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<コラム>久石譲、ミニマル・ミュージックの魅力を伝えるプログラムが彩の国さいたま芸術劇場で開催へ
Text:田中久勝
久石譲といえば、2023年3月に名門ドイツ・グラモフォンと契約し、第一弾アルバムの宮崎駿監督映画への提供曲をシンフォニック・アレンジで収録した『A Symphonic Celebration - Music from the Studio Ghibli films of Hayao Miyazaki』が、米ビルボードのクラシックアルバム部門・クロスオーバーアルバム部門で1位を獲得、大きな注目を集めた。さらにワールドツアーも成功させ、ポピュラー音楽からクラシック音楽に軸足を戻した現在、その活躍の場をますますグルーバルに広げている。
今年6月には第2弾アルバム『Joe Hisaishi in Vienna』を発表し、40分近いミニマル基調の「Symphony No.2」では、パーカッシブな楽器群と幅広い管弦楽を駆使し、情熱的でドラマティック、情緒も感じさせてくれる壮大な世界を作り上げている。さらにヴィオラのためにコンチェルトの新曲「Viola Saga」では、繊細かつエモーショナル、厳粛さを湛えた洗練された世界観を構築。屈指の現代の交響楽作曲家としての存在感を示した。
久石は20代の大半をミニマルの作曲家として現代音楽を発信し続けていたが、30代前半からポップスの領域にもフィールドを広げていった。しかしベーシックな部分にあるのはミニマル・ミュージックであることは間違いない。宮﨑駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』(2023年)の音楽も手掛け、全曲最小限のフレーズを反復しながら、少しずつずらしていくミニマル・ミュージックで構築した。
そんな久石のミニマル・ミュージックの魅力を伝えるプログラム、【ジャパニーズ・ミニマル・ミュージック ~オール・久石譲・プログラム~】が、 10月12日大阪・あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホールと11月10日埼玉・彩の国さいたま芸術劇場音楽ホールで開催される。音楽監督に現代音楽のスペシャリスト中川賢一(ピアニスト)を迎え、前半は、マリンバデュオのための作品「揺れ動く不安と夢の球体」(2014年)を披露する。ミニマル音楽の特徴である短い音型が変拍子と共に変容していく、まさに王道のミニマル作品だ。
前半ではさらに久石が展覧会【フェルメール 光の王国展】のために書いた『フェルメール&エッシャー』(2012年)からの楽曲を披露する。久石が“光の画家”と言われるヨハネス・フェルメールと“だまし絵”で知られる版画家M.C.エッシャーと対峙し“描いた”音楽が、ピアノ独奏、ピアノ三重奏、ピアノ五重奏編成で演奏されている作品集だ。この作品から「Muse-um(for piano)」「Encounter(for piano quintet)」他が演奏される。
そして後半は久石が自身の原点に立ち返り、ミニマル・ミュージックを見つめ直したような作品で、キャリアの中でも重要作といえるアルバム『ヴィオリストを撃て』(2000 年)から、選び抜かれた7曲が披露される予定だ。このアルバムは、久石が映画音楽の作曲家として活躍する前に作られた曲達が並び、「Summer」(映画『菊次郎の夏』より)や「Kids Return」(映画『キッズ・リターン』より)といった人気曲がどうアレンジされ、演奏されるのか興味が尽きない。演奏はピアニスト・指揮者の中川賢一共に令和4年度文化庁芸術祭《大賞》を受賞したオペラ『浜辺のアインシュタイン』(フィリップ・グラス)を共に作り上げたチームを中心として、石上真由子(バイオリン)森岡聡(バイオリン)安達真理(ビオラ)鈴木皓矢(チェロ)長谷川順子(コントラバス)大石将紀(サクソフォン)井上ハルカ(サクソフォン)畑中明香(パーカッション)宮本妥子(パーカッション)の総勢10名の名手たちが集結。このクラシック・現代音楽の精鋭メンバーはミニマル・ミュージックへの造詣も深く、緻密で正確なコントロールとアンサンブルが高い次元で求められる久石作品に、新たな息吹を吹き込んでくれそうだ。
「Summer」
後半はPA を使用するがシンセサイザーやプログラミング等は一切使用しない。前半とは一転して躍動感あふれるライブ演奏が楽しめそうだ。このスタイルで久石が演奏に加わらない形で演奏されるのは、今回が初めてだ。
久石が登場しないコンサートだからこそ、その音楽の本質が“あぶり出される”ような時間になるはずだ。映画やポップスシーンの巨匠のもうひとつの顔、あまり知られていない、でも本当の久石譲の、日本のミニマル・ミュージックの巨人としての音楽を、名手たちが渾身の演奏で披露する。
11月10日の彩の国さいたま芸術劇場(さいたま市)公演は、同劇場開館30周年記念公演として行われるが、今年3月、約1年半の改修工事を経てリニューアルオープンした同会場の素晴らしい音響を存分に楽しむ機会でもある。
チケットは一般6,000円の他U-25(25歳以下)チケットが3,000円で用意されており、久石ファンはもちろん現代音楽ファン、そして新たな音楽との出会いを求めるファンも、気軽に久石のミニマル・ミュージックの世界を感じて欲しい。
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