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<インタビュー>imase & なとり 共作第2弾「メトロシティ」で描いたそれぞれの“東京”観と、“違う”からこそ生まれるリスペクト
Interview & Text:沖さやこ
【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024】で初披露し話題になったコラボレーション楽曲「メロドラマ」を8月30日に発表したimaseとなとり。彼らが共作曲の第2弾として、新曲「メトロシティ」をリリースする。
同曲は「メロドラマ」と同タイミングに共作されており、きらびやかな80’sシティポップ系サウンドに、それぞれの“東京”に対する思いや考え方を綴った歌詞が乗る。その場のフィーリングで生まれたアイデアを積極的に入れたことも影響してか、両者の作り出すグルーヴの心地よさはもとより、対極的なキャラクターが際立った楽曲に仕上がった。共通点だけでなく、お互いの相違点を好意的に受け止められる者同士だからこそ、imaseとなとりの関係値は深まり続けているのかもしれない。「メロドラマ」時の対談に続き、ふたりに「メトロシティ」制作の背景を訊いた。
この“ふたり”だからできた2曲
――お二人のコラボ第2弾となる共作曲「メトロシティ」は、どうやら「メロドラマ」と同じタイミングで制作されたそうですね。
なとり:「メロドラマ」も「メトロシティ」も、僕がimaseくんの家に遊びに行って作った曲ですね。実は、先にできたのは「メトロシティ」なんです。「メロドラマ」というタイトルも、「メトロシティ」が先にあったから「メ」で始まって曲に合う言葉ないかな?と考えてたどり着いたもので。
――「メロドラマ」というワードは少しレトロですよね。それでいてロマンチックな。
なとり:「メロドラマ」のタイアップである日産90周年記念ムービー『NISSAN LOVE STORY』が「いつの時代も、クルマが2人の距離を近づける。」というテーマなので、レトロな要素も未来も感じさせる言葉にしたかったんです。ムービーにも合っているし、僕らの楽曲の世界観にも馴染みやすい言葉なので、これだ!と思いました。自分でも気に入っているタイトルですね。あと、「メトロシティ」と「メロドラマ」は同じタイミングで作っているのもあって、キーが一緒になったっていう。
日産90周年記念ムービー | NISSAN LOVE STORY
――確かに、キャラクターが違うのに、なんとなく似ているところがある2曲だなと思いました。
なとり:でも意識的に寄せたわけではなく、結果的にそうなったというか。それはimaseくんの家での制作がすごく楽しかったし、この関係性があったからだとも思うんです。
imase:間違いないね。あと、この関係性がなければこのスピード感で2曲も作れないと思う(笑)。あんなにサクサクいくと思わなかった。
なとり:それは本当にそう(笑)。このスケジュールで間に合うのか、僕のデモで共作がうまくいくのか不安もあったけど、まったく杞憂だった。すごくサクサク進んだし、「メロドラマ」はデモから格段に良くなりました。
imase:「メロドラマ」はタイアップを受けてなとりがある程度デモを作って、僕が一緒にそれを拡張していく制作で、「メトロシティ」は僕の「80’sシティポップ感のあるなとりを聴いてみたい」という構想からトラックやサビの雰囲気を作って、ほぼ同時に案を出し合って作っていきました。それぞれでやりたいこと、やるべきことのテーマが決まっていたのでやりやすかったし、結果的にちゃんと2曲の棲み分けができたかなと思っていますね。
――「メトロシティ」の歌詞には、上京した人々から見る東京が描かれています。
imase:せっかく共作するなら、お互い共通している部分をテーマにしたかったんです。トラックはシティポップだし、僕らは上京組なので、東京に対して思っていることを歌詞にしたらいいんじゃないかなと思って。僕が特にアツいなと感じたエピソードがあって……サビの〈C・I・T・Y〉の後の歌詞!
なとり:あれね。本当は「宙に舞う」という言葉をはめようと思っていて。
imase:でも、ここをダブルミーニング的な歌詞にしたいなって話をしたんだよね。田舎から都会に出てきてあたふたしてしまっている様子を入れたくて、それで出てきたのが「宙に舞う」という言葉で。それを受けて、なとりがふと「チューニング合ってる?」と言ったんです。その瞬間に「Foooo~!」って(笑)。
なとり:あれは沸いたねえ……(笑)。
imase:今回の制作でいちばん沸いた瞬間だったね(笑)。「チューニング」は音楽用語だし、そんな僕らが都会のチューニングに合わせられてる?みたいな感じ、すっごくいい! なとりが「メロドラマ」の対談で「自分にないアイデアを出してくれた」と言ってくれていたけど、それは僕も同じなんです。すごく楽しい制作でしたね。
両極端な“東京”への印象
――もともとおふたりが様々なメディアで発言している“東京”についての印象は両極端ですよね。それこそ歌詞に書かれている通りなのですが、なとりさんは〈気疲れしちゃって動けない〉と。
なとり:東京は忙しない感じがしたり、冷たいなと感じてしまう時があって。すぐに会いたい人に会えるのはすごくいいけど、コンビニに行くにも足が重いし、できる限り人と喋りたくないなと思っていました。行列とか人混みも苦手なんです。
―― 一方、imaseさんは多くの人のざわめきを〈人の波が奏でるようだ/魅力的に響いてるよ〉と綴っています。
imase:僕の地元は外に誰も歩いていないくらいの田舎なので、華やかな街並みを見ているとテンションが上がるんです。これだけたくさんお店があって、どこもかしこも行列ができていると「人って入りたいお店に入るために並ぶんだ!」と思うし。でも、僕も並ぶのは得意ではないです(笑)。
なとり:いや、imaseくんの「苦手」は俺とは比較にならないですよ。ほんとimaseくんは「陽」で、俺は「陰」なので。
imase:そんなことないって!(笑) 俺はめちゃめちゃ陰だよ。
なとり:誰が言ってるの(笑)。「メトロシティ」はこの対極なところがキーになっていると思います。特に、僕が書いた2番Aメロの歌詞は、かなり自分のダークなところが出ているし。
imase:しかも、その部分だけなとりがベースを打ち込んでいるから、歌詞も音もなとりのダーク成分が出ているね(笑)。
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ふたりの“ノリ”が作ったグルーヴ
――「メトロシティ」は、東京に対するそれぞれの思いがダイレクトに表れている歌詞しかり、imaseさんとなとりさんが主人公であり、おふたりで作るグルーヴありきの楽曲ということですね。
imase:その場のフィーリングで決めたところが多い曲ですね。僕の家のマイクで、なとりが〈僕ら メトロシティ 初めまして〉の部分を歌った瞬間に、本当に良すぎたから「サビ頭は絶対なとりにしよう!」と決めたりして。掛け合いの部分も、なとりは先に歌うのも後に歌うのもどっちもいいんですよね。
なとり:うれしい(笑)。ふたりで鼻歌やでたらめ英語みたいな感じで口ずさんでメロディを決めて、サビの〈誤魔化した〉の部分は「ルートマシュカ」って言葉がポッと出てきたんです。語感がめっちゃいいね、気持ちいいねと話して、その響きと合った日本語を当てはめたんですよね。
imase:あとDメロね。お互いの曲の歌詞を入れているんです。
なとり:それもノリだったね(笑)。がっちゃんこして。
imase:それが違和感なくちゃんとはまってね。あと〈あれも欲しいが これも欲しいな/それも欲しいが こりゃ要らないな〉のところも好きだな。
なとり:もうその部分に関してはノリでしかない(笑)。今その瞬間に思いついたことを歌詞にしていきました。
――似ていると言われていたおふたりが、音楽でもってまったく違う部分を2024年に提示できるのもタイミング的にばっちりだと思いますし、何よりとてもクリエイティブではないでしょうか。
なとり:「メロドラマ」も「メトロシティ」も、どこをどっちが作ったかわかりやすいなと思います。imaseくんと僕の決定的な違いは、imaseくんがプラス思考で、僕がマイナス思考なところだと思うんです。未来を見るか、過去を見るか。その要素はビートの作り方や歌詞にも如実に出ることをあらためて実感しました。
imase:なるほど。僕としてはお互いのいいところが出た共作だったなと思います。「メロドラマ」でも「メトロシティ」でも、なとりの声の良さ、ふたりの声の波長の良さ、それぞれの作るメロディの良さが、余すことなく出せたんじゃないかなって。
なとり:ほんとimaseくんのアドリブ力やひらめき力、ブラッシュアップする能力が本当に高くて、自分も見習いたい……というかその力が欲しい!とつくづく思って。
imase:こちらこそすぎる!(笑) なとりは歌詞の言葉のはめ方がうまいですよね。「メロドラマ」というタイトルを思いつくところとか、引っ張ってくる言葉の発想に長けています。その面白さがレベチだし、すごくいいメロディを作るなと思うんです。
なとり:いやいやいやいや……。
imase:だからこそうまくいったと思うんだよね。なとりのメロディのアイデアがあったから、僕のアイデアとどうやってくっつけて、より良くしようかなと考えることに集中できたし、「いい」と感じたらそれでOK!みたいなラフな感じもすごく楽しかった。やっぱり共作は、自分だけでは作れない良曲を作ることが目標じゃないですか。
――そうですね。
imase:「メロドラマ」で僕がラップを入れたけど、なとりプロジェクトは今までラップをしてこなかった。だからラップが入ることに抵抗がある人もいるかもしれないし、それも立派な意見だと思うんです。でも僕としては「こうしたら面白くなるんじゃない?」と思うことをできるといいかなと考えていて、なとりと僕はその感覚の相性がいいんですよね。だからお互いからいいアイデアが出たんだろうなと思います。
なとり:imaseくんが「メロドラマ」に入れてくれた雰囲気のラップは、俺は一生やらない、というか滑舌が悪すぎるからできない(笑)。だから、imaseくんに入れてもらえて本当に良かったです。「メトロシティ」も普段あまり使わないサウンドだったので、そのおかげできらめきの要素を持ったなとりを出せて、imaseくんには本当に感謝しています。
imase:「メトロシティ」がキュートになりすぎなかったのは、なとりの声の艶やかさがあったからですね。ああいう曲調で色気みたいなものが楽曲に出たのは、imaseとしてもありがたいんです。
――お互いがお互いをプロデュースしつつ、お互いから受ける刺激もありつつ、非常に有意義な制作だったんですね。
なとり:ほんとそうですね。どっちが上というわけではなく、対等でプロデュースし合う感覚は、このふたりの関係性があったからこそ実現できたと思います。
メトロシティ / imase & なとり
お互いが思う「相手のこんな曲を聴きたい」
――異なる曲調でありながらも通ずるマインドがあって、「メロドラマ」と「メトロシティ」の関係性もおふたりそのもののような気がしました。最後に、お互いに「相手のこんな曲を聴きたい」というリクエストはありますか?
なとり:imaseくんと僕の決定的な違いのもうひとつの要素が、ボーカロイドやネット文化に明るいかそうでないかだと思うんです。僕は前者なので、imaseくんの曲をボーカロイド・クリエイターの方がアレンジしたり、ネット文化の系譜にある曲が聴いてみたいな。合うと思うんだよなあ……。やってみてほしいなあ……。
imase:僕は最近、打ち込みより生っぽい音にすることが多いし、ボカロはメロディの譜割りを細かくしているのが特徴だと思うんだよね。そういうのにもチャレンジしてみたいなと思いつつ、僕の曲や声がボカロ特有の細かい譜割りに合うのかな?とも思ったりもして。でも、もともとジャンル問わず挑戦していくタイプなので、いつか作ってみたいです。あ、ボカロで曲を作ってみるのもいいのかも?
なとり:いいね! 俺もボカロで曲作りしたいと思ってたんだよね。やろうよ! いつかボカロで共作しよう(笑)。
imase:僕としては、なとりはもっと自分の声を活かした曲作りをしてほしいですね。どんな曲にでも合う声だし、低い声もかっこいいし、「糸電話」みたいなファルセットを使ったあたたかみのある歌もすごくかっこいいから、そういう系の曲も聴きたい。でも、同時にいろんなジャンルの曲を作れる人でもあるので、ボカロを通してなとりの曲がどんなふうに響くのか聴いてみたいから、ボカロPデビューもしてほしいな。いつかなとりの声がボーカロイドになったら最高だよね。
――これだけ未来を晴れやかに語り合えるおふたりならば、この先もいい関係を築いていけそうですね。
なとり:ほんと、こんなに気が合う人と出会えて、共通点も多くて尊敬できる部分もあるなんて、うまくいきすぎてるなと思うんです。だからこそ、これからもそれがずっと続けばいいなと思います。これからも切磋琢磨して上を目指したいし、お互いもう何段階かステージを上がって、もっと大きな会場で、またふたりで一緒にやれたらいいなって。……東京ドームで!
imase:東京ドーム……! 相当頑張んないとね。頑張ろう! あと、なとりは普通に友達なので、プライベートでもずっとご飯を食べに行くような関係でいたいな。またご飯行こう!
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