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<インタビュー>迎えを待つだけじゃない、自分から掴みに行く――星街すいせい、最新シングル「ビビデバ」で描いたのは“令和のシンデレラ”
Interview:Takuto Ueda
Billboard JAPANが注目するアーティスト・作品をマンスリーでピックアップするシリーズ“MONTHLY FEATURE”。今月は、VTuberグループ“ホロライブ”に所属する星街すいせいのインタビューをお届けする。
もともとは事務所に所属しない“個人勢”として活動し、2019年5月にホロライブ内の新設レーベル<イノナカミュージック>に所属したことから、VTuber兼アーティストとして本格的にキャリアがスタート。2021年6月にはYouTubeチャンネル登録者が100万人を突破し、同年9月に1stフルアルバム『Still Still Stellar』をリリース。同作のリードトラック「Stellar Stellar」は、2023年1月に星街がYouTubeチャンネル『THE FIRST TAKE』で歌唱し、大きな話題となったことも記憶に新しい。その直後にリリースされた2ndアルバム『Specter』は、Ayase、田淵智也、キタニタツヤ、ナナホシ管弦楽団といった豪華クリエーター陣とともに制作され、2023年の年間Billboard JAPANダウンロード・アルバム・チャート“Download Albums”で10位を獲得した。
そして最新シングル「ビビデバ」が今、バイラルヒットを巻き起こしている。楽曲は今年3月に行われた星街の6周年記念ライブにて発表され、その後、実写とアニメを組み合わせたミュージック・ビデオが話題となり、VTuberでは最速となる16日間で1,000万回再生に到達した。また、Billboard JAPANの総合ソング・チャート“Hot 100”では最高19位を記録するなど、各種ヒットチャートでも好成績を残している。そんな最新シングルのヒットについて、さらには2ndアルバム以降、ますます活性化していった星街自身の活動とVTuberシーンの状況について、本人に話を聞いた。
全部違う経験値をもらった
――2ndアルバム『Specter』のリリースが2023年1月。それからの約1年半はどんな期間でしたか?
星街:もう大わらわでしたね。2023年の後半はほぼ毎月ライブに出させてもらったりして。あとは、自分の6周年記念ライブも決まっていたので、その準備もやりつつ、今後どういう道筋を描いていこうかな、みたいなことも考えていた期間でした。
――目先の予定もこなしつつ、マクロな視点でこの先の活動スタンスについても考えていた?
星街:そうですね。1stアルバムがキラキラとしたアイドルっぽい作品で、その頃は“これから”がすごく楽しみな自分だったし、2ndアルバムはいろんな悩みや苦しみ、葛藤を音楽として昇華した一枚だったんですけど、じゃあそれらを乗り越えて次はどんなフェーズにしていこうか、みたいな感じ。でも、去年はちょっと忙しすぎたなと思います(笑)。
――何かしらの答えが出てきた感じはしますか?
星街:昇華したところで、そういう悩みや葛藤って消えるわけではないんだなって。活動を続けていく限りは付きまとってくるものだった。でも、そういうことばかり考えて立ち止まっているわけにはいかないから、そういうことも抱えながら進んでいくんだな、みたいな考え方にはなれたのかなと思います。悩みや葛藤を抱えながら、次はどういう表現をしていくべきかっていう。
――ご自身でも先ほど言っていた通り、2ndアルバム『Specter』以降もアーティスト活動はどんどん精力的になっていて、アルバムを掲げた2ndソロライブをはじめ、阿蘇ロックフェスティバルへの出演、Midnight Grand Orchestraの1stライブ【Midnight Mission】など、とりわけステージに立つ機会はかなり増えたかと思います。振り返ってみて、いかがでしたか?
星街:全部違う経験値をもらったというか。2ndソロライブは声出し解禁のタイミングだったので、お客さんと一緒に楽しむライブという意識がすごくあったし、阿蘇ロックは野外フェスなので、「明るく光るステージから見る野外ライブのお客さんの顔っていつもの屋内ライブとはまた見え方が違うんだ」とか、いろいろ学べることが多かったです。それまで屋内でしかライブをやってこなかったので。ああいう環境で、バーチャルの身体で、生のライブをやる。そうなるといろいろと越えなければならない壁もあって、でも、フェスでしか味わえない空気感でもあったなと思います。
――【Midnight Mission】は音楽関係者のあいだでもすごく話題になっていました。
星街:【Midnight Mission】に関しては、ライブの作り方みたいなことを学んだ気がします。自分の今後のライブにも生かせるなと思いましたね。
――具体的には?
星街:自分のソロライブとか、阿蘇ロックもそうでしたけど、普段は自分一人だけのステージだったり、そうじゃなかったとしても自分が中心になることが多かったけど、【Midnight Mission】ではイノタク(TAKU INOUE)さんという対等なパートナーがいて、他にも会場で演奏してくれる方々がいて、自分が中心というわけではないので。そういう三次元の存在のみなさんと、バーチャルの肉体を持つ私をどう融合させていくのかというところがすごく勉強になりました。
【冒頭無料配信】Midnight Grand Orchestra 1st LIVE「Midnight Mission」
――魅せ方みたいな部分でも違いがあったりしましたか?
星街:そうですね。アイドルと名乗っているので、普段はけっこうアイドルっぽい振る舞いというか、ファンサみたいなこともするんですけど、ミドグラのライブでは全然しなかったです(笑)。「アーティストです」みたいな顔してました。
――星街さんのMCもほぼなかったですもんね。
星街:そうですね。本当に世界観重視でやりました。
悩みや葛藤を乗り越えた先の曲
――VTuber/バーチャル・アーティストとして数々のエポックメーキングな実績を積み重ねてきた1年間だったと思うのですが、そこに付随して思い出されるのが2ndソロライブでサプライズ披露した楽曲「先駆者」です。
星街:「先駆者」は2ndアルバム以降の曲なので、先ほどの悩みや葛藤を乗り越えた先の曲という位置付けとして作りました。もともとライブでサプライズ要素は入れたいと思っていて、そこに「先駆者」が綺麗にはまった感じでしたね。
先駆者 / 星街すいせい
――楽曲提供はフジファブリックの山内総一郎さん。どんなイメージを共有していたんですか?
星街:これはスタジアムロックやアリーナロックみたいなイメージにしたいと伝えていました。「みんな歌え!」「わー!」みたいな。ドスンドスンと踏み鳴らしながら進んでいく、行進曲みたいな感じ。
――「先駆者」以降もすでに何曲かシングルをリリースされていますが、楽曲ごとにコンセプトや世界観はそれぞれありつつ、やっぱり2ndアルバム以降のテーマは一本軸として寄り添っているイメージ?
星街:そうですね。どれもそういうことを内包している曲になっているんじゃないかなと思います。
――「ザイオン」はスマートフォン向けRPG『アスタータタリクス』とのタイアップ曲。作詞は星街さん、作曲は下村陽子さん。
星街:下村さんがものすごいレジェンド級な方なので、どういう方向性に持っていくのがいいんだろうと悩んだりはしたんですけど、編曲の堀江(晶太)さんがうまくアレンジしてくださったので、それに合わせて私も、ゲームのキャラクターと自分の気持ちや考えをリンクさせながら歌詞をつけていきました。
ザイオン / 星街すいせい(official)
――どんなところに共通項を見出したのでしょう?
星街:「このキャラをイメージしてほしい」みたいな資料をいただいたんですけど、ゲーム自体のテーマが“選択”で、選ばれたいけど選ばれるか分からない不安とか、選ばれたとしても出てくる不安とか、その子もいろんな葛藤を抱えていて。私自身も自分の人生で選ばれることも選ばれないこともあったし、それに関しての不安もたくさんあったので、そこをリンクさせた感じですね。
――星街さん名義の楽曲だけではなく、MAISONdes「なんもない (feat. 星街すいせい, sakuma.)」も話題になりましたよね。オファーを受けたときはどんな心境でしたか?
星街:これ、お話を聞いた順番がけっこう面白くて。まず最初に「映画の主題歌が決まりましたよ」と言われて、そのあとに「MAISONdesさんの楽曲です」って。私もMAISONdesさんの曲は好きで聴いていたので、自分も住人になれるんだってうれしかったですし、映画の主題歌も含めて二重で喜びがありました。
――楽曲の第一印象はいかがでしたか?
星街:まずは「これ、本当に歌えるの?」って不安がありました。めちゃくちゃ早口だし、もともと今のキーより三つくらい高かったんですよ。いろいろ相談してキーを調整してみたりして完成した楽曲です。
【322】[feat. 星街すいせい, sakuma.] なんもない / MAISONdes
――普段のレコーディング作業とは違う点も多かったのでは?
星街:本番のレコーディングとは別の日にリハレコーディングみたいなことを挟んだんですよ。そんなことは今までやったことがなくて。そのリハレコーディングで、どんな感じで色をつけていくかとか、それこそキーについても話し合ったりして、そこから本番のレコーディングに向けて自分の中で詰めていった感じでした。
――先日ご出演されたNHK『Venue101』をはじめ、TV番組でお見かけする機会も増えましたが、特に印象に残っているお仕事を挙げるとしたら?
星街:年始のNHK『あたらしいテレビ』はすごく印象的でした。MCをやらせてもらったんですよ。テレビ番組にMCのポジションで声をかけていただくことはすごく珍しかったし、上白石萌音さん、東京03の飯塚悟志さんと一緒にVTRを見ながら、いろいろコメントするみたいな感じだったんですけど、これを見たお茶の間の人はどんな反応をするんだろうなって。そういうのも含めてすごく楽しかったです。
――VTuberとか関係なく、TV番組のMCなんてなかなか経験できることじゃないですよね。
星街:私、VTRを見ているときって全然喋れないんですよ。集中して映像をじーっと見てしまう。ワイプに抜かれるにはVTR中も積極的にリアクションやコメントをしたほうがいいんだなって。普段からTV番組に出ている皆さんは、だからあんなにリアクションをしていたんだなって、すごく勉強になりました。
誰かのために歌っているわけじゃない
――最新シングルの「ビビデバ」についても聞かせてください。これはどんな構想のもと生まれた楽曲なんですか?
星街:作り始めたのが去年の夏ですね。自分の6周年記念ライブで初披露することを目的に作りました。そのライブが“時計とネオン”みたいなコンセプトで、ところどころに時計の針の音が入っていたり、セトリも時間に関係した歌詞のある曲を中心に組んだんですけど、「ビビデバ」もそういうイメージに紐づけたいと考えていて。それを踏まえてツミキさんにもお願いしていて、ついでに“令和のシンデレラ”みたいな感じにしたいとも伝えて、「じゃあ具体的にそれってどんなもの?」みたいな詰め方をしていきました。
――“令和のシンデレラ”というイメージはどこから?
星街:シンデレラって王子様が迎えに来るじゃないですか。だけど、「Stellar Stellar」でも歌っている通り、「迎えを待つんじゃなく、自分から行くのが今の女の子なんじゃね?」みたいな想いが漠然とあって。誰かのために可愛くなるんじゃなくて、自分がかわいくなりたいからかわいくなろうとしている。個人的にもそういう想いがあって、意志の強い女の子というイメージから“令和のシンデレラ”が思い浮かんだんです。
Stellar Stellar / 星街すいせい(official)
――<そうだ僕がずっとなりたかったのは/待ってるシンデレラじゃないさ>と歌っている「Stellar Stellar」も、<おしゃまな馬車 飛び乗ってdrivin'/あたしは大変身メイクアップ!>というフレーズが“待ってるだけではない令和のシンデレラ”象を連想させる「ビビデバ」も、すごくエンパワメントなメッセージ性を放っているように思います。そういうことは星街さん自身、普段の生活の中で考えることが多いテーマだったりしますか?
星街:そうですね、そうだと思います。自分から掴みに行く、みたいなスタンスは活動を通して持っていたいなと思いますね。特にVTuberは企業に所属していても個人事業主みたいな人も多くて、みんなセルフ・プロデュースで頑張っていますし。私自身、誰かのために歌っているわけじゃない、自分が歌いたいから歌っているだけ、みたいなことはよく言っているので、そういう音楽は一貫して作っていきたいなと思いますし、それが「ビビデバ」には強く出ていたのかなと思います。
――楽曲提供をツミキさんにお願いしたのは?
星街:ツミキさんの「フォニイ」をカバーさせていただいた動画があるんですけど、それがめちゃくちゃ伸びたんですよ。(「ビビデバ」以前では)私のチャンネルで一番再生されている動画だったので、それもあってオリジナル曲を書いてもらいたいと思っていて、やっと念願が叶った感じでした。
フォニイ / 星街すいせい(Cover)
――最初のデモ音源はどんな仕上がりでしたか?
星街:サビの中の<BIBBIDI BOBBIDI BOOWA BIBBIDI BOBBIDI BOOWA>が、最初はもっとディスコっぽい感じでBメロに置かれていたんですよ。歌い方も今とは全然違っていて。すごくキャッチーで良いけど、ちょっとセクシーかもという話になって、そのセクシーさを抜いて、もっとクールキュートな感じ、かっこよさとかわいさの中間ぐらいの感じにしてほしいとお願いしたら、良い塩梅のメロディアスでちょっとゴージャスなBメロになって返ってきました。そこで構成は確定しましたね。
――レコーディング時に特にこだわった箇所があれば教えてください。
星街:いっぱいこだわったんですけど、2番の<世界は限界の気配がして>の部分はメロディーがもっと平坦だったんですよ。でも、揺らしてみてもおもしろいかなとも思ったんですよね。そこでディレクターとそのままのほうがいいのか、揺らしたほうがいいのか相談して、最終的には揺らした感じで録り直しさせてもらって、今の感じになりました。
――Billboard JAPANの総合ソング・チャート“Hot 100”では最高19位、その上半期チャートや他の各種チャートにもランクインするなど、この曲は今まで以上に社会的に広く訴求したのではないかと思います。そういったチャートの順位や再生回数、SNSのバズなどはどう受け止めていますか?
星街:素直にすごく嬉しくて。この曲はバズらせるための取り組みができたところも多かったんですけど、できなかったこともあって、リリースするまで不安なところもあったんですよね。でも、みんながたくさん聴いてくれて、踊ったりもしてくれて、バズってくれたことがすごく嬉しかったです。
――最近はダンス・チャレンジがミーム化していて、YouTube Shortsのキャンペーンにも起用されていますね。
星街:とりあえずダンス動画を出したほうがいいよねって話になって、踊れるモーションも配布したりして、いろいろ用意したんですけど、それがちゃんとバズってくれて、リリースしてからも「こんなキャンペーンしよう、あんなキャンペーンしよう」とみんなで試行錯誤をしていってブーストがかかったというか。
大きくなるための成長痛
――Billboard JAPANの“Hot 100”では動画再生回数の指標でトップ5内をキープし続けています。実写とアニメを組み合わせたミュージック・ビデオがとても面白かったのですが、どんなところから着想を得たのでしょう?
星街:もともと私が擬態するメタさんに映像をお願いしたいと思っていたんです。擬態するメタさんって、実写とアニメを組み合わせた映像作品を作るのがすごくお上手なんですよ。私もそういうMVを作ってみたいとふわっとお願いしたら、いろんなアイデアを提案してくださって。「全部面白いのでそれでいきましょう」みたいな感じでできあがっていきました。
――全任せぐらいの。
星街:ほぼ全任せで。気の強い女みたいな感じを出したいとお願いしたら、靴を投げる私が生まれました。
ビビデバ / 星街すいせい(official)
――8月7日にはCDシングルとして発売されることも決まりましたね。
星街:「ビビデバ」をもっともっと伸ばしていこうっていう施策の一つですね。より幅広い層の人にも届けれられるようにと、運営さんと一緒に考えました。ジャケットもとてもかわいく仕上げてもらいました!
――今はコレクターズ・アイテム的な側面も強いですからね。
星街:そうですね。私もCDは買うけど、メインで聴くのはサブスクなんですよ。私にとってはほぼグッズ化しちゃってる。でも、カーステレオで聴く人もいるかもしれないし、いまだに家にコンポがある人もいるかもしれない。いろんな需要があると思うんですけど、でも、グッズとして飾って映えるようなものにはしたいと思っていたので、初回限定のジャケットとかはかなりこだわって作っています。
――「ビビデバ」がすごく良い広がりを見せているなか、いつか完成するであろう3rdアルバムに向けて、今後の曲作りの構想もいろいろと練っていますか?
星街:そうですね。ボーカロイドをいろんな人が聴くようになったり、アニメがオタク以外の人にも見られるようになったりしたように、VTuberの存在がもっと一般層に広まって、例えばVTuberがテレビに出て、普通のタレントと同じようにひな壇に座るような、そういう世界になったらいいなと思っているので、そのための足掛かりを私は音楽を通して作っていかなきゃいけないなと思っています。新時代だったり新世界だったり、そういうものをイメージして今、運営さんと話し合っています!
――以前からおっしゃっていますよね。この1、2年でまた状況は変わってきたのではないかと思いますが、星街さんから見て、今のVTuberコミュニティを取り巻く状況はどんなふうに映っていますか?
星街:全然まだまだかなとは思っていて。VTuberがもっと一般層にも広く知れ渡ってほしいとか、バーチャルが新しいアーティストの形になってほしいとか、そういうことは昔から変わらず言い続けているんですけど、私自身もいろんな方に見てもらえるようになって、それこそ一般層の方にも知っていただく機会が増えたときに、そういう私の言葉が批評されることも多くなってきたんですよ。
――影響力が増せば増すほど、いろんなリアクションが出てきますよね。
星街:今までの「すいちゃんならできるよ」と言ってくれていた人たちだけじゃなく、「いや、無理でしょ」とか「VTuberには出てほしくない」とか、やっぱりそういう声もいっぱいあって。でも、これってそれこそボーカロイドやアニメが進んできた道と似ていると思うんです。だから、今は耐える時期なんだなって。大きくなるための成長痛というか。大きくなり始めてきた今だからこそそう思いますね。
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