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<インタビュー>VTuberデビュー5周年を迎えたしぐれうい、クリエイターとしての立ち位置を再確認

インタビューバナー

Interview & Text:小町碧音

 9月11日、イラストレーター兼VTuberのしぐれういが、2ndフルアルバム『fiction』をリリースした。ライトノベルの挿絵などを手がけるイラストレーターとしての顔を持ちながら、ホロライブ所属のVTuber・大空スバルのキャラクターデザインを手がけたことを機に、VTuberの世界にも足を踏み入れた。

 その後、オリジナル曲「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」がTikTokをはじめとしたプラットフォームで爆発的ヒット。Billboard JAPANの“JAPAN Heatseekers Songs”では、2週連続で首位を獲得した。YouTubeではVTuberオリジナル曲として史上初の1億回再生を記録するなど、想定外の活躍を見せている。

 VTuberデビュー5周年という節目を迎え、画集『雨を綴る』、個展【雨を手繰る】、2ndフルアルバム『fiction』のリリース、そしてリアルライブイベント【SHIGURE UI 5th Anniversary Live masterpiece】など、記念プロジェクトが目白押しだ。

 筆者は、個展【雨を手繰る】の初日、六本木ヒルズに設けられた会場を訪れた(<イベントレポート>しぐれういの人生を追体験――個展【雨を手繰る】)。そこで後日、しぐれうい本人へのインタビューが実現。アルバム制作や個展開催、創作活動に対する想いを伺った。今の時代の最先端を走るクリエイターらしさに満ちた言葉が強く印象に残った。

「イラストレーターとしての私」と「VTuberとしての私」

――VTuberデビュー5周年を迎えて、今のお気持ちはいかがですか?

しぐれうい:VTuberを始めたきっかけも、実は「VTuberやるぞ!」とか「新しい活動にするぞ!」という感じではなくて、なんとなくVTuber界隈にぬるっと入ってしまった感じなんです。趣味に近い活動という感覚でやっているので、もう5年も経ったのか、と少し驚いていますね。一つのジャンルに熱中し続けることがあまりないタイプなので、こんなにも長く続けていられること自体、とても嬉しいなと思っています。


――昔から一つのことに固執しない性格なんでしょうか。

しぐれうい:結構腰が重いタイプで、自分から積極的に新しいことをやるみたいなことは少なかったですね。ただ、何かきっかけがあれば「じゃあやってみるか」という感じで、挑戦することはありました。例えば、漫画を描いてみない?って言われた時も、「描いたことないけど、やってみるか」って感じでやってみたり。


――VTuberを始めた当初と比べて、創作に対する考え方は変わりましたか?

しぐれうい:考え方自体はあまり変わっていないんですけれど、やっぱりこの5年間で面白いものをたくさん見てきたので、それを踏まえて「自分もこういうことをやってみたいな」と思う気持ちはありますね。配信や動画を作る時も、以前よりはちゃんとクオリティの高いものを届けたい、という意識が強くなったかもしれません。


――「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」についても触れたいのですが、あの曲は大きな話題を呼んで、海外にまで広がりましたね。

しぐれうい:正直、ちょっと止まってくれ! って思っていました(笑)。ロリ神は外向けというより、リスナー同士の間で楽しむような身内ネタを元にした曲だったんです。配信の延長みたいな気持ちで作っていただいたのに、文脈を知らない人たちにまで広がってしまった(笑)。ありがたい気持ちもありますけど、しぐれういというキャラクター=ロリ神、みたいに見られることには少し違和感もあって。「ちょっと広まりすぎたかな」と感じたりもしました。



「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」


――普段のしぐれういさんは、辛辣なイメージとはまた違うということでしょうか?

しぐれうい:そう思いたいんですけど、「そんなことないだろう」って言われるかもしれません(笑)。VTuberとしての自分と、イラストレーターとしての自分って、少し感覚が違っていて。VTuberの時は、砕けた感じでリスナーさんと仲良くグサグサ刺すようなやり取りをしますけれど、イラストレーターとして絵を描くときは全然違うメンタルで取り組んでいます。なので、イラストレーターの「しぐれうい」=ロリ神って結びつけられてしまうのは、少し抵抗があるんです。例えば、私が描いた絵が全くVTuberとは関係ないのに、VTuberでの出来事と結びつけられるとか。そういうのはちょっと違うんじゃないかって。「イラストレーターとしての私」と「VTuberとしての私」は近い存在ではあるけど、別物だよと伝えたくて、この5周年企画を始めました。


――この5年間で一番嬉しかった出来事を教えてください。

しぐれうい:ずっと応援していた大空スバルさんが初めて3D化された瞬間ですね。イラストレーターとしても、1ファンとしても、すごく嬉しくて、今でも忘れられないです。



【告知】しぐれうい 5th Anniversary Project


――まず、入り口にあった今にもしぐれういさんが額縁から飛び出してきそうなハイパーオーバースケールフィギュアは、アトラクション並みの迫力がありました。

しぐれうい:あれはライブのキービジュアルを元にしたフィギュアなんです。もともとライブのキービジュアルのコンセプトが、「個展会場から飛び出してきたしぐれういが、作品としてライブを行う」というものでした。そのイメージを立体化できたらいいね、という話をデザイナーさんたちと進めていて。ついに念願叶ってあのデカフィギュアが実現した感じです。


――雨粒のキラキラ感のある「雨を綴る」や、ミラー加工でオーロラを使った「大人」も個展ならではのビジュアルへの強いこだわりを感じました。

しぐれうい:普通に印刷しただけだとデジタルの絵と変わらないので、何かしらの加工は絶対に入れたいと思っていました。例えば、水たまりをオーロラに見立てるアイデアもそうです。実際、水たまりって見る角度によって表情が変わるじゃないですか。でも二次元の絵だとどの角度から見ても同じようにしか見えない。そこで印刷加工を加えることで、「こういう風に見せたかったんだよ」という表現ができると思ったんです。


――あの雨粒も?

しぐれうい:そうです。現地で見る良さって、もちろん絵そのものの魅力もありますけど、その「ある感」というか。水滴が少し浮いて見えるような感じを出せると、もっと現実的になるかなと思っています。


――しぐれういさんは、日常のなにげない風景を大切にされていますよね。

しぐれうい:そうですね。やっぱりファンタジーよりも現実的なものが好きなので、作品でもより現実感のあるものを好んで作っていますね。


――歌人 木下龍也さんとのコラボレーション作品「モラトリアム」の背景は実写の線路で、しぐれういさんが撮影されたものだと聞きました。今回のアルバムジャケットでも実写とイラストが組み合わさっています。リアルとフィクションを組み合わせる作品はどのような意図から誕生したのですか?

しぐれうい:例えば今回のアルバムジャケットで言うと、タイトルが『fiction』なので、虚像を表現したかったんです。水たまりに映っている部分は二次元、つまりインターネット上のものとして、その虚像を強調したかったんですね。なので、二次元部分以外は実写で表現することにしました。


――会場の中心部にあった大きな傘の下も雨音のBGMが流れる、充実した空間でした。

しぐれうい:真ん中には、イラストレーターとしての世界観が見える窓と、VTuberとしての景色が見える窓を設置しよう、というアイデアがあって、これはデザイナーさんとかなり初期の段階で話していました。VTuberの側では3Dでしぐれういが時々こちらを見てくれて、イラストレーターの側では、私のイラストがまるで動いているような世界観を見せられたらいいなと考えていました。


――雨音のBGMも傘から抜けると傘の外の音と雨音が合わさってひとつのBGMになるように工夫されていたことにも特別な思いを感じました。

しぐれうい:BGMを作ってくださったのはハムさんです。ハムさんは、私にとって「VTuberのしぐれうい」と「オリジナルの名もなき女の子たちを描くこと」、どっちも大切な存在だと理解してくれていて。それを踏まえて、両方の要素が感じられるBGMを作りたいと言ってくださったんです。なので、両方の要素が重なった時に、一つの曲として聴こえるようになっています。


――そういった背景を聞けると、より深く響いてきますね。

しぐれうい:私もいろいろリクエストを出すことはありますが、デザイナーさんや音楽を作ってくださった方が、私の意図を汲み取ってくださるんです。共同作業は、自分一人ではできないものができあがるので、嬉しいし、ありがたいなと思います。


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「VTuberというフィクションを楽しんでね」

しぐれうい 2nd Full Album『fiction』クロスフェード


――2ndフルアルバム『fiction』についても聞かせてください。今回は全曲オリジナル楽曲ですが、楽曲制作者の方々が、じんさん、堀江晶太さん、いよわさんなど、豪華な布陣です。

しぐれうい:今回のフルアルバムには大きく2つのアプローチがありました。まずは、「フィクション=これは創作物です」のコンセプトに寄り添って形にしてくださりそうなクリエイターさんを選びました。もう一つは、純粋に私が人生の中でずっと聴いてきた方々と一緒に作品を作りたいという思いからです。


――「ハッピーヒプノシズム」が1曲目です。恋した時のワクワクに近いポップなメロディが可愛いですね。

しぐれうい:VTuberって他のキャラクターと違って生きている存在なので、いろんな杞憂が生まれるんですよね。普通のアイドルを追っていて疲れることってあるじゃないですか。そういう疲労感みたいなものが生まれてきてしまうジャンルだなと思っていて。でも、しぐれういは、生モノ感を減らしたい、そういう思いはさせない。なので、「私は創作物だから、フィクションだから」というコンセプトを込めて今回CDのタイトルは『fiction』と付けました。その理由をそのまま堀江さんに伝えて、「VTuberというフィクションを楽しんでね」というテーマで曲を作ってもらいました。


――それがあの曲のワクワク感につながっているんですね。

しぐれうい:「ちゃんと錯覚して楽しんでいこうね」という感じです。錯覚というと、一見マイナスに聞こえる言葉かもしれませんが、嘘を嘘だとわかっていても、それも精一杯楽しむことって実はすごく幸せなことだと思うんです。創作としては、とても楽しいことなので、そういうテーマで作っていただきました。もともと堀江さんの曲調が大好きだったので、改めて「やっぱりいいな」と思いましたね。特にサビの「ね」を繰り返すところが、まるで催眠術をかけているみたいで、不思議な感じがして。「音楽って、表現方法として本当に面白いな」と改めて感じました。


――YouTubeに投稿された「うい麦畑でつかまえて」は、いよいよ再生回数が2,000万回突破に近づいていて、ロリ神に続く雰囲気があります。

しぐれうい:ありがたいですね。私自身、アニメコンテンツのキャラクターソングが大好きで、ロリ神でキャラクターソングをやってみたら想像以上に注目されてしまったんです。それで「しぐれういとしてもキャラソンをやりたい」とずっと思っていて、絶対に得意だろうなと思っていたナナホシさんにリスナーとの関係性をしっかり描いてほしいとお願いしました。過去にリスナーと軽く喧嘩しているような場面の切り抜き動画をお送りして、「こういう感じなんです」って(笑)。仲はいいけど、優しい関係というよりは、ちょっとふざけ合って、喧嘩しながらも楽しんでいる。そんな関係性を面白く表現してほしいと。音楽としての面白さはもちろんなんですけれど、キャラクターコンテンツとしての面白さを見事に描いていただいたので、さすがだなと思いました。



「うい麦畑でつかまえて」


――アルバムの中で、特に歌うのが難しいと感じた楽曲はどれですか?

しぐれうい:じんさんの「ひっひっふー」ですね。サビ以外が全部ラップなんです。それも、ゆるふわ系のラップではなく、ガチガチのヒップホップ系ラップで、初めての挑戦でした。最初は全然歌えなくて、0.5倍速で練習して覚えて「よし、やるぞ!」と思って収録に行ったんですけど、それでも8時間くらいかかりました(笑)。


――じんさんの音楽はよく聴いていた?

しぐれうい:はい、じんさんの音楽は特に好きなんです。じんさんは小説家もやっていらっしゃるので、ストーリーを組み立てる力がとても優れていて、今回のアルバムのコンセプトも汲み取っていただけるだろうと思ってお願いしました。


――どのような内容をリクエストされていたんですか?

しぐれうい:私がこれから絵を描いていくにあたって、お守りのような存在になる曲を作ってほしいとお願いしていたんです。でも、送られてきたのは、お守りどころか「バチバチに戦っていくぞ!」という勢いのあるラップ曲で(笑)。じんさんは、常に自分の殻を破りたいという思いが強くて、似たような曲を作り続けてはいけないという信念を持っている方なんです。私の話や配信に共感してくれた上で「ういさんなら、こういう曲が絶対にいいと思う」と提案してくださったんです。「ラップできるか…?」と思いつつも、面白いと思ったので「じゃあ、これでいきましょう!」と言ってしまって、大変な目に遭いました(笑)。


――Q-MHzさんの「微炭酸SWIMMER」も「ハッピーヒプノシズム」に近い雰囲気があって、よいですね。

しぐれうい:私がイラストとして描くキャラクターに、シュワシュワとした青春感や甘酸っぱい女子高生のようなイメージがあるという話をしていたので、それを楽曲に反映してくださったのかなと思います。あの曲はVTuberのしぐれういに私の好きな要素を取り入れた楽曲ですね。


――レコーディング風景で記憶に残っている楽曲はどれですか?

しぐれうい:「あいしてやまない」ですね。DECO*27さんがサウンドプロデュースを手がけているクリエイターチーム・OTOIROのスタジオにお邪魔したんですけれど、現場の包み込んでくれている感というか。すごく温かくて、あいしてやまないという楽曲にめちゃくちゃピッタリな空間だったんです。はじめの挨拶の時点から歌いやすい空間をみんなで作ってくださっているなとすごく感じました。


――今作の中では、9曲目「勝手に生きましょ」がキーになっていると思います。

しぐれうい:いよわさんには、5周年プロジェクトのコンセプトをお伝えして、プロジェクトの根幹となる曲を作ってほしいとお願いしました。イラストレーターのしぐれういとVTuberのしぐれういが寄り添って語り合う、そんな楽曲を作ってほしいって。


――いよわさんが描いたミュージック・ビデオでは、イラストレーターとVTuberのしぐれういさんが邂逅する。あの優しさに満ちた空気感が素敵です。

しぐれうい:もともといよわさんの動画がすごく好きだったので、いよわさんの絵柄で私の作品を描いていただけたことはとても嬉しかったです。楽曲に関しては最初にワンコーラスをいただいた時、「こういう方向性でいくんだ」と小さい驚きと嬉しさがありました。いよわさんの楽曲は、曲によって表情が全く違うので、今回はすごく優しくて温かく寄り添ってくれるような曲を作ってくださったのだなぁと。フルコーラスをいただいた時、最後にしぐれうい同士がデュエットするシーンがあって、その表現があまりにもすごくて「これはしぐれういにとって本当に大事な曲になってしまうなあ」と感慨深かったですね。



「勝手に生きましょ」


――いよわさんもボカロPでありながらイラストを描かれるマルチクリエイター。しぐれういさん自身もイラストレーター、VTuberと多方面で活動されているところは、共通点でもありますね。

しぐれうい:やっぱりクリエイターって、本来は絵を描く人でも、画材を選ぶときに何でも選べて、手段にこだわらないこともできると思うんです。さらに言えば、絵じゃなくてもいろんな方法で表現できる。そういう意味で、創作には本当に多様な手段があるんじゃないかなと感じます。インターネットが生まれて手段が増えただけで、もともとものづくりが好きな人はこういう自由な感覚を持っていたんじゃないかな。YouTubeやXが活発になることで、いろんな表現方法が可視化されて、「こんなこともできるんだ」と知る機会が増えたのも素敵なことだと思いますね。


――ところで、イラストレーターとしての活動とVTuberとしての活動、そのバランスはどのように取っていますか?

しぐれうい:意外とイラストレーターとしての活動の方が重く感じることが多いです。配信は週に1、2時間で終わるんですけど、イラストは1、2時間では完成しないので、1日配信して、残り6日は絵を描く、みたいなバランスになっています。ただ、VTuberとしての活動に関連するイラストも多いので、たとえば新衣装のデザインとかも含めると、作業量のバランスが半々になっているのかもしれませんね。


――何がどうつながってくるか分からないですね。

しぐれうい:そうですね。結果的に両方の活動にもつながっているんじゃないかと思うことがあります。


――今後の目標はありますか?

しぐれうい:実はあまり具体的な目標がないんです。「これを達成したい」とか「これが夢だ」というのが特になくて。その時に描きたいもの、作りたいものをコツコツと作ってきたので、これからもそのスタンスで活動していくと思います。VTuberもイラストレーターとしての活動も、全て含めてしぐれういの創作はエンタメだと思っています。みんなにとって「あったら嬉しいな」という存在になれたら。それが私の指標になると思っています。


――目標を作らない理由は?

しぐれうい:あまり欲がないんでしょうかね……?(笑)。私は初期衝動で動くタイプなんです。反復練習も苦手なので、その時に「やりたい!」と思ったものに向かって一直線に進んでいく、というスタイルです。


――その柔軟性はこれからの時代、間違いなく求められてくるものですね。

しぐれうい:意識が低いと思われるかもしれないですが(笑)。でも、やっぱり、その瞬間に感じた「これをやりたい」とか「これを作りたい」という初期衝動を大切にして、しぐれういは、これからも、ものづくりをしていくんだと思います。


しぐれうい「fiction」

fiction

2024/09/11 RELEASE
UPCH-20678 ¥ 3,000(税込)

詳細・購入はこちら

Disc01
  1. 01.ハッピーヒプノシズム
  2. 02.うい麦畑でつかまえて
  3. 03.ひっひっふー
  4. 04.微炭酸SWIMMER
  5. 05.Paint it delight!
  6. 06.二人模様
  7. 07.ういこうせん
  8. 08.あいしてやまない
  9. 09.勝手に生きましょ

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