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<インタビュー>菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)×NAOTO、【ROCKIN’ QUARTET】開催間近対談
Interview & Text: 風間大洋 / Photo: 鈴木友莉
バイオリニスト・NAOTO率いる弦楽四重奏がロックバンドのボーカリストを招き、ロックの楽曲をカルテットが忠実に再現するライブシリーズ『ROCKIN’ QUARTET』。これまでビルボードライブ公演を中心に回を重ね、その7回目のボーカリストとして今回白羽の矢が立てられたのが9mm Parabellum Bullet(以下、9mm)のフロントマンである菅原卓郎だ。
繰り返しになるが、このROCKIN’ QUARTETの肝は弦楽で演奏するためのアレンジを施すのではなく、原曲を“再現”するという点。打楽器が不在の編成ながらアイディアとテクニックを駆使してビートを鳴らし、6弦を有するギターが複数本で奏でるアンサンブルに、それよりも少ない弦の数で肉薄するという非常にストイックな試みとなっているのである。そして、今回再現する9mmのサウンドといえば、メタルやハードコアにも通じる圧倒的な手数の多さとBPMの速さが特徴の一つ。NAOTO本人も周囲のスタッフも“過去最高難易度”だと口を揃えるアレンジへ初めて挑んだ初リハーサルの直後、菅原とNAOTOは何を語るのだろうか。
――初めてのリハを終えた直後のインタビューですが、まず率直な感想としてはいかがですか。
菅原卓郎:9mmの曲はテンポが早くて音符も細かいので。それをカルテットの皆さんが一身に受けて表現するのを目の前で見ながら歌っていて、びっくりしたのが「これはドラムのフィルだな」っていうやつをNAOTOさんと2ndバイオリンやビオラが入れ替わりながら弾いていて。別解釈というわけじゃないんだけど、違う面を見せてくれているなと感じました。
NAOTO:なかなかな完コピでしょ?
菅原:そうですね。うっちー(内澤崇仁/androp)も言ってましたけど「そこを拾うんだな」っていう驚きがあって。
NAOTO:通常は弦楽器とピアノがいると、ロックの皆さんの曲をちょっと格調高くアレンジするオーケストラ・バージョンというようなパターンがほとんどなんですけど。でもロックバンドのファンの人って、そういう格調高いものを聴きたくないからロックバンドを聴いて楽しんできた人も多いじゃないですか。
菅原:スタートはそうですよね。
NAOTO:ってなると、その人たちに聴いてもらってあまり違和感がない方向のアレンジって何だろう?っていうのが、このROCKIN' QUARTETのスタートで。最初は本当に手探りだったんだけど、最近はROCKIN' QUARTET自体のファンもできてきたし、次のボーカリストは誰だ?って楽しんでくれてる。いろんなところで卓郎くんの名前も出てたからね。「次は卓郎くんにやらせたい!」とか。
菅原:ROCKIN' QUARTETファンの中で(笑)。
NAOTO:どの立場で言うとんねん!ってなったけど(笑)。でもそうやって言ってくれるのは実は嬉しくて。で、さっき言ってくれたドラムのフィルとかのパターンって、本来は僕がタッピングするとドラムの音に近くなるから、そういうEQやマイクのセッティングにしてやってたんだけど、ついにそれが使えないテンポになったという……。
菅原:BPM問題ですね(笑)。タッピングが追いつかない。
NAOTO:この速度で3分半やると手が終わる。それをどうするんだ?と思ったときに、ドラムってバスドラが一番低い音で、フロアがその上で、タム、スネアがあって、金物が一番音程が高いわけ。その一個ずつを音程として見てあげたフレーズを叩き込むようにすればそう聴こえる、というふうに思い込むっていう。ドラムは曲の中でキーを変えられないけど、クラシックの時代のティンパニーは踏んでキーを変えてドンと叩く。その方式を採って、なんとかしてみんなで割り振ってる。
菅原:でもティンパニーでは到底叩かない速度のドドドドドドっていうのが入ってきてて。本当に未体験のゾーンだと思いますよ、観る人も。
NAOTO:さっきも言った通り、オーケストラ・バージョンに編曲する場合だったら元々の法律まで変えてやるわけだけど、それって違くない?って僕は思ってて。今日は和食を作るって言ってるのにフォン・ド・ボーを作り始めました、ちょっと待てよっていう。
菅原:それも美味いかもしれないけど……ってことですよね。
NAOTO:そうそう。“割烹9mm”を観にきたお客さんは”リストランテ”じゃ納得しないわけで。アレンジャーって調理人だから、僕は9mmという食材をいただいて料理を出す感覚かな。
菅原:9mmはだいぶ小骨が多い感じですよね(笑)。
NAOTO:なんというか、飾り包丁入れすぎじゃね?みたいな?(笑)。これ食べないところだから要らなくない?っていう。
菅原:そうなんですよねぇ。
NAOTO:でもそれがあるから成立してるんだと思うと、誰かがずーっとみじん切りしてなきゃいけない。
菅原:たしかに誰かが必ずみじん切りしてました(笑)。9mmは過剰さが自分達のひとつのスタイルだから、それを汲み上げていただいてすごく嬉しいです。メンバーも喜ぶと思いますよ。
――9mmの楽曲は聴いていて強い圧を感じるものが多いですが、実際に鳴っている音数も多いんですか。
NAOTO:同時発色音数はandropあたりとそんなに変わらないです。だけど、一小節の中に入っている音の数でいうと、ドラムは倍ですね。普通はBPMが170超えた段階でそこに16分や6連符を入れる必要はなくなるはずなのに、入ってるんですよ。でもそこが9mmらしさだから、アレンジでそこを選択しない発想はなかったですね。で、アレンジをしてるときは自分が弾いてる姿をほぼ想像しないで書いちゃうから、全部自分に返ってくる(笑)。
菅原:9mmのギターの滝(善充)もちょっとそういうところがあると思っていて。レコーディングするときにデモを聴き返しながら「これ、どうやって弾いたんだ?」「あ、こうかこうか」とかよく言ってますね。
公演情報
【ROCKIN' QUARTET 第7章
菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)& NAOTO QUARTET】
2024年7月16日(火) 神奈川・ビルボードライブ横浜
1st Stage Open 16:30 Start 17:30 2nd Stage Open 19:30 Start 20:30
公演詳細
2024年7月23日(火) 大阪・ビルボードライブ大阪
1st Stage Open 17:00 Start 18:00 2nd Stage Open 20:00 Start 21:00
公演詳細
2024年8月2日(金) 東京・ビルボードライブ東京
1st Stage Open 16:30 Start 17:30 2nd Stage Open 19:30 Start 20:30
公演詳細
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――卓郎さんはこれまでのROCKIN' QUARTETを観たりもしてました?
菅原:ビルボードライブで直接観たことはないんですけど、これまでボーカリストとして兄貴たちやうっちーみたいな近い仲間が参加してたので「いいなぁ」って思ってました。THE BACK HORNの(山田)将司さんとNothing's Carved In Stoneのたっきゅん(村松拓)が一緒にやったときとか、BRAHMAN のTOSHI-LOWさんやうっちーの映像は観ましたね。
――自分が出るとしたら、みたいな想像もしたり?
菅原:僕ら界隈のボーカリストはみんな「どうなるんだろうな?」って想像してたと思いますよ。僕もそれこそちょっと音数を減らした状態になるのかな?と思ったりもしたんですけど、それどころか「そのまんま9mmじゃん」って感じるような状態なので、想像を超えてるなと思います。
NAOTO:ありがとうございます。
――NAOTOさんは歌やメロディの部分で9mmにどんな印象を持ちました?
NAOTO:これだけ楽器が細かいことをやってるから、もし歌まで細かいことをやると、たぶん誰にも良さが伝わらないというか……きっと(9mmファンは)そんなにテンポが速いって感じてないんですよ。なぜかというとボーカルがちゃんとメロディアスに歌えてるから。そこが9mmの長所なんだろうなっていうことを聴いていて思いました。あれだけ細かいフレーズをギターで弾きながら歌ってるのはすごいと思います。
菅原:だからギターを下ろしたほうが自由で、羽根が生える感じがします。僕は今までいろんなバンドにゲストとしてお邪魔した経験があるんですけど、良いバンドに行くと「良い湯だな」っていう感じで。初めてスカパラと一緒に歌ったときも、とんでもないもてなしを受けてる感覚になったし、今日カルテットとやってみて、これはまた良いところに来ちゃったなっていう感覚ですね。さっきリハのときも言ってたんですけど、9mmでは台風レポートをしてるアナウンサーみたいな気持ちなので(笑)。
――卓郎さんは過去曲と向き合いながらの選曲、いかがでしたか。
菅原:選曲するときにNAOTOさんが「今の9mmのベストアルバムみたいにすると、僕もカルテットも聴きにくるお客さんも楽しめると思うよ」ということを話してくれて。ちょっとだけマニアックな曲を増やしましたけど、概ねそのベスト感――ライブで観るあの曲がカルテットだとこうなるんだ!というのと、カルテットで歌うからこの曲にしたんだねっていう、その両方のセレクトができたと思っていて。選考基準は「ストリングスが合いそうだから」じゃないんですよ。
――「あれ、この曲いけそうだな」みたいな新たな発見も?
菅原:ありました。9mmは頑なに鍵盤を入れないことにしてるんですけど、さっきピアノの入ったアレンジを聴いたりすると、「使えばいいのに!」と思いました(笑)。
――過去6回の積み重ねもあり、ここ最近はROCKIN' QUARTETとしてフェスに出たりもしています。NAOTOさんはこのシリーズの広がりも実感されてますか。
NAOTO:そうですね。ボーカリストみんなそれぞれにファンがいらっしゃるけど、「今回は自分の推しは出ないけどROCKIN' QUARTETは観たいな」っていう人もだいぶ増えてきた気はします。だからフェスとかで一度に何人か出るとなったときの盛り上がり感はすごく感じますね。続けてきて良かったなと思うし、こうやって7人目の新しい人が来てくれるのも嬉しくて。きっと今後8人目9人目を選ぶこともプロデューサーは考えてると思うけど、「僕やりたいです」っていう人がもっと増えてきてほしいし……そこで「いやあ、100年早いよ!」って言える方向ではありたいと思います(笑)。
―(笑)。最後に本番へ向け、見どころや楽しみなこともお願いします。
菅原:9mmのファンに観てもらったら、必ず今までに体験したことのない9mmが観れると思うし、9mmは今までROCKIN' QUARTETのボーカリストとして出てきたバンドとすごく近いところにいるから、それこそファンの行き来もあると思うんですね。だからこれまでのボーカリストを観てROCKIN' QUARTETのファンになった方にも楽しんでもらえるものを、確実に見せられると思うので。9mmはあんまり聴いたことないっていう人にも、会場に来てもらえたら嬉しいですね。
NAOTO:そこでいうと僕のファンってインストのファンなんですよ。(9mmは)2005年デビューだっけ?
菅原:1stのインディー盤を出したのが2005年です。
NAOTO:僕、デビューは同期なんですよ。デビュー前はスタジオミュージシャンをしたり、ポルノグラフィティのサポートをやってたけど、デビューして以降のファンってインストを聴く人たちだから、ROCKIN' QUARTETをやる前までは、僕を観にきたけどなんだかボーカルがついてきたぞ?っていう話だった。でも、ROCKIN' QUARTETで「なんかこの曲良かったぞ」って原曲を聴いてみたという人がいるんですよ。ROCKIN' QUARTETのファンが9mmを聴いて「こういうところがこのバンドの良さなんだ」って感じてもらえることが今回もあればいいと思うな。あとは今回体力勝負なので、僕が早くこれに慣れて、ライブのときに卓郎くんと音楽で会話ができるようになる余裕を、いつ持てるんだろうな?っていう……。
菅原:はははは(笑)。
NAOTO:コーラスのパートを僕が弾くのが何箇所かあるんですけど、ボーカリストは譜面に書いてある通りのインテンポでずっと歌ってるわけではなく抑揚をつけていくわけで、ライブの空気感によっても毎回変わる。それによってより良い音楽が生まれると思うんだけど……だから内澤くんがいちばん酷いよね(笑)。
菅原:酷い?
NAOTO:あの人、ものすごく耳がよくてグルーヴ感が半端じゃないじゃない? でもわざと歌をずらすでしょ。こっちはそこに合わせてコーラスをつけなきゃいけないんだけど、次の小節からはドラムパートに戻らなきゃいけないことがあるわけ。
菅原:「あ、まだ歌ってる!」とかなっちゃうわけだ。
NAOTO:そう! そのどこまでついていって、どこで切るかという判断はこちらに余裕がないとできないんだけど、今回はBPM問題によってその余裕がいつ僕に生まれるんだろうって(笑)。早くレベルアップしなきゃいけないですね。
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【ROCKIN' QUARTET 第7章
菅原卓郎(9mm Parabellum Bullet)& NAOTO QUARTET】
2024年7月16日(火) 神奈川・ビルボードライブ横浜
1st Stage Open 16:30 Start 17:30 2nd Stage Open 19:30 Start 20:30
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2024年7月23日(火) 大阪・ビルボードライブ大阪
1st Stage Open 17:00 Start 18:00 2nd Stage Open 20:00 Start 21:00
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2024年8月2日(金) 東京・ビルボードライブ東京
1st Stage Open 16:30 Start 17:30 2nd Stage Open 19:30 Start 20:30
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