は初めてレコーディングスタジオでのセッションをもとに作られた楽曲で、彼らにとって新鮮な経験となったが、その分これまで以上にバンドの生のグルーヴ感がパッケージされ、持ち味であるアシッドジャズ譲りの軽やかさが印象的な仕上がりに。また、歌詞がほぼ全編日本語というのも彼らとしては新鮮で、ポップスとしての間口の広さをこれまで以上に意識した楽曲だと言えよう。〈愛でさよなら 君に凪ぐまま〉に始まり、〈Fuwa Fuwaにいこう 愛になってこのまま〉と、バンド名になぞらえて「愛」を歌っていることも含めて、彼らにとって重要曲であることは間違いない。

▲luv「Fuwa Fuwa」MV

 そんな楽曲が早速台湾でバズを起こしたわけだが、その理由を楽曲のクオリティ以外の部分でも求めてみるなら、luvが参照点の一つとしている2010年代の日本のバンドシーンが、すでに台湾をはじめとしたアジア各国にも根付いていることが挙げられる。もともと台湾にはJ-POPの土壌があり、最近だと先日逝去が報じられた酸欠少女 さユりの楽曲がバイラルチャートの上位を占めるという現象が起こっていたりもするが、2019年にはSuchmosが台湾の新世代アーティストをピックアップする【金音創作獎 -Golden Indie Music Awards-】にゲスト出演したことが大きな話題となった。またnever young beachは、台湾のみならずアジアを代表するバンドとなったSunset Rollercoasterとの親交でも知られている。Suchmosやnever young beachを聴いてきた台湾のリスナーが、新たな世代としてluvに期待を寄せるという状況が、もしかしたら日本以上に進んでいるのかもしれない。

 luvの面白さについて、Hiynがソロアーティスト「ミヤケ武器」として活動していることにも触れておきたい。この名義では昨年11月にアルバム『大グロス』をリリースしているが、すでに楽曲提供でも実績があって、WEST.に提供した「膝銀座」はTikTokでバズを起こしてもいる。『大グロス』を聴くと、曲によってはロック色も強く、よりジャンルレスなJ-POPを展開しているように、2020年代のソロアーティストらしいマルチなクリエイティブ思考や作家脳も持っているHiynが、自分がやりたいことを一番素直にアウトプットする場としてバンドを選んでいることはとても重要だ。

▲ミヤケ武器「平凡」

 プロフィールを読むと、「バンド名のluvは、loveを略したスラングで、loveよりもカジュアル、likeよりもフォーマルな印象を与える言葉から来たもの」とある。この「カジュアルさ」はバンドの楽曲やビジュアルから確かに感じられるもので、スタイリッシュではあるものの、大げさに着飾った感じはしない。そしてそれは彼らが決して焼き直しではなく、「日本か?海外か?」「バンドか?ソロか?」といった二項対立から離れ、自由に、軽やかに活動をする2020年代のアーティストであることの何よりの証明だと感じる。現在ライブの動員が急激に伸びていて、ゲストにDURDNを招いて10月20日に下北沢のADRIFTで開催される初の自主企画【luv presents“yet”】には、キャパシティの倍以上のチケット応募があったという。ふわふわ漂いながら、ここからどこまで行けるだろうか?

▲Studio Live Session at Amazon Music Studio Supported by SanDisk

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