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<インタビュー>由薫、国外活動を経て辿り着いた“ありのままの自分” 最新EP『Sunshade』を語る

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Interview: 村上麗奈
Text: Mariko Ikitake
Photos: 辰巳隆二

 由薫のデジタルEP『Sunshade』がリリースされた。「lullaby」「星月夜」に続いて、本EPにも収録されているTBS系金曜ドラマ『笑うマトリョーシカ』の主題歌「Sunshade」もONE OK ROCKのToruがプロデュース。本人としてはしっかりと手ごたえを感じながら作り上げた実感があるという。

 日本と海外活動どちらにも注力しつつ、それぞれの違った意識を持って活動する由薫の24歳のいまが詰まった『Sunshade』について、話を聞いた。

──今年6月にリリースされたEP『Sunshade』には、タイアップ曲3曲を含む全5曲が収録されています。EPを通してのコンセプトなどはあるのでしょうか?

由薫:タイアップがあったことによって生まれた曲がEPの半分以上ではあるんですけど、それらを作るときからEPを出すということを意識していたので、EPを通してなにかテーマを持ちたいとは考えていたんです。(1stアルバム)『Brighter』のときは壮大なスケール感のある歌詞を書くことが多かったですし、一番聴いてもらえている「星月夜」も大きな愛について歌っていたんですけど、今回のEPでは、もう少しパーソナルな感じにしようという意識があって。私とあなたという、一対一のパーソナルな愛や恋について向き合う歌詞にしたいなと思っていました。アートワークにもその思いを反映させていて、豪華な衣装ではなく、ただTシャツを着て、自然の中でナチュラルな写真を撮ったり、パッチワークみたいに写真を切って繋ぎ合わせたり、手作り感のある、ありのままの雰囲気を大事にしました。

──アートワークの手作り感のある雰囲気や、1曲目の「勿忘草」のアコースティックな印象は、原点回帰を意識しているようにも思いました。

由薫:そうかもしれないです。「勿忘草」はピアノで作ったんですけど、デモを作ってみようという気軽なきっかけで作った曲なんです。心が向かうままに作った曲だったので、ナチュラルな自分の原点回帰のような曲になったと思います。あとはギターから始まっている「Clouds」という全編英語詞の曲も、インディーズの頃と繋がっているかもしれないです。インディーズのときはライブの回数が多かったので、ルーパーを使ったり単純なコード進行の中に英語詞を入れて海外の音楽のようなアプローチをしたりと、色々なことに挑戦していたんです。このサウンド感はその頃とも繋がっていると思います。逆に、「Sunshade」や「ツライクライ」、「もう一度」はJ-POPのことをあらためて考えながら作った曲でもあって。洋楽とJ-POPのどちらも好きで、その間を取るような音楽をやりたいとはずっと思っていたんですけど、J-POPにあらためて向き合ってみるというのは新しい挑戦もありましたね。


──「もう一度」はシンガロングの部分もあり、ライブの際に一体感が生まれそうな楽曲だと感じました。こちらも本山製作所のCMソングとして書き下ろされた楽曲ですが、ライブでの景色を意識して制作した楽曲でもあるのでしょうか?

由薫:実はこの曲、元々はピアノの弾き語りのバラードとして書いていたんです。でもアレンジャーさんから音源が返ってきたときに、結構ポップになっていて。それを聴いて、この曲は本質的にはこのくらい気軽なポップな曲だったのかもしれないと思ったんです。曲がまとっていたものをはがしてもらって、中にあった本質を見つけてもらったような感覚でしたね。そこからシンガロング曲にしようと急カーブで方向転換した曲です。

あと「もう一度」は、今回のEPで唯一コライトではない楽曲です。最近はコライトをすることが多かったので、久しぶりに自分一人で曲をゼロイチからデモまで作る作業をやりきれたのは、大事な経験だなと思いました。いろいろ勉強をする中で曲を作ることのハードルが高くなってしまっていたので、この曲を作り切ることができてよかったですね。

──全編英語詞の「Clouds」では、日本語の歌詞とは異なる声色やニュアンスが感じられるのが印象的でした。英語で歌うとき、日本語で歌うときでそれぞれ意図していることはありますか?

由薫:歌うときに日本語だから、英語だから、ということはあまりないです。ただ、メロディーやトラックが引き出してくれる単語に頼っている部分は大きいと思います。特に海外でコライトをしたときは、自分が心惹かれるワードや発音を歌いたいがために歌詞を書いているみたいなところがありましたし、英語はそれがすごくやりやすいなと思っていて。「Clouds」は日記みたいに単語数を多くして歌いたいと思っていたんですけど、英語は日本語よりも入る単語数が多いので、詰め込んで歌詞を書くのは英語にしかできないことだなと思いました。こういう曲を残しておくことは自分のルーツや要素をちゃんと表現することにも繋がるんじゃないかと思いましたね。「Tokyo」や「Scramble crossing」という言葉を歌詞に入れたりしているので、英語ではあるけど日本で過ごしている等身大の自分の要素を入れられたと思っています。

──そういった英語の特徴を活かした楽曲がある一方で、「勿忘草」では〈消えない〉の部分が印象的なリフレインになっていたり、「Sunshade」では〈ねえ、〉から繰り返される4行があったりと、日本語の繰り返しが有効に使われていると感じました。日本語が持っている力強さを意識した歌詞なのかなと思ったのですが、そういった意識はありましたか?

由薫:アルバムをリリースしてから、振り切る、やりきることをかっこいいなと感じることが多くて。例えば、今までは英語と日本語を混ぜた歌詞も多かったんですけど、振り切って日本語だけを使ってみたらいいんじゃないかと思ったり。「Sunshade」の〈ねえ、〉のところも、英語を使ったほうが楽に書けた部分もあると思うんです。でも日本語で書くことを意識したからこそできた歌詞だと思いますし、気に入っている部分でもありますね。少ない音数の中にどんな日本語を入れ込むかという制限があるのは、和歌や短歌と同じような面白味があるのかもしれないなと思ったんです。制限があるからこそ、その中で表現することを楽しむことができた気がします。これを経て、また日本語と英語を混ぜた歌詞を書くタイミングでは、今はできない表現ができるようになっているんじゃないかなと思っています。

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日本でも国外でもちゃんと思いを伝えられる作品を作れるように

──「ツライクライ」、「Sunshade」はONE OK ROCKのToruさんとの共作です。これまでも何度かToruさんと共作を行っていますが、今回特に感じたことというと、どんなことがありますか?

由薫:Toruさんとはメジャーデビューのときからいろんなタイミングでご一緒していて、Toruさんとご一緒することは自分の現在地の確認にもなっているんです。メジャーデビューの曲を作るときは本当にがむしゃらで、右も左もわからない状況でしたけど、ご一緒するたびに変わっていないと思っていた自分も実は変わっていたんだと気付いたり、慣れてきたつもりだったのに壁にぶち当たってしまったりと、いろんなことを感じていて。でも今回の楽曲制作は自分的にはスムーズに、より建設的な話し合いをしながらできたと思っています。レコーディングのときも、今までは自分の思い描いていた声色に辿り着くことが難しいこともあったんですけど、それがすんなりとできるようになって。Toruさんにもそれを感じていただけて、リリックに魂が乗るようになってきたと言っていただけました。メジャーデビューして2年経ったんですけど、次のフェーズに進めているのかなと感じました。

──「ツライクライ」、「Sunshade」は2曲とも作詞が由薫さん、作曲はToruさんとなっています。どんな制作でしたか?

由薫:「ツライクライ」のアイデアはToruさんが持っていたものだったんです。それをお互いに投げ合って、磨き合う作業をしながら作っていきました。Toruさんが提示したものに対して私が「これってどういうことなんだろう?」と考えるのは、自分の範疇にあるもの以上の想像力を働かせて言葉選びをすることに繋がるじゃないですか。だからこそ、直球な言葉選びの歌詞を書けたのかなと思っています。

「Sunshade」はドラマタイアップの曲なんですけど、タイアップは自分の実力以上のものを出す制作でもあるので、それが引き出してくれるものもすごくあると感じました。原作を読んだ上で、自分はそれにどういう答えを出すんだろうと考えながら、柔軟に書けたと思っています。歌詞をちょっと謎めいた感じにしたいという思いもあったんですけど、今どこにいて何をしているか、何がしたいのかをちゃんと伝えないといけないと思ったので、最初に書いた歌詞よりもどんどん具体的にしていきました。そうやって書き直す過程も楽しかったですね。



──今回のEPは海外のルーツもある由薫さんの一面と、J-POPに影響を受けている由薫さんのどちらも感じることができる作品になっていると思います。幼少期にアメリカやスイスで過ごした経験があったり、制作のためにスウェーデンに行ったりと、日本と国外を行き来している由薫さんですが、音楽を作る環境としては国内、国外それぞれどのような部分を気に入っていますか?

由薫:スウェーデンにいたときは、ほぼ毎日1~2曲は作っていたので、すごくペースが早くて。瞬発力がすごく鍛えられたと思います。逆に日本では向き合う作業がすごく多くて。悩みながら、練って練って作るという印象が強いです。スウェーデンであったり海外の方とコライトでご一緒すると、圧倒されて流されてしまったりするのかなと思っていたんですけど、逆に自分の変わらない部分や私らしい部分が残っていくのを感じました。コライトのときって、相手の方とちゃんとお話する前に曲作りをするので、メロディーラインや制作中のやり取りが自己紹介のようになっていくんですよね。音楽の中で自己紹介をすることを瞬発的にやらざるを得なかったのが、すごく勉強になりました。

──2年連続でアメリカの世界最大級複合イベント【2024 SXSW Music Festival】に出演し、海外での活動も積極的に行っている由薫さんですが、これから日本国内でどんな存在になっていきたいか、海外ではどのように活動していきたいかといった展望があれば教えてください。

由薫:日本で活動する自分と海外で活動する自分って、鏡のようだなと思っています。日本にいるときは、海外に住んでいたという要素だったり、それがサウンドに表れていることがキャラクターになりますけど、海外に行った瞬間に、自分が日本人でJ-POPを聴いてきたということが特徴になるじゃないですか。そんな真逆の環境を行き来することで、自分の音楽性がより鮮明になっていくんじゃないかと考えていて。海外の空気と日本の空気のどちらも好きで、どちらでも育ってきているという部分はしっかり伝えていきたいなと思っていますね。

海外と日本を行き来して、「自分らしいってどういうことなんだろう?」と考えることもあるんですけど、ありのまま出てくるものが自分自身であるということも感じているんです。なので海外での活動でも、完全に洋楽として聴いてもらうのを目指すのではなくて、日本人のアーティストとして立つということを意識して活動したいなと思っています。海外と日本を行き来する中で、いつか自分だからこそ立てる場所に立ったり、日本でも国外でもちゃんと思いを伝えられる作品を作れるようになりたいなと考えています。

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