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<インタビュー>次世代バンド、“踊れない僕ら”が解き放つ日常と寄り添う極上のポップソング
Interview & Text:ふくりゅう
Photo:興梠真穂
「飽食の子供達」という楽曲に耳を奪われた。若い世代が抱えるモラトリアムゆえの葛藤を深く描きながら、敢えて明るい曲調で立ち向かうメッセージソング。聴くものに優しく寄り添うポップセンス、物語性に没入できる解像度の高さが白眉だった。
本作を生み出したメーカー&事務所未契約なバンドが、どんな表現者なのか気になったのだ。
インディペンデントに活躍する名古屋出身在住の“踊れない僕ら”とは、中学の同級生だったメンバーを中心に2021年に結成。かみやくん(Gt./Vo.)による歌声をフィーチャーし、冨田輝海(Key.)、橋本龍阿(Ba.)による鮮やかなサウンドによって、日本語詞による深みにグッとくる3人組バンドだ。今年の6月、東海地区最大のライブサーキット【SAKAE SP-RING 2024】へ初出演し、話題となった逸材である。
一風変わった、“踊れない僕ら”というバンド名は、すべての詞曲を手掛けるかみやくんの発案により、「社会にどこか馴染みきれない自分が、それでも飽くなき表現意欲を元に楽曲を作り続ける場を作る」という想いから命名。今回がバンド史上初のインタビュー取材となった。
左から:冨田輝海(Key.)、かみやくん(Vo./Gt.)、 橋本龍阿(Ba.)
「当時の自分たちはうだつが上がらなかったので踊れないなあ、と思い名付けました」
――名古屋で、中学生の同級生によって結成したバンドなんですね。
かみやくん: ここ(かみやくん)と、橋本が同級生ですね。
冨田:そして、縁があってバンドのメンバー募集の掲示板をきっかけに、旧メンバーの脱退の入れ替わりで参加しました。でも、返事が最初なくってTwitterに切り込んだりしてました。
かみやくん:すみません、ちょっと(苦笑)。DM来たり(笑)。
冨田:ははは(苦笑)。今度の10月で3年目になります。
――かみやくんと橋本さんは、中学時代に面識あったんですか?
橋本:まったく知らなかったんです(苦笑)。
かみやくん:はいはい(苦笑)。
――バンドをきっかけに出会ったんですか?
かみやくん:ふたりとも住んでる場所は近くて、間にもうひとり、中学時代の同級生がいて引き合わされました。それが、ライブでサポートのドラムの高野なんです。
――へえ〜。じゃあ、幼馴染が集まってというタイプではないんだ。あ、いちおう幼馴染になるのか!?
一同:ははは(笑)。
かみやくん:ややこしい。
冨田:幼なじまなかったぐらいで(苦笑)。
――あはは(笑)。バンドが持つ、やわらかな仲の良い雰囲気が幼馴染なのかと思いました。
橋本:馴染みが早かったかもしれないですね。
かみやくん:もともとは学園祭でのコピバンを観て、バンドやりたいなと思ったんです。それが前身バンドになって。
橋本:自分とサポートドラマーの高野が文化祭に出ていて。それを観て、声をかけられて。当時はKANA-BOONのコピーをしていました。
――なるほどねえ。
かみやくん:ちょうど、ゲスの極み乙女とか変わったバンドの名前が増えた頃で。
――そこから、やはり変わったバンド名である“踊れない僕ら”というバンドの結成に至ると。
かみやくん:前身バンドのボーカルが痴情のもつれでどっかに行ってしまって。あ、バンド内ではないです(笑)。外部でトラブって蒸発してしまい。そこから心機一転やろうと組みました。それこそ、ゲスの極み乙女のミニアルバムのタイトル『踊れないなら、ゲスになってしまえよ』(2013年)が由来のひとつで、当時の自分たちはうだつが上がらなかったので踊れないなあ、と思い名付けました。
橋本:踊る、とかタイトルや名前で流行っていたんだよね。
――なるほどね。敢えて“踊れない”、と自分たちの立ち位置を明確にしてメッセージ性を込めたという。
かみやくん:クラスカーストが高くなかったというのがアイデンティティーにあるんです。そんな僕らがどんな表現するかというのが面白いんじゃないかなって。結成は2020年です。でも曲を作るので空白の1年があって。冨田が入って、本格稼働しました。なので実働1年半ぐらいで。
――かみやくんはもともとギタリストだったの?
かみやくん:ギターをやっていたんですけどあまり楽しくなくって。その後、何も知識がないのに曲を作りはじめて。それが楽しかったんです。そこからバンドが活発になっていきました。
――もともとは、みなさんどんなアーティストに影響を受けてきたんですか?
かみやくん:2010年ぐらいから流行り始めた音楽が青春でした。そこから音楽を聴くようになって。ゲスの極み乙女、KANA-BOON、凛として時雨が好きで。あと、サカナクションにもどハマりしました。
冨田:僕はジャズフュージョンが好きでカシオペアやイエローマジックオーケストラ。テクノですけど、大きな影響を受けて今のプレイスタイルの根幹になっていますね。
――それは親の影響?
冨田:親の影響が半分ぐらいで。カシオペアのキーボード奏者、向谷実さんの演奏をライブ映像で観て。こんなにカッコいいものはないぞ、と。当時は、しっかりクラシックを習っていたのですが、どういうわけかコッチに(苦笑)。
――そうなんだ。ちなみに時代的に今のバンドだとどの辺がお好きだったり?
冨田:今、キーボードがいるバンドがそこまで多くないんですよ。僕はピアノというよりシンセサイザーのプレイヤーなので。同期でなく、生音で自分の指で鳴らす人が少ないんですよね。
――シンセはどの辺を使っているの?
冨田:YAMAHAのMODXというシリーズと、50万円のMONTAGEを。
橋本:フラッグシップって言えばいいのに(苦笑)。やらしい。
一同:ははは(笑)。
冨田:ただ、重いのでレコーディング用ですね。内蔵の音源を他のシンセで鳴らしてライブしています。
橋本:僕は小学生の頃からRADWIMPSとUVERworldを姉と兄の影響でずっと聴いていて。中学に入ってからはボカロや、あと乃木坂46に出会いまして(苦笑)。バンドをはじめたきっかけは、サポートドラムの高野ともうひとりギターがいて。ベースやってみないと誘われて中学の文化祭に出たんですが、そこで見た景色が忘れられなくって。割とでかい学校だったんですよ。
――なるほどねえ。ちなみに、詞曲はかみやくんが手がけているんですね。
かみやくん:僕はどちらかというとプレイヤーではないので、言うとすればディレクターのような立ち位置で職人であるメンバーに曲を仕上げてもらうっていう。
――ドラムは、レコーディングでは打ち込みもあるの?
かみやくん:8割型生ドラムなんですよ。電子っぽい音に寄せたローファイ感あるんですけど、エンジニアさんと話しつつ音を作っています。バンドの特徴としてチャレンジしています。
- “踊れない僕ら”らしさとは
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“踊れない僕ら”らしさとは
――だから、ライブでも生ドラムがサポートで入ると言うことなんですね。そして、今日の本題となりますが「飽食の子供達」という楽曲が、若い世代が抱えるモラトリアムゆえの葛藤を深く描いた大傑作なポップチューンで。めっちゃいい曲ですよね。殻を破った感じがしました。
かみやくん:ああ、ありがとうございます!
――この曲、めっちゃ気合入ってますよね?
一同:ははは(笑)。
かみやくん:ですね、これは“よっしゃ!!!”って出来た曲で。僕の言いたいことがきちんと曲に織り交ぜれたことが大きくって。これまでは、言いたいことというよりはテーマを作って、曲の中でのストーリーを歌詞でなぞっていくことが正しいと思っていたんです。「飽食の子供達」に関しては、言いたいことを歌いました。
――少しダークな深いメッセージ性を、敢えて明るいロックな曲調に仕上げているのがいいなと。今の時代を見事にポップミュージックとして解像度高く切り取っていますよね。
かみやくん:アレンジでかなり変わりました。初期のコードとはだいぶ変わっていますし、その辺はふたりのおかげですね。
冨田:最初、デモが上がってきたのが1年前ぐらいで、その時から可能性ある曲だなと思って。その段階で、かみやに“ちょっと俺にコードをいじらせてくれ!”って直談判して。和音の響きをいじったんです。僕はシンセが得意なんですけど、今回、「飽食の子供達」は余計なものは挟まずピアノだけにしたんですよ。
かみやくん:意図的に情報量を減らしたんです。
冨田:TOTOというバンドの3枚目のアルバムかな。『ターン・バック』(1981年)というのがあって。その1曲目、「ギフト・ウィズ・ア・ゴールデン・ガン」を意識しまして。
かみやくん:たぶん、映画『007』がテーマになっている曲です。
冨田:インスパイア受けましたね。シンプルなピアノフレーズで、ひたすら耳に残ることをやり続けた感じで。東京事変のようにテクニカルにというよりは、かみやのボーカルを引き立てることをアレンジとして心がけました。結果、難産で(苦笑)。
かみやくん:そうだね、やりとりが5,6回あって。
橋本:ベースもシンプルさを目指しました。サビ中も、8分でルートの音しか弾いてないし。サビ前も、スラップはするんですけど、神谷のギターフレーズと合わせていて。ひとりで目立つというよりは歌モノとしてトータルを意識しました。
「飽食の子供達」ミュージック・ビデオ
――イントロの耳に残る、高揚感あるギターフレーズもいいよね。
かみやくん:ありがとうございます。イントロから覚えてもらうためにキーフレーズとなるように作りました。僕の中で、ギターからはじまる曲はリスキーだと、最近のジャンルでは思っていて。そこは緊張しているところでもあり、特徴になりましたね。
――結果、アッパー感強目のロック色あるナンバーになりました。
かみやくん:メタ的な話になっちゃうんですけど、僕らはロックみたいなことを今までやってこなかったんです。単純に僕が作ってこなかったので。でも、それがコンプレックスになっていて。ライブで、他のバンドがジャーン! バーン!! みたいな姿を観ると“あれ、カッコいいなあ”って思っていたんです。それをチャレンジしてみました。きっかけは、当時聴いていた激し目の明るいメジャー調のロックでも歌詞は社会風刺だったりして。グリーンデイじゃないですけど、そんな音が耳に残っていて。あ、サザン(オールスターズ)もだったかな。
――うんうん。ちなみに“踊れない僕ら”らしさってどんなところだと考えていますか?
かみやくん:人から言われて気がついたんですけど、仄暗さかな。放り投げるような応援メッセージはあまり好きじゃないんです。違った方法で応援や前向きな感じを表現したいなって。明るいのにちょっと暗い部分があるというか、リアリティーが仄暗さを生んでいるんだと思います。フィクションにしない、みたいな。それが僕ららしさかもしれません。
――明快に言語化してくれましたね。小説など、本なども好きなんですか?
かみやくん:物語が好きで、最初ドハマりしたのがストーリーが濃いゲーム『メタルギア』だったんです。
――はいはいはい。
かみやくん:ああいう、サスペンスやシリアスな物語が好きで。でも、最近は意識的に本を読んで勉強しよう、みたいに思って本屋で平置きされた作品を片っ端からチェックしています。『同志少女よ、敵を撃て』とか。
――ゲームは最近は?
かみやくん:洋ゲーでストーリー重目な『ザ・ラスト・オブ・アス』とか好きですねえ。ブルーライトを浴びて生きています。
冨田:“踊れない僕ら”の特徴は、かみやの歌声と歌詞にあると思うんです。なので、そこをいじめないような音域帯で、アレンジを心がけていますね。ピアノって88個選択肢があるんですよ。なので、40%ぐらいは使えないので。とにかく、ボーカルを大事にしていますね。あと、これは僕のエゴでもあるんですけど、聴いた瞬間に自分の演奏だとわかるようなネタを仕込んだりしています。テクニックはみせずに、変な演奏をするんですよ(苦笑)。それが、バンドのらしさにつながっていると思います。
橋本:濃いねえ(苦笑)。自分は、かみやからデモが上がってきた時点で。昔から、ストーリーを映像化してイメージするのが好きなんです。そこから、BGMのようにベースアレンジを考えていきますね。ベースとドラムが動いちゃうとストーリーがグラグラするので、割とベースはシンプルに考えています。
――おもしろい3人組だね。バンドの目標や野望はどんなイメージをされていますか?
かみやくん:野望はですね。
冨田:野望が先なんだ(笑)。
橋本:ははは(笑)。
かみやくん:野望はですね(苦笑)。映像と共に音楽がある状況にしていきたいですね。ゲームやドラマ、映画、ミュージカル、アニメーションなどと共にというか一緒にありたいと思います。憧れますね。この秋、新しい曲も出しますので楽しみにしていてください。たくさんの方々に聴いていただきたいと思っています。