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<インタビュー>活動休止を発表したNulbarich――その全てを司る孤高の才人・JQが語る、これまでと未来

インタビューバナー

Interview & Text:黒田隆太朗
Photo:渡邉一生

 Nulbarichが2024年内の活動をもって休止に入る。「8年間走り続けてきた」という彼らなりのちょっとした羽休めなのかもしれない。寂しい気もするし、そう遠くない未来にまたひょっこり会えるような気もする。ここ1~2年ほどでぐんと増えてきたプロデュースワークにも注力していくようで、そこで見られるであろうJQの新たな側面に期待していきたい。
さて、先月にはNulbarichの新曲「Liberation」がリリースされた。バンド史上最速のBPMを持った楽曲で、JQが受けたUKガラージからの影響を昇華したものである。彼らのディスコグラフィの中でも新鮮なサウンドになっているが、どういう背景から生まれたものだろうか?活動休止の経緯や新曲の話はもちろん、10月21日、23日に開かれるビルボードでのHometown限定ライブ「Nulbarich Chill In The Living Room Vol.3 supported by iichiko SUPER」のコンセプトや今後の展望などを、懐かしい話を交えて語ってもらった。

「ひとりのアーティストとして向き合っていく」

――活動休止を決めた理由から聞かせていただけますか。

JQ:8年間走り続けてきたんですよね。1年に1回アルバムを出し、ツアーを回って大きいところでライブをやる、というのを繰り返してきて。そのルーティーンがコロナ禍で1回崩れたんですけど、今はまた元に戻りつつあって。で、そのルーティーンってそんなにバチっと決まってなくてもいいよな、とは思うんですよね。ただ、そのルーティンでやってきた分、しばらく作品が出ないとどうしたんだろう?って思われるかもしれないから。

――最近Nulbarich音沙汰ないぞと。

JQ:そうそう。それで知らない間に忘れ去られてるのも嫌だし、僕たちの目線とみんなの目線を一旦揃えたい気持ちもあって。それで休止の発表をしました。バンドメンバーも忙しくなってきてるし、やっぱりみんなが集まってこそのNulbarichではあるんで。これからも曲は作り続けるだろうし、仲が悪くなったわけでもないんですけど、一呼吸与える時もあるんだぜっていう感じですね。今まではガツガツやってたんですよというアピールと、一旦休むけど必ず戻ってきますからね、という気持ちを今までお世話になった人たちに言えたらいいなと思いました。

――ソロでの活動も視野に入れているんですか。

JQ:ひとりのアーティストとして向き合っていくものを一旦強化していきたいと思ってます。

――Nulbarichは形を持たないバンドであり、バンドではあるけどメンバーを固定しない、という姿勢を貫いてきました。それは元々JQさんのどういう理想や音楽観が表れたものだったんですか?

JQ:楽曲を作る部分で言うと、僕の色がどうしても濃くなるので、バンドメンバーが入れ替わることで彩りが増すかな、という気持ちはありました。で、デビュー当時の流れで言うと、僕らは高校生バンドとか大学のサークルで知り合ったバンドじゃなくて、ある程度大人になった人たちのかき集めだったから。バンドやらない?って友達に声をかけていくんですけど、「いいよ!週2なら」って言う人もいるし、「月3なら行けます!」っていうのもいれば、「毎回行けます」って返してくれるのもいて。そういう人が全員が入れるバンドって考えると、もうそれしかできなかったんですよね。

――なるほど。

JQ:忙しくなって毎週ライブをするようになると、ワンセクションにひとりだと無理か、みたいなこともあって。まあ、仕事しながらの人もいたし、他のバンドをやっていた人もいるし、それでも友達とこのメンバーでバンドやりたいよねって思っていたから。(形を持たないというのは)その場所に必要なルールだったんです。入れ替われるいい部分もあるし、セッションバンドっぽくもなるし、だから本当にジャミロクワイみたいになっちゃったなと思うんですけど。それでみんなで写真を撮るのをやめようかとか、(ヴィジュアル・イメージを)ロゴにしようとか考えていって。そうしたら「謎の覆面バンド現る」みたいな、「大人が作り出したバンド」みたいなことも言われましたけど。

――言われてましたね。

JQ:当初はね、めちゃめちゃ言われましたよ(笑)。仲間内だけでやってるバンドたちがバーって来てる中で、覆面バンドがポンって入ってきたから、めちゃめちゃ嫌われてんだろうなって思いながらやってましたね。でも、俺らもめちゃめちゃ仲間内なんだけどなぁー感じだったから。デビュー当時それを上手く世の中に説明できなかったから、「バンドだけどメンバーを固定してないってどういうことですか?」って、1年ぐらいどのラジオに出ても、どのインタビューを受けても言われてましたね。

――ちょっと耳が痛いです。

JQ:(笑)。それはしょうがないですよね。結局は世の中が僕らをバンドにしてくれたし、そこによってもうひとつ僕という人間がいるよねっていうのも気づけたので。僕的には皆さんに気づかせていただきました、みたいな気持ちが大きいです。

「とにかくドが付くほどのゆるいライブ」

――ビルボードでHometown限定ライブ、「Nulbarich Chill In The Living Room Vol.3 supported by iichiko SUPER」を行うそうですね。

JQ:次が3回目ですね。1回目は違う場所でやったんですけど、2回目の時にビルボードさんでやらしてもらって。とにかくドが付くほどのゆるいライブで、普段見れないNulbarichが見れるというか、それ以外のなにものでもないライブなので。たぶんそこに価値を見出せなかったら、1円の価値もないです(笑)。なんとなく全員座ってチルりながら、喋ったり歌ったりするみたいな感じで。前回なんてみんなで歌ったりしましたからね。うち(Nulbarich)の別のメンバーが見に来てる時は、その場で呼んでちょっとやってみたり、ミュージシャンが多めに集まったリビングみたいなものをコンセプトにしていて。いい大人たちが集まったキャンプファイヤー、ぐらいに思っていただけるといいかなと。

――ビルボードでのライブ自体は、2022年の「JQ from Nulbarich」名義で出たソロライブ以来ですか?

JQ:そうですね。あの時は鍵盤とベースと僕の3人で、僕がドラムを叩きながらやりました。

――JQさんは元々ドラマーですもんね。2018年に行った武道館ライブでも叩いていましたし。

JQ:そうです。ドラマーほどは叩いてないですけど、 曲を作る上でもグルーヴを作ったりする時には軽く叩いてるので、そこまでストレスなくやれる楽器がドラムなのかなとは思います。叩きながら歌ったのは、N.E.R.Dの「Sooner or Later」かな。カバー縛りのライブだったので、「この曲をビルボードで聴けたらおもろい」みたいな気持ちで、大喜利ができたので楽しかったですね。

――ちなみにNulbarichとしての初めてのビルボードライブが、2016年に行われたLUCKY TAPESとのツーマンでした。当時のことは覚えていますか?

JQ:覚えてます。Nulbarichがまさに「Null(ゼロ、形なく限りなく無の状態)」だった時、ほぼ何もなかった時にお話をいただいたから。一方LUCKY TAPESはその時に出てきてるバンドたちの中にもう名前があったし、どうしよう?みたいな感じでしたね。僕らはまだ適応力もなかったし、デビューしたばかりでビルボードでやるシステムもなかったから、全員イヤモニで同期を使ってやりましたね。

――歴史を感じますね。しかもその後のキャリアを考えると、Nulbarichはツーマンライブさえ貴重ですから。

JQ:確かに。ALIとOKAMOTO'Sとのツーマン、あとはDef Techかな。それとJ-WAVEの番組の企画でVaundyとのツーマンもありましたけど、デビュー当時はそういう動きをしないつもりでいたんですよね。群れない、みたいな。それでフィーチャーリングもしなかったし、割と5年ぐらいは自分たちだけの力でやっていくつもりでした。なのでLUCKY TAPESとのお話をいただいた時は、バトルだと思って出ましたね。今はNlubarichのベースに元LUCKY TAPESのKeityさんが入ってるんですけど、当時の話をすると「バチバチでしたよね」みたいな。それがこうなるんだからエモいね、みたいな話をしてますね。






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「ビートメーカーとしての自分の感覚でつくってみたい」

――新曲の「Liberation」がリリースされました。SaaS企業「HENNGE」とのコラボから生まれたとのことですが、どういう経緯で作った楽曲なんですか?

JQ:まず「HENNGE」さんからお話いただいて、その時は「思うように作ってください」みたいな感じだったんですけど。代表の小椋さんと一緒にご飯食べさせてもらった時に、僕が色々質問責めしちゃって、そこで聞いた考え方に凄く感銘を受けました。これからの世の中、多様性にどう対応していくかっていうところがあると思うんですけど、僕はそことの向き合い方で悩んでいた部分があるんですよね。全てを受け入れると何も進まない時あるよね、みたいな。自分のプロジェクトでも、いろんな人の意見を聞いて柔軟にやっていくと、先導することができなくなっちゃう気がするな、みたいな話をしたんです。そうしたらぽろっと「まあでも、会社を良くしていこうという時は、やる気があるという大前提はルールとして持ってないとダメよ」って言われて。その言葉にめちゃめちゃ救われたんですよね。頭の中でどんどん足の引っ張り合いをしてしまって、結構スパイラルに入ってたんですけど、組織をまとめる上で掲げる多様性っていうのは、大前提に向上心があるっていうのに救われて。僕はそこでお話しさせてもらったことのメモとしてこの曲を書いたという感じでしたね。イメージとしては「過去にすがってる自分に対して、そういう瞬間は大嫌いだ」っていうような曲にしていて。毎日ああしたい、もっとこうしたい、という自分を愛するために「Liberation」を書きました。


Nulbarich - Liberation (Official Music Video)

――なるほど。

JQ:あと、割とデビュー当時のリリックのアップデート版みたいなイメージもあって。「Hometown」とかあの辺の曲って、「下がってろよ。次俺の番だから」みたいなリリックなんですけど、なんかそういうテンションに近いのかなと思います。

――思い切りが良くなったと。

JQ:そうですね。こっからもっともっと覚醒していきたいなとは思っています。

――サウンドはUKガラージにインスパイアされたらしいですね。あの音楽のどこに惹かれていますか?

JQ:僕にとってのUKのいいところって、冷たさなんですよね。UKガラージの中にもいろんな種類のビートがあるとは思うんですけど、ちょっとふわっとしてて、浮遊感がある中で刻まれてる感じが凄く好きです。ハウスとかドラムンに通ずる部分があると思うんですけど、あの速いビートが流れてく感じとか、大きいものの中に小さいものがずっといるようなループ感、そのヒップホップとはまた違う催眠感のあるループに惹かれます。

――なるほど。

JQ:僕は元々ビートメーカーなんですけど、たとえばアマピアノとか、ここ数年いろんなプロデューサーが使っている流行りのビートに対して、「みんながやってるから俺もそれで作ってみよう」みたいな感覚で作ることってしばらくやってなかったんですよね。どっちかと言うと(これまでのNulbarichは)世の中の流れに対して自分たちが何を落とすか、みたいなイメージでやっていたんですけど、ちょっとこの曲はビートメーカーとしての自分の感覚で作ってみたいと思いました。

――この曲はとにかく速いですよね。

JQ:テンポが?

――そうです。このスピード感、Nulbarichにはなかったものかなと。

JQ:なかったですね。今まではたぶん一番速くても「Kiss You Back」とかかな。あの曲がBPM130くらいなので、普段は100前後をやってるバンドが頑張って四つ打ちにして130、みたいなところだったんですけど。世の中のムードのビートに合わせるっていうところで、たぶん自分たちの軸を取っ払えたというか、それでも俺たちだって言える曲ができたのが「Liberation」ですね。この曲が162くらいなんですけど、曲として疾走感や勢いみたいなものが欲しかったし、今までやったことがないものをやってみたら見えた景色はありました。

「本当の意味での集大成を見せられるようにしたい」

――活動休止前最後のワンマンライブとなる武道館公演、「CLOSE A CHAPTER」への意気込みを聞かせていただけますか。

JQ:このチャプターの集大成のライブにする、というのが一番ですね。アルバムを引っさげてやるライブでもないので、これまでの8年間をぎゅっと詰め込んだ、本当の意味での集大成を見せられるようにしたいです。武道館は幼少期からの思い出の地でもありますし、僕は2017年にジャミロクワイのサポートアクトとして武道館の景色を見させていただいて、その翌年にワンマンライブをしたんですよね。なので次が3回目になるんですけど、あの時のジャミロクワイってたしか10年ぶりくらいの来日だったんです。10年ぶりに外国に行って武道館でツーデイズをやって、あれだけ愛されてる空間になるアーティストって凄いなと思ったんですよね。だから僕ももう少し、音楽的にも人間的にも仕上げていかないとなって思います。

――来年以降も生活の拠点は変わらずLAを考えているんですか?

JQ:今後もLAと行ったり来たりしたいっすよね。ただ、アメリカに限らずアジアもしっかり見つめていきたいですね。そしてそこに道があるのなら、最終的には世界へって思っています。

――世界のシーンに挑戦していきたい気持ちがあるんですね。

JQ:そうですね。ただ、海外に行って思うのが愛国心というか、自分をレップするという部分でも、もちろん日本人の方々に愛してもらうことが大前提だとは思います。とはいえ日本に集中してやっていくというよりは、日本で育ってきた自分の感覚というものを軸に、自分の音楽を海外でも広めていくことを頑張りたいです。



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