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<インタビュー>吉柳咲良「私は私」をカタチにした“攻め”の2ndシングル「Crocodile」

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Text & Interview: 後藤寛子
Photos: 筒浦奨太

 NHK連続テレビ小説『ブギウギ』やミュージカル『ロミオ&ジュリエット』で、演技力だけでなく歌唱力でも注目を集めてきた吉柳咲良。今年4月にシングル「Pandora」で歌手デビューを果たし、満を持して音楽の世界へ飛び込んだ。自分と向き合いながら「攻め」の姿勢で作り上げた2ndシングル「Crocodile」には、音楽に対する情熱と、今を生きる彼女の強い意志がみなぎっている。今だからこそ生まれた「Crocodile」の制作秘話から、音楽ルーツ、芝居への思いまで、じっくり語ってもらった。

──お芝居に歌にと幅広くご活躍されていますが、最初に憧れたのは何だったんですか?

吉柳咲良:小さい頃の夢は歌手でした。幼稚園の卒園式でひとりずつ将来の夢を叫ぶ場があって、そこで「将来の夢は歌手になることです!」と言っていた記憶があります。もともと母が歌うことが好きでよく一緒にカラオケに行ったり、車の中で常に音楽が流れていたり、音楽に触れる機会が多くて。私もアイドルやK-POPが好きでダンスを習っていたので、歌手になりたいと思っていました。

──同時に、お芝居にも興味が湧いたんですか?

吉柳:いろいろなドラマを見て、石原さとみさんを好きになって。ここぞというときの表情が天才的で、すごくエンターテイナーな方だと憧れるようになりました。そこから、お芝居にも興味を持ちました。それで、オーディションを受けようと思って探していたんですけど、当時まだ12歳だったので、なかなか受けられるオーディションがなくて……でも自分の年齢でも受けられる「ホリプロタレントスカウトキャラバン」を見つけたんです。石原さとみさんが受けられたオーディションと同じだし、「これしかない!」と思って挑戦しました。

──10代でのオーディションだと、親御さんにすすめられたり、習い事感覚の方も多いと思うんですが、早々と「私は女優になるんだ」という意志があったんですね。

吉柳:結構、強めにありましたね。「絶対に勝ち取りたい!」と。

──そして、デビュー作となるミュージカル『ピーター・パン』と出会うわけですが、歌って踊ってお芝居もできるミュージカルの主役というのは、いきなりやりたいことが全部やれるみたいな感じだったのでは?

吉柳:本当にいい出会いだったと思っています。というのも、当時ミュージカルというものの存在すらほぼ知らなくて……「歌って踊ってお芝居するものがこの世にあるんだ!」と驚いた記憶があります。今ではミュージカルが一番好きなので、最初に『ピーター・パン』という作品に出会えたのは幸運でした。

──そうだったんですね。そこからミュージカルを続けつつ、女優としての仕事も増えていくなかで、いつかアーティストデビューもしたいという気持ちはずっとあったんですか?

吉柳:そうですね。やっぱり「自分を表現したい」という気持ちがあって。お芝居は役を通してなので、求められているイメージとかけ離れたことはできない。そこになんとなくもどかしさも感じていて、「私はこういう人間なんです」ということを表現したかったんです。そもそも私は、初対面の人にもパーソナルな部分まで話したくなってしまうようなオープンマインドで。音楽だと、自分を表現するうえで曲が背中を押してくれるし、チームの皆さんも私の意図を汲んでくださって、自分の思い描いてきたものを理想の形にすることができました。すごくうれしかったです。

──役者さんのなかにはプライベートは出さないという方もいますが、吉柳さんは自分自身を出して伝えたいことがあったんですね。

吉柳:はい。役のイメージではなく「私は私!」って。

──確かに、デビュー曲の「Pandora」から、音楽活動を通して表現したいビジョンやスタイルがはっきりあるんだろうなという意思が伝わってきました。

吉柳:アーティストとしてどういう方向性でやっていくのか話し合いをしたときに弾き語りで歌うという案もあがったんですけど、昔からHIPHOPダンスをやっていたし、K-POPや洋楽の雰囲気も私自身すごく好きだったので、こういうサウンドになりました。それに、ただ歌うだけではなくて、私が表現したいのは心の奥底に溜まった何かだったから。ギターを弾きながらだとちょっとストレートすぎるし、トラックが助けてくれるからこそ表現できるような感覚はあります。

──内側からあるものを表現したいという気持ちが第一にあった?

吉柳:そうですね。日頃自分が抱えている心の中のものを表現として使っていいのがアーティスト業だと思っていて。女優業だと、役として見られている自分だったり、なんとなく世間の抱く「女優さん」というイメージがありますけど、誰しもいろいろな面があってひとりの人間だと思うので、ひとつのイメージで固めたくないんです。

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──プロデューサーのRyosuke "Dr.R" Sakaiさんとはどういうふうに制作を進めていったんですか?

吉柳:初めてお会いしたときに、さっそく「作ってみようか」となって、Sakaiさんが「今日のテーマは?」「今の気分はどんな感じ?」と訊いてくださって。「Pandora」のときは私が「ロー」と答えて、あのトラックが出来上がったんです。さらに、作詞を担当してくださった麦野優衣さんとも「好きな色は?」「好きな食べ物は?」みたいなところから、恋愛観、人生観までをお話していく中で、あの詞が仕上がって。トラックも詞も、心を読まれてるのかなと思うくらい私が思っていることを鮮明に形にしてくださって、感動しました。「気持ちいい~!」って(笑)。

──歌はトラックのムードに合わせて、息を多く含んだけだるい歌い方になっていますよね。ミュージカルの歌唱法とは全く違う歌い方だと思いますが、挑戦してみていかがでしたか。

吉柳:最初は、ところどころでミュージカルっぽい歌い方のクセが出ていたみたいで。「出てるよ、ミュージカル!」ってツッコまれることが結構ありました(笑)。「声を出すとかちゃんと音に乗せるというより、曲のイメージやグルーヴ感で歌ってみてほしい」「踊っているときのようにもっとマイクの前で表情を動かしていいから、感覚のまま歌っていい」みたいなアドバイスをいただいて。新鮮でしたし、めちゃくちゃ楽しかったです。

──2曲目の「Crocodile」は、逆にアッパーな楽曲になりましたね。こちらはどんなイメージで作っていったんですか?

吉柳:「Pandora」と同じようにSakaiさんにテーマを訊かれて、「攻め」というキーワードを答えたんです。そこから出来上がったトラックを初めて聞いたとき、最初の音でまずびっくりして、一瞬で心を奪われました。自分で「攻め」と言った以上、もう引き下がれないなと身が引き締まりました。

──「Pandora」とは逆に、攻めていくんだという。

吉柳:「Pandora」のときは「好きも嫌いも全部受け止めて、一緒に堕ちるところまで堕ちよう」みたいな方向性だったんですけど、「Crocodile」は“挑戦状”というイメージです。私たちのような表に出させていただく職業は、たくさんの意見をいただく中で、時には厳しく辛いと感じてしまうような意見もいただきます。それは仕方がないことだと思う反面で、そういうひとつひとつの困難が最終的にはストーリーとしていいスパイスになるという捉え方ができればいいなって。だから、「Crocodile」には「苦しみや悲しみや悔しさを乗り越えた先で私はまたさらに強くなる」という気持ちを込めました。


──Aメロから、その強い意志が伝わってきますね。歌うときも“強さ”を意識しましたか?

吉柳:そうですね。「Pandora」のときは深く堕ちていくようなイメージでしたが、「Crocodile」は前にどんどん進んでいくような、銃弾の雨のなかを走っていくくらいの気持ちで臨みました。実はこの曲のレコーディングをしたとき、ちょっと声が枯れていたんですけど、この曲だったらそれをいかせると思って、しゃがれた声のまま歌ったんです。声を枯らしてでも言いたいという気持ちが表現できるし、きれいに歌うより、むしろその不完全さや未完成さが味になる曲だったので。そうしたら、もうどんどん歌いたくなって。最終的には私が一番テンション高く歌ってました(笑)。

──ミュージック・ビデオもかなり“攻め”モードで。

吉柳:はい! メイクもカッコよく、強めのテイストにしていただきました。私、昔から前髪を上げたときの自分の顔がコンプレックスで、それを隠すためにずっと前髪を死守してきたんですけど、この曲だったら出せると思って、前髪を上げるスタイリングに挑戦したんです。

──ギラギラのラメもウィッグもばっちりお似合いでしたよ。

吉柳:ありがとうございます。「ここまでやっていいんだ!」と思えてうれしかったです。撮影もテンションを上げた状態で臨めました。普段から衣装やメイクに助けられることは多いし、プライベートでも、何かに負けそうになったときは濃いメイクにするんです。濃いアイシャドウを塗ったり、つけまつげやカラコンを付けたり、今日の衣装のようなライダースを着たりして、自分を強く保てるようにしたりします。さらに、そういうときの自分を助けてくれたのが音楽だったので、負けないために聴く曲を出せたことがすごくうれしいです。「Crocodile」を聴くと、私自身ズンズン前に進んでいく気持ちになれるので、自分の音楽に助けられています。そして、私のように何かに挫けそうになった方の心を救うことができたらいいなと思います。

──このタイミングで、戦うための曲が必要だったんですね。

吉柳:そうですね。私が私に負けないためにも、もう引き下がれないようにするためにも必要だったと思います。

──完成したミュージック・ビデオを見て、どう感じましたか?

吉柳:コンセプト通り「攻め」が表現できてました(笑)。

──強い女性像や、立ち向かっていくスタンスは、音楽活動を通して伝えたいことのひとつですか?

吉柳:「私は私」という思いが大事な軸なのかなと思っていて。周りの方から受ける評価を真摯に受け止めつつも、それによって自分を見失ってしまわないように……地に足をつけて、私が私でいることを貫いて、「それ以外に理由なんかない!」って、この曲を聞いてくださる方にも思ってほしいです。私自身、負ける自分を見るのは悔しいし、常に立ち向かっていきたい。たとえそれが強がりだったとしても、強がっていたいと思っています。

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その役にしか見えないような役者になりたい

──一方で、ミュージカルやドラマの中で歌う機会も増えていますよね。アーティスト活動とは歌い方が違うと思いますが、両方楽しめていますか?

吉柳:本当に両方楽しんでいます。少し前に上演していた『ロミオ&ジュリエット』のジュリエットの歌は、「Crocodile」とは正反対で。ピュアな16歳の女の子だからまっすぐ歌ってほしいと言われて、セリフを言うときの声も歌のキーに合わせて高く発声していたんです。自分ではないような声で、歌うようにセリフを言って、セリフを言うように歌うというバランスにすごく苦戦しましたが、だんだんできるようになってきて、それがすごく楽しかったです。

──役のために自分を消すというのは、「私は私」というメッセージとは真逆ですよね。

吉柳:はい。でも、その役の人生を生きられるのも楽しいんですよ。以前は、どうしても自分自身を好きになれなくて、役を演じているときのほうが幸せに感じることもあったんです。それこそ『ロミオ&ジュリエット』のときも、ジュリエット役にすがっていたところがあったんですけど、そんな自分を愛せるようにしてくれたのがあのカンパニーだったんですよね。「あなただからこのジュリエットができたんだよ」って伝えてくださる方々がいて、私ももっと自分を愛さなきゃダメだなと思えた。もっと自分を大切に愛していくことで、私が幸せにしたい人たちのことも守っていけるようになるのではないかって。そういう思考に変換できるようになってから、少しは強くなれたと思います。

──では、今じゃないと「Crocodile」は歌えなかったかもしれないですね。

吉柳:歌えなかったと思います。本当に、今この曲に出会えてよかったです。

──それだけリアルな感情や心境の変化が刻まれている曲なんですね。役者業に対する思いも変わりましたか?

吉柳:やっと「お芝居が好き」と言えるようになりました。表現したいと思っている理想像に届かない自分の実力にイライラすることもあったし、逆に役に入り込みすぎて戻ってこれなくなったりもして……。そういう時期を経て、ようやくお芝居をしている自分に納得できる瞬間があったんです。自分のなかでひとつ正解を見つけられた感じがして、意識が変わりました。

──新たに大河ドラマ『光る君へ』の出演も決まり、女優・吉柳咲良という存在がしっかり認知されてきた実感もあるのでは?

吉柳:そうですね。大河出演は、想像以上の反響をいただいて驚きました。菅原孝標の娘のちぐさは『源氏物語』が大好きなことから元祖オタクとも言われていて、私自身が彼女と通ずる部分を感じています。脚本の大石静さんと主演の吉高由里子さんとはドラマ『星降る夜に』以来なのですが、またご一緒できることをとても光栄に思います。

──これから撮影が始まるそうですね。

吉柳:はい。大河ドラマと聞いただけで、背筋がピンとしますね(笑)。自分にはまだ早いと思っていたのですが、二十歳にして実現して……二十歳は、本当にいろんな夢が叶って、目の前の景色が大きく変わりました。

──お話を伺っていると、吉柳さんには、役者としての表現と、アーティストとしての自己表現の両方が必要なんだろうなと思いました。

吉柳:そうですね、どちらかだけでは、たぶんバランスが取れなかったと思います。やっと両足で立てているというか、役を生きる時間もあれば自分として生きる時間もあって、その両方を好きでいられるのが本当に幸せです。両方があるおかげで、自分と向き合うことが怖くなくなったし、向き合えば向き合うほど生まれるものがあります。音楽活動を始める前よりも幅広いことに興味が湧いたりして、いろんなものに感動するようになりました。

──役者として、アーティストとして、女性としてなどいろいろあると思いますが、これからどういう存在になっていきたいですか?

吉柳:お芝居では、その役にしか見えないような役者になりたいです。役のイメージからこういう人かなと思っていたけど、アーティスト活動を見たらそうではなかった……というのが理想的だなと思っていて。私は「Crocodile」のように強気なだけでもなかったりするし、逆にそういう弱さを消化できるのが意外とお芝居だったりするんです。今は「強さも弱さもすべて私」と受け止めて、曲を聞いてくださる方にも「弱さも含めてあなただから」と伝えていきたい。私が今立っていられるのは周りの方達が支えてくれたおかげなので、これからお返ししていけたらいいなと思っています。

──ちなみに、「こんな20代を過ごしたい」というイメージはありますか?

吉柳:仕事に対しても、人間関係に対しても中途半端にせず、今ある夢を1個1個かなえていくような20代を過ごしたいです。つい最近、人生でやりたいことリストを書き出したんですよ。プライベートも仕事も充実させていきたいし……とにかく私は人が大好きなので、人を愛したい。長所も短所も全部含めて心から人を愛するということを、誰に対してもできるようになりたいです。そうして初めて自分の弱さを愛してもらえるような気がするので、人を愛することから逃げたくないと思っています。

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