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<コラム>Cö shu Nie 2年半ぶりアルバム『7 Deadly Guilt』で改めて覗かせる、“自分”とバンドの深淵



コラム

自分の欲求と向き合い、殻を破った作品に

 Cö shu Nieの約2年半ぶりとなるフルアルバム『7 Deadly Guilt』は、「自己愛の復活」をテーマに制作された。それについて中村未来(Vo. / Gt. / Key. / Programming)は、公式コメントで「生きていくうちに他人と比べたり、自分に課してしまった枷に縛られて今の自分を愛することを忘れてしまってはいないかと、自分の罪悪感と向き合って書き上げました」と綴っている。

 我々が「罪悪感」という言葉を使うのは、ほとんどが自分の欲求を優先してしまったときだ。Cö shu Nieはそんな我々に「もっと自分の心の叫びに耳を傾けろ」と訴える。他人を慮りすぎて自己を犠牲にすること、他人の目を気にして無難な選択をすること、他人に関する情報を摂取しすぎて自分自身と向き合う時間をなくすこと、凝り固まったプライドで雁字搦めになり素直になれないことなどに対して彼女たちなりの手法で疑問を投げかけることで、聴き手が知らず知らずのうちに自身に課す制約から解放してくれる。同時にそれは、彼女たちの「もっと自分の人生を、もっと自分から湧き上がる音楽を謳歌したい」という嘆きのようにも感じられた。

 そのメンタリティはアルバムの冒頭からあらわだ。昨年10月にデジタルリリースされた「Burn The Fire」と、新曲「Deal With the Monster」は、自我を通すことを力強く鋭い筆致で記す。歌詞だけでなくサウンドデザインも鮮烈だ。前者はブレイクビーツやジャングルビーツの生演奏を筆頭に、ギターなどのウワモノ楽器を極限までそぎ落とすという大胆さも目を見張り、効果音的なビートと歪んだベースが緊迫感と軽やかさを同時に表現する。後者はその系譜からさらにテンポアップしたことで攻撃性とユーモアが加わり、そこにモチーフの“Monster”が小気味よく機能したことで、痛快なシリアスさが宿った。


Burn The Fire / Cö shu Nie


 同作はぼんやりとした居心地の悪さや違和感、否定的な感情に目を凝らし、その実態を見極めている楽曲が多いことにも注目したい。「no future」は〈何もしたくない 何も意味ない〉と言いつつも、後半から〈好きなことだけしたい〉〈居場所が欲しい/終わらない夏休みが欲しい〉など求める姿勢が明らかになると同時に、アレンジもそれとシンクロして盛り上がりを見せる。彼女たちの楽曲は難解、複雑、変則的、トリッキーと語られがちだが、人間の心の機微とシンクロしていると考えるととても自然だ。海外のリスナーが多数存在しているのは、演奏から直感的に曲に込められた思いが伝わることも理由のひとつではないだろうか。


no future / Cö shu Nie


 音から閉塞感や怒り、悲しみが伝わる「Where I Belong」、美しく切ないピアノバラード「I am a doll」、淡々としたムードと〈ご機嫌いかが?〉の心地いいリフレインが知らず知らずのうちにジャンクな成分に吸い尽くされている恐怖を与える「Artifical Vampire」、艶やかなジャズのテイストを盛り込んだポップソングにまだ見ぬ世界とさらなる幸せを求める意思をしたためた「I want it all」、アコースティックテイストのソフトな音色と、自分の尊厳を守ってほしいという慈愛が溶け合う「消えちゃう前に」と、どの楽曲もビビッドかつしなやかで、スケールと包容力がある。今作の制作のなかで自分の欲求と向き合い、殻を破ったCö shu Nie。自分を愛することを受け入れた彼女たちは、今後さらに自由で雄大な音楽を作り続けるだろう。

Text:沖さやこ



Artificial Vampire / Cö shu Nie



消えちゃう前に / Cö shu Nie


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日本だけにとどまらない存在感

 Cö shu Nieの楽曲が、Spotifyが発表する『Global Hits From Japan -国境を超える日本の音楽-』で8位に選出されたのは2018年のこと。メジャーデビュー曲であり、海外からも人気の高いアニメ、『東京喰種トーキョーグール:re』オープニング・テーマの「asphyxia」での記録だった。


asphyxia / Cö shu Nie


 この「asphyxia」は、現在Billboard JAPAN総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”においてもCö shu Nie最大のヒット曲(最高55位/2018年4月11日発表チャート)であるのだが、この曲がストリーミングで“聴かれている”国をサービス「LUMINATE」で調べてみると、日本とほぼ同数でアメリカでの恒常的な聴取が確認できる。

 では、この“聴かれている国”をバンド単位に拡大して見てみよう。同一期間(2023年12月29日~2024年9月8日)において最も「Cö shu Nieの楽曲をよく聴いていた」のは、他のほとんどの国内アーティストと同様に日本であったのだが、特筆すべきはその世界シェアだ。各国のストリーミング占有率をみると、日本国内は40.7%にとどまっており、Cö shu Nieの楽曲は実に半数以上が海外からの聴取であることがわかる。

 日本のアーティストは、たとえば“Global Japan Songs Excl. Japan”で上位を記録していたり、海外活動がさかんな印象があるアーティストですら日本国内での聴取が全世界の6割以上を占めていることがほとんど。アニメタイアップや、海外公演の本数が必ずしも海外シェアへ直結しない(Cö shu Nieは2024年9月現在、海外公演は2023年に出演したアメリカ【Anime Expo 2023】および【Anime NYC】、2024年5月のチリ【SUPER JAPAN EXPO 2024】の3度しかおこなっていない)ことが上の結果からも明らかななかで、ここまで海外、特に複数の国々で安定的、偏りも少なく聴取を獲得できているというケースは稀である。さらにこの結果は、今後「asphyxia」やアニメ『呪術廻戦』第1期 第2クールのエンディング・テーマ「give it back」、TikTok上での歌唱カバーがさかんであった「夢をみせて」のような話題曲が生まれた際、その盛り上がりがその各国で同時に起こる可能性を秘めている、とも考えられる。


give it back / Cö shu Nie


夢をみせて / Cö shu Nie


 なおCö shu Nieは、きたる11月には韓国のフェス【WONDERLIVET 2024】への出演が決定しているほか、初の中国(北京、上海)での単独公演も開催する。最新アルバム『7 Deadly Guilt』を引っ提げ、Cö shu Nieは今後いっそう、国内外での存在感を拡大させようとしている。

Text:Maiko Murata


※「LUMINATE」における「全世界」(Worldwide)とは、同サービス集計対象の「世界200以上の国と地域」のことを指す。なお、中国(本土)は2024年9月現在、サービス集計対象外。
※※「LUMINATE」は米国ルミネイト社が法人向けに提供している分析サービス。
https://www.billboard-japan.com/luminate/


Co shu Nie「7 Deadly Guilt」

7 Deadly Guilt

2024/09/11 RELEASE
AICL-4612 ¥ 3,600(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.Labyrinth
  2. 02.Burn The Fire
  3. 03.Deal With the Monster
  4. 04.no future
  5. 05.Where I Belong
  6. 06.I am a doll
  7. 07.Artificial Vampire
  8. 08.I want it all
  9. 09.消えちゃう前に
  10. 10.Wage of Guilt
  11. 11.夢をみせて - From THE FIRST TAKE (Bonus Track)

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