Text: 柴 那典 / Photo: Taku Fujii／Takeshi Yao

　BABYMETALの快進撃が続いている。

　全世界25か国を回り、国内外で通算98公演を実施、フェスやゲストアクト出演を除くヘッドラインツアーの総動員数が28万人を超える自身最大規模のワールドツアー【BABYMETAL WORLD TOUR 2023 - 2024】を今年3月23日、24日に沖縄公演で完遂したBABYMETAL。そこからも休むことなく精力的に活動を展開し、5月25日、26日にはさいたまスーパーアリーナにて初の主催フェス【FOX_FEST】を開催。さらに6月から7月にかけてはUKやヨーロッパ各地のフェスにも出演し熱狂を呼んでいる。

　そして7月10日には、今年3月2日、3日に横浜アリーナで開催されたMOMOMETALの“聖誕”記念ライブ【BABYMETAL WORLD TOUR 2023 - 2024 LEGEND - MM】の模様を記録したBlu-ray／DVD、ライブ音源を収めたアナログ盤がリリースされる。

　併せて、SU-METALの聖誕祭ライブの模様を収録した映像作品『LEGEND - S - BAPTISM XX - (LIVE AT HIROSHIMA GREEN ARENA)』の復刻盤と、MOAMETALの聖誕祭ライブの模様を収録した映像作品『BABYMETAL ARISES - BEYOND THE MOON - LEGEND - M -』の通常盤もリリース。メンバー3人の聖誕祭シリーズ3作品が同時発売となった。

Photo: Takeshi Yao

　そこで、この記事では映像作品『BABYMETAL WORLD TOUR 2023 - 2024 LEGEND - MM 』の内容を中心に、規格外のスペシャルな演出を繰り広げてきたBABYMETALの“二十歳の聖誕祭”シリーズの内容を紹介。さらに今夏のBABYMETALの躍進の背景について考察したい。

　『BABYMETAL WORLD TOUR 2023 - 2024 LEGEND - MM』には、MOMOMETALにとって20歳最後のライブとなった3月2日の【20 NIGHT】、誕生日当日に行われた3日の【21 NIGHT】両公演の模様が収録される。

　筆者も両日訪れたのだが、映像作品として観て改めて感じたのは、聖誕祭ライブが持つ“非日常空間”としての強烈なインパクトだ。動員は2日間で約30,000人。当日あの場にいたオーディエンスは肌身で感じていたと思うが、会場が一つになるような瞬間が沢山あった。MOMOMETALの“聖誕”を祝う儀式というコンセプトで行われたこのライブ。来場者は儀式の参列者という位置づけで、全員にLEDリストバンド型の“神器”が配られた。その前提を共有しているがゆえに、たとえばオープニングナンバー「BABYMETAL DEATH」で3人が順番に名乗るパートでMOMOMETALにひと際大きな歓声が上がったり、特別な瞬間を共有するムードが一貫してあった。

　セットリストは2日間で大きく異なり、代表曲以外も新旧幅広く披露されたこのライブ。鉄板の盛り上がりとなるアンセム・チューン以外の見どころも沢山あった。

　たとえば【20 NIGHT】で披露された「Shanti Shanti Shanti」。エスニックな旋律を持つこの曲では、インド舞踊をモチーフに指先まで意識が行き渡ったダンス、特にMOAMETALとMOMOMETALの首の動きに目が奪われる。レーザーと眩しい映像を背後にシルエットのように歌う「MAYA」のパフォーマンスも格好いい。“神器”の光で会場が包まれた「Monochrome」も感動的だった。

Photo: Takeshi Yao

　【21 NIGHT】では、幾何学模様の映像をバックにテクニカルなダンスをみせた「Believing」に惹き込まれる。青いレーザーの光が飛び交いSU-METALがアカペラの歌声を響かせた「Starlight」も印象に残った。

　3人の表情にも注目だ。楽曲の世界に入り込み、射抜くような目で歌うSU-METAL。クールな表情をベースに時おり笑顔を見せるMOAMETAL。オーディエンスを見回す顔にフレッシュな喜びや躍動感も感じさせるMOMOMETAL。それぞれの姿はライブでも巨大ビジョンに映し出されていたが、映像だとさらに鮮明に伝わる。「メタり！！ (feat. Tom Morello)」の中盤、オーディエンス全員を座らせてMOMOMETALが迫力たっぷりの口上を述べるところも見どころだ。

Photo: Taku Fujii

　両日の終盤にはスペシャルな演出も繰り広げられた。【20 NIGHT】ではステージ天井からゆっくりと降りてくるゴンドラに乗ってMOMOMETALが登場。「ヘドバンギャー！！」は「20の夜を忘れはしない」と歌詞を変え、曲の途中でSU-METALからマイクを手渡されたMOMOMETALにSU-METALとMOAMETAL、そしてオーディエンス全員が“土下座ヘドバン”する。MOMOMETALのキュートな歌声と激しいデスボイスのシャウトも鮮烈だった。

　【21 NIGHT】では「桃から生まれたメタ太郎」のストーリー映像に続き、ステージ天井から登場したMOMOMETALがSU-METALとMOAMETALを左右に従え「META！メタ太郎」を歌った。そのユーモラスな響きもこの日だけのものだろう。ラスト「Arkadia」のエンディングではSU-METALが感慨を込めて「Happy birthday！ 　MOMOMETAL！」とシャウトし、MOMOMETALが笑顔で応える幸福な瞬間でライブを締めくくった。

　過剰なほどの演出が繰り広げられ、通常のワンマンライブとは違ったスペシャルな瞬間が生まれるのがBABYMETALの聖誕祭ライブだ。過去の2回も“伝説”になってきた。

Photo: Taku Fujii

　『LEGEND - S - BAPTISM XX - (LIVE AT HIROSHIMA GREEN ARENA)』は2017年12月2、3日に広島グリーンアリーナにて開催されたSU-METALの20歳の聖誕祭ライブ【LEGEND - S - 洗礼の儀 -】の模様を収録した映像作品。筆者もこの日のライブに訪れたが、あらゆる意味で特別な瞬間だった。オーディエンス全員にはマスク、ケープ、ネックレスからなる“三種の神器”が配布され、全員がそれを着用。巨大なキツネの像からベールをまとったSU-METALが登場し祭壇のようなステージに辿り着くオープニングから、儀式としての荘厳なムードを徹底して貫いたミュージカルのようなステージだった。さらにこの日は当時のメンバーだったYUIMETALが体調不良のため出演を見送ることが直前に発表され、SU-METALとMOAMETALの2人で敢行されたイレギュラーなライブである。強い意志でパフォーマンスを貫徹した2人の様子が映像に刻み込まれている。

　『BABYMETAL ARISES - BEYOND THE MOON - LEGEND - M -』は2019年7月6、7日にポートメッセなごやで行われたMOAMETALの20歳の聖誕祭ライブ【BABYMETAL ARISES - BEYOND THE MOON - LEGEND - M -】の模様を収録した映像作品だ。このライブの時のBABYMETALはSU-METAL、MOAMETALに“アベンジャーズ”を迎えた3人編成。このライブの見どころは終盤だろう。MOAMETALがマイクを持ち「20歳の夜を忘れはしない」と歌詞をアレンジし歌った「ヘドバンギャー！！」に続いて、「Shine」ではMOAMETALがステージ中央でアコースティックギターを弾き、優雅な舞いを見せる場面もあった。

　そして今、BABYMETALの新たなキラーチューンとなっているのが、今年5月24日にリリースされたエレクトリック・コールボーイとのコラボレーション楽曲「RATATATA」だ。5月25日、26日の主催フェス【FOX_FEST】での初披露に続いて、6月7日、8日にドイツで開催された野外ロックフェス【ROCK IM PARK】と【ROCK AM RING】でも大観衆を前にしたコラボパフォーマンスが実現。エレクトリック・コールボーイの本拠地だけあってひときわ盛り上がりをみせていたようだ。

　6月8日付けの米ビルボード“ハードロック・デジタル・ソング・セールス”チャートで1位となったこの曲は、エレクトリック・コールボーイらしいエレクトロ・サウンドと陽気なテイストを活かしたパーティー・チューン。メタルをベースにエンタテインメント性あふれるステージを展開する両者の相性の良さもあって、海外で新たなファンを獲得するきっかけにもなったはずだ。イギリス・ドニントンパークの【Download Festival】は悪天候のためライブが中断となってしまったが、フランスの巨大メタルフェス【Hellfest 2024】、エド・シーランなどがヘッドライナーを務めオールジャンルのアーティストが集まったオランダの【Pinkpop Festival】では、喝采を集める現地の様子が映像で公開されている。

　BABYMETALはこの後も世界各国でのライブが決まっている。8月20日にはシンガポールにて公演、8月21日にはマレーシア・クアラルンプールにてブリング・ミー・ザ・ホライズンのヘッドライン・ショーに出演。8月24日にはタイ・バンコクで開催される【SUMMER SONIC BANGKOK 2024】にてタイのロックバンド、ボディスラムのステージにスペシャルゲスト出演する。こちらは今年３月14日にリリースしたボディスラムとエフ・ヒーローとのトリプルコラボ・シングル「LEAVE IT ALL BEHIND」の初披露の場になりそうだ。そして25日には、インドネシア・ジャカルタにてブリング・ミー・ザ・ホライズン主催フェス【NEXFEST 2024】にも出演が決定している。

　さらに8月23日からはBABYMETAL初のライブ・フィルム『BABYMETAL LEGEND - 43 THE MOVIE』が全国の劇場で公開。こちらは【BABYMETAL WORLD TOUR 2023 - 2024】のファイナルを飾った沖縄公演の模様を収録したものだ。

　各国のアーティストと旺盛なコラボを繰り広げ、ヨーロッパ、UK、アジア、そして11月から予定されている全米ツアーと、文字通り世界中を駆け巡っている2024年のBABYMETAL。快進撃の由来は、メタルの新しい地平を切り拓いている充実した音楽活動そのものの魅力にあると言えるだろう。

Photo: Takeshi Yao