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<コラム>奇跡の復活に世界が感動、セリーヌ・ディオンの現在とこれから
Text: 服部のり子
「セリーヌ・ディオンが【パリ・オリンピック】の開会式に出演するのではないか?」開幕前に噂が流れ、市内での目撃情報が伝えられるなか、フィナーレにエッフェル塔で「愛の讃歌」を熱唱する姿を目にした時は、早朝なのに大きな歓声を上げてしまった。やっぱりトリは、セリーヌだった! でも、うれしさと同時に大丈夫だろうかと心配もした。
Photo By Handout /Getty Images
というのは、6月からAMAZONで配信されているドキュメンタリー『アイ・アム・セリーヌ・ディオン~病との闘いの中で』で、彼女が苦闘している難病「スティッフ・パーソン症候群」がどういう症状をもたらすのか、レコーディング直後の彼女を襲ったひどい痙攣の様子を見たからだ。その時は、理学療法士がすぐに処置をしたから事なきを得たけれど、素人目には生死に関わるような状況に見えたし、歌うこと自体が危険な行為にさえ感じられた。
この難病は、100万人にひとりと言われるもの。診断が難しく、セリーヌは長年自身の大切な楽器である声の不調を訴えるなか、ずっと声帯に原因があると疑われてきたために、ノドをケアしながらいい歌を、いいパフォーマンスを届けたい一心で何年も歌い続けてしまったのだ。
そんな彼女の偉業をデータで見ると、アルバム・セールス2億5千枚、【グラミー賞】5回、【アカデミー賞】も2回を受賞している。この受賞歴のなかには日本でも社会現象となった97年公開の映画『タイタニック』の主題歌「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン(ラブ・テーマ・フロム・タイタニック)」も含まれている。91年に世界デビューしたセリーヌは、この頃にはハードワークの疲労がピークに達していたので、長期休養を計画していたけれど、「マイ・ハート・ウィル・ゴー・オン」に出会い、この曲に惚れ込んだことで、休暇を返上して世界中のファンのために全力投球で大規模なワールドツアーに取り組んだ。天賦の才能に加えて、この真面目で、強い責任感でベストを尽くす性格ゆえに世界のトップを極められたのだけれど、それが結果として心身の負担を蓄積させてしまったのではないか。ドキュメンタリーを観ていると、生命を削ってきたんだなという思いがフツフツと湧きあがってきた。
「My Heart Will Go On (Taking Chances World Tour: The Concert)」
また、セリーヌのキャリアの中で象徴的なものにラスベガスでのレジデンシー公演がある。彼女のために建設されたホテル、シーザーズ・パレス併設のザ・コロシアムで、シルク・ドゥ・ソレイユの芸術監督が演出した公演は、趣向を凝らした舞台セット、ダンサーら大人数の出演者など常設会場だからこそできる規模のものだった。ザ・コロシアムでの公演は、演出を変えながら、2009年から2019年まで断続的に行われて、観客動員数は累計で450万人を記録。この成功によりラスベガスの音楽コンサートのイメージは大きく変わり、その後エルトン・ジョン、ブリトニー・スピアーズ、マライア・キャリー、アデルなど、レジデンシー公演を行う人気アーティストが続出し、ラスベガス観光の主要エンターテイメントとなっている。それを切り拓いたのがセリーヌ・ディオンだ。
「Flying On My Own (Live from Las Vegas)」
本来ならば、2021年にもラスベガス公演を行うはずだったが、病気のため中止された。その頃にはノドの不調は、声帯ではなく、自己免疫系神経疾患による筋肉の硬直に原因があるとようやく診断された。でも、確立された治療法はなく、医師の説明によれば、糖尿病のように付き合っていくしかなく、投薬や理学療法士と続けているリハビリなどがドキュメンタリーでは隠すことなく描かれている。
そのドキュメンタリーがあったからこそ、「愛の讃歌」は、個人的に感慨深いものになったけれど、メディアの報道でも、私の周囲でも口々に「感激した」と語られている。1950年に生まれた名曲「愛の讃歌」は、フランスが誇りとする歌手エディット・ピアフの代表曲だ。それをフランス語圏出身ではあるけれど、カナダ人のセリーヌ・ディオンがパリのシンボル、エッフェル塔で歌うのだ。少なからずプレッシャーはあったはずだが、全ての選手に捧げられた気高き「愛の讃歌」は、ファンに限らず、あらゆる人々の心を震わせた。これが歌と共に生きている人の歌だ。
「愛の讃歌」開会式パフォーマンス
ドキュメンタリー公開後、2025年から本格的に活動を再開させるという情報が伝わってきた。歌いたいのは痛いほどわかるけれど、急ぎ過ぎていないかと不安になったが、そういう懸念を全て払拭したのが【パリ・オリンピック】でのパフォーマンス。具体的にはどんな活動になるのか、ツアーの日程などはまだ発表されていないけれど、やはり蘇ってくるのは1999年、2008年、2018年と東京ドームを熱くさせた素晴らしい来日公演だ。またあの歌を日本でも響かせてほしい。
最後に、ドキュメンタリー『アイ・アム・セリーヌ・ディオン~病との闘いの中で』のサントラも配信されていて、こちらにはイタリア音楽界の巨匠ルドヴィコ・エイナウディの愛弟子でチェリストのレディ・アサが作曲したオリジナルスコアと、セリーヌのヒット曲13曲が収録されている。
リリース情報
『アイ・アム・セリーヌ・ディオン』
2024/8/14 RELEASE
SICP-31732 2,970円(tax in)
※Blu-spec CD2仕様
※歌詞・対訳・解説・本人メッセージ入り
再生・購入はこちら
関連リンク
セリーヌ・ディオン 公式サイトセリーヌ・ディオン 日本レーベルサイト
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