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日本のアーティストが世界へ羽ばたくために必要なのは? ストリーミング再生数から見る海外公演の効果

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Text: ian li

 先日公開した『ライブが“洋楽離れ”の解決策? ストリーミング再生数から見る来日公演が洋楽に与える影響』では、洋楽アーティストの来日公演とそれに伴う日本でのプロモーションやメディア露出の増加が、洋楽が日本市場におけるシェア拡大に繋がる可能性について考察した。

 では、日本人アーティストの海外公演は、同じように現地シェアを伸ばす効果が得られるだろうか。本稿では、引き続きグローバルで音楽データを分析できるツール「LUMINATE」を用いて、日本人アーティストが海外公演を開催した前後の現地でのストリーミング再生数の推移を調査し、日本人アーティストの海外進出に繋がるファクトを考察する。

再生数が伸びる地域と伸びない地域

 まずロック・バンドを代表する2組、King GnuとONE OK ROCKのストリーミング再生数を見てみよう。前者は2024年4月、後者は2023年9月から12月にかけてアジアツアーを開催した。 

 



※LUMINATEのデータに基づいて作成 
※各地でのストリーミング再生の実数は違うため、実数ではなく公演2週前を基準とした変化率を表現しています

 

 両方とも大きな増加が見られた。ここで注目すべきなのは、ONE OK ROCK の香港公演は、台風のため23年10月7日から12月8日に延期されたことだ。しかし、延期にもかかわらず、10月7日の週にONE OK ROCKが香港における再生数は2週前と比べて約50%増加した。公演に向けてのプロモーションや、“予習”といった聴取行為が反映されていると思われるだろう。

 そして、日本が世界に誇るアニソンというジャンルのアーティストのデータを考察する。ここでは、アジアツアーを2024年6月に開催したLiSAと、6~7月に開催したAimerの2組を例とする。



 両方とも最高約50%の増加を記録した。

 以上のデータから見るとアジア圏、特に東アジアとシンガポールにおいて、日本人アーティストの公演は現地でのストリーミング再生回数を伸ばす効果があると考えられる。では、文化が離れている欧米はどうだろう。以下はジャンルが異なる数組の日本人アーティストがヨーロッパまたは北米ツアー開催前後のストリーミング再生数の推移だ。




 一見アーティスト差・地域差はあるものの、公演当週に増加傾向が見られる。しかし、アーティストAが国E、F、Gにおける増加、そしてアーティストBが全地域における増加は、ニュー・リリースの時期と被っており、公演および公演に伴うプロモーションなどだけの効果とは言えないだろう。したがって、欧米において、公演がストリーミングに与える影響は相対的に低いと思われる(この項以降では、「アーティストA」のように具体名を挙げていません。これは、インパクトが思いのほか低く、それによる風評の影響を考慮したためです。ご了承ください)。

 そして広いアジアにおいても、地域差が見られた。



  以上はマレーシアとインドネシアにおいて、ジャンルが異なる数組の日本のアーティストが単独公演開催前後のストリーミング再生数の推移だ。増加はしているものの、大な変化が見られない結果となった。もちろん、ONE OK ROCKのような、インドネシア公演が現地ストリーミング数を約80%増加させたアーティストも存在しているが、東アジアと比べると、ライブによる露出が必ずしもストリーミング増に結びつくものではないということを示している。

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単独ライブよりフェスやメディア露出の効果が顕著?

  単独公演ではなく、海外フェスに出演することが現地でのストリーミング再生数に影響あるのか。24年4月に米カリフォルニア州で開催された世界最大級の音楽フェス【コーチェラ2024】に出演した新しい学校のリーダーズ、Awich、Number_i、YOASOBIが、出演前後アメリカでの再生数の推移は以下となる。


 全体的に約20~50%の増加が見られ、欧米での単独公演と比べてより効果がある結果となった。

 欧米と同様に単独公演の影響が低いマレーシアとインドネシアで、フェスに参加したらどうなるだろう。例として、2024年5月にインドネシアで開催された【AFA Indonesia 2024】に出演した各アーティストのデータは以下となる。


 出演した10組の日本人アーティストのなか、6%しか増えないアーティストもいれば、最多86%増加したアーティストもいた。また、計6組が20%以上の増加を記録した。

 では、ライブ以外の活動はどのような影響があるのか。まずは5月末に6つの韓国音楽番組に出演したJO1は、韓国での再生数は約66%増加させた。


 そして、6月28日にリリースされたミーガン・ザ・スタリオンのニュー・アルバム『ミーガン』に客演している千葉雄喜を見てみよう。コラボリリース後、コラボ曲『Mamushi』以外、千葉雄喜およびKOHH名義でリリースした楽曲の再生数は、全世界、および日本では変化はなかったが、ミーガンの母国であるアメリカでは約200%の増加を記録した。


 大の日本好きで知られるミーガンは、以前も自身のSNSで新しい学校のリーダーズのメンバーとの写真を公開した。その影響か、写真がSNSに投稿された週、千葉雄喜と同様に、日本および全世界では変化はなかったが、アメリカでの再生数は約225%増加した。


考察

 データから見ると、フェスを含む日本のアーティストの海外公演は、地域差・アーティスト差はあるものの、全体的に見ると現地でのストリーミングをある程度持ち上げることができる。しかし、新しい学校のリーダーズ、千葉雄喜、そしてJO1の例から、パフォーマンスより、現地アーティストとのコラボや、現地メディアへの露出の効果がより顕著だと思われる。洋楽アーティストが来日公演に伴うプロモーション活動やメディア露出が、日本でのストリーミング再生回数を持ち上げたと同様に、日本のアーティストが海外でのストリーミング再生回数に大きく影響するのは、公演自身ではなく、現地でのプロモーション活動によるメディア露出やSNSでの拡散効果ではないかと思われる。そのため、文化的かつ地理的に距離の近い東アジアが、プロモーション活動のコスト、そしてリスナーに伝わるハードルが比較的に低いことから、他地域と比べてより伸びやすい結果に繋がったと考えられる。

 結論として、日本のアーティストが海外でのプレゼンスを向上するために、現地アーティストとのコラボや、大規模フェスへの参加は、単独公演より有効だと考えられる。それらの活動によって、現地の主要メディアへの露出や、SNSの話題と繋がり、新しいリスナーを獲得する一つの方法として今後より一層定着していくだろう。

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