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<インタビュー>音楽に救われた自分が今度は音楽で助ける番に――新鋭シンガーMoMoが伝えたいこと



インタビューバナー

Interview & Text:Mariko Ikitake
Photo:Shintaro Oki(fort)


 R&B/ソウルサウンドにのせて、流暢な英語とディープな歌声を操るシンガーソングライター、MoMo。楽曲を聴いて日本人が歌っていると気がつかないのは、名門バークリー音楽大学で習得したボーカルスキルと幼い頃から愛聴していた洋楽やゴスペルが曲調に染みこんでいるからだろう。

 その培った歌唱力で名門校への切符を掴み取った彼女だったが、音楽の世界は甘くなかったようだ。心くじける瞬間を何度も経験し、アップダウンも繰り返したMoMoがたどり着いたのは、自分自身をさらけ出すこと。それは彼女の心の拠り所となった音楽と通ずるものだった。

 4曲入りの最新EP『FlowinTokyo』は、全体的なグルーヴィーなサウンドとは裏腹に、彼女がシンガーとしての新境地に踏み込んだ渾身の作品。音楽に恋に落ち、救われ、今度は救う立場になりたいと話すMoMoの計り知れない思いと言葉を受け取ってほしい。

一筋縄ではいかなかったシンガーへの道

――幼少期にゴスペルに出会ったそうですが、MoMoさんが音楽に出会い、その道に進んでいくまでの経緯を聞かせてください。

MoMo:父がずっとアメリカで生活していたこともあり、私と妹が英語を話す環境にいられるようにと、3人で定期的に教会に通っていました。お祈りをするためというより、音楽を聴きに行く感覚で。実はオリンピック選手を輩出するような体育会系の幼稚園に通っていて、結構ストイックな教育環境で育ちまして。学生時代はバレーボールにも熱心に取り組んでいました。ゴスペルは、内に秘めている苦悩や叫びを歌で表していて、私にとって徐々に音楽が心の拠り所になっていったんです。ブラックミュージックがルーツの音楽は自分の心境に近いものを歌っていることが多いので、そこに惹かれましたね。

母は私にどうしてもピアノを習わせたくて、ゴスペルに出会う前からピアノを習っていました。一音でも間違えると怒られるような、本当に厳しい先生だったので、ピアノは全然好きになれなくて、よくさぼったり(笑)。でも音楽は好きだったので、次第に「ピアノじゃなくてもいいんじゃない?」って思うようになり、小学生の頃にふとヤマハ音楽スクールのボーカルレッスンのチラシが目に入って、それから歌のレッスンを受け始めました。その後、もう少しレベルの高いレッスンを受けるようになって、どんどん歌に真剣になっていきましたね。

――心の拠り所になるほど、音楽や歌にそこまで傾倒する理由があったのでしょうか?

MoMo:小さい頃はとにかく歌うことが楽しいくらいにしか思っていなかったんですけど、あるときから、学校に行っても家に帰っても、自分の居場所がないと感じ始めて……。実はいじめにあったことがあるんです。そういうこともあって、放課後に学校の音楽室でピアノを弾いたり歌ったりして、「音楽が好きだ。ずっと続けたい」って思い始めました。

――その思いが音楽の道に進む夢へと変化していったわけですね。

MoMo:大学で留学しなかったら一生その機会はないと思い、高校2年生の頃からいろいろ下調べをしました。音楽を勉強したかったので、ジュリアード音楽院かバークリーの二択で、どちらか受からなかったら、もう諦めようと思っていたんです。バークリーのオーディション団体が来日したときに、親に内緒でオーディションを受けに行きまして、ある日、家に帰ったら、父が「これ何だ?」って合格通知書を見せてきて。バークリーには申請しなくても実力によって奨学金が下りる制度があって、学費の半分以上を奨学金で賄えるという通知でもあったんです。でも、伝統的な家庭だったので、私立校の大学を卒業しろって猛反対されました。

――ご両親はMoMoさんにどういう道に進んでもらいたかったんでしょう?

MoMo:親が代々同じ大学出身ということもあって、その私立大学を卒業して、エリートコースを歩んでほしかったようです。祖父には人生で初めて怒鳴られて。でも、私も音楽に対する熱量がすごく高かったので、「今ここでアメリカに行かせてくれなかったら一生恨む!」ってかなり戦いました。私の本気がなんとか伝わり、最終的に折れてくれて、留学することができました。

――熱意が伝わってよかったですね。無事バークリーに入学されて、学校では何を専攻されたんですか?

MoMo:私はプロフェッショナル・ミュージック・コースというステージ上のパフォーマンスをメインに、マイナー(副専攻)でミュージックビジネスも学びました。あとは聞く力を養うイヤートレーニングやジャズの歴史を学ぶクラスも取りました。

――音楽を職にするための知識や基礎を学んだんですね。小学生から受けてきたボーカルレッスンと名門で学ぶレッスンでは、内容も違いましたか?

MoMo:まったく違いました。高い声の出し方やナチュラルな声の出し方まで、いろいろな手法を教えてくれました。バスケットボールを突きながら歌うトレーニングもあって。意識して覚えるのではなく、体を使って覚えるレッスンが多かったです。そういうレッスンのおかげで、発声も音域も変わりました。

――ご家族に反発してでもバークリーに進学した甲斐がありましたね。

MoMo:本当に行ってよかったです。周りの生徒たちも本当に優秀な人しかいなかったので、毎日が刺激的で。競争心ではないんですけど、自分に対してもっとストイックに行きたいという気持ちが生まれました。

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弱い自分を見せることで、今度は自分が助ける立場になりたい

――東京で生まれ育った苦悩をテーマに制作された今回のEP『FlowinTokyo』をMoMoさん自身はどういう作品になったと感じていますか?

MoMo:今まで出した曲は、ありのままの自分を描きつつも、アップテンポでポジティブなものが多かったです。このEPももちろんポジティブなんですけど、初めて弱い自分を見せることができました。ジュリアン・リー(Julian Le)というプロデューサーとNozomi Yamaguchiというギタリストの2人に出会って、私たち3人ともスノーボードができたので、「半日スノボして、半日音楽制作したらおもしろそうじゃない?」っていうノリで、午前スノボ、午後は音楽制作という1週間を過ごしたんです。そこで「FlowinTokyo」と「I Can’t Stop」ができました。

▲「FlowinTokyo」

――4曲ともジャンルが異なるサウンドで、テーマもそれぞれ違いますが、弱い自分を見せることに挑戦した環境でできたその2曲には、新境地のMoMoさんが反映されているんですね。

MoMo:(反映されている部分が)多いですね、特に「FlowinTokyo」には。やっぱり東京ってすごく情報が飛び交っているじゃないですか。人も多いし。そんな大都会で歌手になる夢を追い続けていると、壁にぶち当たるし、嫌なこともたくさん言われます。逆境が多いけど、それでも頑張っていくという自分への、そして聞く方へのメッセージが込もった歌です。フロー(flow)は私自身や私の心の変化、成長を表しています。

――これまでリリースされた曲は主に英語で歌われているものが多く、日本語が入っている曲は今回の「FlowinTokyo」を含めて数曲しかないですよね。

MoMo:そうですね。日本の方々に私が書いた曲を伝えたいっていう気持ちが今回は強くあり、「プリコーラスも英語でいいんじゃない?」って言われたんですけど、譲れなかったです。〈涙こらえているnow 失うものはないけどな 全て見失ったoh night〉の日本語の部分はもう日本語でしか言い表せなかった。日本語でしか言えないからこそ、絶対に言いたかったんです。夢を諦めそうになったことがこれまで何度もあったんですけど、歌詞にある〈希望のトモシビ〉のように、自分の中でやり切れてない気持ちがあったので、必ず音楽に戻る自分がいることを日本語で伝えたかったんです。

――「弱い自分の面を見せる事を恐れていた」というコメントを出されていましたが、実際にジュリアンさんとNozomiさんにはどんなふうに背中を押されたんですか?

MoMo:今まで自分に起きたつらい過去の経験を話しました……以前ボストンで暮らしていたときに、テロに巻き込まれて目の前で人が亡くなったんですね。私も爆弾のすぐ近くにいたので聴力が落ちてしまって。自分の中に眠っているこの痛みを曲にしたい気持ちはずっとあったんですけど、トラウマでなかなかできなかったんです。でも、2人はそういう気持ちを理解してくれる人で、特にジュリアンは「君はただ書けないと思っているだけで、絶対書ける。まずはその気持ちを歌にしてみて」って言ってくれて。それで録音してみたら、すらすらと言いたいことが出てきたんです。学生時代のつらい出来事がきっかけで音楽が自分の心の拠り所になった私は、テロやいろいろな死も経験しましたが、歌にすることでその悲しみや恐怖を乗り越える光や印を自分にも与えられるんだと思えるようになりました。

――悲しみを取り除く一種の方法のような。

MoMo:そうですね。「ネガティブなことを人前で話すのはやめよう」っていう考え方もありますけど、話すことも大事だと私は思っています。やはり勇気はいりますけど、私が話すことで、私の曲を通じて元気をもらえたとか、そういう人が一人でも増えたらいいなって思います。

――音楽に救われることって本当にありますし、こうして言葉や音楽にしてくださることで、MoMoさんとどこかで何かが通ずる方も出てくると思います。

MoMo:人それぞれ、人生は違うと思うんですけど、つらい思いをしている方、人生に意味を見出せないと思っている方に、この曲たちを聞いて頑張ろうって思ってほしいんです。生きているとつらい思いをすることもあるけど、それでもいつか絶対に光が見える日は来るということを、このEPで伝えたい気持ちが強くて。自分が小さい頃に苦しい体験をしていたときに助けてくれたのが音楽だったので、今度は自分が助ける立場になりたいんです。

――その強い意思を胸に抱きつつ、こうした活動をしていきたいといった明確な目標はありますか?

MoMo:言語や国境を越えた活動や音楽作りに力を入れていきたいです。今、英語だけで歌っている曲が多いんですけど、日本の方々にもたくさん聞いてもらうために、日本語をもうちょっと混ぜた曲を出していこうと考えています。また、メインで書いてきた曲が英語なので、東南アジアや英語を話すアジア圏でも頑張っていきたいです。海外から逆輸入みたいな形でもいいかもしれませんね。

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