Special
<インタビュー>ちゃんみな、オーディションのテーマソング「NG」は戦いと責任の歌「私が引っ張っていく」
Interview & Text:山田宗太朗
Photo:大城為喜
Stylist:RiBBON
Make-UP:Yuko Nozaki
Hair:Yuta Kitamura
ワンピース:EMILY YV
ちゃんみなとSKY-HI率いるBMSGがタッグを組み、ガールズグループのオーディション『No No Girls』を開催すると発表してはや数か月。いよいよ今年の10月から、オーディション番組の放送が開始される。それに先駆け8月9日、オーディションのテーマソングとして、デジタルシングル「NG」がリリースされる。
ドープなトラックとリアルなリリックで歌われる本作は、ちゃんみなの代表作である「美人」のアナザーストーリーとも言えるかもしれない。なぜこのような楽曲になり、どんな思いが込められているのか。またオーディションはどのようなものになるのか。結婚・妊娠を発表して大きな反響を呼び、ライフステージの変化を迎えているちゃんみなに、楽曲やオーディションに込めた想いを聞いた。
結婚と妊娠によって、昔の「棘」が戻ってきた?
――結婚おめでとうございます! 体調はどうですか?
ちゃんみな:ありがとうございます。体調はとっても良いです。心配してくれる人もいるけど私は元気です! ただ、今年の夏フェス出演は地元の【よさこい祭りin光ヶ丘公園】(※7/15終了)と【SUMMER SONIC 2024】だけにする予定で、演出も身体に負担がないように、今しかできない演出を楽しもうと思っています。
――「20」のMVがリリースされた時点で色々と察した人は多かったかもしれませんが、そのすぐ後に結婚、第一子妊娠の発表は驚きました。
ちゃんみな:言わないでおくこともできたけれど、元々そうやってプライベートを隠すのが好きじゃないし、これまでも曲の中で自分の人生を歌ってきていますしね。
――今こそみんなに「You Just Walk In My Life」をじっくり聴いてほしいですね。
ちゃんみな:そうですね(笑)。
――結婚、妊娠、出産を通してちゃんみなが何を感じるのか興味があるし、そういった経験の後にしかできないものもあると思うんです。アーティストとしてこれから作るものにも変化があるのではないかと。
ちゃんみな:そういうのってあると思います。もうすでに感じていて、たとえば、昔の棘が戻ってきたのか、ちょっとキレやすくなったんです。というのも、今はたぶん女としての部分がお休みになっているから、変にモテようとしなくなるというか、余計な気を遣わなくなるんですね。人間として立ち向かわなきゃいけないことにしっかり立ち向かおうとする感じ。だから今回みたいな曲調になるんです。ラップをするのも久しぶりだし。
――それを聞きたかったんです。やはり私生活の変化が楽曲に影響を与えているんでしょうか?
ちゃんみな:そう思いますね。最近めっちゃラップしてるんです。今作っている他の曲たちもラップが多くて。逆に「You Just Walk In My Life」みたいなきれいな歌は今は出ないですね。
――それがちゃんみなの本質だったんですかね? 戦う人間だという。
ちゃんみな:そうかもしれません。
「美人」制作時に消化できなかったものを再構築した「NG」
――「NG」はいつ頃から作り始めたんですか?
ちゃんみな:実は、トラック自体は「美人」を作っていた時のものなんです。「美人」は完成に至るまで10曲くらい作っていて、これはその中のひとつでした。採用しなかったけど気に入っていたからずっとストックしていたんですね。それがこのオーディションに合いそうだなと感じたので、歌詞も音もメロもフロウも全部書き直して、いわばリメイクした形で完成させました。テーマソングが欲しいと誰かに頼まれたわけではなかったけれど、そういうものがあったほうがいいのでは、そしてそれにはこのトラックがふさわしいのでは、と思って作りました。
――たしかに「美人」との近しさはかなり感じます。当時、このトラックが「美人」に採用されなかったのはなぜなんでしょう?
ちゃんみな:ハードすぎて当時の私には消化できなかったんです。すごくユニークではあるけれど単調だし、ちょっと怖い感じが強くて。あの時は他にやりたいことがたくさんあったんですよね。 歌のパートを入れたいとか。それが今は消化できるようになったから、色々と作り変えてこうなりました。「NG」を一緒に作ったJIGGさんも「この曲、こうなるんだ!」と驚いていました。
――「消化できるようになった」のはなぜ? それも私生活の変化が関係しているんでしょうか。
ちゃんみな:そんな気がします。小さいことや細かいことを気にしなくなったんですよね。「こうしたら、みんなにこう思われるかな」みたいなこだわりがなくなった。だから「NG」は結構、早くできました。自分の変化についてはまだうまく説明できないけれど、とにかく今、自分自身が変わりつつあるんです。なんて言うんだろう……どっしりするようになったというか。
――母親になる準備をしているのかもしれないですね。
ちゃんみな:そうかも。前まではもうちょっと「女の子」だったのが「女性」になったというか、大人になったというか。細かいことがあんまり見えなくなったんですよね。今はそれどころじゃないから。だからやるべきことにフォーカスできるようになったのかもしれません。「美人」は苦しみながら作ったけれど「NG」は全然そんなことなくて。言いたいことも決まっていたし。以前よりも気持ち良く曲作りができています。
――前半の歌詞は「美しさ」に関してNoと言われた経験がモチーフになっていますよね。
ちゃんみな:そこは当時のリリックをそのまま残しているんです。やっぱり「美人」を作っただけでは、この戦いは終わらなかったんですね。
――アンチ・ルッキズムではあるけれど、女性性や女性らしさを否定しないのがちゃんみならしいと思いました。
ちゃんみな:それはそれとして楽しめたらいいよね、という考えなんです。私としては、「自分が思うデザインを実現できている状態」が美しさだと思っていて。だからもちろん、人によって美の内容は違います。いわゆる女性らしさを目指している人にとってはそれが美だし、そうでない人にとってはまた別のものが美であるということですね。
――そして後半の歌詞では、人間性やアティテュードについて歌っています。
ちゃんみな:表面的なものだけでなく、中身が伴うことで美しさが成立すると思うんです。さらに「お前らからのNoじゃ死ななかった」という歌詞もあるように、美のせいで死なずに生き延びた人間としての責任というか、自分にできることをやろうという思いが強くありました。
――人称についても気になるんですが、「美人」では最後に「We」を使っていたのが印象的でした。今回は「私」です。
ちゃんみな:これも「責任」の表れですね。「私が引っ張っていく」という責任。
――なるほど。この曲はちゃんみなの「私」という一人称で歌われているけれど、これまでNoを突きつけられてきた人たちにとっては「私たちの歌」だと感じられるのではないかと思いました。つまり「We」という言葉を使わずに「We」を表現できている。文章技術的には「美人」を超えているかもしれません。
ちゃんみな:ありがとうございます。文章技術は少しずつ向上しているんじゃないかと私も感じていて、たとえばこの曲は、内容的にはハードなのにFワードをまったく使っていないんですよね。そのあたりは日頃から意識するようにしています。
『No No Girls』私だからこそ救い出せる人がいる
――オーディション『No No Girls』についても聞かせてください。SKY-HIさんと対談したYouTube動画では「いつかやろうってずっと話してた」と話していましたよね。
ちゃんみな:そうですね。みっくん(SKY-HI)がBMSGを立ち上げようとしている頃から話はしていました。だけどもう少し先の話だと思っていたんです。だから正直、「もう?」という感じです。ある日突然、みっくんに呼び出されて、「このタイミングでこういうことをやりたいんだ」とプレゼンされて。「……え? ちょっと待って、私、今、絶賛ちゃんみなやってるんだけど?」っていう(笑)。ちょうどコロナ禍に入った頃で世間的にいろんな仕事がストップしていた時期だったから彼もそういったことを思う存分やれていたと思うんだけど、私にとっては、実はその頃がちゃんみな史上いちばん忙しい時期だったんです。そんな時だったから「なんで今なの?」と思ったけれど、「今な気がする」って言われて(笑)。それで話が進んでいったんです。
――動画内でもSKY-HIさんは「ちゃんみなが今やるべき」「今なんじゃないの」と言っていました。なぜ今なのかは「何かの声が聞こえた」と。
ちゃんみな:ね、言ってましたよね。あれ、何なんでしょう?(笑) でも、みっくんからは絶大な信頼をいただいたし、私も彼のことをすごく信頼しているから、だったら腹くくってやるしかないと思って。面白いものになるのは間違いないだろうし。
――ちゃんみなはデビュー前にはたくさんのオーディションを受けていましたよね。過去のインタビューによると、「私を選んで、と思い続ける生活は辛かった」と語っています。そのような辛さを知っている人がオーディションをやる側に回るのは、大きな決断だったのではないですか。
ちゃんみな:私だからこそ救い出せる人がいるんじゃないかと思ったんです。私の音楽を聴いてくれているのであれば、普段オーディションを受けない子や疲れている子も来てくれるんじゃないかと。私ならそういう子を救い出せるかもしれない。それに才能ある子は外に出ていかなければいけないと思っているから、その手伝いができるのならやるべきだと思ったんですね。実際、他のオーディションなら出ていなかっただろうなという子たちが集まってきています。すごく個性的なメンバーになるかもしれません。
「人間である人」を大事にしたい
――オーディションの放映は10月とのことですが、どのようなオーディションになるのか、現時点で言えることはありますか?
ちゃんみな:個人戦になると思います。個の力が強い子が残っていく。「私が変えてやる」という気持ちの強い子が残るんじゃないかな。
――オーディションの開催にあたって、ちゃんみなは「これまでNoだったことを一緒に覆しましょう」とコメントを出していますよね。これはちょっと意地悪な質問ですが、オーディションとは、実際にはほとんどの人にNoを突きつけるものでもあります。そことどう折り合いをつけるのか気になります。
ちゃんみな:私がこのオーディションで多くの参加者に伝えるNoは、一般的なNoとはたぶん違います。むしろYesのつもりでNoだと伝えているかもしれない。「あなたにはまだ他のところがあるよ、まだ希望があるんじゃないの」という意味で。とはいえ、残っている子もみんな実力のある子たちです。ただ面白い子だからという観点では残していない。そこは結構、ドライに判断しています。
――ちなみに、選考はちゃんみながひとりでやるんですか?
ちゃんみな:そうです。よくある人気投票などはやりません。もうすぐ合宿もやりますよ(※この取材は7月上旬に実施された)。
――「声」を大事にしている、ひいてはその声に乗る人間性やその人の人生を問うているといったことも動画内では語っていましたが、振り返ってみれば、ちゃんみなは日頃から人間性を見て仕事相手を選んでいる気がします。
ちゃんみな:そうです。まさにそこを大事にしていますね。
――たとえばちゃんみなのライブには欠かせないダンサーさんたち。もちろん実力もあるけれど、みんな本当に気持ちの良い人たちで、ライブやリハーサルを見ていると、お互いを思いやる心に溢れているように見えます。そして彼ら・彼女らの多くは、ちゃんみなとの仕事を通してステップアップしていますよね。INIの西洸人さんやMAZZELのTAKUTOさん、アメリカで活躍中のIGさんのように表舞台に出て行った人もいれば、GENTA YAMAGUCHIさんやMiQaelさん、パワーパフボーイズのKANさんのように、演出家や振付師としてキャリアを重ねている人もいる。名前を挙げ始めたらキリがないほどで、ちゃんみなダンサーズにはすごいメンバーが揃っています。
ちゃんみな:今こそ、そういったことが重要だと思うんです。もちろん優秀さも大事だけれど、AIが発達し、いろんな人が機械に仕事を奪われるこの時代、優秀さ以前に優しさがあるかどうかはもっと重要だと思うんです。人のために優しくできるのか、「この人のために動こう」と思えるのか。最近、中堅くらいのキャリアになってきた私に対して気を遣ってくれる人が増えてきたと感じていて、言葉を選ばず言うと、機嫌を取ろうとする人が増えてきたんですね。私、あの雰囲気が嫌いなんです。人として関われていない感じがして。私はそんなのが欲しくてこの業界いるわけじゃない。そういう人とは仕事をしたくはないなと思っています。だから確かに、私の周りにいるスタッフさんや現場のメンバーは人間味に溢れた温かい人が多いかもしれません。現場は特に血が通っている感があります。今、人間である人ってすごく少ない気がするから、そういう人を大事にしていきたいと思いますね。
こんなに祝福してくれるなんて……
――さて、この取材は結婚と妊娠を発表してから最初の取材だと聞いています。記事を読んでいる人に対して、改めて伝えたいことはありますか?
ちゃんみな:こんなに祝福してもらえるとは思っていなかったというか……。まるで自分のことのように嬉しいと言ってくれる人たちがすごく多くて。他人のことに関する温度感ではないんですよね。泣きながら喜んでくれる人もいたりして。物凄くありがたかったし、責任も感じています。
――それだけちゃんみなに託しているんですね。自分のこと、大事にしないとですね。
ちゃんみな:大事にします。自分ひとりではなくみんなの身体でもあるんだと、お腹に子どもがいるからではなく、みんなからの反応で感じました。これまで人生を歌ってきてよかったと思いました。
――そう、もはや「みんなのちゃんみな」なんですよね。だから本当にちゃんみなは、これから末長く幸せに生き続けてくれないとだめですよ。
ちゃんみな:ありがとうございます。頑張っちゃう!
関連商品