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<インタビュー>DIMENSION、34作目『34』でさらに深まったユニットであることの意味と連携
Interview & Text:富澤えいち
Photo:Shun Itaba
1992年のアルバム・デビュー以来、怒濤の勢いでアルバム・リリースやライヴ・ツアーを続けているJフュージョンのトップ・ランナー“DIMENSION”が、最新作『34』を完成させ、ツアーを始動する。2人体制、34作目の制作をとおして、増崎孝司(gt)と勝田一樹(sax)に、その心境を語ってもらった。
新作のための曲作りは「あっという間」?
――前作『33』が2022年10月リリースなので、『34』はおよそ1年半ぶりですね。
勝田一樹:僕のソロ名義の作品(2024年3月リリース『NEO』)があったから、DIMENSIONの2023年はちょっとお休みして、タイミングをずらしました。
増崎孝司:そう、去年はDIMENSIONとしての制作活動がなかったんだけど、特に僕も『34』のための準備はしてなかったですね。
――『34』の制作のスタートというのは、どんな感じだったんですか?
勝田:DIMENSIONのアルバムの制作って、スケジュールはあるけどプロセスはないというか……。とにかく、僕と増崎さんで曲を半分ずつ提供して、それでレコーディングしましたという、これまでと変わらない作り方だから。今回は特に、僕はソロ・アルバムの制作をしていて、そのままDIMENSIONのアルバムに突入しちゃったような感じがあるんですよ。
増崎:僕も、準備をしてなかったわりには、曲があっという間に書けてしまった。これも毎回のことなんだけど……。思いついたらそのムードのままで突っ走っていくタイプなんですよ(笑)。
――勝田さんはソロ・アルバムとDIMENSIONの制作について区別はしてないんですか?
勝田:してないですね。ソロのほうがわりとエレクトリックな感じの仕上がりになっているんだけど、その感覚のまま『34』の制作に入っているというか……。よく、「DIMENSIONのサウンドってなんですか?」って聞かれるけど、僕から「これがこうだから」と言えることはないんですよ。そういう意味で、意識を切り替えるまでもない、ということなんじゃないかな。たぶんそれって、DIMENSIONのサウンドが複合的なアンサンブルのなかから30年以上の積み重ねで生まれてきたものだから、僕だけがなにかを意識して作れるようなものじゃないからだと思うんです。
――ソロの場合は?
勝田:サックスに特化したサウンドになっていればいいわけですから……。
――「俺を聴け!」という内容になっていればいい、と。
勝田:そうそう(笑)。
――ソロとDIMENSIONでの曲の振り分けという部分はどうですか?
勝田:それも切り替えてないんですよ。もう、順番で、「はい、ソロの曲ができました」「次はDIMENSIONの曲ができました」です(笑)。
増崎:僕にとってDIMENSIONは、あくまでもユニットであって、バンドとはまたちょっと異なる形態だと思っているんですよね。バンドって、「内側から出てくるもの」と「外側から評価されるもの」という二面性があって、それに沿ってサウンド作りやバンドのイメージをどうするか、考えていく部分があると思うんです。でも、ユニットって、基本的にはそれぞれがパーソナリティをもっていて、そのなかの自分がやりたいことをお互いのプレイに落とし込んでいくというイメージですなんですよ。これが『32』ぐらいから僕のなかで強くなっていった。要するに、バンドとして全体のバランスを必要以上に気にしなくなったというか……。自分が好きなことをやれる場を作って、そこに各パートのソロ・プレイヤーたちに来てもらう、という考え方になってきているんです。だから、ソロ作品とも違うし、自分のソロ作品だったらここで必ずソロ演奏を入れなきゃならないと思うだろう部分でも、その曲でギターが多すぎるとか、自分だったらこういう演奏は聴きたくないと考える展開になれば、ほかの楽器に任せていいわけです。そういう“想い”が強くなっているので、僕が思い描く「メロディとそれをバックアップするリズム隊の結晶」といったサウンドを表現しやすくなってきたと思うんですね。それが『34』では、さらに色濃く出せたかなと思っています。
アルバムの音をライヴに移行させる“きれいな引き算”とは?
――色濃くということでは、前作にも増してパワフルな曲で埋め尽くされているような印象をもちましたが、それに関しても意識したことは?
勝田:いや、それもないです(笑)。もうこれは、“好み”としか言いようがないんですが……。僕は、アンサンブルのなかでいかにサックスを鳴らすかを考えています。レコーディングって、ライヴではできないことをやれる場なんだ、と僕は思っているので……。演奏には人間味が必要だとか、ライヴで演奏できないことをやるべきではないとか、そういう意見もあるけれど、僕は“ありえない音”を作っちゃっていいと思っている。だからもう、吹きまくっちゃうんです(笑)。
増崎:逆にギターとしては、サックスと同じように音符を刻んでしまうとおもしろくなくなってしまう、と。僕は、瞬間的なアタックだけでなにかを伝えるのは難しいんじゃないかと思っているんですね。もっと自然に音が響いていくなかで感じ取れるものがあるはずだ、って。だから、サックスが音を刻んでいくなかでも、ギターはギリギリの長さで演奏して、そこで表現できるものを大切にしたいと思っているんです。
勝田:確かに、自分の曲は“タカタカタカ”ってリズムを刻んでいる曲が多いですね(笑)。でも、僕も増崎曲ではわりと長い音符を使ってますよ。それも結局、どんなふうに演奏したらその曲がかっこよくなるかを考えてのことですけど。
増崎:勝田一樹というプレイヤーが攻撃的であることは誰もが認めるところですが(笑)、僕が知る限り、音の勢いでサウンドを表現できる域にまで達している人って、彼以外にいないですよね。もう、オンリー・ワン的な存在なわけです。だから、その勝田一樹と渡り合うのではなく、彼の個性と僕の個性を掛け合わせてDIMENSIONというイメージをリスナーに伝えられればいいわけなんですよ。そう考えれば、僕の書いた曲に勝田一樹が入ってもDIMENSIONが成立するし、僕は絶対にそのイメージが崩壊しないと思っているから、DIMENSIONのためにスムーズに曲を書くことができるんだと思うんです。
――一方で、アルバムとしてかっこよく仕上げた曲が、ライヴではそのままというわけにはいかないというジレンマもあるのかな、と?
勝田:確かに、レコーディングに最適化して作った手前、僕ひとりで一筆書きのように演奏できない部分があったりする(笑)。
増崎:できるかできないかは別として、アルバムどおりのサウンドをライヴで実現すると、なにをやっているのかわからない状態になってしまうと思いますね。だから、いわゆる“きれいな引き算”をして、リアルで生音を体験する人たちには「?」ではなく「楽しかった!」と思ってもらえるようなものにするつもりです。
――そのためにはどうするんですか?
勝田:リハーサルで調整、ですね。これ、毎回のことなんですけれど、アルバムの人間業を超えた部分をライヴでどうしようかというのが、またアルバムづくりとは別の楽しみでもあります。この部分はさすがに息が続かないから、何小節かギターでバンプを作って僕が息継ぎできるようにしてもらうとか……。アルバムとはまた違った凝ったアレンジでライヴを楽しんでもらえるように考えています。
――『34』を聴いてツアーを楽しみにしている人たちにメッセージをお願いします。
勝田:とにかく毎回、僕は「前作より今作のほうがいい!」と言ってもらえるように作ろうと思っていて、それが今回もできたと思っています。それがライヴではどう演奏されるのかという部分も楽しんでいただけるように、ツアーに向けてアイデアを出しながら、練習していきたいと思っているので、楽しみにしていてください。
増崎:僕のパートに関しては、アルバムと同じ音を出すというのがギタリストとしての矜持なんです。ライヴで出せない音や演奏をレコーディングしない、と。そのうえで、ライヴではアルバム以上のものを感じてもらわなければならないと思っています。ライヴでは5人が同時に音を出していくことになるので、ギタリストとしてそこにどう参加していくかを考えることが楽しいし、観に来てくれる皆さんにもそれが伝われば楽しんでもらえるんじゃないでしょうか。それこそが、AIの時代になっていっても、人間の作る音楽に意味がある、ということに通じるような気がするんですけどね(笑)。
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