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<インタビュー>清水美依紗、新境地でありルーツでもある新曲「TipTap」の世界観
Text & Interview: 岡本貴之
Photos: mayuka
清水美依紗が、10月9日に新曲「TipTap」をリリースした。同日から放送がスタートするフジテレビ系水10ドラマ『全領域異常解決室』のオープニングテーマとして起用されていることも話題のこの曲は、清水にとって初めてのジャズナンバー。ウッドベースの音色から始まりブラスが高らかに咆哮する、煌びやかな生楽器のアンサンブルとは対照的に、現代社会と自分自身への皮肉と期待が込められた歌詞が強烈な、新境地ともいえる世界観を持っている。
一方で、華やかなステージを連想させるサウンドは、ミュージカル俳優としても活躍する清水のイメージとも重なり、楽曲、ドラマ、本人のキャラクターが三位一体となり想像力を膨らませる作品ともいえる。「TipTap」の制作エピソードから、ソロツアー【Roots】について、12月から始まるミュージカル『レ・ミゼラブル』(エポニーヌ役)のこと、この先に見据える展望まで、存分に語ってもらった。
──新曲「TipTap」がドラマ『全領域異常解決室』のオープニングテーマとしてリリースされることが発表されました。リリースを前にした率直な思いを聞かせてください。
清水美依紗:率直にうれしいです。何かの作品の一部として「TipTap」を皆様に届けることができることがうれしいなって。以前もドラマの主題歌を歌わせていただいた経験はあるんですけど、まただいぶ違う世界観なので。『全領域異常解決室』はオリジナル脚本のドラマで、私は普段からミステリー小説を読んだり、そういうドラマをよく観たりするんです。なので、ドラマの題材に惹かれましたし、「うわー最高!」って思いました(笑)。早くドラマを観たいですし、「TipTap」がオープニングテーマを飾ることにワクワクします。
──いち視聴者としても楽しみにしているわけですね。そのドラマの主題歌である「TipTap」は清水さんにとって初めてのジャズテイストの楽曲ですね。どんな形で生まれた曲なんですか?
清水:今回、私は作詞・作曲には入っていなくて、いつも楽曲提供をしてくれて「Wave」でもお世話になったMitsu.Jさんと、「Suger」の作詞をしてくださったSHOWさんのおふたりが書いてくださったんです。私はジャズナンバーになることは全然予想していなかったんですけど、J-POPなのにちゃんとジャズ要素が上手く組み込まれていて、曲をもらったときにもう、「ビビッ!」と来たんです。
──清水さんの過去作を聴いても、こういうタイプの曲はまったくないですもんね。どちらかというと、エレクトロなアレンジの曲が多い印象です。
清水:そうですね、今回の編曲は生音を使っているので、Mitsu.Jさんの振り幅はすごいなって思いました。私は毎回印象が違うような曲を出してるんですけど、その中でもわりとガラッと変わりましたね。
──普段、ジャズを聴くことってありますか?
清水:あります。ニューヨークに留学していたときは、エラ・フィッツジェラルドとかサラ・ヴォーンなどをたくさん聴いていました。それと、ミュージカルをやっているとジャズで使われている曲が結構あるんです。母もジャズをよく聴いていましたし、ジャズ自体は身近にあったんじゃないかなと。そういう意味では馴染みやすかったんですけど、いざ歌ってみるとなかなか大変だなって(笑)。
──実際、歌ってみてどうでしたか?
清水:歌詞に現在社会への皮肉と自分自身への葛藤の要素が含まれているので、スイングにどうミックスさせて歌えばいいのか、そのバランスが大変でしたね。ジャズっぽく歌うよりかは、ジャズの乗り方はしているんだけれど、芝居に近いニュアンスを歌で出すことをすごく意識しました。とにかく“歌詞を喋る”っていう。
──セリフを喋るようなつもりで歌っている?
清水:そうですね。本当にミュージカルに近い感覚で歌いました。〈マジないわ〉とか、あまりミュージカルには出てこない言葉、現代の言葉に近い歌詞もあったのですが、語尾がとても綺麗なんです。そこを自分が喋るようにどう歌うか、清水美依紗が歌ったらどうなるかを突き詰めた気がします。
──歌詞の人格としては、どんな人間が歌っている感じなんですか?
清水:これは私自身です。社会に対して思うことだったり自分に対して思うことだったり、日常で感じていることを綺麗に言語化してくれています。この曲を最初聴いたときは音楽的な部分が好きだったんですけど、何度も聴いて、歌詞も読んでいくと、すごくハマるものがありました。今の私もそうですし、若い方たちにもハマる歌詞だと思っていて。わりと自分が思っていることに近いので、“自分”として歌っている感覚ですね。
──その中で、自分自身の二面性で歌い分けてる感じもあるのでは?
清水:それはとてもあります。自分を自分でもて遊んでる感じですね。二面性の自分がいるけど、それも全部自分というか、どっちも一緒の人格だから、それを一歩引いたところで見ている感じです。自分を手のひらで転がしているようなニュアンスもあって、〈人生は蜉蝣(カゲロウ)/栄光は蜃気楼/そんなんじゃつまんない/お気楽に生きましょう〉っていう歌詞も、ただ〈お気楽〉って歌うんじゃなくて、転がすように歌ってみたり。そういう一つ一つのニュアンスを全部理屈で埋めていく感覚で歌いました。
──曲調に大人っぽい感じもありつつ、巻き舌になってる箇所もあったりして、ちょっとやんちゃな感じも出ていていいですね。そういうところでも二面性を感じました。
清水:それが狙いだったのでよかったです(笑)。曲は完全に出来上がったものをいただいていたので、作曲・編曲のMitsu.JさんとSHOWさんにどういう意図でこういう歌詞が生まれたのか聞いて、楽曲の理解を深めていく作業にも時間をかけました。それでレコーディングしたら「これ、私のことじゃん!」って、スッキリしました(笑)。
──それでいてドラマのオープニングテーマなわけですから、ドラマの内容とも重なっていくのかも含めて面白そうですね。
清水:どういう感じで音楽が聴こえてくるのかすごく楽しみですし、とにかく早く見たいですね。
──ところで、タイトルの「TipTap」はどういう意味で付けられているんですか?
清水:日本語のタイトルもあったんですけど、やっぱり今まで出した楽曲がすべて英語タイトルなので英語っていうのは崩したくなくて。「TipTap」っていうフレーズが覚えやすくて特徴的でもあるので、たくさんの方に覚えてもらえると思って「TipTap」にしました。言葉自体は「何かが忍び寄ってくる」みたいなイメージですね。何か意味を持っているわけではなく、音のキャッチーさを重視しています。
──ジャケットもすごく個性的ですね。さきほどおっしゃった「何かが忍び寄ってくる」イメージもあるのでしょうか?
清水:いくつかあった候補の中で目に入ったのがこれでした。腰を低くしたダンススタイルで有名なミュージカルの振付師であるボブ・フォッシーさんに似てるんです。楽曲を聴いたときに浮かんだイメージに共通するものを感じたので、直感で選びました。
▲「TipTap」ジャケット写真
──清水さんにとって、新境地的なシングルになっているのではないかと思いますが、実際に出来上がって、ご自分にとってどんな曲になりましたか?
清水:ライブですごく映える曲だなって思いました。ジャジーなナンバーなのでライブならではのアレンジができると思うし、ライブで歌うのが楽しみです。わりと新境地のように感じられると思いますが、私にはわりと慣れ親しんだ曲調だったので、レコーディングもすごく楽しめましたし、聴いてくださる方たちからどんな反応がいただけるのか、すごく楽しみです。
──少し前の話題ですが、7月21日に三重県の鈴鹿市文化会館でスペシャルコンサートが行われました。地元での初ライブだったそうですが、感想を聞かせてください。
清水:お客さんのほとんどと血が繋がってるなって(笑)。実際には繋がっていなくても、私が3歳ぐらいの頃から高校を卒業するまで通っていたコンビニの店員さんや、私が小さい頃からお世話してくれた方たちが来てくれて、「ただいま!」っていう感じの温かい雰囲気で、とても安心して歌えました。ギタリストの海津(信志)さんと一緒にオリジナル曲の「Wave」やカバー曲を歌ったのですが、アコースティックなライブでもあったので、しっとりしたライブになりましたね。こうやって地元に戻ってライブをすることが、歌手を目指していたときに応援してくれた友達や近所の人、家族や親戚への恩返しになると思うので、これからも三重県でライブをやりたいなって思います。
──そして現在はソロツアー【Roots】の最中ですが、大阪公演が9月24日になんばHatchで行われました。振り返ってみていかがですか?
清水:今回のツアーのテーマが「自分のルーツ音楽を辿るライブ」なんです。今日までどういうふうに音楽と向き合ってきたのか、あるいはどんな音楽に助けられたのか、どんな音楽を聴いて育ったのかなど、いろんな縁があって今に至るという、前回の【Cherish】ツアーとはまったく違うライブになっています。「今までのライブの中で一番感動しました」って言ってくれた方もいらしたんです。自分のルーツを話す機会があっても、なかなか細かい部分まで話すことはできないじゃないですか。なので、なぜこの曲を歌って、次の曲にどう繋がるのかっていう部分をMCと一緒に、すべて繋げてお届けしました。
──先ほど「どんな音楽に助けられたか」という言葉がありましたけど、そういう感覚があるんですか?
清水:音楽には常に助けられてます。「音楽がなかったらどうなっていたんだろう?」って思うくらい。内気な性格っていうこともあって、音楽は私が唯一自己表現できる場所みたいにもなっていましたし、幼少期から学生時代、ニューヨーク留学まで、いろんな場面でいろんな形で救われていました。音楽を通じて出会った人との縁で救われた部分も、今回のツアーにはたくさん入れています。同じ曲でも日によって変わるので、そういう部分も自分が驚く瞬間がきっとあるんだろうなって思います。
──自分が歌う歌に、自分で驚くことがある?
清水:“サプライズ・マイセルフ”と呼んでいるんですけど、「自分に驚きなさい」っていうことなんです。作り込みすぎずにライブを楽しむことを大切にしていきたいですね。
──ご自身が音楽に救われてきたっていうルーツを辿っていくライブだからこそ、お客さんにそれが伝わって「今までのライブで一番感動した」っておっしゃったんでしょうね。
清水:舞台の稽古やイベントなど、いろんなことが重なっているときにこのツアーを作り上げなきゃいけなかったので、個人的にはすごく大変だったんです。ただ、今も舞台の稽古をやっていて、その公演が半年ぐらい続いてしまうので、長らく音楽ができなくなってしまう前に、すごく大切なもの、もっと大切にしたいなって思うものをこの【Roots】ツアーで見せたい思いが強かったです。
歌手として歌ってきたこの曲を、役として歌うとどうなるんだろう
──12月からは、ミュージカル『レ・ミゼラブル』にエポニーヌ役で出演されますが、意気込みを聞かせてください。
清水:じつは、エポニーヌ以外にも、農家の女性や娼婦役などを演じるんです。歌手を目指すきっかけとなった曲が「オン・マイ・オウン」(劇中でエポニーヌが歌うソロ曲)だったので、思い入れがある作品ですし、今までは歌手として歌ってきたこの曲を、役として歌うとどうなるんだろうっていうドキドキ感もあります。今、稽古中なんですけど、キャストのみなさんが素晴らしいんです。みなさんが『レ・ミゼラブル』の世界感へ没入していく感じがすごく刺激になっていて、私も頑張らないとなって思っています。初めての『レ・ミゼラブル』なので気合いを入れたいと思います。
──舞台の稽古と並行してこの曲のプロモーションなどをやってるわけですよね。そういうのは結構切り替えられるほうですか?
清水:切り替えるというより、前もって準備をするタイプで、現場で「はい、これです」って言われてなんでもできるタイプじゃないんですよ。舞台もそうですけど、全部のことに対してすごく入念に、前もって確認や準備をしておかないと不安なんです。
──「まあ、なんとかなるだろう」って感じにはできない?
清水:いやあ、全然ダメですね(笑)。ヤバイヤバイってなっちゃいます。エポニーヌのセリフも歌詞も、今はもう全部頭に入っている状態で、原作を読んで、エポニーヌを取り囲む人たちの人間性について研究したり、キリスト教についてしっかり勉強して理解を深めているところです。
──でも、準備をすればするほど、ステージに立ったときに飛んじゃったりしないですか?
清水:飛びます(笑)。でも、たくさん練習していると勝手に口が動くんですよね。
──12月からの舞台出演以降、来年に向けて準備したいことはありますか?
清水:自分が歌手としてやりたいことをスタッフと共有していく時間を増やしていきたいっていう希望が結構強くて。自分がやりたいことを言葉にして伝えなくてはいけないと、デビューしてから3年ぐらい経ってあらためて感じたので、目指したいところ、やってみたいことはなるべく話すようにしています。いつかアルバムを出してみたいですね。毎回、違う雰囲気の曲をリリースしていますが、それらがすべて繋がるようなアルバムを作ってみたいなと思います。そして、そのアルバムをそのままステージで、脚本家や演出家をつけて音楽劇のようなライブをやってみたいなっていう想像をしています。それを実現させるための準備をしていきたいです。