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<インタビュー>29年ぶりの来日を控えるテイク・ザットが語る、新たな章の始まり『ディス・ライフ』を引っさげた“キャリア最高のツアー”



インタビュー

Interview & Text: 新谷洋子

 テイク・ザットが29年ぶりに来日する。

 前回彼らがツアーで日本にやって来たのは、1995年10月のこと。【Nobody Else Tour】の一環で、東京・国立代々木競技場第一体育館にて2夜公演した時だ。「あれからかなり時間が経ってしまったよね」とマーク・オーウェンは言う。「でも僕らはこの間ずっと、日本がどんなに素晴らしい国かって家族や友人に話してきたんだ。絶対訪れてみるべきだと。だからようやく日本を再訪できることになって、本当に興奮しているよ。しかも東京公演はフィナーレなんだ。1年近くにわたるツアーを東京で締め括るとなれば、間違いなくスペシャルな日になるだろうね」。

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 日本公演に向けたメール・インタビューでこんな言葉を寄せてくれた現在のテイク・ザットはご存知の通り、マーク・オーウェン、そしてハワード・ドナルド、ゲイリー・バーロウのトリオ。1990年に英マンチェスターで結成された時はジェイソン・オレンジとロビー・ウィリアムスを交えた5人組だったわけだが、いまだ形を変えながら存続しているだけでなく、昨年11月に発表した最新作『ディス・ライフ』が7枚目の全英No.1アルバムとなり英国の音楽界のトップに君臨し続けているという事実は、奇跡と表するよりほかないだろう。何しろ彼らのストーリーは波乱万丈そのもので、95年こそ最初の試練の年だった。曲のクオリティから歌唱力、パフォーマンス力、ヴィジュアルまで総合点の圧倒的な高さで大ブレイクしたテイク・ザットは、サード・アルバム『ノーバディ・エルス』から3曲のシングルを全英チャートの頂点に送り込み、「Back For Good」で初の米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”トップ10入りも達成。ところが、いよいよアメリカ進出という段になってロビーが脱退し、5人で始めた【Nobody Else Tour】を4人で終えた彼らは、翌年2月に人気の頂点で解散を発表。衝撃を受けたファンの自殺を防止するべく、特別なホットラインが用意される騒ぎになったものだ。

 以後10年間メンバーはソロ活動に取り組み、中でもロビーが英国音楽史上最大のスターのひとりに成長したことは言うまでもないだろう。そして2005年、ベスト盤『ネヴァー・フォゲット - アルティメット・コレクション』(全英最高2位)の発売を機に5人がテイク・ザットでの体験を語るドキュメンタリー番組が制作されるのだが、これが大きな反響を呼びベスト盤も大ヒットして、再評価の声が高まった。そこでロビーを除く4人でのツアーを企画したところ最終的に約50万人を動員する成功を収め、ファンに後押しされる形で正式に活動を再開。ゲイリーが曲作りを主導するという旧来のアプローチを改め、メンバー全員のコラボレーションを通じてより成熟したポップ・ロック・サウンドを打ち出した06年のアルバム『ビューティフル・ワールド』(同1位)は、英国内だけでキャリア最多の280万枚を売り上げることになる。

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 こうして彼らはアイドルから大人のポップ・グループへと進化し、続く5作目『ザ・サーカス』(同1位)を経てついにロビーが復帰。オリジナル・メンバーで制作した6作目『プログレス』(同1位)を10年秋にリリースしたのち、翌年のツアー【Progress Live】では英ロンドンのウェンブリー・スタジアムで8公演を売り切って記録を更新している。初めて【ブリット・アワード】で<ブリティッシュ・グループ賞>に輝いたのも2011年だ。

 しかしロビーはグループに留まらず、いつでも戻れる余地を残してソロ活動に戻り、間もなくしてジェイソンも“引退”。14年の7作目『スリー』(同1位)でテイク・ザットはトリオとして再出発を切り、17年に8作目『ワンダーランド』(同2位)、18年には代表曲を再構築したベスト盤『オデッセイ~グレイテスト・ヒッツ』(同1位)と精力的にアルバムを送り出し、その都度ツアーを行なってきた。『ディス・ライフ』も例外ではなく、さる4月に全79公演から成る【This Life on Tour】を開始したわけだが、ちょうど10年が経った今、トリオでの絶好のバランスを見出したとマークは話す。「ここに辿り着くまでに少し時間を要したけどね。ツアーとアルバム作りはいつだって、コネクションを築くには最適な時間であり、中でも“オデッセイ”の制作プロセスは僕らがコネクションを構築する上で、決定的な瞬間だったと思う。これまでこのグループに関わってきた人たち全てのために、真の意味でスペシャルな作品を完成させられたからね」。

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訪れる国ひとつひとつで体験できることを、存分に楽しもうと心掛けている

 2024年11月に日本に上陸する【This Life on Tour】はちなみに、英国とヨーロッパでの60公演余りがすでに終了しており、“恐らく僕らのキャリアで最高のツアー”とゲイリーは言って憚らないが、そもそもデビュー前から地道なライブ活動で人気を固めたテイク・ザットは、前述したように歌って踊って魅せるパフォーマンス力に定評があり、近年は特にステージ上に壮大な非日常的スペクタクルを作り出すことでメディアの称賛を浴びていた。しかし野外フェス、屋内アリーナ、スタジアム、日によって異なる状況下でプレイしている今回は、よりシンプルに歌を聞かせることにフォーカス。ここにきて趣向を大きく変えたと言っていい。

 「【This Life on Tour】は非常に興味深い過程を踏んで実現したんだ。19年のツアー【The Greatest Hits Live】を終えてから5年間ステージに立っていなかっただけに、当然のことながら、こうしてカムバックするからには従来とは異なる挑戦を自らに課したかった。そんな中で最初に下した大きな決断は、ダンサーなしで成立させるということ。つまり何もない状態に立ち返って、自由に夢を膨らませていったんだ」とマークは述べ、「結果的には、ここ10年では最多数のオーディエンスの前で歌うことになるし、あまりにも早く終わってしまいそうなことが残念でならないよ。だから1日1日を満喫して、訪れる国ひとつひとつで体験できることを、存分に楽しもうと心掛けているんだ」とハワードは話す。

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 またセットリストには全キャリアが広く網羅されており、絶え間なく変化しながら彼らが幅広いスタイルーーニュージャック・スウィング、フィリー・ソウル、60年代ロック、ディスコ、フォークなど――を包含してきたことを、改めて思い知らされる。

 「僕らには、アーティストとしてもソングライターとしても、立ち止まってはならないという想いが元から血肉化されているんだと思う。自分たちが発信する表現を受け止めてくれる人たちと一緒にキャリアを築けるというのは本当に素晴らしいことだし、それが音楽みたいにパーソナルな表現となると、殊更にうれしい。それに年月と共に人間のものの見方は変わるもので、それは音楽に関しても言えること。だから常に旅をしているような感じだね。いつも進化し続けて、新しい可能性を探るべきなんだよ」とゲイリーは説明。

 そういう意味で『ディス・ライフ』はまさに新しい可能性を追求した成果であり、同作の収録曲がかなり多くセットリストに含まれていることに、本人たちのアルバムへの思い入れが窺える。聞けば3人はこれらの曲を、主にアメリカ南部ジョージア州のサバンナでレコーディング。この地にスタジオを所有するカントリー/アメリカーナ界の売れっ子プロデューサー、デイヴ・コブ(ジェイソン・イズベル、クリス・ステイプルトン)をメイン・プロデューサーに起用し、カントリーや西海岸ロックに由来するアメリカンなテイスト、オーガニックで風通しのいいサウンド、従来以上に美しい声のハーモニーを前面に押し出して新境地を開拓。人生体験を重ね、音楽活動を長く続けてきて得た教訓を歌い、50代に突入した自分たちの等身大の姿を刻んでいる。

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 ゲイリーは、「このアルバムには間違いなく、年齢を重ねたことが反映されているよね。古風な曲の構成に則っていたり、全員の声を駆使してハーモニーを作り出していたり、ピアノやギターといったトラディショナルな楽器に回帰していたり。こうしたことを実践しているのは自信の表れだろうと思うけど、曲を作っている時に僕らが抱いていた感情は“希望”だけなんだ。とにかく新しい自分たちを人々が気に入ってくれるよう願うしかなかった。だからライブで披露して、昔の曲と同じように盛り上がってくれるのを見るのは最高の気分だね」と話す。

 日本公演でもそんな最新のテイク・ザットを、他の様々な時代のテイク・ザットと共に体験することになるわけだが、「“ディス・ライフ”で新しい章が始まった気がする」とマークは語っており、グループのストーリーにはまだまだ続きがあるとみて良さそうだ。

 「こうして活動をしていると、常に新しい経験、新しい冒険、解かなければならなない新しいパズル、探求するべき新しい地平に直面する。だからこそ、テイク・ザットの活動を続けることを僕らは愛して止まないんだと思うよ」とマークは述べている。

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