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<インタビュー>yukihiro×高松浩史が語る、Petit Brabanconの共通認識とは――EP『Seven Garbage Born of Hatred』

インタビューバナー

Interview & Text:冬将軍
Photo : Victor Nomoto (METACRAFT)/尾形隆夫 (尾形隆夫写真事務所)/河本悠貴


 2024年8月7日にリリースされる、Petit Brabanconの2nd EP『Seven Garbage Born of Hatred』はアートワークが物語るように、90’sニュー・メタルを突き詰めながら最新型のエクストリームを追求した作品だ。前作1st EP『Automata』で見せた振り幅はどこ吹く風、ひたすらにヘヴィでラウドなサウンドと獰猛なバンドの姿勢をとことん魅せつけている。さまざまなキャリアと実績を持った猛者たちが行き着いたものがここにある。

 そんなPetit Brabanconの現在の音を、これでもかというほど落とし込んだ本作について、世代もバックボーンも異なるリズムセクションの2人、yukihiro(Dr.)と高松浩史(Ba.)に話を訊いた。

「バンドという共通認識があって音を出している」

――本作はジャケットを含めて“ニュー・メタル”や“エクストリーム”を存分に感じられる作風ですが、そうした構想自体はいつくらいからあったのでしょうか。

高松浩史:今年1月に東京と大阪で4公演(【EXPLODE -02-】)やったんですけど、そのライブを経て選曲会があって、そこで方向性が定まりました。

yukihiro:ライブをやると出したい音に影響が出てきますね。


――東京公演は初のホール会場でのワンマンライブでしたが、大阪公演の【Petit Brabancon EXPLODE -02- 暴獣】は対照的にスタンディング会場での対バン形式でした。そこでの手応えも本作に反映されているのでしょうか?

高松:コロナの制限がない中で、スタンディング会場でライブをやったというのが大きかったですね。対バンのROTTENGRAFFTYのライブの雰囲気にお客さんが引っ張られて、Petit Brabanconでも盛り上がってくれたり、そういった影響もあったと思います。ただ、元々Petit Brabanconを結成するときに、かなりアグレッシブで、エクストリームな音楽をやりたいというコンセプトがあったので、今回はそこに当ててきたというか、沿ってきたのかなという感じはします。


――選曲会にはどのくらいの曲数が集まったのですか?

高松:10曲くらいでしたね。でも昔の曲もあったり、そういうストックされてきたものも含めたら、かなりの数があったと思います。

yukihiro:最初の選曲会のときに方向性が具体的になって、新たに書いた曲もあってそこからもう一度選曲会をやって、そこで絞ったという流れですね。


――本作には昨年12月にリリースされた「a humble border」が収録されています。こちらはyukihiroさんの楽曲ですが、リリース時のインタビューでミニストリーや、“インダストリアル”というキーワードが出て。そこを経て、今回は“ニュー・メタル”なのかなとも思ったんです。

yukihiro:「a humble border」は“作品を出すから作る”という感じではなかったんです。インダストリアルという言葉がメンバーの口から出てきたので、作ろうかなと思った曲です。





「a humble border」Visualizer


――「a humble border」はデジタルビートと人間が作るアナログビートの融合という部分で、Petit Brabanconの新たなキーとなった楽曲でもあると思うんです。

高松:Petit Brabanconはミヤさん、antzさん、そしてyukihiroさんが作曲者としていらっしゃるんですけど、それぞれの個性がある。個人的には「yukihiroさんらしい、すげえカッコいい曲が来た」という印象でした。それがバンドの大きな要素のひとつになっていると思います。


――そういった個性の部分、「a humble border」のシーケンスや、本作1曲目「move」のレトロなシンセの音使いであったり、ファンであれば一聴してわかる“yukihiroさんらしさ”があると思うのですが、ご自身はそこを意識していたりするのですか?

yukihiro:僕に限らず、メンバーそれぞれ自分らしさを持ってやっていると思います。そこにバンドという共通認識があって音を出していると思っています。


――高松さんは、これまで以上にベースの存在感をしっかりと感じたんです。ギターとユニゾンであってもベースの音がグッと前に出ている。

高松:音作りのときに、「とにかくローを出してくれ」というオーダーがかなりあったんですよ。各楽器の差別化みたいなところで、「ギターがここにいて、ドラムがここにいるから、ベースはここで」という感じにうまくプロデュースしてもらえました。


――アンサンブルにおけるベースの居場所を明確にしていくような。

高松:そうですね。レコーディングはyukihiroさんのスタジオでラインだけ録っておいて。それでギターのレコーディングが終わってから、ベースをリアンプして音作りしていくんです。要するに、ベースが一番最後にハマるんですよ。バンド全体で鳴ったときに足りないところをベースで補っていく、隙間を埋めるみたいな感覚なんですよね。



――ベースのサウンドメイクが最後というのは珍しいですね。yukihiroさんは一緒にやってきて、高松さんをベーシストとしてどう見ていますか?

yukihiro:リズム感がめちゃめちゃいいです。最初は「さて、どうしようか」っていうところから始まりましたが、バンドとして活動していく中でそれがだんだん減ってきて「“今回は”どうしようか」になりましたね。ベースのサウンドメイクはよく高松くんと話します。


――より深いところに向かえているわけですね。

yukihiro:はい。


――高松さんはyukihiroさんと一緒にやってきて、気持ちを含めた変化はありますか?

高松:単純に慣れてきたというのはあるんですけど、最初からyukihiroさんのドラムに喰らいついていけば絶対にいいものができると信じていました。そういう絶対的な指標みたいなものがいつもあるので。僕は最初から一貫してそこを目指していく意識がありますね。


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  1. 「バンドありき、曲ありき、だけど自分のスタイルはあります」
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「バンドありき、曲ありき、だけど自分のスタイルはあります」

――個人的なことなんですけど、私は10代の頃に90年代のyukihiroさんの活動をずっと追ってきまして、それこそミニストリーやインダストリアルは、yukihiroさんから知ったんです。それもあって、Petit Brabanconが始まるときに、yukihiroさんがヘヴィなロックをどう叩くのかまったく想像がつかなかったんですよ。でも、始まったら完全に自分のスタイルを貫いていたのが印象的でした。それがPetit Brabanconが昨今のラウドロックバンドとは一線を画す部分だと思っているんですが、ご自身で意識しているところもあるのですか?

yukihiro:Petit Brabanconはドラムから録るんですよ……って、ほとんどのバンドがそうか(笑)。特別にこうしようという感じでもないんですよね。でも、「こういう曲だから」、「こういうテンポだから」とか、そういうものは意識してるし、狙ってる部分もあるんだと思うんです。ただ、何をどう意識してるのか、説明できる言葉がないというか……。演奏しているそのときはものすごく集中して、狙ってるものが絶対にあるとは思うんですけど、次の曲へ行っちゃったらもう忘れてるとか(笑)。でも、やっぱり曲によってフォーカスしている場所があるんですよ。


――意識せずとも自然と曲に入り込んでしまう、ということですね。

yukihiro:そうですね。演奏しているときはやっぱりそうなりますよね。レコーディングはそういうものを形にしていく作業なんで、そこに集中します。ライブだと曲をいっぱい演奏するからレコーディングのときとは違う集中力というか、演奏に向き合う姿勢があると思うんですけど、レコーディングは「どういう曲にしたいか」を考えながら演奏しています。みんな、そうしてると思うんですよね。


――以前、L'Arc~en~CielとPetit Brabancon、プレイを含めて意識は変えてない、みたいな話を拝見しまして。

yukihiro:“変えてない”っていうのはちょっと語弊があるかな。変わってるんですけど、変えようと思ってるわけじゃないというか。バンドありき、曲ありき、だけど自分のスタイルはあります、というところですね。


――具体的に楽曲についてお伺いします。「BATMAN」はライブで演奏してきた楽曲ですが、音源化するにあたって、細かいところが変わったりしていますよね。

yukihiro:ライブで演奏していて、「ここでこうなったらいいな」っていうアレンジをしましたね。





「BATMAN」


――リズムの緩急が印象的な楽曲だと思うんですけど。アレンジはお客さんのノリを見つつ変えることも多いですか?

高松:曲構成はそういうことがあるのかもしれないんですけど、ベース単体のアレンジでどうこうというのはあまりないですね。基本的にベースはギターと近しいところなので。そこまで抜き差しとかの意識はあまりしてないんですけど。


――そこはあくまでギターのリフやドラムのリズムがあってこそ、というわけですね。

高松:僕はそれが多いですね。ベースでアレンジを変えても、曲にもたらす作用としてはそこまで大きくないような気がするので。あまり意識しないようにしてますね。


――と言いつつも、2曲目「dub driving」の出だしからの、ベースのルーズさがものすごくカッコいいです。テクニカルなことをやらなくともベースの存在感を感じられる、良いダルさ。

高松:antzさんの曲はリズムが難しいんです。この曲も割とシンプルに聴こえる曲なんですけど。ちゃんと刻まないと一気に崩壊するという、すごいバランスの曲だったので、レコーディングでyukihiroさんにディレクションしてもらいつつ、しっかり弾こうという意識で弾きました。


――確かにantzさんの曲は、独特なリズムの面白さがありますよね。

高松:変拍子とかが多かったりするので。ライブでやるときもそうなんですけど、覚えて身体に馴染ませるのは結構大変ですね


――yukihiroさんは、その辺のantzさんのリズムをどう見てますか?

yukihiro:antzとは前に(acid androidで)一緒にやってたこともあるので、わかる部分も多いかな。「dub driving」のベースのダルさがカッコいいのは高松くんのおかげなんですよ。僕はもっと「タイトに弾いた方がいいんじゃない」って言ったんですけど、「このセクションはダルダルで行ったほうがいいんですよ」って言われたんです。それで刻みパートだけタイトに行く形になって、カッコいいベースパートのアレンジになりましたね。ドラムでいえば、今回antzの2曲はハイハットをほぼ使ってないんです。「dub driving」は1パートだけで、もう1曲も全部タムなんですよ。



――なんと! もう1曲は6曲目の「Mickey」ですね。

yukihiro:それでミックスのときに、スタッフが「ハイハットが聴こえない」って言い出して。

高松:あははは(笑)。

yukihiro:それが面白かった(笑)。


――(笑)。antzさんからのデモの段階からハイハットはなかったんですか?

yukihiro:あったかもしれないけど……antzからのリクエストはタムに全フリでしたね。


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  1. 「あんまり深追いしない方がサウンド的には面白いのかなって、思っています」
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「あんまり深追いしない方がサウンド的には面白いのかなって、思っています」


――「Mickey」はそういうタムとシャッフルのリズムによって、どこかオリエンタルの匂いがするというか、いい具合に“和”の祭り感も出ていますね。

yukihiro:タムでこういうフレーズをやると、そういう感じが出ますよね。


――ベース的にはどうでしたか?

高松:シャッフルのハネ具合が難しかったですね。どの程度に収めればいいのか、そこで印象が変わったりすると思うので。そこはyukihiroさんのリズムに合わせていった形ですね。


――ミヤさん作曲「眼光」はど頭のギターから90’sオルタナティブ・ロックを感じさせるナンバーですね。でもそれをちゃんと現代的にアップデートして、しっかりPetit Brabanconのものにしている。

yukihiro:ミヤくんがそこを狙って作ってきたのかなと思いました。


――今回のニュー・メタル然り、インダストリアル然り、アプローチは全然違いますけど、前作の「孤動」の90’sジャパニーズ・ロック感であったり、往年のトレンドを現代的なオリジナリティとして昇華させるっていうところもPetit Brabanconのアイデンティティのひとつなのかなって、勝手に思っているんですけど。

yukihiro:そういうワードはわかるけどって感じですかね。例えば、メンバーみんなが僕と同じくらいの世代で、ニュー・メタルというキーワードがあって音楽をやるとなったら、こうはならない気がするんですよね。





「孤動」ミュージック・ビデオ


――確かに。

yukihiro:高松くんと僕とでは音楽の触れ方に差があると思うけど、音楽の好みはわかる部分があるわけじゃないですか。その中でお互いが「こういう音がカッコいい」と思ってるところだったり、共通してる部分がうまく噛み合って形になってるのかなって感じます。


――世代を超えても通じあえる部分ですね。高松さんからすると、先輩ミュージシャンと一緒にバンドをやっていくところで、世代差やバックボーンの違いを感じることはあります?

高松:僕は根本的にニューメタルはまったく通ってないんです。このバンドが始まってから、こういう音楽をやり始めたっていう感じなんですよ。だから意識しようがないというか。なので、ニュー・メタルっていうワードは出てきてはいるんですけど、そこに縛られてもしょうがない気もしていて。あんまり深追いしない方がサウンド的には面白いのかなって、思っています。


――とは言いつつ、ニュアンスというかそういうところではわかっているわけですよね。

高松:いや、全然わかってないと思います(笑)。ニュー・メタルとか以前に「こういう曲だからこうしよう」っていうことをやってるだけというか。「作曲者の人はこういうことをしてほしいんだろうな」とか、そういうところは考えますけど。これをどうやってニュー・メタルっぽくしようかみたいな、そういうことは全然意識してないです。



――それこそまさに先ほどyukihiroさんがおっしゃった、「同じ年代だったらこうはならない」というところですね。

高松:そうだと思います。

yukihiro:どんな音楽もそうですけど、そこに至る経緯もあると思うんです。誰かがやった音楽がいきなりジャンルとして定義されたわけじゃなくて、いろんな人がいろんな音楽やったら、定義しなきゃいけないとなって、ジャンルとしての言葉ができただけだと思うんですよね。ニュー・メタルだとしたら、代表的なバンドってなんだろう。


――一般的にはKORNとかですね。

yukihiro:でもKORNが出てきたときって、ニュー・メタルと言われてなかったですよね。誰かが聴いてカッコいいな、こういう音を出してみたいっていう人が増えて、大衆にも受け入れられる産業として成り立つようになったくらいで、そのシーンを定義していく、その過程でジャンル名がついたっていうだけの気がします。


――確かにそうですね。それこそニュー・メタルを通っていない高松さんをはじめ、いろんなキャリアとバックボーンを持った人が集まったPetit Brabanconというバンドの面白さがある。その象徴がラストの「Vendetta」にあると思っていて。90’sニュー・メタルに対する2024年のPetit Brabanconからの回答とでも言いますか、いい意味でカオティックなバンドを象徴してるし、ありそうでなかった、これからの面白さをも予感させる曲だなと。

高松:京さんが歌を入れてみて、すごく手応えを感じられたそうで「ぜひ、この曲をやってみたい」という感じでしたね。僕は選曲会の時点ではどの曲も優劣はなかったんですけど。この曲はすごく勢いのある曲で、まさに、ありそうでなかったというのをすごく感じたので、今回、入ってきてよかったと思いました。





「Vendetta」ミュージック・ビデオ


――そうやって、京さんの歌が楽曲を引っ張っていくことも多いとは思いますが。yukihiroさんはその辺りをどう見てますか? 京さんのボーカリストのパワーを。

yukihiro:それはなかなか深い話ですね。京くんが最初に歌を入れてくれるんで、そこで曲の方向が明確になることは多いです。それでメンバーの意識もフォーカスされていく感じがします。


――9月にはツアー【Petit Brabancon Tour 2024 「BURST CITY」】が始まります。内容含め、詳細はこれからだと思いますが、どんなツアーになりそうでしょうか?

高松:今回はライブハウスツアーで、今までやったことがない環境なので、しっかりとは想像できない状態なんですけど、楽しくやれたらいいなと思います。ライブハウスならではの緊張感とか、そういう楽しみ方とかもあると思うので、お客さんにも好きに楽しんで欲しいです。スタンディングなので、怪我のないように。 

yukihiro:ツアータイトルがすごくいいなと思ってるんです、「BURST CITY」。なので、そんな感じになるといいなと思ってます。


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