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<インタビュー>ココラシカ、全員10代のバンドが描く今の時代のシティポップ



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Interview:蜂須賀ちなみ


 2021年に軽音部の名門・都立鷺宮高校軽音楽部にて結成されたココラシカ。情景豊かな歌詞とドラマチックなサウンドが高い評価を得て、数々の高校生バンド大会で入賞。昨年公開された「恋よ、踊り出せ」のミュージック・ビデオは、まもなく10万回再生を突破しようとしている。

 そんな彼らのニューシングル「溶けないで」が、9月20日にデジタルリリースされた。サウンドプロデュースには、Official髭男dismなどを手がける保本真吾が参加。爽やかさと切なさが入り混じった等身大のラブソングに仕上がった。結成の経緯から本楽曲の制作、また今後の活動についてこうき(Vo./Key.)、らな(Ba.)、こた(Dr.)に話を訊いた。

名門軽音楽部からプロの道へ
3人で一緒に成長していくために考えていること

――お三方は都立鷺宮高校の軽音楽部で出会い、ココラシカを結成されたそうですね。

こうき:はい。部内で「バンド組んでください」と言われたタイミングに集まった3人です。確か2人とも、俺の(Instagramの)ストーリーに反応してくれたんだよね?

らな:そう。 軽音部に入りたての頃、まだ誰と組むか決まっていない1年生は「まだバンド決まってない人!」という感じでストーリーに上げながら、メンバーを探していたんですよ。私はこうきのストーリーを見て、DMでやりとりをして、一度合わせてみようという話になったんです。

こた:僕も誰とバンドを組むか決まっていなかったので、たまたま目に入ったこうきのストーリーに反応しました。そこから音楽の趣味の話になって、「今ドラム探してるんだ。よかったら今度合わせてみない?」と声をかけてもらえたので、一緒にやることになりました。

――どんな音楽が好きなのか、お一人ずつ教えてください。

こうき:僕はSEKAI NO OWARIやOfficial髭男dism、Kroi、TENDREなどわりといろいろ聴くんですけど、中学3年生ぐらいの時に藤井 風にドハマりして。僕の家はひいおじいちゃんの代から音楽をやっていて、8~9歳の時に親が作曲を教えてくれたんですよ。僕にとっては「音楽=やらなきゃいけないもの」だったんですけど、藤井 風の曲のコードやフレーズを耳コピして弾いてみる中で、自分から音楽にどっぷり浸かるようになりました。最近はモータウンやジャズ辺りをよく聴いています。

らな: 私は音楽好きの母親の影響が大きいですね。韻シストさんやiriさんのようなR&B/ヒップホップのライブや、SUPER BEAVERさんなどロックバンドのライブによく連れて行ってもらっていました。あと、小学~中学時代にRADWIMPSさんにすごくハマって。中学生の頃にベースを始めたんですけど、当時はRADのカバーをよくしていましたね。

こた:僕はわりと雑食なところがあって。最初にハマったアーティストは星野源さんでしたけど、そこからYouTubeでいろいろな音楽を知っていったんですよ。邦ロックもR&Bも聴くし、ボカロや歌い手さんにハマっていた時期もありました。「このジャンルしか聴かない」という感じではなくて、いろいろなジャンルに興味があるタイプですね。

▲高校生時代のココラシカ「占い師」

――「この3人でこういう音楽をやっていきたい」というビジョンはありましたか?

こうき:軽音楽部となると、やっぱり邦ロックをやるバンドが多いんですけど、「そうじゃなくて、おしゃれな感じのポップスをやりたいよね」と話していました。3人ともロックを聴かないわけではないんですけど、やりたい音楽の方向性は最初からわりと一致していて。

らな:こうきは自分が作った曲をサブスクに上げていたんですよ。私はそれを聴いて、好きなジャンルが近そうだなと思いました。

こうき:軽音に入る前に曲を出しておいた方が、一歩リードできるかなと思って。だけど僕らの代は音楽に対する興味や熱が強い人がけっこういて、作曲をやっている人も僕以外にけっこういて。「曲作れる人、けっこういるんだな」って燃えました。

――軽音部内でのエリートバンドというわけでもなかった?

らな:自分たちだけが頭一つ抜けているとか、そういうことは全然なかったですね。オリジナル曲をやっているバンドもけっこういたので、対抗心を持ちながらやっていました。

こうき:中にはバンド慣れしていて、パフォーマンスが上手い人もいたので、「あれ? 自分たちよりも上手い人、けっこういるな」って。先輩のレベルも高かったんですよ。ケプラ(※今月メジャーデビューした4人組ロックバンド)が2個上なんですけど、僕らが入学した時に1曲目のMVを公開していて。1個上にも、もう解散しちゃったけどすごいバンドがいました。そういう先輩たちの姿を見て、「この学校で学年一のバンドになれば、けっこういけるのかも」と思うようになっていったんです。

――まずは学年で天下をとって、卒業後も続けていくぞと。

こうき:そうですね。そんな感じでギラギラしてました。

――卒業後も視野に入れつつ部活動の一環としてバンド活動を行っていた頃と現在で、何か変化はありましたか?

こうき:曲の作り方が変わりました。部活を引退して受験のために活動を休止していた時に、「これからどうする?」「ちゃんと本気でやろう」という話を3人で改めてしたんですよ。それまでは「僕が作った曲を3人で演奏する」というスタイルだったので、「一人で十分じゃない?」という感じになっちゃっていたんですけど、やっぱり3人のバンドがやりたいなと思って。プロとしてやっていこうという意識を固めてからは、3人でイチから作るようにしています。

――「イチから」というのは具体的に言うと?

こうき:「どういう曲を作ろうか」というテーマを考えるところからですね。3人でホワイトボードに向かって案を出し合って、その場でフレーズや歌詞を考えたりします。時間も手間もかかるんですけど、一人じゃできないことを実現できるのがバンドの面白さだと思うので。歌詞にしても、ドラムやベースのワンフレーズにしても、一緒に頭を抱えながら、時間をかけて考えていて……他のバンドが見たら「何の時間?」「一旦家に帰って各自で考えればいいのに」と思うかもしれないんですけど、3人のその場のフィーリングや、思いをぶつけ合うということを僕らは大事にしているんですよね。2人にとっては慣れない作業だから、最初は大変だったと思うんですけど、「まずは時間をかけて悩むということを大切にしよう」という話をして。

こた:僕はそもそも「このドラム、なんかカッコいい!」みたいなオーディエンス的な耳しか持っていなかったんですけど、3人で曲を作るようになってから、「ここでこういう音が鳴っているから、このフレーズが際立って聞こえるのか」というふうに分析的に曲を聴けるようになって。そういうふうに意識を変えることは大変だったし、僕が「うーん」と唸りながら考えている間も、2人が静かに待ってくれて……というような時間もけっこうありました。だけどそういう時間を積み重ねながら、少しずつできることも増えてきているのかな。

らな:3人でたくさん話し合いながら、時間をかけて曲を作っていくことは大変だけど、決められたフレーズを忠実に演奏するよりもやりがいがあるし、成長できている実感もあります。

――自分たちが目指すのはワンマンバンドではなくて、メンバー全員、クリエイターとしての脳を持っているべきだとどこかで気づいたからこそ、そういう曲の作り方になっていったんでしょうね。

こうき:高校在学中に「恋よ、踊り出せ」が伸びたことで、問われている気がしたんですよ。「ここから先はどうしていくんだ?」って。そう問われた時に「こうしなきゃ」と焦って判断するんじゃなくて、時間をかけて3人でしっかり考えたいなと思いました。これは今だからこそ思うことですけど、バンドを始めたての頃の僕は、2人のことをあんまり信用できていなかった気がするんですよ。2人のことをダメなプレイヤーだとは思っていなかったけど、曲を書いているのはあくまで自分だという意識があったし、どこかで「自分の方ができる」という気持ちもあったかもしれない。今は2人を信じるところからスタートしているし、悩むこともあるかもしれないけど、その先で見つけた自分たちなりの正解を大事にしながら、3人で一緒に成長していきたいなと思っています。それこそが、バンドをやっていく上で一番大切なことなんじゃないかと。

▲ココラシカ「恋よ、踊り出せ」

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「溶けないで」で描いた、今の時代のシティポップ

▲ココラシカ「溶けないで」

――新曲「溶けないで」は、「恋よ、踊り出せ」の第2弾というイメージで制作したそうですね。

こうき:「恋よ、踊り出せ」は「こういうシティポップ的なアプローチもアリだな」と僕らに気づかせてくれた曲で、「自分たちのサウンドにシティポップをどう取り入れていくか」「今の時代にどんなシティポップを鳴らすか」というのが最近の僕らのテーマになっています。そのテーマと改めて向き合った時に、このイントロが出てきたんです。この曲も3人でホワイトボードとピアノ一台を囲みながら作っていったんですよ。「シチュエーションはどうだろう?」「海辺じゃない?」って。

らな:「最後の花火」という曲を夏の初めに出しましたけど、この曲は夏の終わりごろに出すということで、まず最初に「この曲にも夏の要素を入れたいよね」と決まりました。そこから「夏にデートに行ったら、どういう気持ちになる?」といった会話をしながらいろいろ考えていって。夏の終わりって、ちょっと寂しいじゃないですか。その寂しさは若い時代の儚さ、大人になることへの葛藤とも共通するもので、シティポップのサウンドとも相性がいい。というふうに、サウンドや曲の内容が徐々に決まっていきました。同じように、曲の構成やベースとドラムのフレーズ、リズムに関しても、スタジオで一緒に話し合いながら考えて。

こうき:「このまま何にも縛られずにあなたを追いかけていたい」という恋愛の曲なんだけど、大人になることに対する僕ら自身の葛藤も同時に描いている曲です。歌詞をアウトプットしたのは僕で、みんなでまとめた考えを一度家に持ち帰って書きました。3人でスタジオに入った時の写真をたくさん撮っていたので、それを見ながら歌詞を書いていって。

――クレジット上は作詞も作曲もこうきさん名義になっているけど、基本は3人で一緒に考えていて、具現化するのがこうきさんの役割ということですかね。

こうき:そんな感じです。僕は意見をまとめるのがわりと得意なタイプなので、それをやっているだけというか。あくまで3人で考えたものを僕がアウトプットしたという感覚です。

――完成した「溶けないで」は切なさもありつつ、ご機嫌な曲になりましたね。

こうき:サウンドプロデュースは保本真吾さんにお願いして、一緒に冒険や実験をさせてもらいました。僕は美しく自然な流れで聴ける音楽を好んでいるんですけど、保本さんは引っかかりのある音、面白い音が好きみたいで。引っかかりをどう作っていくかという面で、いろいろなやり方を教えてもらい ました。

こた:僕は保本さんやドラムテックの方から「こういう音にしたいなら、こういう機材がいいよ」「この機材はこういう仕組みで、だからこういう音が鳴るんだよ」というふうに、いろいろなことを教わりました。ドラムセットを布で覆って、布の上から叩いてみたりもして。道具の使い方で音が変わるんだということを、実際にいろいろ試しながら体感しました。「サウンドがよくなるんだったら、もっといろいろなことをしていいんだな」と思えましたね。

らな:私も音作りに関するアドバイスをたくさんいただきました。保本さんが持っていらっしゃる機材は、ビンテージ品やレアなものなど、普段はお目にかかることのできないものが多かったんですよ。特に私が印象に残っているのは、Motown D.I.。実際に使わせていただいたら、音がめちゃくちゃよかったですし、「こんなに音が変わるんだ」という発見がありました。自分がまだ知らないだけで、世界にはいい機材がいろいろとあるんだろうなと思うと、面白いですよね。

――恋愛の曲だけど、自分たちの気持ちも歌っているという話でしたが、歌詞についてはいかがでしょう。今抱えている将来への不安や葛藤に対して、何か答えを出している曲ではありませんよね。

こうき:僕は「自分がどういう言葉を言ってほしいか」という観点からアプローチすることが多いんですけど、そう考えると、必ずしも答えがあるべきだとは思わなくて。誰しも大人になっていくし、その事実は絶対に変わらないじゃないですか。だから結局頑張っていかなくちゃいけない。その上でこの曲は「でも、逃げたくなる時もあるよね」という気持ちを汲み取ってくれるような曲になったと思っています。

――自分が求めているものを音楽として形にすることで、気分がすっきりしたり、達成感があったりするのでしょうか?

こうき:というよりかは、「これができなかったらモヤモヤする」という感じですかね。「よかった、曲できた! 頑張った!」という達成感はもちろんあるんですけど、それよりも、形にできなかったらモヤモヤし続けたままなんだろうなって。そうならないために曲を作っているのかもしれません。

――今後3人で実現させたい夢や目標などはありますか?

こうき:「武道館を埋めたい」「大きな映画の主題歌をやりたい」みたいな目標はなくて。もちろん武道館も映画の主題歌もできるに越したことはないし、生活もあるから、売れたいという気持ちもあります。だけど、それ以前に、僕ら3人がどういう生き方をしていくか、その上でどういう音楽を作っていくかというところに焦点が当たっていますね。3人で同じ方向を向いて、音楽を追求し続けたい。それが一番です。

――そのためには3人で足並みを揃えて、納得するまで話し合って曲を作る過程が大事だと。

こうき:はい。妥協が許せないタイプなんですよ。メロディさえちゃんとしていれば、歌詞はもっとラフに書いても何とかなるのかもしれないけど、そうじゃなくてちゃんと3人の思いを込めたい。同じようにメロディやアレンジ、音作りにもこだわりたいから、今回こうやってプロデューサーさんに入っていただきました。「これ以上こだわれないでしょ」と言えるまで、今の自分たちの限界までしっかりやりきるというのがマイルールになっていると思います。

――純度高い表現を求める中で、今後忙しくなっていくと、締め切りとの戦いが始まってくると思いますが。

こうき:始まりつつあります(笑)。でもマイルールはしっかり守り続けたいです。

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